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自由君

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自由君

 
前書き
この小説は、僕が小説投稿ShortSTORYに田口 一郎というペンネームで投稿したものです。 

 
コンビニの前によく二、三人の若者がたむろしている。
その若者達が「自由になりてえ」なんて事を口々に話しているのを聞くと、ある人を思い出す。
私はその人と中学校の時に出会った。
私は生まれてから中学生まで糞真面目だったと思う。
小学校もその糞真面目さゆえに何か悪さをしているクラスメートを見ると、私はそれを止めなくてはならないという思いに駆られるのだった。
そのくせ、悪さを止めようとするくせに私は喧嘩がめっぽう弱く、いつも下級生から鉛筆を奪っていた伊田というクラスメートにもう物を誰かから奪うのは止めろといって伊田に殴られたりしていたのでいつも私の顔には擦り傷やあざが多かった。
しかし、止めようとは思わなかった。私には悪さを見てみぬ振りすることのほうが殴られるより怖かったのだ。
自分が極悪非道になっているような気がして。
ある人は、私が中学二年生、春のころに転校してきた。まだ私は悪さを見つけて止めさせようとしては殴られていた。
その人の苗字は飯田と言う苗字だった。
彼と私は同じクラスだった。
なぜ彼が自由君と呼ばれるようになったかというと、転校生は、はじめに自分の名を名乗った後、自己紹介するものだったが、彼は違った。
彼は自己紹介が終ったあと、「もういいですよね、弁当食っても」と担任の先生にいい、先生の返事を待たずにかばんから弁当を取り出して弁当の中にはいっていたおにぎりを食いだしたからだ。
クラスの数人がその様子を見て吹きだし、あいつは自由だなといったので、誰かが「あいつは自由君って呼ぼうぜ」と言った。
そしてクラスメートたちは「いいね」と口々に言い、彼のことを自由君と呼ぶ事になったのだった。
そんな自由君は、勉強やその他の面でも自由だった。
勉強では、自分の気に入った教科だけに力を注ぎ、気に入らない教科は絶対に勉強しなかったし、みんなが遊ぼうと誘っても気に入らない遊びでは絶対に遊ばなかった。
そして、彼が気に入る遊びはほぼ無いということが彼が転校して来てから二、三日でわかった。
彼が転校してきてから十日経ったある日の帰りの会の中で、休んだ彼にプリントを渡しに行く生徒を決めることになった。
担任の先生が「誰か、飯田にプリントを私に行ってくれる人はいないか?」とクラスのみんなの顔を眺めたが、誰も名乗り出なかった。
少し経って担任の先生は「誰もいないのか?みんなの家が飯田の家から少し離れているからか?」と言った。
確かにみんなの家が彼の家から離れているということも、誰も名乗り出ないことの要因のひとつだが、もうひとつ理由があると私は思った。
それは、みんな転校してきた彼にさめたからではないかという要因だ。
彼は、自分自身が気に入る遊びではないと遊ばないので人付き合いが悪いやつだと思われ、そのくせ自分自身が好きな遊びはみんなが飽きて、「もう止めよう」と言っても自分はまだ飽きが来ないと感じると「いいや、俺はまだやる」と言ってきかないのだった。
私はそんな事をぼんやりとだが考えた自分がなんだかとても嫌な奴に思えた。
結局、彼と私の家はそこまで近くはなかったが、みんなプリントを渡しにいきたがらないので、私が担任の先生にやってくれないかと頼まれたのだった。
私が人から何か頼まれたら断れない性質であることは担任の先生を含めてクラスメート達全員が知っていた。
私は彼の家にプリントを渡しに行く事を決めた。
私は学校が終った後、彼の家を目指して歩いた。
彼の家はなかなか見つからなかった。
担任の先生が描いてくれた地図を頼りに進むと、公園があった。
担任の先生には「飯田の家の近くには公園があるから公園が見つかればもう少しだ」と言われたのを思い出した。
もう少しだ、もう少しで彼の家に着く。
そう思っていたら、私の耳に泣き声が聞こえた。
公園に目をやると、公園のベンチで俯いて泣いている少女がいた。彼女は泣きながら「飯田君」と一言だけ呟いた。
私は彼女に声をかけようかどうか迷ったが、声をかけることに決めて、彼女のほうに行こうと歩いた。
ザッ、ザッ、ザッという音が僕が公園のベンチに座っている彼女に向かって歩くたびにした。
その音で私の存在に気づいたのか、彼女は急に顔を上げて走ってどこかへ行ってしまった。
私は、走ってどこかに行ってしまった彼女が浜岡と言う苗字であり、自分の通っている中学校の生徒であり、私が恋している人だったと気づいたのは、彼女がどこかにいってしまったと感じたときから五秒ほど経った時だった。
私は彼の家に向かい、表札の近くについていたチャイムを鳴らし、彼が出てくるのを待った。
私は彼に彼女に何かしたのかとたずねようかたずねまいか悩んでいた。なぜだかわからないが、私は聞かないほうがいいような予感がこの時していたのだ。
そんなことを考えているうちに彼が出てきた。
彼はとても元気そうだった。
プリントを彼の家に上がって彼の部屋で彼に渡したときに、なぜ今日休んだのかと聞いてみた。そうすると、彼は「ああ、そんなことどうでもいいじゃないか」と言ったが、私が教えてくれとしつこく迫ると、「今日、俺の嫌いな山芋を使った料理が給食で出るんだろ?俺らの担任ってさあ、給食を残す生徒にすげえ怒るし、いきたくねえなとおもってさ」といった。
私は怒られたくないから休んだのかと彼に詰め寄ろうとしたが、もっと気にすべきことがあると思い踏みとどまった。
私は今まで悪さをしたクラスメートを前にして踏みとどまったことがなかった。
そして、彼に「浜岡に何かしたのか」といった。
すると、彼は「ああ、付き合ってくれと言われたんだけれど、なんだかめんどくせえと思ったから嫌だ、めんどくせえといったんだよ。そんだけさ」とどうでもいいことのように言った。
私は、彼を殴っていた。
理性が働く前に行動してしまうことは私にとって初めてだった。
私は、彼が殴られた頬をおさえて痛がっているのを見て、急に恐ろしくなって彼の家を飛び出し、逃げるようにして自分の家に帰った。私は彼を殴ってしまってから一度も人を殴ったことはない。
殴らないように自分を戒めている。
それから二日後、彼は転校することになった。
担任は、家の都合でだと言っていたが、私は今でも私が彼に行った行為が原因で親に彼が頼んだのではないかと思っている。
私はとんでもない事をしてしまったと思った。
かっとなったことを悔いてあやまればよかったと思った。
月日が流れて中学三年生になり私は、始業式の五日後、彼女に告白した。
彼女は、私をじっと見た後、「ごめんなさい」とつぶやき、私の横を通り過ぎて立ち去ろうとした。
私は、「飯田・・・自由君のことが今でも好きですか。」と走り去ろうとしている浜岡に叫んだ。
浜岡は、振り返った。
二人の間に沈黙が流れた。
やがて沈黙を破って浜岡は答えた。
「はい」と。
私は今でも飯田の家で彼女に何かしたのか言うべきだったのか悩む。
中学校を卒業して二十年たつが、ときどき飯田の家があった場所にいくことがある。
飯田の家は無くなった。
飯田の家があった土地は、私が高校生のころに洋服屋になり、洋服屋がつぶれて、私が二十五歳のころには酒屋になっていた。
酒屋がつぶれて今は空き地になっている。
これからこの土地は何に使われるのだろうと空想に思いを馳せた。
風か吹いて、私の目の前を木の葉が横切った。
 
 

 
後書き
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