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ソードアート・オンライン ーコード・クリムゾンー

作者:紀陽
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序章 始まりと終わり

 
前書き
初投稿です。よろしくお願いします。 

 
宿屋の廊下で壁に寄りかかっていた俺は、正面の部屋の扉が開く音を聞いて顔を上げた。

「キースの様子はどうだった?」
「ダメ、まともな返事が返ってこないわ。相当参ってるわね、あれ」

その報告に俺はそうか、と頷くしかなかった。

「仕方がないかぁ、やっぱり。あれは実質アイツのせいだったからね」
「そんなこと言わないで。あそこでアイツを止められなかった時点であたしたちも同罪でしょ」
「まあ、そうなんだけどさ……」

俺はばつが悪くなって、顔を逸らした。
この世界――ソードアート・オンラインはゲーム世界であり、現実ではない。俺たちSAOプレイヤーは今、現実の世界でナーヴギアという装置を頭にかぶり、意識をこの世界へと送り込んでいるのだ。
意識を送り込んでいるといってもそれは比喩的な表現で、正確には脳に五感の元となる電気信号を送り込んで、脳に直接この世界の情報を認識させている。ゆえにこの世界でダメージを受けても、不快な感覚があるだけで現実の体にはなんの影響もない。――つい数時間前まで、俺たちはそう思っていた。

ソードアート・オンラインは、フルダイブ技術を利用した世界初の同時参加型オンラインRPGで、世界中から注目されていた。その人気は初回販売の予約がものの数分間で完売したほどで、手にすることができた一万人のほとんどは根っからのゲーマーたちだった。
全国の初回プレイヤーの一万人は、サービス開始から数時間後に自分たちのメインメニューに起こった変化に少しずつ気づき始めていた。
メインメニューの一番下、そこにあるはずのログアウトボタンがいつの間にか消滅していたのだ。
現実に帰還できないことに気づいたプレイヤーたちは混乱し、ゲームマスターの呼び出しを行ったが応答がなく、なにもすることができなかった。

そんなとき、SAOの全プレイヤーたちはゲームの開始地点『はじまりの街』の広場へと突然強制テレポートされる。
そこで行われたのは、SAOの唯一のゲームマスターにして製作者、茅場晶彦によるSAO正式チュートリアルだった。
ゲームからの自発的ログアウトの禁止。そしてゲーム内の死は現実の死となるデスゲームの開幕宣言。
それが終わった直後、俺は仲間の二人を連れて広場から抜け出し、こうして今いる宿屋にやってきたのだ。

「……リサ、どうにかキースを動かせない?」

俺は仲間の少女、リサに問う。
現在、俺たちの容姿は茅場晶彦からのプレゼントによって現実のものとまったく同じものになっている。ネット上の知り合いでしかなかったリサの容姿は、予想外に優れていた。それこそ、なぜネットゲームをしているのかと思うくらいには。

「聞いてなかった? まともに受け答えもできないわよ、アイツ。動かせるわけないって」
「聞いてたって。ただ……俺だって混乱してるんだっての」

吐き捨てるように言う。
実際、この状況下で混乱していないヤツはほんの一握りだ。表面上はどうにか冷静を装って見せても、俺にはまだ実感がないのだ。
本当に俺たちは、この世界で死んだら現実でも死ぬのか?

「理解しろって言っても……無理に決まってんだろ、そんなの」
「……でしょうね。だけど、こうしてゲームからログアウトできないのも事実よ。――ジル、あんたも現実を見なさい」
「それは……分かってる。だからキースを動かせるか聞いたんだよ」

俺は頭を振ると、先ほどから考えていたことを告げる。

「俺としては、今すぐこの街を出たほうがいいと思う。ここはプレイヤーが多すぎるんだ」

レベル制のSAOではレベルが上がるだけで格段に死ににくくなる。そのうちにほかのプレイヤーたちも頭が冷えて、自身を強化するためにフィールドに出てモンスターを狩り始めるだろう。そうなると、街の周辺はあっという間に干上がってしまう。
そうなる前に、できるだけ先へ進まなければならない。

「最悪、キースを残してでも移動するよ」
「……本気なの?」
「本気。だってそうしないと俺が死んじゃうじゃん?」

すると、リサが胸ぐらを掴み上げてきた。

「あんた、自分が言ってること分かってる? 友達放って自分だけ生き残ろうって言うの!?」
「仕方がないじゃんか!」

思わず、俺はリサの両手首を掴み返して叫んだ。

「俺は自分が生き残れるかだけで精一杯なの! 仲間殺したヤツのことなんて考えられるかッ!」

叫んだあとに、俺は酷い自己嫌悪に陥った。
このゲームがデスゲームだと発覚する直前、キースはモンスターにやられそうになった仲間の一人を面白半分で無視して見殺しにした。
その場にいてキースを止められなかった俺やリサも同罪だが、その主犯だった彼はもっとも罪が重い。そんな考えが、俺の中にはあったのだ。
リサは目を見開いて、しばらく呆然としていた。

「……いいわ。もう、好きにして」

突き放すように告げ、リサは俺の胸ぐらから手を放した。
自由になった俺は、よろめくようにして後ろに下がった。

「……ごめん」

リサの表情を見て、俺はすぐに顔を逸らした。彼女のあんな酷い顔を見ていられなかったのだ。

「なにかあったら、メッセージ飛ばしてくれよ」

もしかしたら、これで会えるのは最後になるかもしれない。そう思いつつも、口を開いていた。

「……うん。そうする」
「それじゃ……またいつか」

どうにかそれだけ言い残すと、俺はその場から走り去った。一瞬一秒たりともあそこに残っていたら、罪悪感で押し潰されそうだった。
そうして俺は、仲間との離別の道を走っていった。 
 

 
後書き
次話もよろしくお願いします。。 
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