ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~
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SAO編
episode4 RUN!RUN!RUN!
「おおおっ! はえええっ!!!」
「すげえっ! 流石は『敏捷一極化』型だ!」
「うおっ!? もう見えねえぞ!」
久々の俺の敏捷補正全開のダッシュに、周囲に出来た人垣から歓声が上がる。普段は手の内を隠す意味合いもあって必要な時でも七、八割に抑えているが、今日はお祭り。出し惜しみなく全開にして観客にその速さを堂々と見せつける。ちなみに街の出口までの最短ルートは、おそらくエギルの仕業だろうロープで区切られていて野次馬が入れないようになっていた。準備のいい奴だ。
しかし、対戦相手たるキリトは、そのロープで仕切られたコース内にはいなかった。
「どこだよ『黒の剣士』!?」
「上だ上っ! 屋根の上走ってんだよ!」
「見なかったのか!? 店出てすぐの大ジャンプ! 一気に屋根まで飛び乗ったぜ!」
あの男、店を出てすぐに跳躍して屋根に飛び乗り、そのまま道を無視して屋根の上、最短距離を走りだしたのだ。確かにあの店からは道なりに行けば曲がり角によるロスが少なからずある。
だが、
「んなこと考えっかよ、ふつー!」
舌打ちしながら叫ぶ。
ちらりと見上げると、キリトはちょうど屋根から屋根へと飛び移るところだった。五メートルは優に超える隙間を、全く恐れることなく飛び越えてさらに加速していく。俺も負けじと脚を動かし、その黒い背中を追いかける。
「いったぞ! 『黒の剣士』がちょっと早い!」
「すっげー! 『攻略組』って、あんなすげーの!?」
「サンドイッチいかがですかー? 手作りサンドいかがですかー?」
かすかに耳に聞こえる声は、とても楽しげだ。
どうやらお祭りは中層ボリュームゾーンの面々はおろか、職人クラスの奴らまで広がっていたらしい。キリトにばれなければ情報は広めていい、とは言ったものの、ここまで広まっているとは。まったくエギルのこういった妙な才能には驚かされる。普段は中層というには高く、特に何も無いフロアなために過疎っているのだが、今日は人、人、人、で本当にお祭り騒ぎだ。
「おおおっ! 今『黒の剣士』がこの上通った!」
「ちょっとー!? ここ通るって聞いてたのに屋根の上じゃ見れないじゃない!」
「せっかくのお祭りだよ! 浴衣はどう!? 手作りワンメイク品だよー!」
くそっ、速い!
町中は平坦なため、俺の方が有利だと思っていたのだが、キリトの屋根走りという思わぬ特技で負けてしまっている。このまま街の外に行けば、目的の『黒き果実の森』までは、若干の勾配のある荒れ地が続く。上り坂は、俺にはますます不利だ。
頬に汗が滴るが、足は止めずに走り続ける。どうする。確かに俺も「隠し玉」はあるものの、まだもうすぐ街を出るというところだ。こんな序盤で使ってしまっては勝ち目はないだろう。くっ、手ごわいな、キリト!
悪態を、心の中でついた、その瞬間。
「うわあああああっ!!?」
「あっはははははっ!!!」
「いってええええ!!!」
前方の野次馬から、どわっと歓声が上がった。
走りは止めずに駆け抜けていく際にちらりと見ると、全身真っ黒の男が転がっていた。
どうやら屋根から飛び降りた際、勢いをつけすぎたようで着地に失敗したらしい。あのスピードで転がり落ちたなら、『圏外』ならば結構なダメージ量が入っただろうが、幸いここは主街区、『圏内』だ。まあ不快な神経ショックは生じるので、しばらくは立ち上がれまい。
貰った。
ニヤリと笑って、そのまま前を向こうとして、
「っ!?」
思わず二度見してしまった。
転がっていたキリトが素早く跳ね起きたのだ。さすがに少々は堪えたのか、二度三度と頭を振ってはいるものの、もう走れないほどのダメージを受けたようには見えない。思わず凝視してしまった俺と、ばっちり目が合う。
「ヤベッ!!!」
「まけねえぞっ!!!」
キリトが再びの疾走が始まる前に、俺は前に向き直って全力で走りに集中する。タナボタだが、とりあえず予想通りここまでにリードだ。勝負はまだまだこれからだ。俺は加速する意識の中で、一心不乱に先を目指して走り続けた。
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