戦国異伝
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第百十六話 三杯の茶その九
その石田が信長にこう言ってきたのだった。
「殿、何でも島左近を召抱えたいとか」
「そう考えておるがな」
「私にお任せさせて頂けるでしょうか」
「御主にか」
「はい、そうして頂けるでしょうか」
「あの者を織田家に引っ張って来る自信があるのじゃな」
「はい」
石田は確かな声で信長に答えた。
「その通りです」
「そうか、それではじゃ」
信長はそのことを聞いてすぐに石田に述べた。
「ここは御主に任せる」
「有り難きお言葉、それでは」
「しかし鬼左近は難しいぞ」
このことは信長自身が最もよくわかっていることだ、だからこそ石田に対してもあえて話したのである。
「それでもか」
「やり方があります」
だから大丈夫だというのだ。
「確か石高の半分とのことですが」
「織田家でそれは出せぬ」
信長は出す時は出す男だ、だがそれでもだというのだ。
「七百六十万石から半分となるとな」
「それだけ出せば他がどうにもなりませぬな」
「織田家の直轄で四百万石必要じゃ」
そしてその他にだった。
「後は家臣達のものにしろ」
「やはり無理ですな」
「とてもそれだけは出せぬ」
「だからです。私に考えがありますので」
「では必ず島左近を連れて来るのじゃ」
「はい、それでは」
石田は信長の言葉に頷く。こうして島左近についても声をかけることになった、だがこの石田についてだった。
加藤清正達が集まり彼等と同じ位の年齢の石田についてこんなことを言うのだった。
「あ奴、どうもな」
「うむ、そうじゃな」
「あの者はいけ好かぬな」
「言っておることは正しい、しかしじゃ」
「言葉がきついわ」
「しかも厳しいことばかり言う」
「何なのじゃ、あれは」
石田のその何でもずけずけと、相手が誰であろうと厳しいことを言うことについて反感を覚えていた、それ故の言葉だった。
その中で黒田長政、小寺から姓が変わった彼も言うのだった。
「わしもさっき言われたわ」
「ほう、御主もか」
「早速言われたのか」
「そうじゃ」
そうだというのだ。
「いきなりな、服装が悪いとな」
「服か?」
「それがか」
「うむ、身だしなみが悪いとな」
そう言われていたというのだ。
「そう言われたわ」
「服か、細かいのう」
「他にも飯の食い方にも五月蝿いしのう」
「ああだこうだと全く」
「何かと五月蝿い奴じゃ」
「しかも殿のお傍によくおるのう」
細川忠興がこのことに気付いた。
「あれも気にならぬか」
「うむ、なる」
「殿は取り入りじゃ讒言に乗られる方ではないがな」
このことは彼等も信頼していた、絶対に大丈夫だとだ。
確かに信長は讒言なり取り入りは無視する男だ、それに惑わされる様な暗愚な男では決してないのだ。
それ故に彼等も信長については絶対の信頼を持っていた、だが。
それでも石田が動くなら、彼等は言うのだった。
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