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自由気ままにリリカル記

作者:黒部愁矢
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二十五話~最終回~

テスタロッサ、隠と共に走っている途中でピンチになっていた高町を助けて、今高町にテスタロッサは駆動炉へ続く道を教えている所だった。

「隠。すまないが高町と一緒に駆動炉に行ってくれないか?」
「別に構わないが……お前でもいいだろう?」
「本来なら封印が出来る俺が高町側に向かうべきなんだろうが、プレシア・テスタロッサを助けることが出来る可能性がある鍵があるのも、俺が行くことでしか出来ないんでね……というわけで頼めるか?」
「分かった……。だが、行くからには必ず助けろよ?」
「おう」
「いや、ちょっと待て」

そして、テスタロッサと共に走っていこうと思った時に、隠が呼び止める。

「少し門音。お前は口が堅いだろう?」
「まあ、そうだが。……それがどうかしたのか?」
「隠嵐(なばり らん)」
「は?」
「それが俺の本名だ。恐らくお前のことだから俺が外見年齢すら偽っていることも見抜いているんだろう? なら、これからも仲良くしようじゃないか。お前は信頼できそうだ」

そう言って拳を突きだす嵐。

「ああ、そうだな。俺の他にも信頼できる転生者はいる。……だから共にこの理不尽な事件を乗り越えよう」

そして、俺も右腕を突き出して、拳と拳を一度だけぶつけた。

「さあ、行こう。テスタロッサ」
「うん」






「そう……私は取り戻すの」

通路を走っているとプレシアの声が聞こえてくる。

「私とアリシアの……過去と未来を……」

その言葉がテスタロッサの耳に届いたはずだが、彼女の表情が揺らいだ様子は微塵も無い。

……今言うべきだな。

「テスタロッサ。今だから言っておくことがあるがいいか?」
「……」

無言のまま目で続きを促す。

「お前は多分プレシアに何かを伝えに行こうとしているんだろう? そこで言っておくことと渡しておきたいものがある」

そう言って、黒い半透明な小さな石を渡す。同時に今まで掛かっていた重さが無くなった。
テスタロッサがそれを怪訝な表情で受け取り、それの補足を続ける。

「アリシア・テスタロッサは確かに死んでいるが、意志は存在している。プレシアへ自分の思いを伝える時にこの石を割れ。きっと何かの役に立つはずだ」
「……分かった。ありがとう、邦介」


「取り戻すの……こんなはずじゃなかった世界の全てを……!!」

プレシアの独白が終わると同時に何かの破壊音が起きて、クロノの声も聞こえてくる。
どうやら、ほぼ同時に辿り着いたらしい。

「世界は……いつだって……こんなはずじゃない事、ばっかりだよ!!」
「…………確かにな」
「何か言った?」
「いや、何も言ってない」

そして俺達もプレシアのいる下の方へ飛び降りる。
俺は既にリンカーコアの機能が代償によって停止されているため、バリアジャケットは着ていない。
だから俺は一気に飛び降りずに途中途中に見える段差を足掛かりに飛び移って降りていく。


「こんなはずじゃない現実から逃げるか、それとも立ち向かうかは、個人の自由だ! だけど、自分の勝手な悲しみに、無関係な人間までも巻き込んでいい権利は……どこの誰にもありはしない!!」

そして、プレシアに向かって語り続けてきたクロノが最後に叫び終えると、プレシアは一瞬考え込むような動作を見せ……咳き込むと同時に吐血した。

「っ! 母さん!!」

―――お母さん!!―――

「……何をしに来たの」

辛辣な言葉でテスタロッサの足は途中で止まる。

「消えなさい……。もうあなたに用は無いわ」

テスタロッサを冷酷に突き放すその言葉に負けず、彼女は前を……母の目を真っすぐ見据えて言葉を紡ぐ。

「あなたに言いたいことがあって来ました」

俺はテスタロッサから一歩引いた位置に立った。
彼女の……いや、彼女達の想いをしっかりと最後まで見届けるために。

「私は……アリシア・テスタロッサじゃありません。……あなたが作った、ただの人形なのかもしれません」

彼女にとって受け入れがたい真実を受け止め、尚且つ言葉を紡ぎ続ける。

「だけど……私は、フェイト・テスタロッサは……あなたに生み出してもらって、育ててもらった……あなたの娘です!」

その言葉を放った瞬間にテスタロッサは石を砕いた。
そして、テスタロッサの想いを聞いたプレシアは唐突から笑い声が漏れ始め、始めは小さなものだったが、徐々にその笑い声は大きくなっていき……収まった。

「だから何? 今更あなたを娘と思えと言うの?」
「あなたが……そう望めと言うなら……」

私はそれでもかまわない。そう言おうとしたのだろうか。
だが、その言葉は途中で中断された。

『いいえ、フェイト。あなたが望もうが望むまいが、お母さん……大魔導士プレシア・テスタロッサの娘であることに変わりは無いわ』

ここにいる全員の頭に直接語りかけるような声がどこからか響く。
同時にテスタロッサの体から、まるで幽体離脱をするかのように彼女と瓜二つの金髪の少女がふわりと浮き出る。

「……もしかして、あなたはアリシア?」
『せーいかいっ。あなたのお姉ちゃんのアリシア・テスタロッサだよ。こうして顔を合わせるのは初めてだね! いつも、フェイトとアルフが時の庭園で一生懸命に頑張ってるのを傍で見てたよ!』

怒涛の勢いで喋り続けるアリシアに若干たじろいでいるテスタロッサ。
そして、信じられないものでも見るかのように目を限界まで見開くプレシアだったが、やがて正気に戻ると、アリシアへと駆け寄ろうとする。
それを見て、わずかにだがテスタロッサの顔が歪む。

『お母さん! 止まって!』
「っ! なんで! やっと……やっと会えたのに!」
『お母さんには言いたいことがあるの。そこで聞いて』
「アリシア……姉さん? 一体何をするの……?」
『安心して、フェイト。あなたの気持ちをなんとしてでも私が届かせてみせるから……。お母さんは私の全身全霊を掛けて死なせない。正気に戻して見せるわ』
「アリシア……何を言っているの? お母さんは正気よ? ……さあ、お母さんと一緒にお家で暮らしましょう?」

プレシアの言葉に、無言でゆっくりと首を横に振るアリシア。

「アリシア……?」
『お母さん。それはもう駄目なことなんだよ。私はあの時に死んだの』
「それでも私の研究を利用すれば……」
『お母さん……私の体のことなんだよ……? 私が一番生き返れるかどうかなんて理解しているよ。……そんなことよりなんで私は生き返ることが出来ないことが分かっていたのにこうして、この世界を幽霊になって彷徨っていると思う?』

問いかけるが、プレシアは無言で俯く。
今のプレシアは俺が魔眼を発動させたことによって、多少感情が素直に出やすいようになっている。だが、それでもあの程度で治まっているのだから、余程プレシアの気持ちは固いのだと否が応でも理解出来る。

『それはね、お母さんが私の所為で体と精神を壊していっているのもあるけど……何よりもフェイト……私の妹の事が心配で心配で堪らないからだよ! お母さん。いつまでフェイトの事を娘じゃないって自分で自分を騙し続けるの!?』
「わ、私は偽ってなんかいないわ。……フェイトはお人形。あなたに似た姿をしたお人形なのよ?」
『ううん、私は知ってるよ。……だって私は死んでからリニスがいなくなるまでお母さんとフェイトの側にずっといたんだもん。だからお母さんしか知っていないことも知っているんだよ。最初にフェイトが作られた時お母さんはアリシアって呼んでいたこと。途中で私とは内面が違う事に気づいて、一旦フェイトの記憶を消したこと。そこでお母さんはフェイトを殺そうとしたこと……』

そして、一旦アリシアは一息入れた。
プレシアは驚愕に目を見開いていた。

『だけど、お母さんはフェイトを殺さなかった』
「そ、それはあなたがいない代わりの慰み物として……」
『嘘だよ。お母さんはフェイトを殺そうとした時に気づいたんだよ。お母さんの中にフェイトを自分の娘の一人として考えている自分がいたことに……。だからお母さんはフェイトを殺さずに、私の名前以外の別の名前を付けたんだ』
「ち、違う……。私の娘はアリシアだけよ……」
『それも嘘。お母さんはフェイトを娘として受け入れた時の事を考えた。……いえ、考えてしまった。私に瓜二つな姿をしたフェイトを娘にしてしまったら、私の事を忘れて娘と仲良くしていると思われて、お母さんは私に恨まれる。と思ったんでしょ? いえ、実際に言っていたから間違いないわ。合ってる? ……お母さんがフェイトを遠ざける理由が私が原因になってるってことで』
「それは……」

恐らくほとんどの言葉が合っていたのだろう。
言葉が詰まるばかりのプレシアを見て、アリシアは困ったように笑みを浮かべながら溜め息を吐いて、テスタロッサにこちらに来るように手招きをした。
すると、テスタロッサはおずおずとその後をついてゆく。
その表情は実はプレシアが娘だと思っていたことを知って少し嬉しそうであるのと同時に、不安気でもある。

『お母さん。私ね、もう死んでいるから本当はここにいちゃいけないの。ここに長い事いたら可笑しくなっちゃうんだ。それでもここに居続けたのはね……まだ生きているお母さんに私の所為で残りの人生を無駄にして欲しくないから……。そして、私の所為でフェイトが苦しんで欲しくないからなんだよ……。ねえ、お願い。お母さんもフェイトも仲良く暮らしてよ。……じゃないと私はこれから成仏するのに……安心出来ないよ』

アリシアが泣きそうな顔で二人を抱きしめようとするが、幽霊であるために抱きしめられない。それにプレシアが涙を流しながら何度も頷く。

「ええ……。ええ……。ちゃんとフェイトを幸せにしてみせるわ。……アリシアもフェイトも私の大事な娘よ」

プレシアがフェイトを抱き寄せて、アリシアも触れられないとしても抱きしめるようにして、泣きながら言った。

『そう……。これで、安心して……いける……』

その言葉にアリシアは満足そうに頷き、その体からは光の粒子がポロポロと天に昇るように溢れ……とうとう、アリシアの存在全てが光の粒子となって昇天した。

「アリシア……」

プレシアがフェイトを抱きしめたまま天を仰ぎみていると、リンディさんが近づいて来た。

「プレシア・テスタロッサ。あなたを逮捕します。大人しくついてきてくれますね?」
「ええ……」

そして、その場所から去ろうとしたその時、次元震を抑えていたリンディさんのディストーションシールドが限界を迎え、破壊された。

「っ!? 母さん!?」

その影響により床が割れて穴が生じる。
かろうじてフェイトとリンディは穴―――虚数空間―――に落ちないように回避出来たが、弱り切っているプレシアは避けきれずに落ちていく。


……まだ、間に合う。
空間魔法で、鉄板を取り出し、全力で走って虚数空間に飛び込む。
そして、プレシアを掴んで遠心力の要領でグルリと勢いよく回って上に放り投げる。
上手くいったかどうか、結果は見ずに鉄板を足元に置いて素の脚力でジャンプする。
その虚数空間から普通の空間までの距離は八メートル。かなり厳しい距離だ。
ジャンプして上昇を続ける体。

後二メートル。

まだ伸びる。

後一メートル。

……伸びない。

「邦介君!! 掴まって!」

リンディさんが手を伸ばすが、指先が触れあっただけでその手を掴むことは出来なかった。

「大丈夫です! 俺は生きて帰ります!!」

ただ、その言葉だけを告げて、俺は虚数空間の奥深くへと落ちていった。






俺とルナはあの家族が仲直りした後に、真っ暗な虚数空間をただただ落ちていた。

『落ちてしまいましたね……』
「そうだな……。思ったんだがここって終わりはあると思うか?」
『重力の終わりですから……正直よく分かりませんが無いんじゃないでしょうか?』
「なら、俺が死ぬことは無いか」

俺は不老であり、ある意味では不死に近い存在である精霊の特徴を多く受け継いでいるため、飯を食わずとも死ぬことはない。
だが、それでも問題はある。

「どうやって出ようかなあ……」

試しに異世界魔法を発動させようと手のひらに火の玉を出そうとするが、燃える兆しが見えた瞬間に消滅する。
どうやら、異世界の魔法でもデリートされてしまうらしいが、体内の魔力までデリートされてしまうというわけではないらしい。
その証拠に先程魔法を発動させようとして、火が出る兆しがあった。
……つまり勘だが、体内ならば魔法を発動させることが出来る。

「まずは実践。だな」

体内に電撃を流すと流れる直前で消えてしまうものがあるが、それでも体内に巡った電撃は消える気配は見せない。
成功だ。

「それで、次の問題は体内で発動できる魔法で、この場所を切り抜けるものは無いだろうか」
『空間転移はどうですか? あれならマーキングした場所に跳べますよね?』
「確かに可能だが、空間転移は体内じゃなくて外に出す物だから不可能だ。まあ、体内で発動すれば体が断裂して抜けるよりも先に痛みで死ぬだろうけど……な。……痛み?」

痛みで何か使える奴があった気がするな。
そう思い、少し考えてみると思いついた。呪いだ。
呪いを成立する際の煙が出ることが呪いが成立した証だが、あれも魔法なためここでは意味をなさない。
……だが、体内で呪いを発動し、体内で煙を発生させればデリートされずに済む、はずだ。

『何かいい手は思いつきましたか?』
「ああ。命がけだが、これなら抜けられる可能性もある。呪いを体内で発動させるんだ」
『そうですか……いえ、何も言いません。私はあなたのデバイスなのですから』
「そうかい。一応お前に呪いの内容を伝えておくから、呪いを発動させた後はルナがなんとか切り抜けてくれ。今回の代償はちょっとでかすぎるからな」
『了解しました。……どこまでもついて行きますよ。マスター』
「そうかい」

俺は苦笑しながら、自分の胸へと指へと突き刺した。


その後、俺達は虚数空間から姿を消した。
 
 

 
後書き
ここで、何か書こうかと思いましたが、それらは次回のあとがきにて、全てを吐き出そうと思います。
とりあえず、今回は何か中傷が来そうで恐い回。

出来れば評価など、してくださると嬉しいです。 
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