ソードアートオンライン VIRUS
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諦めたくない
前書き
一日あけての投下
「キリト!あいつら頼むぞ!」
「OK!お前こそ、俺にメイジ隊からの攻撃を当てるんじゃねえぞ!」
互いにそう言うとキリトはメイスを持った三人に突っ込み、ゲツガはその上を飛翔して後ろのメイジ隊と三体の盾を持ったサラマンダーの前に立つ。
「どういう用件で俺たちを襲ってるか知らないけど、さっきのは俺たちとマジでやり合おうってことだろ?」
そう言ってゲツガは弓に三本の矢を番え、一番前にいるメイジ隊に放つ。それを盾を持った三人のプレイヤーがメイジの前に立って全ての矢を弾いた。
「チッ、この盾を持った野郎はメイジを守るための役割か……」
ゲツガは舌打ちして新たな矢を矢筒から新たな矢を取り出す。今もっている矢の数は二百。メイスは頭に当てれば何とか一発で倒せるかもしれないがあの盾を持ったプレイヤーを倒すのは少々骨が折れるかもしれない。再び、矢を番える。すると後ろのほうでたくさんの光が見えた。
「野郎ッ!やらせるか!」
ゲツガは矢を盾の奴らが届かない軌道で放つ。しかし、それを予想していたかのように盾のプレイヤーたちの一人が二人の盾を足場にして矢の軌道を塞ぐように立った。矢はその盾の上にいた男に防がれる。
「盾が二つあるのはそのためか……」
そして、ゲツガは矢を放ち続けるが全て弾かれる。メイジ隊はその間にスペルを唱え終わり、キリトと対峙する三人の回復と六個に火球を放ってくる。そのうちの二つがゲツガの方に飛んでくる。それを避けるために端のほうに跳ぶ。しかし、火球は少しずつだがゲツガの跳んだほうに曲がってくる。
「これがホーミング性能つきの攻撃魔法か……っていうことは範囲攻撃まであるじゃねえか!」
ゲツガはそのことに気付き、橋の柵に足をで蹴り付けて地面すれすれを跳ぶ。ちょうど中心に戻ってきた時はゲツガが追い込まれていた端っこの部分は炎が燃えていた。キリトのほうはリーファが何とかヒールをしているため何とか大丈夫そうだがキリトが後どれくらい持つかと、リーファの魔力もいつまで持つかわからない。ゲツガは素早く次の矢を取り出し、素早く番え、メイジ隊にむけて放つ。だが、その攻撃は盾のプレイヤー達によって阻まれる。そして再び、魔法が放たれる。
それを繰り返すうちにゲツガは掠りながらも避けるがだいぶ、HPが減らされる。しかし、こんなとこで諦めるわけにはいかない。ゲツガは何度も矢を番えては放つ。そして、再び矢筒を確認するともう、そこまで矢の数も残っていなかった。舌打ちして、矢に魔法を魔法をかける。とその時、
「もういいよ、キリト君、ゲツガ君!またスイルベーンから何時間か飛べば済むことじゃない!取られたアイテムだってまた買えばいいよ、もう諦めよう……」
リーファがゲツガとキリトに向けてそう叫んだ。
「嫌だ」
「ふざけるな!」
キリトもゲツガもそうリーファに叫ぶ。
「俺が生きている間は、パーティーメンバーを殺させやしない。それだけは絶対に嫌だ」
「ああ、まだ確実に負けと決まったわけじゃないのにこんなところで諦めたくはない!」
そうリーファに叫ぶとゲツガは敵を見据える。しかし、ゲツガの持っている矢の数もHPとも残りはそこまで残っていない。ここは本気で行くしかない。ゲツガはスペルを唱える。それに気付いた、キリトと対峙していたプレイヤーたちが少しずつ後退しながらそれを中断させようとする。しかし、それをキリトは許さない。キリトはそいつらに向けて連続攻撃をして止めていた。
「やらせるか!!」
唱え終わったゲツガはキリトに礼を言った。
「キリト!サンキュー!おかげで何とかできそうだ!」
そう言って、手を地面に向けると魔方陣が足元に展開される。それを仕掛けたゲツガは叫ぶ。
「キリト!!リーファ!!ちょっと揺れるぜ!!」
ゲツガはそう言ってそのまま地面に拳を叩きつける。ゲツガのパンチは橋全体を揺らす。その揺れに反応するかのように大きな揺れに変わった。この魔法は倍加魔法。物理攻撃等の攻撃は上げられないが衝撃、揺れ、魔法の飛距離などを伸ばすことのできる魔法だ。
「うおっ!!」
メイジ隊はスペルを唱えられなくなり地面にへばりつくか転ぶ。盾のプレイヤーも揺れにだけは対応できないようでその場で転んだ。キリトとリーファはというと高くジャンプをしていて免れていた。その時、ゲツガの耳にユイの声が聞こえた。
「パパ、今です!」
キリトはそう言われると空中で何かのスペルを唱え始める。ゲツガは何のスペルかはわからないがとにかくキリトを信じるしかない。そして、スペルを唱え終わったキリトは周りから黒い煙が集まって姿を隠してしまった。そして、ようやく橋の揺れが収まるとメイジ隊も盾とメイスのプレイヤーも盾だけの防御専門のプレイヤーもたって再び隊列を立て直し始める。それと同時に黒い煙が大きくなっていき、ドスンと大きな音を立てて地面に着陸した。その音に一瞬全プレイヤーがその黒い煙の塊を見た。そして、その塊から
「ゴアアアアアアア!!」
獣の咆哮のような叫びが響くとともに大きな煙の塊が吹き飛び、中からはSAOの七十四層のボスモンスター、グリームアイズに似たようなモンスターが姿を現した。
「まじかよ……幻覚魔法でこんなことも出来るのか……」
ゲツガはさすがにモンスターの姿になったキリトをみて唖然とした。しかし首を振って、何とか驚きをどこかにやってサラマンダーたちのほうを向く。サラマンダーはモンスターの姿になったキリトを見て、全員凍りついたように動かなくなっていた。その隙を狙って、ゲツガは盾を持ったプレイヤーの一人を盾越しから殴りつける。殴られたプレイヤーまるでバットに当たったボールのように吹っ飛んだ。そしてメイジ隊の後ろに落ちてポリゴン片に変わる。それでようやく我に戻ったサラマンダーのリーダらしき男が言った。
「隊列を立てなおせ!弓の奴はたまたまだ!」
そう言うと同時にスプリガン状態のキリトと戦っていた一人がゲツガの少し後ろに落ちてポリゴン片に変わった。どうやらキリトも攻撃を開始し始めたらしい。そして、それを見たリーダーは再び指示を出す。
「馬鹿、体勢を崩すな!そいつは見た目とリーチだけだ、亀になれば攻撃は通らん!」
しかし、その指示は恐怖によって届いていないのかどんどん後退してキリトの餌食になって言った。ゲツガもキリトに負けじと盾のプレイヤーの盾を突き破って頭を掴む。この世界でもまだ武器殺し(ウェポンキラー)は出来るようだ。ゲツガはそのまま地面に頭を叩きつけた後、そのまま地面に頭を押し付けながらメイジ隊のほうに突っ込む。キリトもゲツガよりも早くメイジ隊に近づいて無双を開始する。ゲツガも二人のサラマンダーが消えるとすぐさま跳躍してメイジ隊のところにきた。
「た、退却!退きゃ」
そういい終わる前にキリトが橋の向こう側に跳躍して退却する道を塞いだ。
「さあ、反撃開始だ!」
ゲツガはそう言って、メイジ隊に突っ込む。キリトもゲツガが突っ込むと同時に攻撃を開始する。一人、また一人とゲツガかキリトの攻撃の餌食となる。リーダーの男はさすがにもう駄目だと悟ったらしく、橋から飛び降りた。しかし、リーダーらしき男はしばらく泳いだ後、下から大きな水しぶきが上がるとその中に飲み込まれて消えていった。
ようやくラスト一人になったところでゲツガとキリトが逃げられないように柵のところに追い込んだ。そして、倒そうとした時リーファが叫んだ。
「キリト君、ゲツガ君!!そいつ生かしといて!!」
そう言われたのでその手を戻してリーファのほうを見る。リーファの肩にいるユイはのんきにすごかったですね~という感想を述べていた。そして、リーファは追い詰められていたサラマンダーに剣を向けて言った。
「さあ、誰の命令とかあれこれ吐いてもらうわよ!!」
リーファはドスの利いた声で言ったせいでショックから立ち直ったようで、顔面を蒼白ながらも首を振った。
「こ、殺すなら殺しやがれ!」
「この……」
「まあまあ落ち着けって、リーファ」
ゲツガはポーションを煽りながら言った。そして、キリトはようやく時間が切れたのか黒い煙にまた包まれた。その後、中央からはおなじみのスプリガンが姿を現した。
「いやー暴れた暴れた」
「お疲れ~」
キリトは首をコキコキ動かしながら言った。ゲツガはそれに対してそう言うとハイタッチを交わす。その後、キリトはサラマンダーの近づき腰を落とすと、肩をポンと叩く。
「よ、ナイスファイト」
「は……?」
さすがにいきなりナイスファイトとか言われてもわからんだろうよ、キリト。そう思いながら、ポーションを飲んでいく。
「いやあ、いい作戦だったよ。俺一人だったら速攻やられてたなあー。まあ、ゲツガのあんな予想外なことがなければやばかったよ」
「ひでぇな」
「ちょ、ちょっとキリト君、ゲツガ君何のんびりと会話してんの」
「まあまあ」
キリトはリーファにウインクをした後、左手を振ってウィンドウを出して、それをサラマンダーに見せながら言った。
「さて、物は相談なんだがキミ。これ、今の戦闘で俺たちがゲットしたアイテムと金なんだけどな。俺たちの質問に答えてくれたら、これ全部、キミにあげちゃおうかなーなんて思ってるんだけどなー。いいだろ、ゲツガ?」
「別にいいぞ。俺のいるもんは特になかったし」
「だそうだ」
そう言ってサラマンダーに詰め寄る。サラマンダーは何かがなくなっているのを確認するかのようにキョロキョロした。多分、リメインライトだろう、それが全部ないことを確認したサラマンダーはキリトに向き直って言った。
「……マジ?」
「マジマジ」
ニヤッと笑みを交す両者を見ながらゲツガは苦笑した。リーファはため息を吐いていた。
「男って……」
「なんか、みもふたもないですよね……」
「俺もはいんのかよ……」
ゲツガはため息を吐く。ユイとリーファの蔑視光線にも怯まない、キリトとサラマンダーの男は取引が成立したらしくグッと頷きあっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
サラマンダーはキリトとの取引が終わると本当に話し始めた。
「今日の夕方かなあ、ジータクスさん、あ、さっきのメイジ隊のリーダーなんだけどさ、あの人から携帯メールで呼び出されてさ、オレ飯食ってたから断ろうとしたら強制招集だっつうのよ。入ってみたらたた二人を十二人で狩る作戦だつうじゃん。、いじめかよって思ったけどさ、昨日カゲムネさんのをやった相手だっつうからなるほどなって……それと、その後にもう一人追加されたから急遽三人追加もしたし」
「そのカゲムネっていうのは?」
「ランス隊の隊長だよ。シルフ狩りの名人なんだけどさ、昨日は珍しくコテンパンにやられて逃げて帰ってんだよね。あんたがやったんだろ?」
「いいや、やったのはこいつ。オレはその後に来たから知らない」
キリトは親指でゲツガを指す。
「指差すな」
ゲツガは鬱陶しそうに指を払ってキリトに話すように言う。しかし、その後の質問はリーファがした。
「……で、そのジータクスさんはなんであたしたちを狙ったの?」
「ジータクスさんよりももっと上の命令だったみたいだぜ。なんか作戦の邪魔になるとか……」
「作戦ってのは?」
「マンダーの上のほうでなんか動いてるっぽいんだよね、オレみたいな下っ端には教えてくれないんだけどさ、相当でかいこと狙っているみたいだぜ。今日入ったとき、すげぇ人数の軍隊が北に飛んでいくのをみたよ」
「北……」
リーファは考えるように手を顎に当てる。ゲツガは気になったことを聞く。
「その軍隊って世界樹の攻略でもするのか?」
「あ、それ、私も聞きたかったこと」
リーファは思い出したかのようにそう言う。
「まさか。さすがに前の全滅で懲りたらしくて、最低でも全軍に古代武具級の装備が必要だって金を貯めてるとこだぜ。おかげでノルマがきつくてさ……でも、まだ目標の半分も貯まってないらしいよ」
「ふうん」
「ま、俺の知ってるのはこんなとこだ。さっきの話、本当だろうな?」
後半は確実にキリトに向けて言われた言葉だ。
「取引で嘘はつかないさ」
キリトはそう言ってトレードウィンドウを操作した。そして、トレードされたアイテムを確認したサラマンダーは嬉々した表情でせっせと指を動かした。
リーファはそれを見てあきれながらも男に言う。
「しかしアンタ、それ元々は仲間の装備でしょ?気がとがめたりしないの?」
すると男はちっ、ちっ、ちっと舌を鳴らして言った。
「わかってねえな。連中が自慢げに見せびらかしていたレアだからこそ快感が増すってもんじゃねえか。ま、さすがに俺が装備するわけにもいかねえけどな。全部換金して家でも買うさ。じゃあ俺はもう行くわ」
そう言ってサラマンダーは元来た道を戻って行った。と、視線を感じたためその方を見るとリーファがキリトとゲツガをまじまじと見ていた。
「どうかしたか、リーファ?」
「あ、えーとさっきまでの雰囲気がなくなるのが早すぎるなーとか思ってただけ……それよりも……さっき暴れた悪魔ってキリト君なんだよね?」
「あ、それ俺も聞きたい」
そう言ってキリトを見るとキリトは視線を上に向けて顎をぽりぽりと掻いていた。
「んー、多分ね」
「多分、って……サラマンダーがモンスターの見た目に騙されて混乱するかもって作戦じゃなかったの?」
「え、そんな作戦だったのか?俺はてっきり、キリトの幻惑魔法に一か八かの賭けだと思ってたのに」
「そうなのか?いやー、俺はそこまで考えてなかったと言うか……俺、たまにあるんだよな……。戦闘中にブチ切れて、記憶が飛んだりとか……ゲツガもあるだろ?」
「ないわ。そんなん起きたら正直怖い」
「うん怖い」
ゲツガもリーファもそう言う。
「うわッ!ヒデェー……まあ、いいや。さっきのは何となく覚えてるよ。ユイに言われるまま魔法使ったら、なんか自分がえらく大きくなってさ。剣もなくなるし、仕方ないから手づかみで……」
「ぼりぼり齧ったりもしてましたよ~」
リーファの肩で、ユイが楽しそうに注釈を加える。
「ああ、そう言えば。モンス気分が味わえてなかなか楽しい体験だったぜ」
にやにや笑うキリトを見て、リーファが恐る恐る聞いた。
「その……味とか、したの?サラマンダーの……?」
「あ、それ俺も気になるな。どんなんだったんだ?」
「うーん、言い表すならちょっと焦げかけの焼き肉の風味と歯ごたえが……」
「わっ、やっぱいい、言わないで!!」
リーファはキリトに向かってぶんぶんと手を振る。その手を掴んで、
「がおう!!」
一言唸ってキリトはリーファの指をぱくりとくわえた。
「ギャーーーーッ!!」
リーファは悲鳴をあげたあと、キリトの頬をばちこーんと大きな音を立てて叩いた。
「馬鹿だな」
「馬鹿ですね」
それを見ていたゲツガとユイはため息を吐いた。
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