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八条学園怪異譚

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第二十一話 ランナーその九

「それはない筈なのに」
「さっきの先生が開けたからね」
 それで空いているというのだ。
「あの人は無意識のうちにしてるけれど」
「そういうことね」
「つまりは」
「そう、それでなのよ」
 この事情が話されるのだった。
今閉めたのよ」
「戸締りはちゃんとしないとね」
 愛実は言う。
「さもないと泥棒が入るし」
「あんたそういうの本当にしっかりしてるわね」
「泥棒対策もお店には必要よ」
 本当にこの辺りはしっかりしている愛実だった、そのうえでの言葉だった。
「お店にはバットとかもあるし」
「バットも?」
「そう、バットもね」
 それもあるというのだ。
「スタンガンもあるしね」
「武装しっかりしてるわね」
「防犯対策よ、セキュリティもしっかりしてるわ」
「それあんたのお店のお父さんかお母さんが言ったの?」
「そうなの、お母さんなの」
 愛実の母の主張だった。
「何がいるかわからないからね」
「それでなのね」
「まして神戸って終戦直後荒れてたっていうし」
「それね、いい話じゃないわよ」
 花子さんはその話を知っていた、それで顔を顰めさせてそのうえで難しい顔になってそのうえで愛実と聖花に言った。
「戦争に負けて禄でもない連中が好き放題してたのよ」
「禄でもない連中って?」
「っていうと?」
「まあね、そこは自分達で調べて」
 花子さんの顔は顰められたままだった、そのうえでの言葉だった。
「凄く嫌な話多いから」
「って花子さんその頃知ってたわね」
「そういえば戦前からいたわよね」
「そう、それでなのよ」
 その頃に生きていれば嫌な話も知ることになる、それが知ろうとしなくてもそうなってしまうのだ。
「その頃の神戸って警察も力がなくてというか」
「えっ、警察が力がないって」
「そうだったの」
「そうよ。警察が何をしようかしたら逆にやられて」
「無茶苦茶だったのね、終戦直後の神戸って」
「それは知らなかったけれど」
「で、あんまりにもその連中が暴れ回っててね」
 それでだというのだ。
「ヤクザ屋さんが逆に連中に対したのよ」
「ああ、ヤクザ屋さんってそうしたこともするのよね」 
 聖花は花子さんの言葉からこのことを思い出して言った。
「自警団みたいなことをね」
「でしょ?それでなのよ」
「そうなの、ヤクザ屋さんが出て来て神戸の治安を守ったのよ」
「本当はそうしたことはよくないけれどね」 
 自警団は個々の倫理観に基き動きそこには法律がない、それで時として暴走し逆に禄でもないことをしてしまう。
 それが元々ヤクザ者ならだ、そうなるから聖花は言ったのである。
「けれどなのね」
「というかヤクザ屋さんより酷い連中っていたのね」
 愛実にそいってはそれ自体が禄でもないことだった。
「最悪な連中がいたのね」
「そうよ。で、まだその連中の残党みたいなのは日本にいるからね」
 そうした連中がいるのは神戸だけではなかった。
「全国区だからね」
「だから戸締りはきちんとよね」
「泥棒もすることが多い連中だからね」 
 それでだと言う花子さんだった。
「学校でも戸締りはきちんとしないとね」
「そういうことね。学校もお金とか貴重品あるからね」 
 忘れものの場合もある、そこの事情は様々だ。
 何はともあれ職員室の扉は閉じられた、そしてだった。
 二人は花子さんと口裂け女に対して最後の挨拶をした。 
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