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戦国異伝

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第百十五話 大谷吉継その四

「これからも頼むぞ」
「それでは。ただ」
「ただ。何じゃ」
「それがし一人見事な者を知っておりますが」
 大谷はここで信長にこう切り出した。信長に用いられただけではなく推挙もしたのである。
「近江に若い。それがしと同じ位の僧がいますが」
「小坊主ではないのか」
「それがし実は元服したばかりですが」
 つまり加藤達と同じ位の年齢だというのだ。前田や佐々といった今織田家で活きがいいと言われている者達より少し若いというのだ。
「そのそれがしと同じ位でして」
「御主位の歳か」
「左様です、もう元服する歳なので僧になっています」
「そうか。それでその僧を推挙するのじゃな」
「宜しいでしょうか」
「うむ、ではその僧は何処におる」
 信長は早速大谷に尋ねた。
「近江の何処じゃ」
「はい、そこは」
 大谷は信長にその寺のことを話した。話を聞いた信長は早速こう言った。
「わかった。では早速その寺に行こう」
「行かれてそのうえで」
「その僧を用いますか」
「そうする。しかし」
 ここで信長は金森と丹羽にこう述べた。
「素性を隠して行かねばならんな」
「殿ご自身が行かれてもですか」
「それでもでございますか」
「若しその僧がわしの思う通りの者なら」
 それならというのだ。
「わしだと名乗って行くと意味がない」
「意味がないのですか」
「そうじゃ。わしはあえて身分を隠してその者を見たい」
 そしてだった。
「桂松は相当な者じゃ」
「いきなり千石を出すまでですからな」
 金森はその大谷を見て述べた。
「その者が推挙するならばですか」
「人はその器に相応しい友を持つ」
 そういうものだというのだ。無論悪い輩には悪い友がつくというのだ。
「だからこそじゃ」
「その者もかなりの者」
{そしてその者を用いたいのですか」
 金森と丹羽はそれぞれ大谷を見て信長に話した。
 そしてここで丹羽が信長にこんなことを言った。
「ですが殿、その者が切れ者なら」
「それならばというか」
「はい、殿がご身分を隠しても見破ってしまうのでは」
 丹羽はそうなるのではないかと信長に言うのだ。
「それでも宜しいのでしょうか」
「むしろそれだけの者ならばじゃ」
 信長は確かな笑みで丹羽に返した。
「よいではないか」
「もしやそれも狙いですか」
「その通りじゃ。見抜けるものなら見抜いてみよ」
 こうも言う。
「それだけの者ならな」
「ではお忍びで近江に赴かれるのはいいですが」
 丹羽はまずそれはよしとして主に述べた。
「一つ問題があります」
「身の回りのことか」
「はい、何時何があるかわかりませぬ」
「警護をつけよか」
「飛騨者達に才蔵が宜しいでしょう」
 丹羽が挙げるのは彼等だった。
「宜しければお連れになって下さい」
「慶次ではないのか」
 織田家きっての武辺者だ。ただ槍を取って戦うだけでは織田家でも随一の武勇の持ち主である。信長はここであえて彼の名を出したのである。 
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