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戦国異伝

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第百十五話 大谷吉継その五

「そうではないのか」
「はい、それは」
「何故慶次では駄目じゃ」
{あの者は目立ち過ぎます」
 それ故にだというのだ。
「お忍びの際に連れて行っては」
「あ奴は目立つからのう」
「だからです」
 それでだというのだ。
「あの者は今回は連れて行くべきではありませぬ」
「それで才蔵か」
「あの者はまだ慶次よりは目立ちませぬ故」
 そもそも慶次が目立ち過ぎるのだ。今や彼は天下一の傾奇者として天下にその名を知られている程なのだ。それではとてもだった。
「それで才蔵です」
「うむ、では慶次はこの度は」
「そのままでよいかと」
 つまり何も命じないというのだ。
「どうしてもというのなら都に行かせましょう」
「都で見回りをさせるか」
「ならず者は向こうから来てしかも悪事を見過ごさぬ者です」
 それが慶次だ、ただ傾いているだけではないのだ。
「ですから」
「都に送ってならず者達を退治させるか」
「政はできませぬがそうしたことはできます故」
 今都は復興が急激に進んでいる。信長は巨額の費用を注ぎ込みその上で荒れ果てた町を建て直しているのだ。
 それで都には人が多く来ているがその中にはだというのだ。
「ならず者が増えています」
「都に傾奇者が集まってな」
「ただ傾いてるのはいいですが」
 それでもだというのだ。
「ならず者も多く混ざっています」
「その連中が悪さをするからのう」
「ですから取り締まっておきましょう」
「それでじゃな」
「はい、慶次です」
 彼を都に行かせてはどうかというのだ。
「それでどうでしょうか」
「ふむ。放っておいたら遊ぶだけの者じゃ」 
 戦がないと政に関心のない彼はそうなってしまう、だからだというのだ。
「それでは勿体ないからのう」
「今は人手が足りませぬ」
「では都に見回りに行かせるとしよう」
「その様に。して近江です」
「飛騨者に才蔵じゃな」
 忍んでいくのなら彼等だというのだ。これが丹羽の考えだ。
 そして信長も丹羽のその考えを受けて述べた。
「よいのう。よく見て考えておるわ」
「有り難きお言葉」
「御主はまさに米じゃな」
「それがしは米ですか」
「木綿藤吉とあってな」
 ここで信長はその丹羽にこんなことを話した。
「そして米五郎左じゃ」
「それがしですか」
「後は掛かれ柴田に退き佐久間となる」 
 織田家の武の二枚看板はここでも出る。攻めることが得意な柴田と殿軍に随一の冴えを見せる佐久間の組み合わせだ。
「とにかく御主は米じゃ」
「米となりますと」
「欠かせぬ、織田家にな」
 微笑んでの言葉だった。
「それで米じゃな」
「そうなりますか」
「この度もじゃ。では才蔵と飛騨者達は確かに連れて行く」
「はい」
「出来れば御主もといきたいが」
 信長はその微笑みで大谷も見て述べた。
「それでは身を隠す意味がないのう」
「その者はとかく鋭く」
 大谷もこう信長に返す。
「それがしがどれだけ化けてもです」
「すぐに見破るか」
「そうであります故」
「わかった。では御主は早速伊勢で田畑にあたれ」  
 そこで開墾なり何なりをせよというのだ。
「よいな、それにあたれ」
「畏まりました」
「織田家はやることが多い」
 むしろ政の方に忙しいのだが織田家だ、信長は大谷にこのことを告げたのである。 
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