ラ=ボエーム
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第一幕その四
第一幕その四
「最初は勝負をしていたさ。けれどね」
「けれど?」
「紳士が用足しに出掛けた時にそこにいたメイドに尋ねたんだ。あのオウムはどうやったら黙るか、ね」
「ふん」
「そのメイドが言うにはオウムはパセリが嫌いでね。それを食べると黙ってしまうって聞いたんだ」
「それを食べさせたんだ」
「その通り」
パンを流し込みニヤリと笑った。
「メイドさんがこっそり持って来てね。紳士が戻って来た時にはオウムはだんまりで僕だけ元気に弾いていたのさ」
「そういうことか」
「ああ。それで目出度く報酬を手に入れたんだ」
「それはお見事」
「天晴れだな」
「金はまだあるぞ」
ショナールはニヤリと笑ったまま言った。
「外で食べる程にな」
「外でか」
「そこで諸君に提案だ」
ショナールは三人に対して言う。
「今夜はクリスマスだ。派手にやらないか」
「悪くないな」
まずマルチェッロが乗ってきた。
「せめて今夜だけはな」
「街に行けばソーセージや揚げ物で満ちている」
「おい、哲学者はそこにしか目が行かないのかい?」
「それでは詩人殿は何に目が行くのですかな?」
「女の子に決まってるじゃないか」
ロドルフォは誇らしげに返した。
「可愛い女の子とその朗らかな歌に。他に何があるんだ」
「それもあったか」
「やれやれ。哲学的思考もいいけれどそんなことじゃもてないぞ」
「それは困った。何とかしないとな」
「それを何とかする為にも」
「今日は行くか」
「うむ」
四人は頷き合いすくっと立ち上がった。そして扉に向かいノブに手をかける。
開ける。するとそこには一人の太った男が立っていた。
「開けて下さったんですね」
男はその開けられた扉と前に立つ四人を見て声をあげた。
「これは。有り難うございます」
「大家さん」
ロドルフォがその男を見て声をあげた。
「またどうしてここに」
「いえ、大したお話じゃないんですけれど」
四人が住んでいるこの屋根裏のあるアパートの大家であった。気のいい主人である。
「はあ」
四人はまずは彼の話を聞くことにした。まずは部屋に入れる。
「寒いでしょうから」
「あっ、どうも」
部屋を貸している立場だが腰は低い。確かに好人物である。
四人もそんな大家は嫌いではない。ただ一つの点を除いて。
「それでですね」
大家はゆったりと話をしていた。
「そのお話とは」
「はい」
「家賃のことです」
その彼等が大家を嫌うただ一つの点がそれであった。大家は今それを口にしてきたのだ。
「もう三ヶ月になりますが」
「ああ、それですか」
コルリーネがしれっとした顔で返す。
「そろそろ払って頂きたいのですが」
「まあ一杯」
「おや、ワインですか」
「そう、これは我々からのおごりです」
「家賃とは関係ありませんので。どうぞ」
「すいませんね」
大家は疑うことなくそのワインを受け取った。そしてマルチェッロからコップを受け取った。
「乾杯」
「乾杯」
乾杯の後でまずは注がれたワインを飲む。
「では一息ついたところで」
「もう一杯」
「これはどうも」
すかさずショナールが勧めそれに乗る。
「すいませんね、気を使って頂いて」
「いえいえ、大家さんは我々の大事なパトロンですから」
「偉大な芸術の保護者です。無下に扱ったりはできません」
「えへへ、そりゃどうも」
見え見えのお世辞であるが悪い気はしなかった。
「さぞかしもてるでしょうな」
「滅相もない」
マルチェッロの言葉に謙遜してみせる。
「もてるだなんて。そんな」
「いえいえ、昨夜見ましたよ」
「えっ!?」
「マビュで。貴婦人を御相手に」
当時シャンゼリゼ通りにあった舞踏場である。華やかな場所として知られていた。
「御見事なステップで」
「いや、あの時はね」
マルチェッロは冗談のつもりだったがどうやら本当だったらしい。彼はえへへと笑って頭をかいていた。
「ほんの余興で」
「貴婦人の方に対してもひけをとらない男伊達っぷりでしたな」
「すみにおけませんなあ」
ショナールが感心したように言う。
「流石は我等の保護者だ」
「ではもう一杯」
「はい」
またショナールが勧めたワインを口に含む。
「では今宵もですな」
「いや、今宵は」
「いやいや、是非行かれるといいです」
「今宵は。そんな」
「今夜はクリスマスですぞ」
「それでは奥方と?」
「それもねえ」
コルリーネの言葉には弱い苦笑いになった。酒でほんのりと赤くなった顔が笑ったように見えた。
「普段通りというのは」
「それでは?」
「いえ、私もね」
ロドルフォの言葉に乗る形となっていた。
「若い時臆病だったのを埋め合わせしている時期でして。若い女性を相手に」
「熟練の手練を」
「心憎いことで」
「痩せた可愛い女の子に」
「いえ、痩せたのは駄目です」
それは断りを入れてきた。
「何故ですか?」
「それはですね」
「まま、どうぞ」
そしてまたショナールが酒を勧める。
「お話下さい」
「痩せた女は厄介なものなのですよ」
彼は首を捻った後でこう述べた。
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