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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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SAO編
  episode1 一極化型の憂鬱3

 デスゲーム開始当日。

 俺は、二つのスキルスロットを『索敵』と『隠蔽』で埋めた。戦闘は、正直とても出来るとは思えない。ならば、サポートやクエストといったそれ以外の面で力を伸ばしていくのはどうか。そういう思考で俺は一つでも多く、ダンジョン探索に必要なスキルをとるように考えた。ちなみに親が俺に叩き込んだ道徳感の第一歩は「人のやりたがらないことは、自分が進んでやる」だ。

 ちなみに説明書きによれば、この行動ははっきり言って自殺行為だったらしい。
 この世界の攻撃は、《ソードスキル》というものを軸に組み立てていく前提で作られている。普通に剣で敵を斬るのとソードスキルで斬るのとを比べると、はっきり言って倍ではきかない差がある、ように感じる。そしてそのソードスキルを行うためには、その装備に対応したスキルスロットを入れなくてはならない。たとえば『片手剣』のように。俺は、それを拒否したのだから。

 レベルアップで増えていくスキルスロットのほとんどを俺は探索用、ソロプレイ用のスキルで埋めまくっていき、どうしても必要になった戦闘スキルは『体術』スキルを入れた。これについても望んで選択したわけではなく、『敏捷一極化』のビルドだった俺はまともな武器を装備することが出来なかったためにそうせざるを得なかった、というわけなのだが。

 そうやって、レベルを上げ、スキルを鍛え、ダンジョンを潜ってクエストをこなし。

 そのレベルが二十に達する頃には、俺は両手無装備鎧なし、徒手空拳の探索型といった、『盗賊(シーフ)』クラスとも呼べないような奇妙な外見とスキル構成を持つ、物好き野郎としか言えないようなプレイヤーになってしまっていたわけだった。





 (ぬおおおおおおっ!!!)

 走る、走る、走る!
 『敏捷』一極なめんじゃねえぞおおお!

 ダンジョン内の石畳から煙すら上げかねない速度で、俺は空間を走り回っていた。助かったことに今俺がいる三階は回廊がぐるりと塔の外周を縁取るような構造で、上層への階段は隠し通路を探すタイプのもののようだ。回廊には妙な上がり下がりがあって『敏捷』の数値のみでは走りづらいが、それでもゴブリン達相手にスピード負けしたりはしない。逃げる間も幾つかの床には落とし穴、剣山、アロートラップがみられたが、俺の『罠看破』のスキルはそれらを未然に発見し、危うい床を避けて走る。

 前方に、忍者よろしく廊下の石壁を回転させてゴブリンランサーがポップする。そいつを走ったまま使える体術突進技、《ムーブ・アタック》で弾き飛ばす。『体術』スキルは威力面で武器を使ったソードスキルよりは一歩劣るが、技後硬直や出の速さはアドバンテージがある。スピードファイター(に、ならざるを得ない)の俺には、おあつらえ向きのスキル。すさまじいスピードでの突進に倒れこんだゴブリンが耳障りな悲鳴を上げる。

 (うっし!)

 案の定倒すには至らなかったがピヨらせる程度の効果はあったらしく、体勢を崩してゴブリンが一旦停止する。本来ならここでラッシュへとつないでトドメを刺すのが常識だろうが、今は追われる身。経験値はおしいが、な…っと、そんなこと言ってる場合じゃない!

 後ろを振り返れば、そこにはこちらに向かって奇声を上げて走ってくるゴブリンの群れ。おおー、すげー。十はきかないな、二十近くいるんじゃないか、あれ。先頭を比較的足の速い「剣持ち」が走り、時折その背後からナイフが飛ぶ。

 『トレイン』と呼ばれる非マナー行為のお手本のような振る舞いだが、こんな状況ではそんなこと言ってられないし、そもそも俺に過失はないだろう。ない、だろう?

 とにかく、全部相手をしていてはとても身が持たない。そもそも俺がここに来たのはクエストの一環であって、レベル上げでは無いのだ。無理して相手をする必要は、全く無い。一応ダンジョンである以上、迷宮区ほどの大物ではないにせよボスがいてもおかしくないのだ。

 (……よし、このまま逃げきろう)

 全力で逃走を決め込んで、俺が周囲の石壁に目を向ける。むやみに取りまくった探索関係スキルのどれかが発動して、それらの内、仕掛けのある壁が分かり、カーソルが浮かぶ。そのうち一つを選んで、とりあえず全力で押す。
 こういった場所の仕掛けなら、大概は。

 (うっし、ビンゴ!)

 予想通り、仕掛けは回転扉。

 壁に細い線が走り、ゆっくりと…って重い!? オイオイ、ここも筋力補正いるのかよ!? はやく、はやく、はやく! ゴブリン達の奇声が、どんどん近づいてくる。扉が、ぎし、と音を立ててホコリを落とし、やっと回転し始める。

 (間に合うか…っ!?)

 背中にナイフの数本頂戴するのは仕方ないと諦め、石壁が開いたらぎりぎりで滑り込もうとし、

 「へ?」
 「え?」

 ちょうどその扉を挟んだ向こう側から声がして。

 その人物が、ぽかん、と口を開けて、俺を見、俺の後ろを見。

 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!?」

 ゴブリンの大群に、悲鳴を上げた。


 
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