IS インフィニット・ストラトス~転生者の想いは復讐とともに…………~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
number-32 episode
前書き
挿話。
「ふむ、お前様よ」
「……なんだ」
「妾の名前を考えてはくれんか? どうもいちいち《アルティメット・バード》などというのは疲れたわ。長いからの。で、そこでじゃ、妾にピッタリな名前であるようにな。一つよろしく頼むよ」
麗矢に呼ばれて出てきた女性。
一夏に名前を聞かれたことに嫌悪感を隠すことなく、それでも大胆に名を告げた。
だが、いつまでも《アルティメット・バード》と機体名で呼ばれるのはどうも嫌だったそうで、持ち主である麗矢に名づけるように頼んでいた。
その横で千冬と束の会話は進んでいる。
束はニコニコしながら、それでもどこか不機嫌そうに麗矢の様子を見ていた。
千冬は束に問う。
「……束、あれはいったいどういうことなんだ?」
「んふふ、ねぇちーちゃん。ISのコアには人格があることは知っているよね? あれは深層心理にある人格がれーくんのイメージを基に作り出されたんだよ。あそこまでグラマーな女性が出てくることはちょおっと予想外だったけどねー」
発明者はさらりと大切なことを言い放つ。
千冬は額に手を当てて、ため息をつくほかない。
一夏はまだ呆けている。脳が処理落ちして意識が無くなっていそうだが……どうやらそうでもないらしい。
「一夏っ! あんたはやっぱり胸が大きいほうがいいのね!」
「……うんって、違う! そんなことはない!」
「もう遅いわよっ!!」
鈴の平手打ちが一夏の左頬に炸裂。
綺麗に赤紅葉を作った。くっきりと跡が残っている。
一夏は涙目ではあったが、同情する余地なんぞない。あの女性が胸を張ったときに大きく揺れた胸にくぎ付けだったのだから。それをしっかりと鈴が見ていた。
自業自得である。
楯無は女性と麗矢の姿を見ていた。
やたらと仲が良さそうなあの二人が羨ましかった。それと同時に女性の立場には私がいたはずだったのにと、嫉妬に近い感情を持っていた。
自然と布団の上に置いていた手に力が入る。
握りしめられた布団はしわを作る。
ポロリと涙が零れ落ちた。
慌てて目元を拭いて落ちてしまった雫が作ったシミを隠す。
幸い誰にも気づかれていなかった。
麗矢は対面にいる楯無のことを見ていた。いや、見てしまったと言った方が正しいだろうか。
名前を考えているふりをして見ていないと装おうとしたのだが、見てしまった涙は消えない。
楯無の気持ちを考えたことがなかったことに反省する。
幼いころに身近にいた人のことを何も考えていなかったと。
考え付いた名前を言おうと顔を上げる。一抹の悲しさと共に。
「《ルティア》でどうだ?」
「ほう、安直ではあるがまあなかなかに良い名ではないか。よし、では今より妾の名はルティアじゃっ!!」
女性の名、安直に考えたものではあるが気に入ってくれたようだ。
アルティメットのアルティを組み替えただけなのだが、《ルティア》になった。
良い名前を付けることが出来てほっとした麗矢は楯無の方を見た。
向かいの楯無と目が合う。
恥ずかしそうに目を逸らしてはいるが、顔まで背けられることはなかった。
千冬は束に再び問いかけた。
何故、麗矢はISを操縦、動かすことが出来るのか。
帰ってきた束の答えは意外なものだった。
「うーん、それを話すならまずれーくんのISのコアの説明からしないと。いい? ちーちゃん。
れーくんのISは私が作ったもの、それと同じようにコアも私が作った。その作ったコアが試作品、所謂プロトタイプってやつだね。そのコアはスペックを求めすぎて誰にも動かすことが出来なかった。ほら、あれだよ。ちーちゃんが一番最初に乗ったやつ」
「……ああ、あれか。確かに動かなかったな」
「でしょ? それでね、使うことなくずっとしまっておいたんだけど、ある日れーくんを拾ったんだ」
「……待て、拾ったとは一体どういうことだ」
束は口を開かなかった。
このことはれーくんから聞いてとしか言わなかった。
これはれーくんの過去だからと。
束は続ける。
「拾った時になんかこうピピーン!ってきたんだ。で、プロとコアに触れさせてみたら見事に動いたっていうわけ、分かった?」
「ああ。そして、改めてお前のいかれ度合いも知ったよ」
「あーっ! それはひどい!」
二人は笑いあう。
少しして束がでもと続ける。
「あの子だってれーくんのことが好きなんだよ。だって、最初にれーくんが乗ったときの同調率が90%近かったからね」
「そっ、それは言わない約束じゃろっ!!」
ごめんごめんと舌を出しながら謝る束。
ルティアは恥ずかしそうに顔を赤くして上体だけを起こしている麗矢の陰に隠れた。
それをため息つきながら見る千冬。
「ため息つくと幸せ逃げるよー?」
「誰のせいだ。誰の」
束の余計なひと言にいらっときた千冬は束の頭にアイアンクローを繰り出した。
痛い痛いと言いながら何とかして逃げようともがく束。
それを横目に麗矢は視線を窓の外に向けた。
同じように楯無も窓の外へ向ける。
命を懸けてまで戦った二人はもう仲が良かった。
……そういえば一夏は……?
見ると、鈴の機嫌取りを必死にしていた。
代償として@クルーズの季節限定パフェ占めて1500円を支払う羽目になっていたが、いい気味だった。
鈴は眩しい笑顔で笑っていた。
8月のこと。
暑さがどんどん増して夏本番。
そんな時期になっていた。
「…………楯無」
「……? どうしたの?」
「……悪かったな、今まで」
「――――!! ……許してあげるわ。私はもう気にしていないもの」
楯無の笑顔も眩しかった。
ページ上へ戻る