東方リリカル戦記
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プロローグ1「物語の始まり」
前書き
お待たせしました。『東方ミッド探訪記』のリメイク版となります。
前作を読んでくださった方、新たに読んでくださる方の暇つぶしになるよう精進します。
『魔導』。それは、読んで字の如く魔へ導くモノである。
人が『魔導』の力と出逢ったのは、幸福か否か。
世界は未だ真実の姿を見せず、人々の中で答えは出ていない。
だがしかし―――
プロローグ1「物語の始まり」
「何故、何故究極の存在である我が、不完全な人間共に負ける!?」
薄暗い密室の中、玉座と思わしき椅子の前に立ち、今にも消えそうな影が、聴く者を戦慄させる声音で吠える。
「人は、完全じゃない。だからこそ、完全を目指して際限無く成長する。自分が究極だと思い込んで、そこで止まっているお前に負ける筈がない」
影に相対する十三の異形の戦士の人影の一人が、淡々と話す。
「『幻想』に隠れし有象無象共よ、貴様らはいいのか!?そいつを、その男を招き入れても!」
「あらゆるモノの全てを受け入れる」
「気に入らなかったら、力ずくでなんとかする」
「ずいぶん前からそうしてきた。それが、ここのルールだ」
影の問いに、十三人は悠然と構える。
「いつか、後悔するぞ、我が息子よ!そして、人間共!!」
とうとう影は、消えてないのは頭部だけを残すのみとなった。
「その時はその時だ。私達の人を見る目がなかっただけの話だ」
「それに、後悔なんてとっくの昔にしてるさ」
十三人の中で唯一、男だと思われる声の人影は周りの、共に戦った仲間を見渡す。
「何せ、世話の焼けるめんどーな奴らに絡まれたからな」
影はその言葉に、顔を愉快そうに歪める。
「ククク。では、我からの忠告だ。『神』の遊戯は繰り返される。相見えるその日まで、せいぜい平和を楽しむのだな」
その言葉を最後に、影は完全に消えた。
それを見届けると、十三人は異形の戦士の姿を解く。
そこにいたのは、古今東西まちまちの服装の少女達と、一人の青年であった。
「よし!これで、異変解決ね!」
「あとは、宴会だけか。皆の者!呑むぞ、騒ぐぞ」
『オォォォォォォォォ!!』
疲労を見せず、むしろ先程以上の気迫を出す少女達は、足早に部屋の出口に向かう。
だが、青年だけは影がいた場所を見つめ、動こうとしなかった。
「何ボサッとしてるの!」
「そうですよ!今回の宴会の炊事は、あなただけにしますよ!」
「おいしい酒も待ってるわよ!」
そんな青年を見かねたのか、少女達は口々にまくしたてながら、無理やり引っ張って行く。
「やれやれ。そいつは勘弁だな」
青年は諦めたようにため息をつき、少女達の後を追う。
「……できれば、二度と関わりたくないよ」
青年が部屋を出る際に呟いた言葉は、少女達の耳には届かなかった。
しかし、空に浮かぶ三日月が、青年の願いを嘲笑うかのように、歪んでいた。
―――だがしかし、世界の真実を識った者ならこう答えるであろう。
アレは、人が扱える代物ではない。知るべきでなかった、と。
『魔導』の『魔』とは、××××を指すのだから……
暗い昏いどこまでも漆黒が覆う空間の中、その一画にソレはいた。
『人は、完全じゃない。だからこそ、完全を目指して際限無く成長する。自分が究極だと思い込んで、そこで止まっているお前に負ける筈がない』
何も無い空間に、映像だけが流れる。
「きゃははははは!!何このセリフ、受けるー!」
その映像を見ているのは、見た目は年端もいかぬ子供であった。
格好は古代ギリシャの人のような上下白の服装であり、容姿は少年のようにも、少女のようにも見える中性的であった。
「あはははははは!!あーあ、はぁ……」
腹を抱えて両足をバタバタさせながら笑っていた子供は、ピタリと笑うのを止めた。
流れていた映像も途切れ、空間が静寂に包まれる。
「コレを見るのも飽きたしな。……よし!新しいゲームを始めよう!!」
恐ろしい程無邪気に、鳥肌が立つ程純粋にこれから起こる事を楽しみだと言わんばかりに宣言する。
「出ておいで!」
何も無い虚空に呼びかけると、闇の中にも関わらず闇が溢れ、そこから一羽の鷲が現れた。
「お呼びですか?」
人語を解する鷲にさしたる驚きも見せず、子供はニコニコと顔を向ける。
スッと、右手を差し出すと、手の平に一つの泡が生じ、やがてそれを起点に上下左右大小様々な形の泡が発生して、あっという間に空間の中で広がる。
「お遊戯の時間だよ。方法は任せるから、楽しませて」
その泡の一つを指さしながら、子供は告げる。
「御意」
子供の命令に恭しく頭を垂れると、鷲は闇の中に消えた。
再び子供だけとなった空間の中、未だ消えていない泡の一つに手を伸ばす。
まるでそれは、玩具を壊すかの如く。
バチィ!!
だが、子供の行動は泡に触れた瞬間、電撃のようなものが迸り、手を弾かれたことによって途中で妨げられた。
「あーあ。やっぱ駄目か」
手を引っ込めると、子供は視線を先程まで見ていた画面に戻す。
「精々足掻け、同朋よ。貴様に安息などない」
子供の顔から表情が消え、あるシーンで止まった画面をいつまでもいつまでも睨みつけていた。
その画面には、少女達に囲まれて共に酒を飲んでいる青年がアップで映っていた。
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