ＤＥＳＩＲＥ

「それになるわね」
「そうね。日本は穏やかな国だけれど」
「そこにあるものは深いわね」
「奈良でも相当なものだったわ」
　本当にだ。かなり深いものを感じ取った。
　そしてそれだけでなくだ。私は彼女にさらに言った。
「京都でもね」
「勉強するのね」
「さて。楽しみだわ」　
　私は実際に楽しげな笑みになってそのうえで彼女に対して言った。そうした笑みになったうえでだ。
「京都では何を見られるのかね」
「それが楽しみなのね」
「ええ、凄くね」
　こう話しながら私達は京都に向かった。奈良と京都は電車ですぐだった。話してる間に着いたその街に入るといきなり日本があった。
　五重の塔に着物の白い顔の女性達、そして日本の古い寺院や神社という日本の神々がいる場所、そうした場所を次々に巡った。その中でだ。
　私は京都の碁盤の様な街中でだ。こうマネージャーに言った。
「あのね」
「あのねって？」
「どうなのかしらね」
　こうだ。私は彼女に言ったのだ。
「この街は。こう見えても私は恋愛小説が好きで」
「ええ、知ってるわ」
　すぐにだ。彼女はにこりと笑って私に答えてくれた。
「そのこともね」
「知ってたの」
「どれだけ一緒にいると思ってるの。貴女のことならねえ」
　知らないことはないと。彼女は私に言ってくる。
「知らない筈がないでしょ」
「それもそうね」
「ええ、そうよ」
　その通りだとだ。彼女は私にさらに言う。
「貴女のことも知ってるわ」
「そう言うのね」
「ええ。それで日本の恋愛小説も読んだのね」
「昔の本ね。長編で」
　フランス語訳だが読んだその作品の名前をだ。私はここで言った。
「源氏物語ね」
「それを読んだのね」
「ええ、読んだわ」　
　光源氏という貴公子が様々な女性との恋愛を経ていく話だ。学生の頃に読んでこの光源氏という主人公はどれだけの女性を愛するのかと思った。
　そしてそれと共に感じたことをだ。私は平安神宮という神社の中の小さいが様々な色で咲き誇る多くの花達、そして何を書いているかわからないが綺麗な日本語の歌と緑に小川も見ながら話した。
「あれの世界ね」
「千年以上前の世界よ」
「それでもね」
　私は感じた。、そのことを今彼女に話した。
「思い出したわ。源氏物語の世界がね」
「この京都にあるのね」
「日本ね」
　私は自分でも目を細めさせていることがわかった。
「平安時代の日本ね」
「それを今勉強してるっていうのね」
「そう、日本よ」
　私はまた言った。
「ここには日本があるのよ」
「日本が？」
「そう、日本がね」
　それがあると言って。そうしてだった。
　赤や白のその花達を見てだ。こうも言った。
「あるわよ。いいわね」
「そうね。日本がね」
「光源氏もこの花達のところにいたのよ」
「あの時代の服を着飾った貴公子がここにいたのね」
「ええ、いたわ」
　そうだとだ。私はマネージャーに答える。その幻想的な世界の中を歩きながら。
「そして彼の恋人達も」
「あの時のこの国の美女達がよね」
「そう。だからね」
「だから？」
「花と自然を見たわ」
　その二つはもう見た。花は自然とは別の存在にさえなっていた。
「そのうえでだけれど」
「服ね。肝心の」
「服ね。女の人の服は」
　その服はどうかとだ。私は目を細めさせたまま言っていく。
　その間も花達を見る。花達は何も語らないけれど私に多くのものを見せてくれている。そして私はその見せてくれているものを心の中に入れていた。
　そうしながらだ。私は言った。
「面白いものになりそうよ」
「どうするの？」
「流石にあの重い服は駄目だけれど」　
　十二単、その服は幾ら何でもだった。
「それでもね」
「学んだのね」
「活かしてみるわ。きっとね」
　私はまたマネージャーに言った。