【完結】剣製の魔法少女戦記
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第二章 A's編
第五十一話 『交渉』
前書き
今回はグレアムとの交渉に望みます。
Side シホ・E・シュバインオーグ
その夜、なのは達が寝入った後、窓を開けて私は再度八神家へと向かった。
そこにはシャマルさんが士郎と一緒にいた。
「他のみんなはもう蒐集しにいったの?」
「はい。シホちゃん、士郎さんをお願いします。士郎さんも私達の大事な家族なんです」
「シャマル…」
「…ええ。任されたわ。……………よかったわね士郎。あなたにもこんな大切な家族が出来て」
「ああ。私には勿体無いくらいだ。それではシャマル、しばしの間だが家の留守を頼むぞ」
「ええ、わかりました」
シャマルさんに見送られ私達は病院へと向かった。
はやての病室の前まで忍び込んで私は事前に士郎にあるものをいくつか飲ませる。
「しかし、また宝石を飲む事になろうとはな…」
「文句を言わないの。憑依している間も魔力は消費されていくんだからない物ねだりはしないほうがいいわ。
リンからもらった魔力の篭った数少ない宝石を奮発するんだから文句は言わないで。
それと念のために私とパスを繋げておいた方がいいわ」
私は指を切って血を出しそれを士郎に飲ませて術式を組んで簡易的なパスを結ぶ。
これで最悪士郎が魔力切れを起こす事はないだろう。
イリヤの方の魔術回路の魔力の方を士郎に回すように調整する。
「それじゃこれで士郎は私とパスを結んだわ。だから魔力が持ってかれそうになったら私の魔力を使いなさい」
「わかった…。しかし、お前は本当に私なのか? 手際が良過ぎるぞ。イリヤの魔術が使えるとはいえ…」
「なんででしょうね…。もう私に馴染んだからじゃないかしら?」
「そういうものか…?」
「そういうものよ。それじゃ侵入するわ」
はやての部屋に侵入して最初に目に映ったのはベッドで寝ているはやての姿。
士郎が人間形態を取りはやての横まで移動する。
そこではやては音に反応したのか起きたようだ。
私は士郎の向かい側に立ってはやてに魔眼をかけてこれは淡い夢のようなものだという認識を植えつける。
「…あれ? シホちゃんに、アーチャー…?」
「はやて。これは夢だ。だから今は静かに話を聞いてくれ」
「うん…? わかったわ~。でもえらい現実味の帯びた夢やねー…」
「これは夢よ、はやて。そう淡い夢…だから目を覚ましたらすぐに忘れてしまうわ」
「そうなんや~…」
すっかりはやては夢だと思い込んだらしい。
私は士郎に合図をした。
士郎ははやての胸の上に軽く手を置き、
「同調憑依開始」
瞬間、士郎の輪郭はだんだんと薄れていきはやてへと吸収されていく。
そしてすべてが終わった時には完全に士郎ははやての精神へと憑依したようだ。
「あれ~? アーチャーが消えてもうた…?」
「大丈夫よ、はやて。アーチャーはあなたと一緒にいるわ。でも、今度目を覚ましたときにはあなたは今の出来事を忘れているわ。だからもうお休み…」
「うん、おやすみや…」
そしてしばらくしてはやての寝息が聞こえてきた。
さて、前準備も終わった事だし私は撤退しようとするか。
後、やらなければいけない事は…。
◆◇―――――――――◇◆
翌日、魔力が使えないがフェイトも無事学校へと通う事が出来た。
それで登校後、すずかがはやての話をしてアリサの提案で今日は帰りにはやてのお見舞いに行こうと言う話になった。
「すずかとシホの友達なんでしょ? 紹介してくれるって言う話だったしさ。お見舞いもどうせなら賑やかなほうがいいんじゃない?」
「それはちょっとどうかと思うけど…」
「でも、いいと思うよ」
「私も賛成よ」
「ありがとう」
そして放課後、はやての病室に再度訪れるとはやてと一緒にシャマルさんも一緒にいた。
そういえば守護騎士の中で唯一ばれていないのがシャマルさんだったっけ。
「「「「「こんにちは」」」」」
「こんにちは。いらっしゃい」
「こんにちは、皆さん」
「今日はシャマルさんも一緒にいるんですね」
「はい。他のみんなはいませんけどね」
「そうですか。それじゃなのは」
「うん。これ、ウチのケーキなの。よかったら食べてね」
「おおきに」
それから七人で軽い話で盛り上がった。
◆◇―――――――――◇◆
Side グレアム
「父様。あまり根を詰めると体に毒ですよ」
「そうだよ」
部屋で過去の闇の書の資料を見ていたら電気がつけられ娘達にたしなめられてしまった。
まぁ私もいい歳だからな。
だがまだ私にはせねばならない事がある。
志半ばにして倒れるわけにはいかないな。
「そうだな。ところでどうだい様子は?」
「まぁぼちぼちだね」
「クロノ達も頑張っていますけど、闇の書が相手ですから一筋縄では…」
「そうか」
そう簡単にいったら苦労しない。
私ですらこうして手を尽くしているのだから。
「お前達まで付き合わせてしまってすまないな…」
「なに言ってるの。お父様」
「あたし達は父様の使い魔。父様の願いはあたし達の願い…」
「うん。大丈夫だよ、お父様。デュランダルももう完成しているんだし」
「闇の書の封印、今度こそ大丈夫ですよ」
「うん!」
「うふふ♪」
そう言って二人は笑みを浮かべる。
この笑顔に何度救われてきたことか。
ここが頑張り時だな。
「ところでロッテ。肩の怪我のほうは大丈夫かね?」
「それが…治癒魔法を何度もかけても全然塞がらないんです」
「だからクロノ達の目を盗んで痛みを和らげるのも苦労しているんです、ロッテは」
「そうか。とするとロッテが受けたのはシホ君のなにかの概念武装という奴か」
「おそらくそうだと思います」
「ふむ…」
これは困った事態だな。
これでは遅かれ早かれロッテの傷がばれてしまう。
対策を練らないとな。
ピピピッ!
そこに誰かから通信が入ってきた。
それに私は出てみると、
『こんばんはグレアム提督。シホ・E・シュバインオーグです』
「! シホ君か。どうしたんだい?」
ロッテとアリアが立ち上がるが手で静止して抑える。
『いえ、少しお話がしたくて電話をさせてもらいました。ちょっと今夜内密なお話があるんですけどそちらに伺ってもよろしいでしょうか?』
「大丈夫だが…シホ君、君は今は一人かね?」
『はい。“とても重要なお話”をしたいんですが…他に誰かがいたらそちらにとって色々と“都合が悪いもの”だと思いまして』
これは…。もう尻尾が掴まれているということかな?
「そうか。わかった。では今夜の何時頃に来るのかね?」
『すぐに伺わせてもらいます。家族にも帰りが遅くなると言ってあるますので大丈夫です。後、フィアは一緒に連れて行きます』
それは裏返せばシホ君とフィアット君に何かがあればすぐに行動が起こされるということだろうか?
これでは迂闊な行動も封じられてしまったに等しい。
リンディはかつてシホ君に交渉事でやりこまれたと聞いたが既に私もシホ君の交渉という名のテーブルに座らされているということか。
私はただただ承諾するしかできないでいた。
返事を返したらシホ君は電話越しでクスッと笑い、
『それでは今夜そちらに伺わせていただきますね。では失礼します』
そしてシホ君との通信は切れた。
切れた後も私は手や背中に汗を掻いているのか気が抜けたのか椅子にドカっと座り込んでしまった。
「だ、大丈夫!? 父様!?」
「あ、ああ。大丈夫だロッテ…」
「でもすごい汗ですよお父様!」
「平気だ。緊張してしまっただけだからな。それより二人共、シホ君がこれからこちらに来る。だから迂闊な発言は厳禁だ」
「わかった」
「わかりました」
これから気の遠くなるような会話をしなければいけないと思うと憂鬱な気分になるがなんとか乗り切ろう。
◆◇―――――――――◇◆
Side シホ・E・シュバインオーグ
通信を切り一息をつく。
これから交渉をしようというのだからやはり緊張するものだ。
クロノ達にまだ感づかれるのはまずいと判断してフィアに頼んで通信を繋いでもらったけどバレないかヒヤヒヤものだった。
それに転送室は今のところあるのはフェイト達の家だけだ。
だから怪しまれないようにしないとね。
「あ、フェイト。今夜ちょっとそっちに行っていい? フィアに会いに行きたいんで転送室借りたいんだけど」
『え? うん、わかった。エイミィに伝えておくね』
「ごめんね」
『いいよ。それじゃ待ってるね』
「わかった」
そしてハラオウン家に到着して私は転送室を借りて管理局本局へと転送した。
向かうはグレアム提督の執務室。
向かう途中で無限書庫に寄りユーノとフィアに挨拶をしていく。
「あれ? どうしたのシホ」
「うん。ちょっと管理局に用があってね。フィアはいる?」
「ちょっと待って。今呼ぶから」
それからしばらくして、
「お姉様! 会いたかったです!」
「フィア、私もよ。それでだけど今からグレアム提督のところに行くんだけど貴女もいく?」
「はい。大丈夫です」
「そう。それじゃユーノ。ちょっと一人にしちゃうけど大丈夫?」
「大丈夫だよ。一人でも十分資料は調べられるからフィアも少し休んできたらいいよ」
「ありがとう兄さん」
「それじゃいきましょう」
「はいです」
フィアを連れて私はグレアム提督の執務室の前についた。
「それじゃフィア。私がいいというまで手は上げないようにね?」
「わかりました」
そして私が失礼しますといって部屋の中に入った。
だが中に入った途端、首筋に手が添えられていた。
見ればリーゼロッテさんが手を出していたようだ。
フィアの方はリーゼアリアさんが出している。
おまけに私とフィアの体にはバインドがかけられていた。
フィアは少し驚いていたが私が慌てないのを見て落ち着いたようだ。
「手荒い歓迎ですね…?」
「済まないねシホ君、フィアット君。私達はミスを侵すわけにはいかないんのだよ。だから私の指示に従ってくれないかね?」
「早計な判断ですね、グレアム提督? まだ私がなにを話すのかも分かっていないのに手を出すなんて…これでは何かやましい事があると認めているようなものですよ?」
「わかっているよ。しかしもう君達はこれで動けないだろう?」
「ふふふ…私がなにも準備なしにこうしてここに来ると思っていたんですか?…停止解凍、巨狼束縛し強靭の鎖」
北欧神話でフェンリル狼を拘束したと言われる魔法の紐を投影した。
これはギルガメッシュの宝物庫の中で見つけたもので動物ならなんであろうと拘束してしまう効果を持つ魔法の足枷だ。
これは投影と真名開放するのに結構魔力を喰うが今回は別に戦闘をしに来たわけでもないので使わせてもらった。
効果は絶大でこれによってリーゼ姉妹は私達を捕えたと思っていたのに逆に拘束された形になる。
バインドも解かれて私達は自由になった。
「くっ…!?」
「引きちぎれない…!」
「…さて、先に手を出してきたんですから正当防衛ですよね?」
「そうですね、お姉様」
「………」
グレアム提督は無言。
まだ隠し球を持っているなら、最終的にはこの部屋を爆破してもいいという心持ちで構えた。
しばらくして、
「まいったよ、シホ君。降参だ。だから二人を開放してくれ」
「もう手は出しませんか…?」
「約束する」
「わかりました。リーゼさん達もいいですか?」
「父様がそう言うんだからあたし達はもう手を出さないよ」
「うん。だから…」
「そうですか。…投影、解除」
そして二人の拘束を解除する。
まだ警戒はしているようだけどもう手は出してこないようだ。
「さて…ではようやく話ができますね」
「済まないね。手荒いことをしてしまって…」
「別に…。予想はしていましたから。それでは話をしましょうか。仮面の男を操っていた黒幕さん」
「なんの事だね…?」
「ここまでしておいてシラを切るとはさすがですね。でももう言い逃れはできないと思ってくださいね?
…あぁ。ところでロッテさん。肩の調子はどうですか?」
「何の事かな…?」
「血が垂れていますよ…?」
「えっ!?」
「ロッテ!」
それで慌てたリーゼロッテさんは左手を見る。
アリアさんが叫ぶがもう遅い。
ロッテさんは血は垂れていなかった事に気づくと「しまった!」という表情になった。
「ありがとうございます。わざわざ反応してくれて。それと別に私はただ肩の調子を聞いただけで傷があるとは一言も言っていませんよ?
それに私が傷を負わせたのは仮面の男なんだからロッテさんが反応するのは少し違うと思うんですよ」
「うぅ…」
「ま、これで状況証拠は揃ったわけですが、再度聞きます。まだなにか言いたいことはありますか?」
しばらく部屋は無言の空気に包まれたがグレアム提督が重たい、それはとても重たい息をつくと、
「…そうだ。私が裏から色々と手を出していた犯人だ」
「父様! それは違う!」
「そうです。お父様は何も悪くない。仮面の男として演じていたのは私とロッテの独断です!」
リーゼ姉妹がグレアム提督を庇う行為をする。
でもグレアム提督は「いいんだ」と言って泣き出しそうな二人の頭を撫でた。
それでリーゼ姉妹は意気消沈してしまった。
「それで、シホ君はこの事をリンディ達に伝えるのかな?」
「いえ? まだ伝えるつもりはありませんよ。それだと闇の書が完成しませんから」
『なっ!?』
それで三人は驚きの声を上げる。
「ど、どういう事だ? 君は闇の書の完成を望んでいるというのか?」
「そうですね。まぁちょっと事情がありまして…。
それと話す前になんで闇の書の完成を手伝っているのか事情を説明してくれませんか?
でないと私も協力関係として信用できませんから」
「…わかった」
それでグレアム提督の話を聞く。
それは十一年前も前のクロノのお父さんがなくなった前回の闇の書事件後に闇の書ははやての元に現れた事を知ったグレアム提督。
はやての両親が死んだ事を知り身元引受人としてお金などを送りはやてに安定した生活を送らせてあげる事をした。
いずれ地獄に叩き落とす事になるだろう事を承知で…。
そして闇の書が完成した時の為に色々な手を尽くして開発したデバイス『デュランダル』ではやてを闇の書ごと完全凍結させ永遠に封印するという手段。
それを全部聞き終え話し終わったグレアム提督は片手で顔を覆って。
「私は、はやて君の幸せを願いながらも最後には最小の被害の犠牲として切り捨てる事を計画した。私はひどい大人だよ」
「………」
「だが、何度考えを巡らせてもこれしか方法が思いつかなかった。
過去から永遠と続き未来でも起こるであろう闇の書により起こる事件やそれによって生まれる大なる被害や悲しみを考えたら…私は止まれなかった。止まることは許されなかった。
一人のか弱い女の子を地獄に落とすことになろうともそれが正義の行いだと何度も自分に言い含めて突き進んだ。
そしてあと少しで私達のやってきた事は達成し闇の書の完全封印が成される。だから君達には邪魔をされたくない」
決意のこもった眼差しでグレアム提督は端を切ったように言い切る。
…そうか。この人も切嗣と同じ選択をしたんだ。
一を切り捨て九を救うという行動を。
「そうですか。安心してください。闇の書の完成“まで”は私も邪魔はしません」
だからここからは私も話を切り出す。
これは苦しんできたグレアム提督の心も救う事になるのだから。
「まで、とはどういう事かな?」
「言った通りです。私ははやてと、そして守護騎士達を全員救うつもりですから」
「だ、だが私達ですらもう手がないと諦めこの最後の手を思いついたというのに、シホ君。君はもしかして何かはやて君を救う方法があるというのか!」
「はい。外からの力ずくはダメ。闇の書への直接干渉もダメ。ならはやて自身に管理者権限を握らせるしかないじゃないですか?」
「それは、不可能だ…。今までの闇の書の主はそれすらできずに意識を飲まれて散っていったというのに知識も何もないはやて君が握るのは数%の確率もないだろう」
「それを可能とするのが私達魔術師です。…と言っても私も思考を巡らせても握らせる方法は結局は思いつかなかった」
「なら…」
「ですが一つの光明が見えたんです。話は変わりますがアーチャーの事はご存知ですか?」
「あの、鷹に変化する白髪の男性のことかね?」
「ええ。彼は特別で“私の”世界の使い魔の状態だったんです。そして今現在彼ははやてに憑依しています」
「憑依…?」
「はい。はやての精神に。そして闇の書の覚醒と共に内からはやての目を覚ます為に呼びかける手はずになっています」
「そんな事が…」
「他にもそれがもし失敗しても次なる手も考えていますけどそれが今のところ一番の可能性です。
それでグレアム提督。あなたに聞きます。これは分の悪い賭けだという事を百も承知で私に協力する気はありませんか?」
「それは…」
「断っても結構です。その時は私達だけで計画を実行するまでですから。
でも、はやてを救いたいと少しでも思っているのなら…協力してください」
そう言って私は手を差し出す。
この手を握れば協力関係になるという証になる。
「…その前に一つ聞いていいかな?」
「なんですか?」
「本当に彼女を救ってくれるのか…?」
その真髄な眼差しを私は覚悟の目で返す。
グレアム提督は「そうか…」と一言呟き、私の差し出した手を力強く握った。
「………ご協力感謝します。必ずはやてを救う事を約束します」
「頼めた義理ではないがお願いする」
「わかりました」
グレアム提督の表情にはもう悲壮感はなかった。
代わりに力強い闘士を感じたくらいだ。
これが提督の地位にまで上り詰めた人の覚悟か。
それに報えるように頑張ろう。
それから闇の書完成までのプロセスを計画した。
闇の書の完成までは計画通りはやての心を闇に叩き落とす事になってしまうけどそれも承知で私は計画を立てた。
そしてあらかた話し終えて今回はお開きになった。
それと忘れそうだったけどロッテさんの傷を治すために家に置いてあるゲイ・ボウを魔力に返しておいた。
そして部屋を出る間際、グレアム提督はうっすらと目に涙を浮かべて「ありがとう…」と私に言った。
そして地球に帰る道を歩いているとフィアが話しかけてきた。
「お姉様。救えるといいですね…」
「ええ。必ず救ってみせるわ」
そう決意し私は気合を入れ直した。
後書き
リーゼ姉妹はまんまと言葉に乗せられてもらいました。
そして次回から終盤に入ります。
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