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将軍

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第三章

「異論はありません」
「そうしましょう」
「では会見の用意だ」
 乃木は早速会見の用意を命じた。
「それに入ろう」
「はい、それでは」
「今から」
 部下達は敬礼をして乃木に応えた。こうして二人の将達は会った、この会見のことは全世界に伝わり驚きで語られた。
「日本には素晴らしい将軍がいるな」
「降伏した敵将に帯剣を許して会見するとは」
「いや、見事な武人だ」
「軍人とはあああるべきだ」
「あれが武士道か」
「そして日本人なのだな」
 ひいては日本、日本人への評価にもなった。乃木はこうしたことももたらしたのだ。
 山縣もそのことを聞いて満足した顔でこう言った。
「わしの目に狂いはなかったな」
「そうだな、確かに旅順では苦戦したが」
「あれは簡単には陥ちぬ要塞だった」
 こう今も料亭で話す伊藤に述べたのだった。
「乃木でなくともだ」
「そうだな。だが乃木はやはり」
「司令官としての指揮はか」
「わしが言うのも何だがな」
 伊藤は直接軍を指揮した経験には乏しい、だから陸軍の法皇とまで呼ばれている山縣にはそこは譲っているのだ。
 それでも今はこう言うのだった。
「乃木はやはりな」
「そうだな、采配についてはな」
「どうかと思うがな」
「それは黒木や児玉とは比較にならぬ」 
 彼等の方が遥かに優れているというのだ。
「わしもわかっている」
「それでもだな」
「軍人は采配だけではない」 
 山縣は袖の下で腕を組み看破した。
「それは御主もわかっていよう」
「そのつもりだ」
 伊藤も伊達に維新から日本を動かしてきた訳ではない、それはわかっていた。
 それで今こう言うのだった。
「采配だけで決まる程軍人は狭いものではない」
「その通りだ。だからだ」
「それ故にだな」
「わしは乃木を軍人として引き立ててきた」
「第三軍の司令官にもしたのだな」
「それは正解だった」
 山縣は確かな声で伊藤に述べた。
「乃木はよくやってくれた」
「日本の誇りを見せてくれたな」
「戦争に勝つだけが軍人ではない」
 そこまで単純なものではないというjのだ。
「国家の誇りを高めることもだ」
「それもまた軍人だな」
「乃木はそれをやってくれた」
「ならばそれでいいな」
「充分過ぎる、それではだ」
「乃木はこのまま第三軍の司令官だ」
 それを務めさせるというのだ。山縣は伊藤にこう告げた。そして。
 乃木の名は日本はおろか世界にも伝わった、息子をあえて死地に送り家を絶えさせてまで戦った彼のことを。
 乃木はその暮らしも武人だった、ある人が乃木の食事を見て驚いた、それはというと。
「何と、白い飯に梅干ですか」
「贅沢だとは思うがな」
 乃木はその人に苦笑いで述べた。
「白米を食らうとは」
「いえ、しかし」
「しかし。どうかしたのか」
 見ればその食事、弁当は白米の真ん中にまさに日の丸の如く赤い梅干が一つあるだけだ、その人はそれを言うのだった。 
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