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エイプリルフール記念 番外編その1
前書き
エイプリルフールなので、書いてみたけれど没にして放置していた物を何とか完結しているところまで手を加えて投稿しました。エイプリルフール記念ですからね。以下投稿した物は本編とは何の関係も無い事はご了承ください。
ドッグデイズ編
わたしは御神キャロ、13歳。
中学一年の登校最終日に隣町の中学校に学校の用事でお使いに出張中でした。
しかし、それがまさかあんな事になろうとはその時には思いもよらず。
「すこし、早く着いちゃったかな?ケリュケイオン」
わたしは腕飾りの状態のケリュケイオンに尋ねた。
『そうかもしれませんね。しかし指定の時間まではもう少しです、職員室で待たせてもらってはどうですか?』
「そうだね、そうさせてもらおうか」
そう言って気持ち早足で校内を進むと、頭上から大声が聞こえた。
「ど、どいてどいてどいて~!?」
「へ?」
わたしはその声で見上げると、そこには空から降ってくる男の子の姿が。
「わわわっ!?」
やばいっ!避けないと!と思った時、突然地面に魔方陣が展開されたかと思うと、わたしの足元が抜けるように消失した。
「えええええええ!?ケリュケイオン!」
『フライヤーフィン』
ケリュケイオンが飛行魔法を発動。間一髪で魔方陣に落ちると言う展開はさけられた…はずだった。
「わああああああああああっ!?」
「え?」
ごーんっ
「にゅう…」
上から男の子に激突されてわたしはその男の子共々魔方陣へと落ちていった。
「いたたっ…ここどこぉ?」
わたしは飛行魔法を使用して現状確認に勤めた。
眼下にはいくつもの浮遊する大地。
どう考えてもここは地球では無いみたい。
「えええええええええっ!?」
絶叫を上げつつ落下していく男の子。
「あぶないっ!」
わたしは一生懸命に追いかけるけれど、間に合いそうに無い。
その時、彼の落下を和らげるように花が咲き、その男の子を飲み込んだ。
それを確認するとわたしは飛行速度を緩める。
少年と対峙する一人の少女。
それを見てとり、わたしはそのかたわらへと降り立つ。
「え?」
「わたし!?」
そこに居たのはわたしとどこと無く似ている同い年くらいの女の子。
「ええ!?ご姉妹ですか?」
「「ちがいますっ!」」
「あ、良く見れば耳と尻尾が違うか」
服装は幼少のわたしが過ごしたル・ルシエの民族衣装に近い感じだ。
顔立ちは、わたしに似ていると思う。…まぁ、自分で自分に似ているなんて言える物ではないのかも知れないけれど、良く似ていると思う。
しかし良く見ればアルフさんや久遠ちゃんのような耳がついている。
誰かの使い魔だろうか?
ひゅー
パンッ
パンッ
パンッ
遠くで花火が上がる音が聞こえる。
「いけない!?もう始まっちゃってる!」
「はじまってる?」
男の子が聞き返した。
「わがビスコッティは、今隣国と戦をしています」
急がないとと、訳も分からずせかされて、混乱のうちにいつの間にかでっかい鳥に騎乗していたわたし。
なにか切羽詰っていたので流されるままに同行しちゃってるけど…
道中で女の子、ミルヒオーレ・フェリアンノ・ビスコッティから簡単な説明があった。
この世界、フロニャルドでは『戦』と呼ばれるスポーツ精神に則ったアスレチック競技によって戦争の勝敗を決すると言う国際的なルールが存在するらしい。
その中では生死の危険は無いらしく、一種の娯楽のようにも感じられる。
え?なんで娯楽のようかって?
わたしたちが走っている崖の上から見える戦場の様子がアスレチック遊具に見えるからですけれど?
ダメージを食らうと『けものだま』と言われるまん丸ボディに耳と尻尾をくっつけたファンシーな生き物に変身しているのがわたしの危機感をガリガリ削ってますがなにか?
そして彼女はビスコッティ共和国の領主で、劣勢の自国の状況を打破しようと領主にだけ使える『勇者召喚』で巻き返しを計るために男の子、シンク・イズミをよんだらしい。
それから二人の世界に入りつつ、シンクを説得するミルヒ姫。
要約すると、「助けてください勇者様!」と言うミルヒ姫の懇願に「俺が勇者だ!」と言った感じでした。
え?実際は違う?
いいのいいの、なんかみんなそれで納得したでしょう?
あれ?
わたしは誰に対して言っているのでしょうか…
これは所謂…召喚系ファンタジーと言うやつですね。
話が纏まると、ようやくわたしの事も思い出してくれたみたいで…
「本当は勇者様一人を召喚するはずだったのですが、どう言う訳かあなたまで呼んでしまったみたいで…本当にすみませんでした」
そう謝ったのはミルヒ姫。
「でもでも、この戦が終わったらきっと還して差し上げますからっ!」
とりあえず、分かりましたと返事をしておとなしく付いて行くと、大きなお城へと到着、城内へと通された。
「姫さま、そちらが勇者様です…か?」
どこからとも無く現れたメイドが数名ミルヒ姫とシンクを出迎えに現れたのだが、わたしの姿をみて固まった。
「はい、こちらの方です。急いで準備をお願いしますね」
ちらちらわたしを気にしているのだけれど、今は自分の任務を全うするように思考を切り替えたらしい。
メイドの手により着替えさせられるシンクくん。
その間も戦についてミルヒ姫が説明する。
とりあえず、敵は凹ってかまわない。
この世界はフロニャ力で守られていて、フロニャ力が強い場所では怪我はしないとか。
とてつもなくやさしい世界ですね。
頭、背中にタッチすると即座にけものだまになり、タッチボーナスも稼げるらしい。
どうやらこの戦、得点制らしいです。
それと、フロニャ力を自分の紋章に集めて自分の命の力と混ぜ合わせることで輝力と言う力に変換する事が出来るらしい。
うーん…
フロニャ力とはどうやら魔力素みたいだ。
ケリュケイオンに観測させてみたら、魔力素は場所により濃度が上下するけれど存在している。
ミルヒ姫の言葉を聴くと、魔力素とチャクラを混ぜて使う技術みたい。
その力を使って紋章砲と言うビームを放ったり、紋章剣といった斬撃を飛ばすらしい。
なんて説明を聞いているとシンクくんの準備も出来たみたいだ。
シンクくんはどうやら戦に参加するらしく、戦場の方へと駆けて行った。
わたしはミルヒ姫に誘われて塔の上へ。
バルコニーに出ると、小柄の女の子とおじいさん達が数人で戦場を眺めている。
「姫様っ…が…ふたり?」
そのネタはもういいです。
「リコ、ただいまですっ!えっと、この方は勇者召喚の被害者と言うか何と言うか…」
「御神キャロです。どうやら勇者召喚に巻き込まれたみたいなので、出来ればすぐに帰してもらいたいのですが」
今までは空気を読んで黙ってましたけれどね?用事のある勇者さまはシンクくんみたいなので、わたしはさっさと帰して欲しいのですよ。
学校からの用事もありますしね。…もう遅いかもしれませんが。
召喚に対する召還は基本だし、呼んだ本人ならば還せるでしょう。
「そうなのでありますね。しかし、その言いにくいのでありますが…」
私が目の前の小柄の犬耳少女と会話をしていると、ミルヒ姫がマイクのようなものを片手に演説をしている最中だった。
盛大に勇者召喚を宣伝し、士気高揚に努めているようだ。
そんな言葉をBGMにわたしの問いかけに答えてくれた小柄な少女、リコッタ。
「召喚された勇者は帰る事も、元の世界と連絡を取ることも出来ないのでありますよっ!」
「ええええええええ!?」
何!?その中途半端な召喚はっ!呼んだら還すのは基本でしょう!?
ふっ
ふふふっ
わたしの中で何かがキレた。
「ミルヒ姫様」
「はい、なんですか?」
ようやくマイクを手放せたミルヒ姫様を呼ぶ。
「あなたは召喚者として、召還の方法が無いと分かっていて使ったんですか?」
「え?ええ!?無いのですか?リコっ!勇者様たちを返す方法は?」
「そんなの無いでありますよっ!」
「そうは言っても、なんだかんだで方法があったり…」
「しないのであります…」
「あはっ…あははははは」
笑ってごまかそうとするミルヒ姫。
「いいですか?召喚術は他者を呼んで力を借りるのですから、絶対に召還方法を確立して無ければいけません。それは分かりますね?」
「はいっ!」
「はっ!はいなのでありますっ!」
なぜか目の前のミルヒ姫とリコッタちゃんが震えているような気がするけれど、続けます。
「だったら、召還術が無いのに使ってはいけませんっ!あなたのした事は召喚師として最低の事ですよっ!」
わたしだって、一方的にに他者を呼び、そのまま放置する事は出来る。
けれど、絶対にやらない。
これは召喚師としてのわたしの矜持。
「ごめんなさい、許してください」
「ご、ごめんなさいなのでありますっ!」
目の前の二人はぶるぶる震えだすとお互いを抱きしめて泣き出した。
周りに居たおじいちゃん達は皆失神している。
私の怒りは最高潮。
何かで解消しないと収まりがつかない。
どうしようかと考えていたら目に付いたのはあの戦場。
事の発端はあの戦だ。
「わたしがあの戦に参戦する事はできますか?」
コクコクコクコク
わたしは笑顔で二人に尋ねると、二人はすごい勢いで首を縦に振っている。
「そう…それじゃあ、行ってきますね?」
私はバルコニーに足をかけると、右手にあるケリュケイオンを持ち出す。
「ケリュケイオンっ!」
『スタンバイレディ・セットアップ』
ケリュケイオンはアオお兄ちゃんに造ってもらったインテリジェントデバイスです。
最初はグローブ型のデバイスだったのだけど、カートリッジシステムを使いたいからと改造を重ねるうちにいつの間にかメイス型になっていました。
え?すでに原型が無い?
だって、グローブじゃ斬れないじゃないですか。
メイスも斬れないじゃないかって?
甘いです。メイスに魔力刃を纏わせれば斬れるようになります。
よくある変身バンクなんてものは無く、一瞬でバリアジャケットを装備。
ピンクのブレザーに白のロングプリーツスカートにマントと帽子を装着してバリアジャケットの展開は終了。
「ケリュケイオン、カートリッジは?」
キレている自覚は有るけれど、装備を確認するくらいの冷静さは有ったみたい。
『内臓6発、スピートローダー二個です』
「全部で18発だね。この世界での魔力結合に異常は?」
『このあたりなら問題ありません』
それは良かった。
「うん、OK。それじゃ行こうか」
わたしはバルコニーの淵からおどり出そうとすると、後ろから呼び止める声が。
「ああああぁ、あの!?行くってどうやってですか!?」
「階段は後ろなのでありますよっ!」
「どうって…こうやってですよ」
かまわずわたしは一歩をふみだした。
「危ないっ!」
「危ないであります!」
落下するわたしをケリュケイオンがすぐさまアシスト。
『フライヤーフィン』
「と、とんだ!?」
「空を飛んでいるのでありますか!?」
わたしが飛び降りたバルコニーの淵に駆け寄って下を覗き込んだ二人の声が聞こえた。
かまわずに飛行する事数分。
程なくして戦場へと到着するわたし。
【おーっと、あれは何だ?いや何者だ!?あの空を飛んでいるのは…ビスコッティ領主のミルヒオーレ姫だ!?】
そんな戦場を実況するアナウンサーの声が聞こえる。
【え?ちがう?】
どうやらどこかから原稿が回ってきたようで、それを読み上げながら訂正する実況。
【どうやら彼女は勇者召喚で一緒に召喚された異世界の少女のようです。良く見れば耳と尻尾がありません】
わたしは空中で止まるとケリュケイオンを突き出して構える。
「ケリュケイオン」
『ディバインバスター』
【それにしてもミルヒオーレ姫に良く似てますね。双子の姉妹と言われても納得してしまいそうです】
そんな実況の声をよそにチャージが完了する。
「シュート」
ゴウッとピンクの本流が戦場を襲う。
【こっ!これは、紋章砲でしょうかっ!それにしてもすごい威力だっ!】
ポポポポーンと音を立てて兵士達が敵味方関係なくけものだまへと変身する。
「もう一発」
『ディバインバスター』
「シュート」
【こっ!これはっ!この威力、彼女はまさに鬼神のようだっ!】
もう二発くらいディバインバスターをお見舞いすると、地上からの砲撃がこちらに向かってくる。
【この紋章砲はレオ閣下の攻撃だぁ!】
わたしを狙ったんだろうけれど、残念。
『ラウンドシールド』
【はっ!はじいたーーーっ!】
「行くよっ!ケリュケイオン」
『スターライトブレイカー』
散らばった魔力が私の眼前に集束する。
【これはっ!彼女は一体何をするのか】
もちろん、両方まとめてぶっ飛ばすんですよ?
「スターーーーライトォ、ブレイカーーーーーーーーーっ!」
ゴウッ
その瞬間、すべての音が止まった。
その後、爆音があたり一面に響き渡る。
シューーーーーッ
余剰魔力がケリュケイオンから排出される。
気持ちのいい疲労感。
高ぶった気持ちも魔力消費とともに減少する。
「なっ…ななな…なんて事をっ!」
わたしはキレた後に冷静になると後悔するタイプなのです。
だから目の前の惨状をみて顔面蒼白になってしまいます。
だって、アスレチック遊具のような戦場なんて影も形もありません。
ただクレーターがあるのみでした。
そりゃ、スターライトブレイカーぶっ放せばそうなりますね。
とりあえず城に飛んで帰ったんだけど…今、目の前で土下座をしてぷるぷる震えているミルヒ姫とリコッタ。それと、城内職員および、騎士の一同。
「あ、あの…」
「ごめんなさい、ごめんなさい、どうかお怒りをお静めください」
「私達一同誠心誠意なんとしてでも帰還の方法を見つけ出すでありますから」
なにやら魔王降臨の図みたいです。
「大丈夫ですから。もうそんなに怒ってないですから」
「本当ですか?」
そりゃそんなに全員でぷるぷる震えられたら怒る気も失せるよ。
え?戦がどうなったかって?
両軍全部みごとにけものだまになってわたしの1人勝ちだって。
シンクくんも気絶してたけど無事に怪我も無く発見されたようだ。
一応非殺傷設定だからね。魔力ダメージでのノックアウトって感じです。
いやまあ、とりあえず、ビスコッティ共和国が勝ったと言うことで、この戦は終了。
戦勝イベントと言うものがあるらしく、ぷるぷる震えていたミルヒ姫達もイベントを主催すべくわたしに何とか退出の許可をもらい大忙しで動き回っているようだ。
わたしはと言えば、なにやら格調高い部屋に通されて、メイドがお茶とお菓子のおもてなし。
なんかメイドにも怖がられているみたいだけど…
「あのっ」
「なっ、なんでございましょうか」
「外出したいのですが、よろしいですか?」
…
…
…
さて、わたしは今、わたし達が最初に降って来た場所へと来ています。
空中に浮かぶ大地の中心に円形の石がしかれ、その奥になにやら文字の書いてある石碑が建っていた。
「ケリュケイオン、何か有る?」
『石碑の前に術式の痕跡を発見しました』
「そう」
わたしは石碑に近づいて、魔力を当てると浮かび上がる魔方陣。
「うーん、これは…術式が違うから解読には時間がかかるかなぁ」
『そのようですね』
ケリュケイオンが相槌をうった。
「となると、自力帰還かな。ケリュケイオン、現地呼称『フロニャルド』ってどこにあるか知ってる?」
『該当データが存在しません』
「うーむ…召喚と召還で帰れないかな?」
『やってみる価値はあると思います』
ふむ。
それではと、地球に居るはずのフリードを召喚する準備に入る。
足元に魔法陣が展開し、フリードへのゲートを繋げると、何とかゲートが繋がった。
うん、さっき通ってきた此処はどうやら異世界とつながりやすい所のようだ。
さて、帰りますか。
わたしは魔法陣の中心へと移動すると、召喚を召還に切り替えゲートを潜る。
…はて、何か忘れているような?まぁ忘れている位ならたいした事は無いかな。
あ、一応此処の召喚座標は記録しておこう。何か役に立つ事も有るかもしれないしね。
そんな感じでわたしの短いフロニャルド滞在は幕を閉じた。何か大きな事件が有ったわけじゃないけど、現実は小説じゃないし、そんなもんだよね。
ジョジョ編
さて、再び転生である。
今回の俺の名前は立花蒼。
日本人で現在4歳。
外資系の会社に勤める両親の元に生まれ、両親の転勤で今、エジプトのカイロに住んでいる。
しかし、エジプトなんて前世でも殆ど来た事の無い国に滞在するとはね…
生まれなおした地球。しかし、その歴史は俺の知るものとは若干違うようだ。一種のパラレルと言う奴だろう。
西暦1989年。前回よりも少しばかり前に生まれたようだった。
生まれ変わった後、ソラと念話を繋げその存在を確かめた後、ソラは日本に居る為にまだ会えていないが、平穏な日々が繰り返されたいた。
…はずだった。
その日、母親と一緒にカイロ市内で外食をした後の夕暮れ時、…いや既に日は落ちていたかもしれない。
母親に手を引かれて家路を急いでいる時、背後から嫌な気配を感じ振り返ると俺目掛けて飛んでくる一本の矢。
なっ!?当たるっ!と思った俺は身を捻ってその矢をかわそうとするが、親に手を引かれていた俺は避けきること叶わず、ほっぺをかするように傷つけられ、その矢は地面へと突き刺さった。
傷自体はたいした事は無い。が、しかし。今の矢は完全に俺を狙っていた。だが俺には矢で射られる様な事をされる因縁はこの世界には未だ無い。
「アオ?」
俺の手を引いていた母親が急に振り返った俺を心配そうに覗き込む。
「何かあったの?」
そう心配そうに問いかけてきた母親に俺は「何でもないよ」と答え、突き刺さっている矢に視線を移した…が、そこに突き刺さっていたはずの矢は無くなっていた。
そんなバカなっ!?俺は確かに矢が突き刺さるのをこの目で見ている。しかし、振り返った一瞬で矢が無くなっている?
奇怪な出来事に俺は戦慄し警戒レベルを上げた。
「大変、血が出てるじゃない。カットバンは家に有るはずね。急いで家に戻って消毒しましょう」
「う、うん…」
しかし、引かれるままに俺は家路を急ぎ、その道中は『円』で周囲を警戒するが、何事も無く家へと到着する。
何だったんだ?と考えるが答えは出ない。矢が飛んできたのは気のせいだったのか?
しかし、おれの頬のカットバンがさっきの出来事は実際に有った事だと伝えている。
攻撃的な意思を持つ物の存在を感じないが、俺は念のためとソルに警戒を頼み、その日は就寝した。
次の日、俺は奇妙な感覚に悩まされる事になる。
食器棚の高いところにあるグラス。当然今の身長では椅子などの踏み台が無ければ届かない。だが、手を伸ばすだけで取れるのではないかと言う奇妙な感覚。しかし、何故か俺は出来るのでは無いかと確信していた。
不思議な感覚に逆らわずに右手を伸ばすと、俺の右手から俺のではない何か別の右手が飛び出して目的のコップを掴んだ。
良く見ればその手は透けている。そしてこの感じはオーラと同様のものだ。
「こ…これはっ!?」
『マスター、その腕はいったい!?』
ソルも驚いたようだ。
コップを掴んだ手はするすると戻り、再び俺の体へと戻った。
「分からない…今のは…」
今度はもう少し遠くの物を掴もうと考える。
すると再び現れた手は肘から肩へと出てきて、ついにはその全身が現れる。
身長は自分と同じくらいの半透明の人型。体のあちこちに剣十字のマークがプリントされ、その両目には写輪眼が浮かんでいる。
その半透明の幽霊のような人型は俺の意思を汲んだように自在に操れるようだ。
「新たな念能力か?しかし、俺はそんなものを意識した事は無い…」
そんな事を考えている時、ガチャリとドアを開けて母親が入ってきた。
「アオ、お昼ご飯…何しているの?」
俺はこの人型の幽霊を見られたかと焦ったが、母さんは俺を見るだけで、特に何か怪しいものが居るとは感じていないようだ。
つまりこの幽霊は見えていない?まぁ、念能力のようにオーラで出来ているようだし、そう考えれば一般人には見えなくても問題ないのだが…
「ううん。なんでもないよ。それより母さん、おなかすいたよ」
「今作るわ。パスタで良いかしら?」
「うん」
とりあえずその場を適当にごまかし、その幽霊に戻れと念じると俺の体に吸い込まれるように消えていった。
何か変な能力が身についてしまったが、とりあえず後で何が出来るか考察せねばなるまい。
結局、分かった事は多くない。どうやらこの幽霊は俺の念能力が形を持ってしまったものではないか?と言うのが俺の見解だ。
幽霊の触った物体の時間を操れるのだからおそらく間違いないだろう。…ただ、今までの俺の能力では触り続けていなければいけなかったのだが、手を離しても能力が持続しているのは俺の能力が進化したと言う事だろうか?…分からない。
それから数日経ったある日の夜。
突然嫌な気配に襲われて俺は飛び起きた。
ベッドの上から上半身を起こし、片膝を立てベッドを降りようとした時、部屋の入り口に背の高い筋肉質の男の姿が見えた。
「誰だ…?」
その男は月明かりの影に入り顔は良く見えなかったが、その態度から自身が強者であると疑わない雰囲気を感じさせる。
「ほう…貴様選ばれたな」
選ばれた?何の事だろうか。
「これが見えるだろう?」
男が言うや否や俺の体を大男の幽霊がベッドから引きずり出し持ち上げた。
「なっ!?」
何が起こったのかわからなかった。俺は確かにベッドの上に居たはずだ。それが一瞬でこの幽霊に首をつかまれて宙に吊り下げられていた。
「くっ…」
瞬間的に『堅』で防御力を上げ、さらに俺の防衛しようとした意思を汲むかのように俺の両腕から透ける手が現れその幽霊の腕を掴みギリギリと引き離し、緩められた手を素早く抜けて地面に着地する。
「これはまたかなりのパワータイプのスタンドだな」
スタンド?この幽霊の名前だろうか。
「わたしは今このスタンドを使える者を集めている。スタンドはこの矢に選ばれた者だけが発現し、それを自分の意思で操る事が出来る者をわたしはスタンド使いと呼んでいる」
一瞬で男は昨日俺を掠めた矢をその手に持っていた。
「わたしに従え」
相手のプレッシャーが上がる。
しかし…従え…か。まいったね…
「断ると言ったら?」
「貴様はその言葉を後悔する事になるだろう」
男は余裕そうに言い放った。
この目の前の男は人を使う事を当然、使い潰したとしても補充の利く駒のようにしか思っていないのだろう。
そんな奴に使われるのは御免だ。
四肢に力を入れ、力強く宣言する。
「せっかくだけど断るよ」
「ほう…小僧。このわたしにNOと言うのだな?後悔する事になるぞ」
そう言った男のスタンドの両手にいつの間にか胸を貫かれ血を流している俺の両親が現れた。
「なっ!?なにぃぃぃぃっ!?」
「お前が素直にわたしに従えばこの人間は死なずに済んだものを」
一体いつの間にっ!?
無造作にゴミでも捨てるかのように投げ捨てられた両親の姿を見て俺は流石にスイッチが切り替わるのを感じた。
この男は何をしてでも必ず殺す…と。
「まぁ、貴様の自由意志など最初から期待していなかったが、断られるとやはりムカつくものだな」
と言った男の髪が怪しく伸びるとそこから何か小さな塊が俺に向かって飛んでくるのが見える。
『万華鏡写輪眼・天照』
「なっ何!?」
飛んでくるそれを全て天照の黒炎で燃やし、そのまま男の顔に照準を合わせ発火させる。
「がっ…ぐあっ…バカなっ!?」
突然の炎にもがき苦しむ男は余りの事に手に持っていた矢を取り落としてしまった。
見ればスタンドの顔もただれて来ている気がする。これは本体のダメージがスタンドにも反映されるのか?
「このっ!くそガキがっ!ザ・ワールドっ!止れぃ、時よっ!」
男が自分のスタンドを操り、何かをしようと企んだ。しかし…
「なぜだっ!なぜ動かないっ!」
無駄だ。尾獣すらその瞳力で操れると言われているのだ。この距離で万華鏡写輪眼から逃れられる訳が無い。
俺は男のスタンドを操ると振り向かせ、そのコブシで男の胸を貫いた。その勢いで壁を貫通し男は何処かに吹っ飛んで行ったが、同じくスタンドもその胸部に穴を開けて吹き飛んでいった。
どうやらスタンドとスタンド使いは互いにリンクしているようだ。つまり負ったダメージは双方に反映されると考えていいだろう。
「父さんっ!母さんっ!」
俺は駆け寄ると直ぐに彼らの時間を巻き戻して傷を塞ぐ。しかし…
「ダメ…か」
失った命はたとえ時間を戻しても戻らない。魂を戻す事が俺には出来ないからだ。
時間を巻き戻し、外傷の無くなった彼らはただ寝ているようだったが、その命の鼓動は二度と動く事は無い。
「あああああああっ!?ちくしょうっ!久々にこんな理不尽を味わったよっ!…アイツは絶対に許さない」
『マスター…』
心配するように胸元のソルが呟く。
俺の両目からは止め処も無く涙があふれる。
良い人たちだったのだ。子供らしい事は演技しか出来ない俺に何処か違和感を感じていただろうに、それでも愛情を込めて家族として育ててくれたのだ。
油断はしなかったつもりだ。あの男の一挙手一投足もこの写輪眼を越える速度で動くなど不可能に近いはずなのだ。
しかし、両親を貫いた彼のスタンドが出現するまで全くその動きを捉えられなかった。
「瞬間移動の能力…では無いよな。彼らを貫いてからこの部屋にテレポートしてきたにしては俊敏すぎる」
『はい。一瞬であれ、アレだけの事をやってっ戻ってくるには時間が足り無すぎます』
そうだ。どんなに素早く動いたとしても不可能だ。
「だったら何だ?まさか時間を止めたなんて事は…いや、ありえるのか。俺も時間を限定的に操れるからな」
『そうであればさらに彼の能力は異常です。そうであれば彼は止った時間の中を動けると言う事ですから』
「…そうか」
それはかなり絶望的な戦いになりそうだ。胸に大穴を開けてやったが、どうしてもあの程度で死ぬような相手には感じられなかったのだ。
しかし、俺は必ずアイツを殺す。それだけは両親の前に誓う。
カチャリと俺は落ちていた矢を拾い上げる。
「ソル、預かっておいてくれ」
『了解しました』
格納領域に矢をしまいこむと『円』で感知していた彼が圏外に逃げた事を悟る。
「天照の炎は全てを焼き尽くすまで燃え続ける。だが、確実とは言えないか」
ウーウーウーッ
追跡に出ようかと思ったが、先ほどの男が派手に壁を吹き飛ばしていった結果、警察が駆けつけてきた。
ここで俺が居なくなるのはいらぬ誤解を招く。
良いだろう。必ず探し出すからしばらく待っていろ。
両親の葬儀が終わったときがお前の最後だ。
◇
「あああああっ!?くそがっ!何故消えぬっ…やつの射程距離はこれほどまでに長いというのかっ!?炎の燃焼がわたしの再生速度を上回っているだとぉっ!?」
男はビルの屋上を人間とは思えない跳躍力で駆け自分の屋敷へと戻り、全身を冷水につけるが、その炎は一向に鎮火する様子は無い。
「DIO(ディオ)様!?いかがなされました!?」
駆けつけたのは大柄の男だ。
「アイスか…お前のスタンドならこの炎だけを食う事が出来るか?」
「ス、スタンド攻撃!?」
「出来るのか出来ないのか、どちらだ、アイス」
DIOと呼ばれた男は余裕の無い声で部下であるヴァニラ・アイスに問い掛けた。
「か…可能でございます」
「ならば速くやれ」
「しかし、余り細かい動作は出来ません、表面の肉ごとそぐ事ならば…」
「速くやれと言っている」
「はっ!」
返事をしたヴァニラ・アイスは自身のスタンド、『クリーム』の口で食いつくようにディオの肉ごと削り取っていく。
全ての炎と取り除いたDIOは餌の為に飼っている家畜の如き扱いを受ける人間をアイスに連れてこさせると、その女の首筋に手を突っ込み命のエネルギーを奪うかのようにその血液を吸い上げる。
そうDIOは吸血鬼と言われる存在なのだ。
「このDIOとも有ろう者が小僧一人に恐れ退却してしまうとは一生の不覚…この借りは必ず返すぞ」
暗闇の中完全にその体を癒したDIOが虚空を見つめながらアオを必ず殺してやると宣言したのだった。
◇
余りにも奇怪な死であったために司法解剖に回された彼らの遺体を無事に日本に送り届けるという段階になり、俺は一人姿を眩ませた。
この段階ならばまだ両親の死を受け入れられない子供の暴走と言う事で余り疑われる事は無いだろう。
カイロの街を円を広げながら進む。
あの男と出会った日から後の新聞で、家が燃えたとか火達磨の男を見たとか言う情報は無い。そのことから考えるにあの男はどうにかして天照の炎から逃れたのだろう。
日が完全に沈んだ頃、大通りから悲鳴が響き渡り、逃げ惑う人々が我先にと駆けて行く。
「…あっちか」
俺はそう呟くと人々の波に逆らって歩を進め、そのまま人の波を抜けるとすでに誰も居なくなった道に出る。
何処だと視界を移動させると上空から何かが降ってくるのに気付き、咄嗟にその物体を受け止めた。
「人か?」
その人は全身にナイフを突き刺さっていてとても軽傷には見えない。
「ちぃ…おい坊主。今すぐ俺を置いて逃げな…さもなければ死ぬぜ」
と、死にそうなのは自分の方だろうにその青年は小声で俺に忠告する。
コツと何かが着地する音が聞こえ、音を辿るとそこにはいつぞやの長身の男が立っていた。
「今日は運が良い。長年の因縁と、汚点を一気に洗い流せるのだからな」
「ちぃ…やれやれだぜ…」
かなり後になって知った名前だが、この青年の名前を空条承太郎と言いスタンドは『スタープラチナ』、俺の両親を殺した相手がディオ・ブランドーであり、スタンドは『ザ・ワールド』と言う。
承太郎は満身創痍だが俺を庇うように立ち上がる。そのついでに刺さっていたナイフを抜き放った。
どうやらこの承太郎。あのDIOと敵対しているらしい。そしてこの傷つきようからしてかなり劣勢のようだ。
「おらっお前はさっさと逃げなっ!」
と言うと、承太郎は自分のスタンドを出現させ俺の首根っこを引っつかむと思いっきり後ろへと振り投げた。
「うわわっ!『エターナルブレイズ』!」
『ハァッ!』
振り払われる一瞬で俺は『エターナルブレイズ』と名付けたスタンドで承太郎さんのスタンド、スタープラチナをぶん殴った。
「何っ!こいつスタンド使いっ!」
承太郎さんはスタンドを攻撃され俺の事を敵かと一瞬逡巡したようだが、DIOの攻撃に集中しなければならないようで直ぐにDIOを睨む。
「まずはお前からだ、死ね承太郎っ!ザ・ワールドっ!時よ、止れっ!」
DIOがそう言った瞬間、おそらく時が止ったのだろう。
いきなりDIOが掻き消え、次の瞬間には胸部を貫かれて出血しながら吹き飛ぶ承太郎さんの姿が有った。
俺は吹き飛ばされている一瞬でソルを起動させる。
『スタンバイレディ・セットアップ』
瞬間に銀色の龍鎧が現れ、俺の体を包み込むが、その体の小ささにやはり不恰好だった。
空中で体を捻り、地面に両足を擦るようにして速度を軽減し着地する。
「貴様…何をした…?」
DIOが此方を睨みつけるが、それに答えてやるほど俺は親切では無い。
「こ…これは…傷が治っていくのか…?」
後ろの壁に激突して止った承太郎さんの体にはその何処にも傷跡が無く完全に塞がっている。
「いや…これは傷を直したと言うよりも…」
見た目の不良っぽさとは裏腹に承太郎さんの聡明な頭脳は何が起こったのかを正確に把握したようだ。
俺のエターナルブレイズが打ち込んだエネルギーはしばらくの間、承太郎さんの体を巻き戻し続けたのだ。
新しく傷を負ったとしても俺の打ち込んだエネルギーが尽きるまでは時間が巻き戻り続ける。
止った世界に死ぬと言う概念があるのかは分からないが、無いのなら巻き戻し続ける肉体から彼の魂が抜けていく事は無いだろう。
それに何故かさっきDIOが承太郎さんを攻撃するのを体は動かないが見えていたような気がしたのは気のせいだろうか…
そして迂闊に自身のスタンドを出さないのは俺に操られる事を警戒しての事だろう。炎を操る能力とスタンドを操るスタンド能力者だと思っているのでは無いだろうか。
しかし、スタンドのルールとしては一人一個の能力しか持っていないと言うルールが存在すると聞いたのはまた後の事だ。
だがそれゆえにDIOは俺を警戒しているのだ。俺の態勢が整うのを見てDIOは物陰に一瞬で引っ込み、視界の先から消えてしまったのだから。
DIOの姿が一時的に消えた事と、俺がスタンド使いだった事で承太郎さんが走りよってきた。
「君はスタンド使いだったのか…」
「そのようですね。ほんの少し前に身につけたばかりですが」
「しかし、なぜこんな所?それとなぜ俺を助けた?」
「この能力を身につけた所為で俺はあの男には両親を殺されました。まぁ、弔い合戦と言う事ですね」
「そうか…」
そんな会話をしていた瞬間、体が金縛りにあったように動かなくなった。
時が止った!?
しかし、今度は確実に俺は止った時間を認識している。
物陰から一瞬飛び出して何処で回収したのか大量のナイフを此方に投げつけ俺と承太郎さんの周りを囲み込み空中に固定されるように止った。
このまま時が動き出せばおそらくそのナイフが動き出し俺達に刺さるだろう。
この止った世界の中でその法則を超越して動けるのはどうやらスタンドエネルギーだけのようだった。感覚的にだが、一振りか二振りくらいエターナルブレイズのコブシを振るうだけは動けそうな感覚は有るが、忍術や魔法、魔導が使えるような感じは全くしない。
「どうするんだ承太郎。どうやらお前はこの止ったときの中で多少なりとも動けるようだが、そこの小僧は違うぞ?引けばお前は助かるかもしれないが、その小僧は確実に死ぬ」
そう言うとDIOはまた物陰に隠れて身を隠した。
「ちっ…」
承太郎さんは悪態を付いた後スタープラチナを繰り出してコブシを二振り。幾つかのナイフを弾き飛ばすとそこで再び動きを止めた。
どうやら止ったときの中を動く事が出来る限界のようだ。
しかし、ただのナイフなど堅をしている俺にはたいしたダメージが有る訳では無い。問題は承太郎さんだ。
時が動き出す前に俺は彼を殴らなければならない。何故ならナイフの一本が急所に直撃コースであり、動き出した振り上げたコブシでは打ち払う時間は無さそうだったからだ。
仕方ないよな…
「エターナルブレイズっ!」
『ハァッ!』
エターナルブレイズの腕がスタープラチナをぶん殴る。
本日二度目のぶん殴り。殴られたエネルギーで承太郎さんは後ろにのけぞった姿勢で空中に固定されている。
「何っ!?」
驚きの声はどちらだっただろうか?承太郎さんか?それともDIOだったかもしれない。
そして時が動き出し、承太郎さんは派手に吹き飛んでいくが、エターナルブレイズが体を巻き戻しているのだ。痛いかもしれないが傷はつくまい。
それよりも俺は此方の対応をしなければ成るまい。
『ラウンドシールド』
迫るナイフをエターナルブレイズのコブシで弾き、残りは防御魔法で弾き飛ばす。
「まさかお前まで我が止った時の世界に入門してくるとはな…」
物陰から声だけが聞こえてくる。
「ここで叩かなければならん。二人ともだっ!止った時を制するのはこのDIO一人で無ければならないっ!」
そしてまた時が止る。
何処だ?何処から来る?と考えていると巨大な影が地面をよぎる。
「タンクローリーだっ!」
どうやらDIOは石油の入ったタンクローリーを抱え上げ、止った時の中を移動してきたようだ。
その重さはトンクラスであり比重によっては簡単に人間なんて潰れた蛙のようになってしまうだろう。
「どれだけこの世界で動けるのか分からぬが、一秒か?それとも二秒か?どちらにせよもう遅いっ!スタンドを操る能力も発火能力も遮蔽物が有れば使えまいっ!」
俺の能力を分析はしていたのか。どちらも視界を媒介にする能力だ。確かにこの状態では使い辛い。
DIOは勝ち誇ったようにタンクローリーを投げつけ、その上に載るとザ・ワールドを出現させてタンクローリーを叩き壊す。
「くっくそっ!」
俺は止った時の中でエターナルブレイズを動かし下からコブシを突き上げてタンクローリーを押し返そうともがく。
「無駄無駄無駄ぁっ!」
その強力なスタンドパワーでさらにタンクローリーを押し込み、打ち砕く。
承太郎さんも止った時の中を駆けて来るが、吹き飛ばしすぎて間に合わない。
ほんの数回殴った所で俺のエターナルブレイズの攻撃が止る。…限界だ。
「そして時は動き出す」
一瞬で破壊されたタンクローリーからばら撒かれた石油に漏電したバッテリーから吹いた火の粉で引火し大爆発が起こり、辺りを爆音と炎で包み込む。
その爆発にいかにスタンド使いとは言え生身の人間では耐えられるものでは無いだろう。
「あはははははっ!このDIOに屈さぬからこう言う事になるのだっ!」
「てめぇ…っ」
承太郎が目の前で子供を殺された事に怒りをあらわにしている。
「正直に言おう。わたしは承太郎、貴様よりあの子供の方が脅威だったのだよ。その排除に成功した今、貴様などたいした障害になりえない」
「てめぇにはそれ以上言葉を言う間もなく殺してやるぜっ!」
承太郎が地面を掛けてDIOとの距離を詰める。
「よかろう、やってみろっ!このDIOの時間停止を上回る事が出来るのならなっ!…ザ・ワールドっ!時よ止れっ!」
制止した時間。その中をDIOは自由に動き回り、承太郎も動きを再開して迎え撃つ。
「オラオラオラオラオラオラオラオラっ!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄っ!」
互いのスタンドのラッシュがコブシを合わせる。しかし、制止したときの中で先に動きを止めたのはやはりスタープラチナだ。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁっ!」
「かっがふっ」
ついに承太郎のスタープラチナは打ち砕かれ派手に後方へと吹き飛んでいった。
「やったっ!ついにジョースター家との因縁に終止符を打ったっ!」
テンションが上がり、高笑いをするDIO。
「だが、奴らはゴキブリのようにしぶとい。死んだ振りをしていると言う事も考えられる。ここは確実に止めを刺さなければ」
そう言ったDIOは注意深く承太郎に近寄りへし折った道路標識振り下ろし、承太郎の首を切断した。
「あははははははっ!最高にハイってやつだっ!」
燃え盛る炎をバックにDIOは高笑いし、勝利を確信する。
「あはははははっ…なにぃ!?」
高笑いをしていたDIOの体をいきなり黒い炎が包み込んむ。
「これはっ!?まさか小僧が生きているのかっ!?」
振り向いたDIOの先に居るのは何処も怪我をしていない俺だ。
「ば、バカなっ…どうして…!?」
「冥土の土産に教えてやろう。ここは幻術の世界。つまり精神の世界だ。現実のお前は一ミリだって動いてはいない」
「なにぃ!?」
先ほど完膚なきまでに打倒したはずの承太郎が傷一つ無く立ち上がる。
「この技は月読と言う。俺の眼を見ただけで相手を一瞬で幻術の世界に引きずり込む。この世界は全て俺の意のままだ」
こんな風にねと俺は言うと右手を上げる。
すると四方から飛び掛る大量のナイフ。
「ザ・ワールドっ!時よ、止れっ!」
が、しかしナイフは止らない。
ザシュザシュザシュっ!
「ぐおおおぉぉぉぉぉおっ!?」
ナイフは止らずにDIOを傷つける。
「バカなっ!バカなぁっ!」
DIOは俺を目掛けて駆け、ザ・ワールドで殴りつけるが、その攻撃は俺を貫通し素通りしてしまう。
「現実のお前がどうなっているか。教えてやろう」
「何を…っ!?」
ツツーと首に切れ込みが入り、スライドするようにDIOの首が地面に転がり落ちた。
「これが現実だと!?」
生首一つで叫んでいるDIOは、体は倒れ込み、体も頭も全て黒炎に包まれている。
「ああ、これが現実だ。お前は何も出来ないまま天照の炎に焼かれ、そして死ぬ」
「バカなっ!ばかな…っ!このDIOがっ!このDIOがぁ…っ!」
末期の叫びを上げながらDIOは炎に焼かれていった。
…
…
…
俺はDIOを斬ったソルをしまい込み黒い炎に焼かれるDIOを眺めていた。
「なっ…いったい何が起こったんだ」
承太郎さんがナイフの刺さった体を重そうに持ち上げ俺に近づいて来た。
「なぜDIOは何もせずに棒立ちになったままみすみす斬られるような事になったんだ?お前のスタンド能力…なのか?」
俺はそれには答えない。
真実は月読の瞳術に囚われた為に動く事が出来ないDIOを硬で強化したソルで斬った後に天照で燃やしただけだ。
俺と彼の勝負は彼を視界に捉えた瞬間に終わっていたのだ。それほどまでに万華鏡写輪眼の能力は強大だった。
「な、なんだこりゃっ!?この燃えているのはDIOなのかっ!?」
「ポルナレフか…」
街の角から駆けつけてきたフランス系の白人種の男性が血相を変えて叫んでいる。
「そのようだな」
「承太郎がやった…訳では無さそうだな。そこの小僧か?」
「ああ」
それを聞くとその青年、ポルナレフさんは両膝から崩れ落ちた。
「イギーやアヴドゥルの敵討ちが…最後はこんなガキに殺されるとはな…いや、ここは礼を言うべきなのだろう」
ポルナレフさんは振り返るとありがとうと言った。
「いえ…あなたの仇で有るように、あの男は俺の両親の仇でした」
「そうか…」
黒い炎が完全にDIOを燃やしつくしたのを確認した俺は踵を返す。
「誰だか分からないが、助かった」
と言う承太郎さんの声を背中で聞いた俺は瞬身の術でその場を去った。
この承太郎さんとの再会は10年ほどあと日本のとある町での事になる。
◇
あの事件の後、俺は日本に居る父方の祖父に引き取られ、杜王町と言う所で暮らしている。
どんな偶然か分からないがこの町はソラの住んでいる町で、家もそう遠くない。
近所の公園で待ち合わせをして久しぶりにソラに会って、スタンド能力を身につけたと報告すれば必然的にどうやって身につけたのかと言う話になる。
「たぶんあの矢がかすったからかな」
「矢?」
「ソル」
『プットアウト』
格納領域から取り出されるのは禍々しい装飾の矢先を持つ一本の矢。
「これ。これが俺をかすめた後、スタンド能力と言われている能力を身につけた。エターナルブレイズ」
こんなのと俺はエターナルブレイズを出す。
「それ?なんか念能力の派生みたいな感じだね」
「ああ、俺もそう思っている。実際これに使われているのはオーラだし、この状態では普通の人には見えない」
「へー。何が出来るの?」
「物を掴むとか殴る、蹴ると言った基本的な行動と、殴った物の時間を操れる感じだ」
常時掴んでいなければ発動出来ない俺のクロックマスターよりは使い勝手が良い能力かもしれない。
「デメリットは?」
「本体のダメージが反映される。たぶん逆も。スタンドが傷つけば俺自身も怪我を負うだろうね。だからスタンド受けた衝撃で俺自身が吹き飛ぶと言う事もあるみたい」
「それは…結構大きいね」
「後は射程距離が有るみたいだね」
「射程距離?」
「使うオーラを増やしていけば最大で15メートルほどは行けるけれど、消費がバカにならない。消費を気にしないで使える限界がおよそ5メートル」
「なるほど」
と言ったソラは矢先を右手に当てると軽く自分の右手を傷つける。
「そ、ソラ!?」
「ん、大丈夫。平気」
ソラは矢を俺に返すと傷口をぺろりと舐め簡単に止血する。
「アオの話が本当ならこれで私もスタンドを発現できるはず…どうやって出せばいいの?」
まぁ確かに、DIOの言う事を信じればスタンド能力を身につけた原因があの矢にある。であるならば条件はそろった事に成るはずだ。
「最初に発現したのは背の届かない物を取ろうとした時だ。それからは何となく有る物と認識したのか特に何か引き金になるような事は無いかな。…なんとなくスサノオを使う感覚みたいだと思ってくれればいいよ」
何かを操ると言う感覚が凄く似ている。
「なるほど」
ソラは上を見上げると今の身長では届かない木の枝に手を伸ばし掴もうとする。するとソラの腕から離れるように半透明の腕が出現し、腕だけじゃ届かないのかその全身がソラから出現し枝を折り降りてきた。
現れたそれは女性型で、全身にマークされているのはやはり剣十字のマーク、その瞳は写輪眼のようだ。
降りてきたそれはソラのからだに戻るように消えて行き、ソラの手に折れた枝だけが残る。
「名前を考えないとね」
「名前?」
「スタンドの名前。アオのスタンドにも有るじゃない?」
そう言ったソラは少し思案した後思いついたように言った。
「そうだなぁ…イノセントスターター…うん、イノセントスターターがいい」
「そっか」
それから一月余り、スタンドを身につけたソラと互いのスタンドを使って色々な事を検証し、その特性を理解する。
スタンドは自身の思うように操る事が出来る。
ダメージの相互関係はスタンドが負ったダメージは自身に返り、自身の負傷はスタンドに反映される。
射程距離が有り、俺もソラもおおよそ5メートルくらい。しかしこれは絶対ではなく、込めるオーラにより上昇する。
基本的に物体を透過するかどうかは本人の意思によるもので、壁の一枚くらいなら平気ですり抜ける。スタンドが持ったものは一時的にオーラに変化するのか、小さいものならばそのまま一緒にすり抜けてしまうようだ。
影分身をしたら影分身からも発動できるが、その時負ったダメージも本体に還元されてしまう。
影分身がやられるとスタンドは自動的に消滅する。
写輪眼を持っているからか、スタンドの動作は俺自身よりも精密な動きが出来るようだ。しかし、スタンドは基本的に忍術は行使できないらしく、さらに幻術や万華鏡写輪眼は使えない。
スタンドは何らかの能力を宿している。俺とソラの場合その両腕で触れた物を対象に行使できるようだ。
とりあえず分かったのはこれだけ。
しかし、これならば影分身の方が優秀だし、強力だ。…特にいらないかなぁとも思わなくは無い。
そんな感じで特に必要性を感じないまま十年が経ち、俺は承太郎さんと再会する事になる。
後書き
ドッグデイズ編は此方がリオ編よりも先に書いてみたのですが…キャロがすでにオリキャラでキャロである意味を感じられずにお蔵入りしました。
ジョジョ編はスタンドを手に入れてもアオ達には必要ないよね…と言う事ですかね。今回の話でもDIO相手にスタンドは使ってませんしね…
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