八条学園怪異譚
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第二十一話 ランナーその十
「じゃあ今日はこれでね」
「帰るから」
「お土産いるかい?」
二人は別れの挨拶をするが口裂け女がここで言ってきた。
「ベッコウ飴あるよ」
「あっ、今日は自分で持ってるのね」
「そうなのね」
「うん、今持ってるのよ」
そう言ってそのベッコウ飴の袋を二人に差し出してくる。
「で、どうだい?」
「じゃあ好意に甘えてね」
「そうさせてもらうわね」
二人も好意を受け取ることにした、そしてだった。
聖花がそのベッコウ飴を受け取った、それから二人で頭を下げた。
「有り難う、それじゃあね」
「二人で楽しませてもらうから」
「うん、そうしなよ」
口裂け女はここでも目を細めさせて言う。
「ベッコウ飴は飴の中でも一番美味しいものだしね」
「本当にベッコウ飴好きなのね」
「そこまでなの」
「そうだよ。また会おうね」
これが最後の別れの挨拶だった。双方言葉を交えさせて別れた。
愛実と聖花は次の日の朝一緒に登校していた、その時に愛実が難しい顔で聖花にこんなことを言ったのだった。
「あの先生心配よね」
「ううん、走ってるだけだけれどね」
「あのままどうなるのかしら」
「とにかく走りたいみたいだけれどね、減益で」
「けれどそれはね」
「それはって?」
「消えるものだからね」
聖花はこう愛実に言った。
「だから走るだけ走ったら」
「消えるの?」
「確かにオリンピックに最後まで出られなかったのは残念だけれど」
このことも言う聖花だった。
「けれどそれでも。昇華は出来るから」
「コーチとして後進を育成して」
「あの人コーチとしての手腕も知られてるからね」
名選手がよい指導者になるとは限らない、だがそれでもだというのだ。
「きっとね。いい人を育ててね」
「今度はコーチとしてオリンピックに行くのね」
「だから大丈夫だと思うわ」
そうした目的の昇華が出来るからだというのだ。
「安心していいわ」
「だといいけれどね」
「そもそもこの学園ってあれじゃない」
このことも言う聖花だった。
「悪い妖怪や幽霊は」
「そうだったわね」
「もっとも途中で変わる可能性もあるけれど」
「それでもそうなったら」
「ええ、いなくなるみたいだから」
その場合も大丈夫だと言う聖花だった。
「そのことも安心していいから」
「そうよね。けれどあそこまで走りたいなんて」
愛実は自分のことから聖花にこんなことも言った。
「ちょっと私には」
「愛実ちゃんは走るの確か」
「昔から好きじゃないから」
だからだというのだ。
「運動自体がね」
「そうよね。文系よね」
「だからかるた部だし」
「まあかるた部も結構身体動かすけれど」
「お料理とかお掃除で動く分にはいいのよ」
こうしたこともカロリーをかなり消耗する。
「そっちはね」
「けれどスポーツは」
「本当に子供の頃だから」
言いながら隣にいる聖花を見てこうも言った。
「そっちも聖花ちゃんの方が得意じゃない」
「だからそう言われるとね」
「駄目?」
「恥ずかしいから」
聖花はこう言って実際に照れ臭そうに笑った。
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