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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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SAO編
  episode1 ソロプレイ野郎共2

 「おまえなあ、シド…なんであんなことしてんだよ!? PKか!? MPKなのか!?」
 「苦しい苦しい、胸ぐら掴むなって。いやいや、ちょっと誤算があってな。そっちこそなんでこんなとこいたんだ? お前じゃなきゃ殺しちまってたぞ」
 「……笑えねえぞオイ。今度なんか奢れよな。で、ここにいた理由? レベル上げだよ。多分そろそろ21層のボス攻略に入りそうだし。レベリングなら、今はここが一番効率がいい」
 「過疎ってるしなぁ」

 階段の脇に造られた安全エリアで腰をおろしている男の名は、キリト。くたびれたような色のロングコートを着た、盾なしの片手剣。装備だけを見ればスピード型、それも盾も持てない貧乏人にしか見えないが、その実この男は攻略組でも有数の、そして異色の攻撃特化型(ダメージディーラー)だ。さらに、皮の鎧や盾を装備せず筋力の使用値を制限することで高められたコイツの三次元的な機動力は、全プレイヤーでも指折りのもの。『ゴブリンの塔』のような立体的ダンジョンでは、その素早さは敏捷一極の俺より速いに違いない。

 そうかと思えば装備している片手剣は今のレベル帯では最高級品…たしかどこかのクエスト報酬品だったか…で、桁違いの攻撃力の代償に異常な筋力要求値をもつ剣だ。あの剣なら、たとえソードスキルなしでもここのゴブリンくらい一撃死させられるだろう。キリトにとって、ここはまさに絶好の狩り場だ。

 だがまあ、そんなことを言うのも癪なので、とりあえずからかっておく。

 「そうだな。目立ちたくないキリト君としては、ここは絶好のポイントだよなー!」
 「……別に、そういうわけじゃ、」
 「うんうん、「装備するのが恥ずかしいから」って、鎧も盾も装備しない位の徹底ぶりだしなー!」
 「…っ、それは関係ないだろ!!!」

 この冷静な男が顔を赤らめるのも珍しい。なんでも聞いた話では、ボス攻略では鬼神のごとき勢いで剣を奮い、その様子は鬼気迫る形相でとても近寄りがたい程の空気がある…らしいが、俺は見たことはない。こんな顔を見れるの、結構役得かもしれないな。今度映像結晶で保存してやろう。

 「……なあ、シド。お前は、今回も参加しないのか?」
 「ああ。だって俺のスキル構成、『盗賊』だし。純戦闘スキルの連中に混じれねーよ」
 「シドのスピード、いいと思うんだけどな。確かに『体術』スキルはスイッチがしにくいけど、出来ない訳じゃない。他の連中が慣れさえすれば、」
 「そのための練習時間も、もったいないだろ?トップギルドの皆さんに、俺みたいな風来坊のために時間を取ってもらうのは申し訳ねーよ」

 馬鹿みたいにからかうことだけを考えていた俺に対し、キリトは結構真面目に考えていたらしい。最近迷宮区の攻略のペースがだんだんと上がってきている。たしか今現在最大勢力のギルドの方針だったな…などと他人事に思う。このあたりの事情も、まあ立場上それなりには抑えている。

 とにかく、理由はどうあれ攻略がスピードアップする以上、高レベルの人材はいくら居ても多すぎるということはないのだろう。確かにレベルで言えば俺のそれも、目の前のこの男には劣るだろうがそれでも今の最前線のボス攻略に必要なくらいはある。

 だが、俺はキリトの誘いを断った。

 理由は、キリトが言ってくれたのもあるが、何より俺の性格的なものだ。この『盗賊』という本来ともに闘う仲間が不可欠なスキル構成な俺がソロプレイをしている理由は、単純に「パーティープレイが苦手だった」の一言に尽きた。

 一度組んだパーティーメンバーに、「一緒にいるとなにか人形を連れて歩いてるみたいで気味が悪い」と言われたのはいつだったか。まあとりあえず俺は「自発的」とか「自己判断」とかが大の苦手だった。要は「なまけもの」だったのだ。

 方針は、人任せ。ドロップ分配も、人任せ。その上戦闘もほぼ人任せとくれば、誰もパーティーを組もうとは思うまい。要するに俺は一人でいることで、「一人でせざるを得ない状況」を作りだして、逃げ道をふさいでいるのだ。今ではこれが落ち着くのだから末期症状だ。

 そもそもネットゲーマーという連中は、そういった積極的に相手を観察して指示を出したりすることが得意では無い。俺のように「指示待ち人間」と一緒にいるのは、やはり相当のストレスがたまるのだろう。まあこっちは他人事じゃあないが。

 まあ、今はいい。
 さて、そんな俺の些細な楽しみ。

 「で、キリト。いつも通り、今日は何か要望はあるかな? 鍵開け、鑑定、アイテムの売り買い、なんでもござれだぜ? 値段は外と比べてたった二割増し! この鑑定が、お客さんの命運を変えるかも!? 他にも索敵…は、取ってたな、罠解除などなど、同行も含めていろいろ取り揃えてまっせ?」

 『盗賊』クラスの俺の、もうひとつの顔。
 『ダンジョン行商人』として、俺はお得意のキリトに笑いかけた。





 要するに団体行動が苦手だった俺だが、そんな俺が曲がりなりにも『攻略組』……少なくとも、それに近いポジションを維持出来ているのは、一重に俺の成長の方法…経験値稼ぎのやり方に理由がある。

 この世界での経験値は、モンスターを倒した際に与えたダメージ量によって分配される。俺のこの『体術』スキルはダメージ量が少ないためにパーティープレイでは獲得できる経験値が少なく、個人でも狩りの速さのせいで効率は下がる。そんなスキルで戦うのであれば必然、高レベルを維持する方法は限られてくる。

 俺が取った方法は、「クエスト攻略利用」だ。
 クエストは、レアアイテムや情報を獲得できるだけでなく、その難易度に応じてかなりの経験値が加算される。俺の感覚的な統計にすぎないが、それは同レベル帯、初挑戦であれば更に高まるように感じた。結論、俺はソロプレイヤーとなり、クエスト攻略を主軸にプレイを始めた。

 レアアイテムを獲得できるクエストはやはり人気があるため、ちょくちょく俺を訪ねてきて何かいいアイテムを得られそうなクエストの話を聞きに来る奴は、『攻略組』にもボリュームゾーンにもそこそこ多い。キリトもその一人だが、こいつは「いい剣の情報があれば頼む」だけだが。

 っと、話がそれたな。

 そんなクエストの中で俺が獲得したレアアイテムの一つ、《ブレイバー・バック》。直訳で「冒険者の鞄」の名を持つこのアイテムは、第十三層の『旅人の忘れ物』クエで獲得したもので、ストレージの容量を大幅に拡大させてくれるという凄まじい効果を持つ。これで他のプレイヤーはおろか、六人(フルの)パーティー並みのストレージ容量を持つ俺はそれを生かして人の多いダンジョン内…主に迷宮区での商いも行っている。今のところ再度クエスト依頼が生じた様子はないため、もしかしたら一回限定クエだったのかもしれない。

 とにかく俺はそうやってクエストの攻略や注意点を体当たりで調べ、それをやりつくしてなお層攻略が進んでいない間は迷宮区をはじめとして前線をぶらぶらして、そこで結晶やポーション、ドロップアイテムの売買を行って日銭を稼…失礼、攻略組をサポートしている、っていうわけだ。

 まあ、普通の場合は、だが。
 もちろん、例外はある。

 たとえばそう、今回のように。



 
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