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英雄伝説 零の軌跡 壁に挑む者たち

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6話

クロスベル自治州の成り立ちはエレボニア帝国とカルバート共和国の領土争いに起因している。
古来からここは南北に険しい山岳地帯が続き、平地を東西に抜ける形で交通の要所となっており自然と商業土地として発展し、その険しい山岳地帯から七曜石が取れる。
故に周辺国からその商業力と資源を狙われて争奪される時代が続いていた。
それは現在でも変わらない。
帝国、共和国の間で戦争が起これば大兵力を送り込めるこの土地が両国の侵攻の橋頭堡として戦略的に絶対優位地点であることは変わらない。
飛行船の登場で陸路のみに限定された侵攻路としての価値は下がったものの、輸送能力を含めてここを取ることの価値は些かも揺らいではいない。
そのためクロスベルの平和は両国が平和であることが言え、この両国が対峙する冷戦状態の現状を解消する運動、あるいは地理的、そして蓄えられた経済力でバランスを取っていくことがクロスベルが大陸の平和に寄与する行為である。

クロスベルの安全保障という本を読んでいたエリィはうんざりしたように本を閉じた。
久しぶりに故郷に戻って一番新しい政治参考書が売られていたので読んで見たが僅かに現状に対して加筆があるのみでなんら新しい情報はなかった。

18歳になったエリィは年相応以上に女性らしい柔らかさと落ち着き、また令嬢らしい優雅な立ち振る舞いを身に着けて表情には知性と強い意志が宿り、誰もが一目で只者ではないと思うぐらい美少女だった。
しかしそれは彼女がマクダエル家の令嬢として、また将来政治家になるには綺麗な方が良いという自己鍛錬の結果だった。
そんな彼女は数ヶ月ぶりに帰った自宅で沈んでいた。
彼女はこの数年各国に留学していたからだ。その結果、何も掴めなかった徒労感に沈んでいたのである。


10年前、両親が離婚してからエリィは自らも政治家を志して家業を継ぐと祖父を説得して秘書を家庭教師につけてもらい専門的な政治学を学んでいたのだが、学んでクロスベルの現状はエリィの想像を遥かに越えていた。
学べば学ぶほど現状に対する閉塞感を知ってしまい、完全に手詰まりになってしまったのだ。
祖父を助けようにもまだ子供のエリィ程度の人物はいくらでもおり、何かがしたいけど、何をどうしたら良いかわからない。必要とされない無力感に打ちのめされて空回りしていた頃、家庭教師をやってくれている祖父の秘書のアーネスト先生が言ってくれた。

「エリィは若いじゃないか、もっともっといろんなことを学ぶべきだよ。私はもう政治一筋だけど、君はいろんなことが学べる。いろんなことに挑戦すべきだよ」

子供ではなく若いと言ってくれたことが私を傷付けないための些細な配慮だったがこの言葉に焦っていた私は救われ政治の勉強ばかりしていたことから一歩離れることにした。

まず最初に手を出したのは経済、具体的に言うと株だった。というのも幼馴染の親友マリアベルから誘われたのである。
彼女の実家はクロスベル自治州のみならず大陸で一番の資産を持つ銀行、IBCを経営する銀行家一族でその後継者として経済を実感するため、そして政治家になって経済のことを何もわからないと笑われると遊び半分で誘われて参加したのだ。

しかし株と一口に言ってもいろいろあり、また値が上がるのか下がるのかその理由はなんなのかと情報収集して、結局あまりの膨大な情報量にさっぱりだった。
それでもベルは帝王学の賜物と高笑いしつつ的確に情報を取捨選択して私も手伝い見事利益を上げていた。

「金融を通じてクロスベルは世界を支配しているの。本当の価値は情報よ。そしてそれを安定して把握するシステムさえ握ればわたくしたちの世界支配も近いわ」と金髪を振り乱して力説してくれた。

ベルが言うには世の中はシステムが全てであり先にそれを手にした方がお得ということらしく。

「わたくしがIBCの総裁になってあなたが自治州議長なり市長なりになったら一緒に世界を作り変えましょう」

ベルは一つ年上で自信満々に何から何まで仕切りたがりパワフルで何でも人並み以上にこなしてしまう自信家だったが、お互いに親同士が友達というだけでなく家格が高過ぎたからかほかに親しい友人が出来なかった幼い頃からの本当に良くしてくれる親友だった。

そのベルが突然留学すると言い出したのだ。なんでも都市開発で出資しているエプスタイン財団の技術を学ぶためとのことで。

「実地で今の内に勉強しておきたいのよ。システム作りよ、シ、ス、テ、ム」

その言葉通りすぐにIBCは金融のネットワーク化を達成して膨大な量を取り扱い利益を上げることになり、クロスベル市にネットワークを整備しようとしている。これはレマン自治州以外では導力先進国と言われるリベール王国でも達成していない快挙であった。それを見抜いての勉強やら開発投資を行うIBCの長期的な戦略には感心するしかなかった。

私はこの時、競技射撃に熱中しており、政財界にも趣味でやる人が多く競技用やら護身用ということで習いつつ人脈作りに勤しんでいたからあまりに突然のことで驚くばかりだった。
けれどこれも良い機会だと以前からアーネスト先生の進めもあり外からクロスベルの政治情勢を見ることも大事だとおじい様には両親に顔を見せに行くという理由もあり留学に賛成してくれた。

しかし両親に会えた嬉しさや留学先での生活や出来た友人などいろいろと有意義だった反面、外から見たクロスベルの現状は内部から見るよりも容赦がなかった。
各国の国力や力関係、歴史、他国民からの認識の全てがクロスベルの状況を絡め取り身動きできなくしていた。

各国の政治学を学べば何か突破口になるようなものが、せめてその糸口ぐらいは掴めるのではないかと期待して勉強を続けたが、結局とんでもない名案が浮かぶようなことはなかった。
個人としての充実感と政治家を志すものとして現状に打つ手のない無力感が自分がちっぽけな存在であるという恐怖を連れてくる。
帰国を考えたのも留学が終わったことで祖父にこれからを相談したかったからだ。

実家に帰ると昔から仕えているジョアンナや執事のヘルマーさんが暖かく迎えてくれて私室の掃除は行き届いていつ帰って来ても使えるように準備されていた。
祖父も忙しいながら帰国の事は伝えていたので会えることになっていた。

その時間潰しに読んでいた本と同じ結論しか至れなかった。だから落ち込んでいたのだ。これまでの旅の結論がこの本と同じなんて。
結局、泣き言言うために帰ったようで嫌だったが相談出来る人はおじい様しかいなかった。

「帰ったようじゃな。おかえりエリィ」

「ただいま戻りました。おじいさま」

数ヶ月に一度は帰っているのでそんなに久しぶりという感じではない。毎回の報告も欠かしていない。だが表情に出ていたのだろう。

「今度の留学は期待に沿えなかったのかね?」

「はい」

頷いておじい様を見た。少し足を悪くして杖を突いて疲れと苦労が感じられた。おじい様の前だと恥ずかしかった。何の手助けも出来ない無力な自分が。
政務に邁進しているクロスベルの最高権力者の一人。そのおじい様を持ってしてもこの状況はずっと変えられない。私程度が何か変えられると思うほうが間違いなのだ。

「では、何も得るものはなかったのかい?」

「いえ」

「なら良いじゃないか。それがわかっているだけでも有意義な旅だったはずだよ、エリィ」

「でも、私は」

「そう上手く行くことは多くない。だが上手く行かない、悪い状況であってもそれを一気に解決出来ることのほうがおかしなこともある。少しずつ一歩ずつ問題に当たり続けることが大事なんだよ」

「それは」

「だからエリィ、気を落とさないようにな。また好きな事をしなさい」


有意義な旅だった。何の結論も出なかったが政治家としての積み重ねは続けていた。自分をちっぽけだとか思っていたのが恥ずかしい。おじい様が頑張っているのに何もしていない私が落ち込んでいられない。
でも結局これからのことを相談することも出来なかった。秘書になって政治を手伝いたいと思っていたけど、それも早いような気がする。
ベルから何度か一緒に働かないかと手紙を貰っている。
そんな風に一晩中あれこれ考えても結局結論は出なかった。

翌日、ジョアンナの用意した朝食を食べながら最新号のクロスベルタイムズを読むと警察を批判する記事が出ていた。
読んだ瞬間、新しい道筋が閃いた。

「これよ」

クロスベルの状況を、警察から見るというのはきっと政治家になれば役に立つ経験になるはず。
すぐに今年の警察官の採用予定と試験内容を確認すると筆記試験と面接のみだった。
この内容なら行けるとすぐさま採用試験に応募して、内容は基礎学力程度で専門的な分野などはほとんど出てこず留学中に学んだことが出てきて簡単に答えがわかった。
さらに銃の取り扱いも趣味でやってる導力銃があるので問題にされず、最後の関門は面接だった。現市長の孫娘が警察官だといろいろと面倒に思われるはず。
実際、面接官たちの態度は予想通りだった。どう扱ったら良いものか持て余している様子が見て取れた。
面接はとにかく志望動機はクロスベルを守りたい、市民の役に立ちたいと言い募った。
市長の孫娘が危険だとか問題になる、試験は満点なのだから別の安全な仕事があるだろうとお節介にも紹介してきたが、自分の意思でそれも覚悟の上ですと言うと面接官は筆記試験満点の志望者を落とすのは問題になると話しており、これで政治的な圧力がなければ合格のはず。
だから周囲の人たちには採用試験を受けたことさえ言わなかった。そして合格通知が来て、周囲に事情を話すと予想通り大反対された。

「なぜ才能を無駄にするの?わたくしと働くべきよ」「まさか事務所に入らず警察に入るなんて驚いたよ。でもそれが本当にやりたいことなのかい」

こういった感じで言われるのはわかっていた。しかしこれは自分がクロスベルを見極めるために腐敗してると批判されているなら、警察に入ってなぜそうなのか、なぜ出来ないのかを知りたかったからだ。
政治家になるのに役に立つと説明するとみんなしぶしぶ納得してくれた。

(歪みに直面すれば私はまた無力感に襲われるのだろうか。途方に暮れてしまうのだろうか。それを確かめるだけでも意味があるはず)

合格通知が届き所属が記されていた。
エリィ・マクダエルの配属先はクロスベル警察特務支援課。 
 

 
後書き
エリィの留学先は少なくとも近隣のリベールとアルテリアに行っているらしいのだが、帝国と共和国、レマンやレミフェリアには行ったのだろうか。
行ってるっぽいけど作中に出てこないからね。行ってる設定にしたけど。
でも閃の軌跡が時系列が前でエリィが留学していたら面白いよな。行ってても皇族も通うお嬢学校の方だろうけど、あってもいいし。
博識なんだから頭でっかち解説キャラでも面白いのに、ロイド先生が語りまくるしな。

エリィは政治家として目指す存在として祖父や父、アーネストさんを前に出したい。特に祖父は全肯定してやりたい。ゲームじゃ影が薄いけど物凄いからさ。アーネストさんも結構好きだからさ。 
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