ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~
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SAO編
episode3 戦姫(+α)、襲来2
「いらっしゃいませっ! どうぞお掛けくださいっ、すぐにお茶出しますよっ!」
いつもどおりに振舞えたのは、ソラだけだった。鍋を抱えて台所へと向かい、代わりに人数分のコップを持ってくる。レミとファーは気押されて完全に固まってしまっている。かくいう俺も正直かなり驚いていた。だって。
「……ヒースクリフ、団長。……アスナ、副団長」
「け、KoBの、だ、団長と副団長ッス…」
KoB。それはこの世界で、百人が百人認める最強ギルドの一つ、『血盟騎士団』の略称だ。人数自体は三十人もいない程度の中規模で『軍』などとは比べ物にならないが、その全員がハイレベルな剣士であり、実質フロアボスの攻略の方針決定の中核を担っている団体だ。
そしてここに来たのは、その中でもさらに上位…いや、トップに君臨する人間だ。
「夜分遅くに申し訳ありません。こちらのギルドに、シドさんという方がいらっしゃると聞いてきたのですが」
「…シドなら俺だ」
口を開いたのは、三人の先頭に立つ、栗毛色の髪の少女。驚くほど整った顔はしかし、今は張り詰めたような緊張感…いや、責任感と強迫観念で硬質な表情を保っている。
なるほどこの表情なら『狂戦士』のあだ名も頷けるな。答えた俺の方をじろりと値踏みするように見つめるその視線の鋭さは、年下の女の子とは思えない威圧感だ。初めて知ったが、美人の顔ってのは結構な迫力が宿るもんなんだな。
…まあ、とりあえず。
「……キリト。ゲロったな?」
「いや、ゲロった、ていうかな…」
KoBの二人の後ろに、困ったように佇む一人の男…キリトを睨みつける。『血盟騎士団』や『聖竜連合』といった有力ギルドは、基本的に迷宮区の攻略のみに関心を示すため、俺のようなクエスト攻略の情報屋とは接点がない。あるとしたら、迷宮区以外にも足を運ぶ暇人、そして攻略の合間にクエストやらなんやらで遊ぶような不真面目野郎だけだ。
例えばこいつのような。
俺の睨みに怯んだわけでもなかろうが、キリトが目をそらしてがりがりと頭の後ろを掻く。顔にはしっかりと「やっちまったな」と書かれている。
「まあ、少々落ち着いてくれたまえ。今日は話をしに来たのであって、なにも君たちをとって食おうというわけでもない。とりあえず聞くだけ聞いてみてくれ」
なんだか早くも険悪ムードになりかけた場をとりなしたのは、深紅のローブをまとった、背が高く細身の、学者風の顔つきの男。真鍮色の瞳を持つこの男こそ、このSAOで知らぬものはない、最強の男、『神聖剣』ヒースクリフ。
第一印象は硬くて怖い男だが、こうしてとりなしてくれたところをみると案外いい奴なのかもしれない。まあ、ギルドホームに上げたくないのは変わらんが。
「ささっ! 三人とも入ってくださいっ! 寒かったでしょうしねっ!」
…。
横からの、実に的確なタイミングでの余計なひと言。
にこやかなソラのセリフによって、俺達の…いや、俺の逃げ道は防がれてしまった。
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