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西郷と大久保

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第二章

「幕府に西郷、大久保程の者はおるか」
「それは」
「何と申しましょうか」
「おらんな」
 この問いには誰も答えられなかった、沈黙しかなかった。
「そうじゃ。高杉や桂、坂本も厄介だが」
「特にあの二人ですか」
「薩摩のあの二人でございますな」
「あの二人は際立っている」
 まさにそうだというのだ。
「あの二人は一人一人でもこの国随一だが」
「二人いるともうそれだけで」
「恐ろしいまでの力になっていますな」
「幕府はあの二人に倒されるわ」
 二百六十年以上続いた江戸幕府ですらというのだ。
「そしてそれからもだ」
「あの二人が動かしますか」
「この国を」
「二人がおれば出来ぬことはないわ」
 どれだけ困難なことも成し遂げられるというのだ。
「器、頭が違うわ」
「西郷も頭はありますし大久保にも器があります」
「だからですな」
「何でも出来るわ、しかし」
 徳川慶喜にしても百才ありと言われた者だ、それ故にこのことにも気付いていた。
「一人一人だと只の傑物でしかない」
「只の、ですか」
「それに過ぎぬと」
「どちらもこの国に比類なき者達だが」
 それでもだというのだ。
「一人一人だと出来ることは限られておる」
「どんなことでも成し遂げられるものではなくなる」
「左様ですか」
「そうじゃ、そこまでの者達にはならぬ」
 一人一人ではそうだというのだ。
「その様じゃな」
「あの二人は幼い頃から強い絆で結ばれていますが」
「そうじゃな。まああの絆は強い」 
 二人の間にはそれもあった、これは人では断ち切れぬものがあった。
「二人でおるうちは何でも出来るわ」
「しかし一人ならですか」
「強いにしてもただ強いだけですか」
「一人一人なら互いにまずいやも知れぬ」 
 かえってそうではないかというのだ。
「そんな気もするのう」
「ううむ、そうですか」
「あの二人は」
「西郷が奄美に流されていた時等に大久保は大いに動けんかった」
 西郷にしても同じだった。その時の薩摩の状況や二人の立場もあるが彼等は彼等だったが雌伏の時だった。
「ここでまた別れると飛んでおる間だけにまずいやもな」
「二人が別れれば」
「その時は」
「しかしあの二人の絆は固い」
 また言う慶喜だった。
「我等ではどうしようもない」
「このままあの二人にやられていきますか」
「そうなりますか」
「とてもではないが相手にならぬ」
 このことを認めるしかなかった、
「幕府はやられていくばかりやもな」
「あの二人がいてはですか」
「幕府では太刀打ち出来ませんか」
「それからもだ」
 慶喜は既に幕府が終わることを覚悟していた、だからそれからのことも考えそのうえでこう言ったのである。
「朝廷が政を行うにしてもあの二人がいる限りだ」
「国は保たれますか」
「そうなりますか」
「出来て早々潰れることはない」
 出来てすぐの国が潰れることは多い、だがそれがなくて済むというのだ。
「多くの困難なことを成し遂げるだろう」
「西郷と大久保がいれば」
「まさにですな」
「あの二人がいれば問題はない」
 また言うのだった。 
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