戦国異伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第百十六話 三杯の茶その五
「それがし達そこまで目立ちませぬか」
「今はな」
「それは何よりですが」
「普段あれだけ派手だしのう」
術だけでなく身なりもそうであるのが飛騨者達だ。
「それが今は目立たぬから余計にじゃ」
「そう思えますか」
「その通りじゃ。何も怪しいところはない」
「というか普段のあたし達t怪しいんだね」
風は信長の今の言葉からこう考えた。
「そうなんだね」
「そうは言っておらん」
信長もそれは否定する。
「派手だとは言ったがのう」
「けれど今確かに怪しいtって言いましたよ」
「僕も聞きましたよ」
獣も風に続いて言う。
「それは確かに」
「普段怪しいということではない」
信長は己のその言葉を勘繰っている感じの彼等に述べた、それは少し違うというのである、そのうえで説明したのだ。
「今の御主達に怪しいところがないのじゃ」
「そういうことなんですね」
「つまりは」
「そうじゃ。勘違いしてもらっては困る」
こう言うのである。
「御主達は派手だが怪しくはない」
「だといいんですけれどね」
「怪しくないのなら」
「傾いた忍術じゃな」
それが飛騨者達の忍術だというのだ。
「それじゃな」
「傾いた忍術とは」
拳はその言葉の意味を考えた。
「つまり慶次殿、いや織田家の様な」
「織田家は傾いている者が多いからな」
可児も傾いているからこそ言えた。
「そうなるやもな」
「我等の忍術も傾いている」
「普通の忍術とは違ってな」
「そうした忍術もあるのか」
「忍術については詳しくはないがのう」
可児は忍術については知らぬ、実はそれは慶次が得意にしているものの一つでもあったりする。彼はそちらも身に着けているのだ。
「そこは慶次とは違う」
「あ奴は確かに忍術も見事じゃがな」
このことも信長もその目で見て知っている、やはり彼はその目で見てそのうえで見極める男なのである。
「目立つからのう」
「だからこの度はですね」
「あ奴の忍術の中に隠れるというものはない」
忍ぶ術であるが忍ぶことはしない、それが慶次の忍術だ。驚異的な体術と手裏剣を身に着けているのである。
信長は命にこう言うのである。
「そうだからこの度は連れて来なかった」
「お忍びでなくなるが故」
「あれには陰がない。陰がない」
慶次はそうだというのだ。
「晴れじゃ、それが過ぎる」
「そうですね。ですが」
「ですが。何じゃ」
「それは殿もです」
命は自分の右隣で馬に乗っている信長に答えた。
「それは」
「わしもか」
「はい、殿はこの世の闇を照らす日輪です」
「それだというのか」
「私はそう見ます」
「そうか。わしはか」
「慶次殿には影がないのは確かです。ですが」
それは信長もだというのだ。そして。
「織田家自体が」
「ただ陽気な者が多いというだけではないな」
「違います」
命ははっきりと答えた。
ページ上へ戻る