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八条学園怪異譚

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第二十話 プールの妖怪その十二

「実体はないが幽霊も泳ぐことができる」
「あっ、こんばんは」
 二人は同時にその日下部に頭を下げた、その上で挨拶をした。
「今日もお邪魔してます」
「それでここにいます」
「私は毎晩泳ぐことを日課にしている」 
 見れば今の日下部はいつもの軍服姿ではない、赤褌一枚だ。若々しく逞しい身体は毛が薄く日本男児の身体だ。
「好きでな」
「幽霊だから運動の必要はないですよね」
「実体がないからな」
 聖花にもこう答える。
「食べることもなければ病気や肥満の心配もない」
「それでも泳ぐんですか」
「好きだからな。それに幽霊でもストレスが溜まる」
「それはあるんですね」
「泳ぐと、好きなことをするとストレスが解消する」
「だから毎日泳がれてるんですね」
「そういうことだ、私はそれで泳いでいる」
 それはストレス解消だったのだ、こういうことを言いながらそのうえで今は瞬時にかつての海軍の夏の詰襟を着て言うのだった。
「今日も泳いでいたがな」
「ここで、ですか?」
「こっちのプールで」
「このプールではなく大学のプールだ。君達が話しているのを聞いてそのうえでここに来た」
「あっ、聞こえてたんですか私達の話」
「そうなんですね」
「幽霊の耳は実体がある時より遥かによくしかも瞬時に移動出来る」
 こうしたところは幽霊のいいところだ、ただしいいことばかりではないのは実体がある時と同じである。長所と短所があるのは実体でも霊魂でも同じだ。
「それで来たのだが」
「そうだったんですか」
「それで私達のところまで」
「うむ、それでこのプールのことだが」 
 もうわかっているという口調だった。
「まずプールの中を見てくれ」
「あっ、河童さんにキジムナーさんいますね」
「普通に泳いでますね」
「やあこんばんは」
「今日も来たんだね」 
 その河童やキジムナー達、何時の間にかプールの中にいる彼等が二人に対して明るく手を振ってきた。
「僕達は水の妖怪だからね」
「こうしてプールの中でもよく遊ぶよ」
「ちょっと消毒用の塩素が気になるけれどね」
「泳いだりしてるんだ」
「そういうことね、まあお約束だけれど」
「プールの中にいるのはあんた達なのね」
 二人も彼等に特に驚かない、やはり水といえば彼等だからだ。
「何か凄く違和感ないし」
「当然の感じね」
「そうだろ?何ともないでしょ」
「僕達がいても」
「うん、凄く納得できるわ」
「自然よね」
 水の妖怪は水の中にいる、そういうことだった。
 それで二人もこのことに納得した、それで何ともないといった顔でそのうえで日下部に顔を戻してこう言った。
「プールのことはわかりました」
「それでシャワー室ですけれど」
「あそこには何が出るんですか?」
「どんな妖怪さんが」
「あそこには垢舐めが出る」
 日下部はその妖怪が出ると答える。
「あの妖怪がな」
「垢舐めっていうと確か」
 聖花はその名前を聞いてすぐに言った。
「あれですよね。お風呂場にいてその汚れを舐め取る」
「そうした妖怪だ」
「それがシャワールームに出るんですね」
「その通りだ」
「ううん、そうだったんですか」
 聖花は日下部からその話を聞いて頷く、そしてだった。
 そのシャワールームがある更衣室のところから赤い身体に黒のおかっぱ、童顔で裸の子供が出て来た。手は人間のもので足は指がなく先が上に反り返った爪になっている。
 舌は異様に長く腹のところまで下がっている、その妖怪が出て来て言って来た。 
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