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魔法少女リリカルなのは~箱舟の獣~

作者:嘘口真言
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プロローグ~に当たる何か~

 
前書き

二期の第四話の最中から始まります。
衝動書きなので、中身の濃さはあまり気にしないでください。なお、亀更新。 

 





side-守護騎士



『シグナム、ヴィータちゃん! 頭上に次元転移………なに、これ――――魔力量、測定不能……!?』

十二月某日。第97管理外世界『地球』にて。
少女達の戦いの最中に、それは突如として現れた。

「シャマル、一体何が来るというのだ!?」

後方支援(バックアップ)の熟練であるシャマルをして、測定不能。
出現地点こそ割れているが、何が来るのかはまったく不明。その念話は、ヴィータ、そしてザフィーラにも伝わっていた。シグナムとヴィータは対峙する少女二人と距離を取り、頭上への警戒を強める。
対して少女二人、なのはとフェイトも距離を取り、頭上を警戒する。彼女らにも味方陣営からの通信があり、双方共に争っている場合ではなかった。出現地点とされる中央から距離をとったその直後、変化はほんの数秒後の出来事である。
シャマルが作り出した、角錐状の広域結界。その結界内の空に“罅”が入った。
衝撃などまったく無い。だがしかし、罅は数秒ごとに確実に拡大を見せていた。数センチ、数十センチ、数メートル。気がつけば罅は、空を覆うまでの範囲に広がっていた。

『シグナム、ヴィータちゃん、空間転移の準備完了。いつでも離脱できるわ!』

「待て、シャマル………目標の姿だけでも確認していく。私が合図したら全員を一斉に転移(とば)せ」

「ソイツたぶん、あたしらに用があるんだろ。だったら顔だけでも見てやるさ」

『了解……気をつけて』

そういって、シャマルとの念話は“切断”された。
それが、彼女らにとっての合図。空は割れ、宙に広がる巨大な異空間が姿を現した。
異色で異様なその空間を、この場にいる二人の少女は見たことがある。なのはとフェイトだ。彼女達はその空間の呼び名を知っている。それがどういうものであるかを知っている。故に、彼女達は心の中で否定した。其処から“なにか”が現れるということを。

「あれは……虚数空間?」

「なぁ、シグナム……あそこって確か、落ちたら出られない場所だったよな?」

「あぁ、我々が聞き及ぶ『虚数空間』という存在は、その筈だ」

「じゃあなんで……其処から“あんなモノ”が出てくるんだよ」

水平に並ぶ、巨大な六角水晶の柱。六本あるそれらのサイズは約50メートルというところか。それぞれ内側に幾何学な文様が刻み込まれ、それらが絶えず内部で歪な発光を続けている。そしてその中心にある、3メートルほどの金属の棺。全員が理解した。「其処に、理解の及ばない何かがいる」と。
水晶が一様に紅く、強烈な発光を起こす。水晶全てが右回転を起こし、宙に開いた虚数空間へと戻っていく。あの巨大な棺を残して。そうして柱が虚数空間へと戻った直後、空間の裂け目はまるで時間が逆行するかのように修復されていき、『棺がある』という以外の異変を一切残さなかった。
数分前と同じ空。シャマルの張った結界、依然緊張状態の魔導師二名と騎士二名。そして、


『『『『棺内部から高魔力反応。危険です』』』』


四人のデバイスが一斉に警告を出した。
錆びた金属が擦れるような、しかし重く鈍い重低音を奏でながら、観音開きに棺は開いた。内部から水蒸気らしいスモークが漏れ出し、よくある映画のワンシーンのような光景が眼前に広がる。
コレが映画なら、中から出てくるのは異星人か怪物、もしくは未来からの使者だろう。だが違う。
浮遊魔法で其処から出てきたのは、一人の人間。しかしその姿は異常であり、誰もが目を疑った。

「肉が……爛れているな」

だらりと下げた両の腕、紅く爛れた身体。
皮膚は焼かれたのか腐敗したのか、既に表面は原形を留めておらず、そこにあるはずの眼球は蒸発していて、顔を覆う皮膚は無くなり歯や鼻骨など全て剥き出しの状態。全身の骨格がいやに露骨なそれは、まさしくミイラというべき状態だった。
パニック状態なのか、声も言葉も出ないなのは達。ただただ口を覆うばかりで、動けずにいる。
しかし、長く戦場を渡り歩いてきたシグナムとヴィータはいやに平静で、死人があぁなるということを知っていた。故に、拍子抜けとも取れる自身の内心に嫌気が差すものの、現状を冷静に分析する。

「……なんだよ、ようは死体って事じゃねーのか? どうなんだよ、アイゼン」

『目標から生体反応を検知。間違いなく“生きて”います』

問いかけるは、己が相棒。鉄槌『グラーフ・アイゼン』。
彼は要望に答え、あのミイラの状態を告げた。間違いなく生きていると。そして、

「なら……あれは殺せるって事だな?」

『そうとも言えます。目標がどのような生物であるかまだ不明ですが、生物である異常は確実に死亡すると思われます』

「レヴァンティン、目標の状態は?」

『目標の表面に僅かですが、魔力障壁のようなものが確認できます。魔法形式は不明ですが、目標は間違いなく魔力を有した生命体です』

シグナムの愛剣、炎剣『レヴァンティン』。
彼もまた、あのミイラを生命体と呼称する。そして先ほどの通信や自身のデバイスが告げた、高魔力反応。
二人は視線を合わせ、上空のミイラを見る。お互いの考える事は、いやというほど理解できた。現状、目的のためには手段を選べぬ状況、故に二人は行動した。
殺しはしないが、これほどの魔力を有する生命体ならば一体どれほど収穫が得られるだろう。
二人と二機は、一瞬で目標を定めた。魔力カートリッジをロード、一撃で沈め、一瞬で回収し、一気に撤退する。棺を背後にするソレを左方にヴィータ、右方にシグナムが回りこみ、挟撃する。そんな二人が攻撃の瞬間に聞いた、誰のとも取れぬデバイスの音声。





『――――起動、完了』





強烈な爆発が巻き起こった。カートリッジ使用による強大な破壊力を持った二人の一撃。
間違いなく、あの死体の魔力障壁は砕かれ、本体にも間違いなくダメージが通っている筈、だった。

「…………ッ」

「ンだよ、これ………――――硬ェっ!」

黒い魔力光の障壁。魔力を纏った二人の得物、頭部を狙った二人の一撃を、障壁は確実に阻んでいた。
死体の足元には魔力光と同じ光色、二重の円の上に描かれた六芒星。誰も見たことのない魔方陣を展開した“ソレ”は、動いた。項垂(うなだ)れる頭を上げ、正面に顔を向け。死体は口を動かさず、声を発した。

「…………破損が酷いな。状態は?」

腹の底に響くような、男の声だった。
男はどうやら自分の状態を理解していないらしく、ソレを誰かに問いただす。その返答は、他でもない彼自身の内側から返ってきた。ソレはデバイスと同じ機械音声、だが。


『素体損傷状況、中。直ちに修復します』

『状況確認、敵対勢力と思われる武装勢力二名を確認。ベルカ式と判別、交戦中。結界内部、遠方に同様の術式を確認。総数、三』

『後方に魔力反応、未確認の術式を確認。情報バンクより検索……ミッドチルダ式と確認。結界内部、遠方に同様の術式を確認。ベルカ式魔導師と交戦中。総数、三』

『周辺空間に展開中の広域結界を確認、外部に反応確認。ミッドチルダ式魔導師を複数確認、術式を多数確認』

『結界外部にベルカ式確認。総数、一。結界魔導師と判断できます』

『最重要項目を確認。右方ベルカ式魔導師、“闇の書”の所有を確認。状況、情報、統合……結界内外ベルカ式魔導師四名を、防衛プログラム「守護騎士」と確認』

『守護騎士に敵対の意思を確認、目標の沈黙を最優先事項と提唱します』

『協議………提唱案を可決。目標の沈黙を優先事項と設定します。素体の再生を開始します』


途切れることなく、矢継ぎ早に続く機械音声。
男の“全身”から流れるソレの最後の言葉を、二人は聞き逃さなかった。
『目標の沈黙』『素体の再生』――――瞬間、攻撃へと回していた魔力を移動へと回す。レヴァンティンとアイゼンは纏う魔力を瞬時に爆発させ、目標の視界を遮ると同時に離脱の好機を作り出した。
一瞬の状況の変化に、なのはとフェイトは完全に置いて行かれた。しかし、今の爆発と二人の後退で状況は一度リセットされた。しかし、下手に動けば状況が悪化する。それは避けるべきだというのは、考えるまでもない。現状は、動かない。ソレこそが最善。そしてそれは正解。

再生(リジェネレーション)

巻き起こる爆煙はソレを中心に全方位に吹き飛ばされ、黒色の魔方陣が上下に展開、回転を始めた。
膨大な魔力、死体の身体はソレと共に黒い光を帯び始め、先の言葉の通りに身体の再生を始めた。手足の指先から光の波がゆっくりと、上へ上へと昇り詰めていく。光の後には再生された肉体、骨組織、筋繊維、血管、神経系、そして肉と皮膚。
整った体型が完成し、最後にその頭部が完全に再生された。黒い髪と黒い瞳、日系と華系のハーフのような顔立ちの男。そうして再生された肉体の各所には、機械音声の正体が確認できた。
胴部、腕部、脚部、背部、頭部、その全身のいたるところに埋め込まれた、直径2センチほどの金色の六芒星。額に埋め込まれた六芒星が輝き、全身の六芒星が一斉に内部へと沈んでいく。
頭上の魔方陣が高速で降りていき、身体を通過すると、今度は服を着ていた。四肢の先を出した七分丈のインナーに、黒革のブーツ。こうして、男は完全に再生した。

「状態、良好……これより、戦闘を開始する」









 
 

 
後書き


男のイメージは『ドリフターズ』の島津豊久あたりが良いでしょうか。
六芒星の形状はよくある『△+▽』ではなく一筆書きの『クロウリーの六芒星』。主人公の設定は追々公開していくので、度々変化しますがご容赦を。 
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