ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~
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フェアリィ・ダンス編~妖精郷の剣聖~
第四十八話 再会、名無しの名刀
「過程を省いたとしか思えないほど・・・鮮やかでキレのある見事なカウンターだったな」
「そうね。それから、これで決まりね。私たち【エンテレケイア】の方針は」
「ああ、そうだな」
男性が頷くとけたたましい雄叫びと共には白銀の鱗を纏った西洋龍が空から姿を現した。二人の近くに降り立つと、ケットシーの女性が龍の首を優しく撫でる。数回撫でたのち、二人は龍の背中に乗り、それを確認した龍は翼を羽ばたかし、その場を飛び去っていく。
「この停滞している世界がどう加速していくのか楽しみにしてるよ、≪剣聖≫ソレイユ君」
飛び去る寸前にケットシーの女性が一㎞先にいるインプの少年に言葉をなげるが、それが当の本人の耳に入ることはなかった。
◆
「悪いが、蘇生魔法かけてほしいんだけど・・・」
呆然とする領主たちにステラのリメインライトを差しながらソレイユは言った。その言葉にハッと我を取り戻すと、ドロシーがリメインライトのもとまで飛んでいく。それと入れ違いでソレイユは下に降りていく。
「チートじゃなくてバグキャラか、お前は?」
「酷い言い草だな」
ルシフェルの身も蓋もない言い方に苦笑するしかないソレイユ。隣ではシェイドが呆れながらソレイユのことを見ていた。
「そうだ、シェイド。フレンド登録しようぜ」
「・・・ちょっと待て。何がどうなってその結論に至った?」
「俺さ、今フレンドリストにルシフェルとフォルテしかいないんだよ」
「ちょっと聞き逃せないことがあったぞ!なんでお前がフォルテとフレンド登録してるんだよ!」
「だから、今日会ったのも何かの縁ってことでフレンド登録しようぜ。ちなみに、何でフォルテのとフレンド登録しているかは内緒だ」
なんて言いながらメニューウインドウを操作して、シェイドにフレンド申請を出す。一瞬迷ったシェイドだったが、溜息を吐くとYesボタンを押す。認証通知がでると、今度は上空から降りてくるウンディーネの二人にもシェイドと同じようなことを言った。こうして、ソレイユのフレンドリストにはウンディーネ領主とスプリガン領主という豪華メンバーが加わった。
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「それで、あなたたちはこれからどうするのですか?」
「レプラ領に行く。もともとそれが今回の目的だからな」
「そうなん?ならうちも一緒に行くで!」
ドロシーとルシフェルが話しているところに乱入したのはステラだった。はいはーい、と挙手しながらる同行することを主張している。そんな彼女を見たルシフェルはドロシーに問い掛ける。
「いいのか?」
「それはあなたが決めることでは?」
「いや、そうなんだけどよ・・・執政部じゃないのか?」
「ああ、そう言うことですか・・・大丈夫ですよ、彼女は違いますから」
ドロシーの言葉にうんうんと頷くステラ。その表情を見る限りさして悪意を感じられない。領主である自分を討とうと考えているようには見えない。そこまで考えていたルシフェルだったが、意外なところから賛同の声が響いた。
「いいんじゃねぇの?」
その声の主はソレイユだった。
「向こうに知り合いいる?」
「一人居るでー。私の愛刀もその人に仕上げて貰ったんよ」
「なら、紹介してくれ。もう一本、刀が欲しいんだ」
「ええよー」
と二人で勝手に話を進めていく。
「(まぁ、もともとはあいつの用事で行くんだし・・・あいつがOKならそれでいいか)」
などと自己完結をするルシフェル。これでステラの同行が決定した。あとは用のなくなったこの場から飛び去るのみである。
「んじゃ、俺らはもう行くわ」
そういって、翅を羽ばたかすルシフェルだがソレイユとステラは飛ぶ様子が見られない。どうしたのか聞いてみると――
「さっきの闘いで飛行制限がかかったみたいなんだ」
ということらしい。仕方がないのでソレイユとステラに合わせてルシフェルも歩きでレプラコーン領まで向かうことにした。
―――数十分後
出発してスプリガン領を越えようとした辺りで大勢のスプリガンと出会ってしまった。現在はソレイユとステラが近接で、ルシフェルが遠距離で撃退中である。
「そう言えば、ソレイユ君」
「んー?どうした、ステラ」
翅が回復するまであと少し。ソレイユとステラは飛べないため地上戦で応戦している。空ではルシフェルの魔法が炸裂していた。飛べばルシフェルの魔法が、降りればソレイユとステラの餌食。スプリガン達にとって悪夢以外なにものでもない。
「さっきのことなんやけど」
「さっき?」
「【反撃の支配者(ロード・カウンター)】言う奴のことや」
「あー、あれがどうかしたのか?」
「いや、ちょう気になってな・・・すべては布石、なんてこと言うてたけど、私のカウンター返しまで読んどったん?」
「いやー、あれはよそうがいだったよー。しょうじき、かうんたーがえしまでよめなかった」
「棒読みで言うても説得力ゼロやで」
「お前ら喋るなら終わってからにしろよ!」
ステラの呆れの言葉の直後にルシフェルの怒声が響いた。しかし、ソレイユはそんなステラとルシフェルを無視して話を進めていく。
「手は動かしてるんだから問題ないだろ。まぁ、普通はカウンターにカウンターを当てるなんてことしないんだが、まぁ、意表をつくという意味では有効だろうな。そんなおっかないことやるやつがどうかしてるんだし」
「そのカウンター返しに【反撃の支配者(ロード・カウンター)】なんてもんを使った人はどこのだれやねん!」
「さぁ、誰なんだろうな。そんなおっかない剣士」
自分を棚に上げた物言いに思わずツッコんでしまうステラととぼけるソレイユ。それをチャンスと見たスプリガンがステラに斬りかかろうとするが、あえなく返り討ち。
「でも、それが通じない人もおるはずやで」
「それもそうだろ。おれより強い人なんてたくさんいるんだしなー。最初のカウンターを無効化される恐れもある」
「・・・私がその一人かもしれへんかったんよ」
「ああ、その可能性もあったな」
「なら―――」
「なぁ、ステラ」
ステラの言葉を遮るソレイユ。その時、ステラは言い知れぬ何かに気圧された。
「【反撃の支配者(ロード・カウンター)】がおれが鍛えてきた剣なんだ。それが破られれば、おれに後は残されていない。だけど、それでも、おれは自分の剣を信じる」
「なんで、そこまで信じられるん?」
「・・・さぁ、な。それはオフレコってことで頼むよ。だが、これだけは言える」
一拍置き、戦い中であるにもかかわらずソレイユはステラに面と向かっていった。
「疑ったら、負けだ」
「・・・・・・うん、そやね」
それから、ステラは喋ることなくスプリガンを撃退していた。それを横目で見るソレイユ。
「(ホントは、あんたが何者なのか知ってんだよなー。だからこそ、ある程度は読めていたんだ。けど、カウンター返しはあくまで可能性の一つとしてしか考えてなかったし、もっと言えばそんな馬鹿なことをするとは思わなかったからなぁ・・・それに、あんな鮮やかに返されるとは思ってもみなかった・・・最初っから反撃の支配者(ロード・カウンター)で仕留めとけばよかったよ)」
おれもまだまだ修行不足だなー、なんてのんきに考えているソレイユだが、しっかりと手は動かしている。
ソレイユは現実に帰還してからルナの、柊月雫の情報はある程度集めていた。その際に、ステラと思しき人物の存在を知ったのである。
「あいつも強くなってるぞ。頑張んな、≪無冠の女王≫」
その呟きはスプリガンがポリゴン片になる爆発音とともに風に乗って消えて行った。
◆
そんなこんなでレプラコーン領前までついた三人。目立った外傷はなく、無事にたどり着くことができた。
「へぇー、ここがレプラコーン領かー」
領内に入っていくと石造りの煙突が並び、そこらかしこからハンマーで金属と叩く音が響いている。多くの露店が並び、自分たち以外にもノームやプーカなどと言った種族もみられる。先導して歩いていくステラとキョロキョロと物珍しげにあたりを見回しながら歩いているソレイユ。ルシフェルは特に気にした様子もなく二人の後をついていく。
「おいおいっ!どこみて歩いてんだ、ったくよぉ!」
いきなりの野太い大声に三人は反応したが、程度に違いがあった。ステラは隠すことなく野次馬根性を発揮し、ソレイユはやれやれと言ったように溜息を吐き、ルシフェルに至っては額に手を当てやっちまったな的なオーラを背負っている。
己の野次馬根性に従って行動するステラを放っておくわけにもいかず――というか、ステラに案内してもらわなければ、彼女御用達の鍛冶師のもとにたどり着けないため――ソレイユとルシフェルも声の発生源の方に歩を進める。
「何があったんだ?」
「何やらぶつかったらしいんだよ・・・あれほど騒ぐほどのことじゃないと思うんだけどね・・・」
近くにいたプレイヤーに事の成り行きを聞いてみると、プーカの少女がノームにぶつかったらしい。たったそれだけのことでこれほどまで騒ぎを大きくできるのか、とソレイユは変な方向に感心していた。
野次馬が多すぎて状況が見えないので、近くにあった店の屋根に飛び乗る。すると三人いたノームの男のうちの一人が背中に背負っていた大剣を抜き、振り上げているところだった。プーカの少女は恐怖の為か蹲って震えていて動かない。それを見かねたソレイユが居合の構えを取り、刀に手を掛けようとした時、その手をつかむものがいた。
「やめとけっ」
「・・・なんで止めるんだよ、ルシフェル」
ソレイユの手をつかんだ人物はルシフェルだった。
「そういや、言ってなかったか・・・レプラ領は戦闘禁止区域なんだ」
「戦闘禁止区域?」
「ああ。それぞれが暗黙の了解としてレプラコーン領では戦闘を行わないという規定を定めた。絶対的中立を謳う種族だからな・・・だから、レプラ領では武器を構えてはいけないんだ」
「なら、あれはどうすんのよ?」
居合いの構えを解き、顎で大剣を振りかざすノームの男を差す。しかし、ルシフェルは問題ないというような表情で言った。
「もし、武器を構えるプレイヤーがいたならばレプラコーンは問答無用でそいつを排除することができるんだ。もちろん、問題を起こした人物のみがその対象となるがな・・・」
ルシフェルがそう言っている間にノームの男は大剣をプーカの少女に向かって振り下す。しかし、そこに割って入る影があった。
ギィーンッ
裏腰に白鞘を携えて、鍔のない日本刀で大剣を受け止めているのは光沢のある藍色の髪の男性プレイヤーだった。ギチッギチッと鍔迫り合いが行われているが、レプラの男性は後ろでおびえている少女に話しかける。
「大丈夫かい?」
「え・・・あ、あの、その・・・は、はい・・・」
行き成りの問いかけにしどろもどろになりながら答えるプーカの少女。その余裕とも取れる行動にノームの男性プレイヤーがキレた。
「てんめぇっ!かっこつけてんじゃねェぞォっ!!」
力ずくで押すノームのプレイヤーだったが次の瞬間、大剣と共にポリゴン片となった。レプラコーンではない野次馬プレイヤーたちは何が起こったのかさっぱりわからず、ざわついている。
「へぇー・・・うまいな、あの男」
ソレイユの賞賛にルシフェルが疑問を投げた。
「何が起こったんだ、さっき?」
「所謂、武器破壊という奴さ。どんな武器にも弱点ってのが存在する。それをうまく突くことでその武器を破壊する技術だなー」
「それをさっきやったってのか?」
「ああ。あんたは近接戦闘型じゃないからわからないだろうが、それが結構難しかったりするんだよ。しかもあの男は武器を破壊したままノームの男性の喉元を斬った。そして、一撃死。その意味は分かるだろ?」
「・・・ああ」
神妙な顔で頷くルシフェル。ソレイユ然り、ステラ然り、そして、レプラの剣士然り、化け物じみた剣士が多く出現している気がするのだが、気のせいだと信じたい。
「(つか、三巨頭の連中もちゃんと仕事しろよ)」
元来、ああいった取締り(?)もレプラの執政部の仕事のはずなのだが、どうやら顔なじみは見つからない。結構な頻度で仕事をサボる己を棚に上げ、ここにいない顔なじみたちに心の中で愚痴るルシフェル。
周りを見ていた視線を騒ぎの中心に戻してみると、ポリゴン片となったノームの男の連れが武器を出して斬りかかていくが、あえなく二人とも撃沈。その後、プーカの少女の連れが助けに入ったレプラのプレイヤーにお礼を言い、騒ぎは終息となった。野次馬たちが散らばっていくと藍色の髪のレプラコーンのプレイヤーは一息ついた。
事態が終息したとなってはここにいる用事もなくなったので、改めてステラ御用達の鍛冶師のもとへ向かおうとステラの姿を探していると、件のレプラコーンのプレイヤーに名前を叫びながら飛びついていた。
「コスモスー!」
「よお、ステラ!」
飛びついてくるステラを受け止めると、コスモスと呼ばれたレプラコーンのプレイヤーはよしよしと言った感じで頭を撫でる。撫でられたステラはふにゃりとした笑みを浮かべながらされるがままとなっている。まるで恋人のやり取りだなーっと地面に降りながらソレイユは心の中で思っていた。ふと隣を見てみると、不機嫌な表情のルシフェルがいた。
「くそったれ・・・どいつもこいつもイチャつきやがって!俺らは独り身同士仲良くしような、ソレイユ!」
「わりぃ、おれは恋人いるから」
「な、なん・・・だと・・・!?」
ソレイユの言葉にピシリッと固まるルシフェル。すぐさま硬直状態から立ち直ると、覚束ない足取りで近くにあったオープンテラスの椅子に座ると真っ白に燃え尽きた。どうやら踏んではいけない地雷を踏んだらしい。これからルシフェルの前で恋人云々の話しはしないようにしようと心の中でひそかにソレイユは誓った。
―――それから数分後
「初めまして、ソレイユだ」
「コスモスだ。気軽に呼んでくれて構わないぜ、ソレイユ」
「なら、お言葉に甘えさせてもらうよ、コスモス」
適当な飲み物を頼みながらオープンテラスで自己紹介をする初対面の二人。ホントはルシフェルも初対面の内に入るのだが、未だに真白く燃え尽きている。よほどショックだったらしい。
「で、だ。早速で悪いんだけど、武器を打ってほしいんだ」
「ああ、それは問題ないぜ。んじゃ、おれの工房に移動すっか」
ちょうど飲み物が呑み終わったのでテラスを後にしようとする三人。何とか回復したルシフェルも後からついてくる。
「そういや、ステラに勝ったんだって?」
「ん?・・・ああ、なかなか手ごわかったよ。仇討ちでもする?」
「そういうのは趣味じゃいんでな。ただの興味本位だよ」
「・・・ふぅーん」
「っと、ここが俺の工房だ」
歩いているうちにコスモスの工房までついたらしい。人気のない通りにあるにもかかわらずなかなか立派な工房だった。中に入っていくと、大剣、片手剣、曲刀、刀と言ったレパートリー溢れる武器が並んでいた。見ただけでなかなかの業物とわかる。
「気に入るのは在ったか?なければ新しいの打つぜ?」
「んー・・・すまん。新しいので頼む」
据え置きの武器を見渡すも業物と言えどソレイユの眼にとまるものはなかったので、謝りながらもオーダーを頼む。
「了解。武器の種類とか諸々はどうする?」
「武器は刀。あとは、そうだな・・・丈夫なやつを頼む」
「ほいほい。そんじゃ、使う鉱石はあれとこれと・・・少し値が張っちまうがいいか?」
「大丈夫だ」
ソレイユがそう言うと、コスモスはアイテムウインドウから鉱石を取り出すと炉に放り込む。充分熱を帯びた鉱石を取り出し金床に移すと、すぐさまハンマーで鍛造していく。SAOもそうだったのだが、ゲームの中の鍛冶作業とは鉱石を炉に入れ、それからハンマーで既定回数だけ鉱石を叩くことによって武器が出来上がるという簡単なものだった。技術など入る余地がないと思われがちだが、結構そうでもなかったりする。叩くリズムや気合いなどで結果が左右されることもあるのだ。だからこそ、コスモスは真剣な表情で鍛造作業をしている。
そして、何度目かわからなくなるくらい叩いた後、熱せられた鉱石が輝きながら徐々に刀の形を成していく。オブジェクトのジェネレートが完了すると、金床にあったのは一工の黒い刀だった。刀身も鍔も柄も何もかもが黒い刀だった。
「えーっと・・・銘は【ザ・ネームレス】?これ、名前って呼んでいいのか?」
そのコスモスの呟きを聞いた時、ソレイユは呆れて笑うしかなかった。
【ザ・ネームレス】。それはSAO時代、ソレイユが【天凰フェニクニス】と共に愛用していた刀の銘だ。数々の死線を共に潜り抜けてきた相棒が再びソレイユの元へ戻ってきた。
「(運命なんてものがあるなら・・・感謝の一つでもしたい限りだな)」
心の内でそう思うソレイユ。昔を懐かしんでいると、コスモスが【ザ・ネームレス】をソレイユのもとに持ってきていた。
「こんなんでいいか?」
そう言いながら打ち立ての刀を指し出してくるコスモス。それを受け取り、手に取ってみてみると常時淡く紅い光を宿している【エクリシス】とは違い、全てを飲み込むほどの深みのある黒一色の刀身。SAO時代と何ら変わりのない姿があった。
「まさか、お前が来るとは思ってもみなかったよ」
だれにも聞こえない声で微笑みながら刀に向かってそう言うソレイユ。少しして、空けた場所で振ってみると当然のごとく手になじむ。そこでコスモスが刀の感想を聞いてきた。
「気に入ってもらえたか?」
「ああ、十分すぎるほどにな」
「それは何よりだ。鞘はどうする?」
「黒塗りの鞘で頼む」
ソレイユの注文を聞くと、コスモスはアイテムウインドウを開き目当ての鞘を探していく。改めて、【ザ・ネームレス】に視線を向け――
「『また』、よろしくな。相棒」
――【ザ・ネームレス】に語り掛けるように言うソレイユ。その言葉に返事をするかのように【ザ・ネームレス】は刀身を煌めかせた。
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