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トロヴァトーレ

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第一幕その四


第一幕その四

「マンリーコ・・・・・・。はじめて聞く御名」
「まさか貴女は私を」
「はい・・・・・・」
 レオノーラはコクリ、と頷いた。
「それが私の望みであります」
「そうだったのか」
 マンリーコもそれを聞いて頷いた。
「それは私もだ。何という喜びであろうか」
「はい」
「最早これ以上の望みはない。想い人がこの手の中に入るのだから」
「それは私もです」 
 二人はうっとりと見つめ合っていた。だが伯爵はそれを見てその身体をワナワナと震わせていた。
「待て」
 彼はマンリーコに怒りに満ちた言葉をかけた。
「謀反人でありながら大胆にも王妃様のおわすこの宮殿に入るだけでも許せぬというのに。まだ居座るつもりか」
「そうだと言ったら」
 マンリーコも伯爵を見据えた。
「私は常に死神の鎌の下にいる。この黒装束はその証」
「それは私もだ」
 伯爵も言い返した。
「この白の服は我が主君への偽りなき心の証。それを脅かす者は誰であろうと許しはせぬ」
「嫉妬ではないのだな」
 ここで伯爵を挑発した。
「まだ言うか、この下郎」
 伯爵はさらに激昂した。
「何度でも言おう」
 マンリーコは彼を見据えた。
「嫉妬しているとな、卿が」
「面白いことを言う」
 伯爵は酷薄な笑みを浮かべた。
「それでは私も貴様に言おう」
「言ってみるがいい」
「貴様に死を与えるとな」
「ほう」
 マンリーコはそれを聞いて頬を吊り上げた。
「ではどうするつもりだ。衛兵でも呼ぶつもりか」
「そのようなことはせぬ」
「ではどうするつもりだ」
「これだ」
 伯爵は剣を抜いた。
「これで貴様の首を落としてくれよう」
「望むところだ」
 マンリーコも剣を抜いた。
「では行こう、決闘だ」
「うむ」
 マンリーコも伯爵も互いを見据えて頷き合った。レオノーラはそれを見て顔を青くさせていた。
「私はどうすれば」
「レオノーラ」
 そんな彼女にマンリーコが声をかけた。
「貴女は何も気にすることはない。すぐに終わる」
「そうだな」
 伯爵はそれを聞いて言った。
「貴様が死ぬからな」
「そんな・・・・・・!」
 レオノーラはそれを聞いてさらに顔を青くさせた。
「そうなったら私は・・・・・・。マンリーコ様、お止め下さい」
「それはできない」
 しかしマンリーコはそれを拒絶した。
「この男を倒すのは我が宿命、我が主君の望みでもある」
「それはこちらとて同じこと」
 黒い騎士と白い騎士が白銀の月の下で睨み合った。
「だが愛は我が手にある」
 マンリーコは勝ち誇って伯爵に対してそう言った。
「ならば私は」
 伯爵は彼を睨み返した。
「その愛を奪い取って我が愛としてみせよう」
「出来るものならな」
 二人はそこで姿を消した。暗闇の中から剣撃だけ聞こえる。レオノーラはその音を白い顔で聴いていた。
 
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