100年後の管理局
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第十六話 魔法、正体
前書き
本日はリリカルな日ですね。というわけで更新。
「こんにちは。」
突如としてそう声をかけられて、どうしていいか戸惑ってしまう誠也。そしてそれはアリスも同様だった。
二人はともに地球に来た経験が何度かあるが、その経験の中で知り合った記憶のない女性二人組であった。
「こ、こんにちは。」
戸惑いの末、二人ともそう挨拶するのが精いっぱいだった。
それを見た紫髪の女性はにこやかに微笑む。
「ふふっ。そんなに緊張しなくて大丈夫だよ。」
「そ。どうやらあたしたちには共通の知り合いがいるみたいだしね。」
「へ?」
金髪の女性が言った一言に誠也は戸惑いを隠せない。
地球にいる誠也の知り合いは一人とその家族くらいしかいないのだから。
「私達も和也君の友達で同級生なんだ。」
「さっき連絡したら後十分くらいでこっちに来るみたいだから待ってましょ。」
「あ、はい。」
二人にとってははじめて会う女性達であったが、その雰囲気と人柄から安心できる人ではないかと感じていた。
「あ、そういえば自己紹介がまだだったわね。あたしの名前はエリ・バニングスよ。」
「私は月村りんか。よろしくね。」
「私はアリス・T・ハラオウンと言います。で、こっちが。」
「高町誠也です。よろしくお願いします」
全員の自己紹介が終わった後、女性二人の表情には納得が浮かんでいた。
「テスタロッサに高町ね。」
「だから地球に遊びに来たんだね。」
「えっ?なんで地球に遊びにきたって―――もがっ!」
分かるんですか?という言葉の先は封じられる。
アリスがとっさに誠也の口を塞いだからだ。
地球に遊びに来るという表現をあっさり使えば自分達の正体が半ばばれてしまう。
魔法使いとまではばれなくても、少なくとも地球人でないことはばれてしまう。
魔法文化を持たない世界に、魔法をできる限り持ち込まないのは古来からの原則だ。
アリスが誠也の口を塞ぐのは当たり前と言えた。
「あ、あはは。」
アリスは笑ってごまかし、誠也はもがもがといいながら暴れている。
女性達はそんな二人の様子が面白かったからか、ぷっと吹き出す。
「アハハハ!!」
「ふふっ。そんなに必死に誤魔化さなくても大丈夫だよ。」
「へっ?」
何故誤魔化していると断言できるのか。
その言い方はこちらの正体を知っているみたいではないか。
驚くアリスをよそに、紫髪の女性が答えを口にする。
「ミッドチルダから来たんでしょ?」
「ようこそ。海鳴市へ。」
ミッドチルダ。
それは管理局の地上本部が存在する、第一管理世界のことである。
その世界には魔法使いの卵も含め、多くの魔法使いが存在する。
つまり、魔法使いの住む世界の代表とも言える世界である。
ただ、厳密に言うのならば誠也たちは管理局本局から来たのであって、ミッドチルダから来たわけではない。
しかし、そんなことは些末な問題と言える。
「えええ―――!!!?」
つまり、誤魔化しなどなんの意味もなかったということだ。
アリスは驚きのあまり、誠也を抑えていた手を離してしまう。
割と長い時間口を塞がれていた誠也はすぐさまアリスから距離をとる。
「ご、ごめん。」
手を膝におき、ぜーぜーと息を荒げる誠也。どうやらしっかりと口をふさいでいたらしく、呼吸もままならない状態だったようだ。
「アリスちゃんたちが魔法使いだってことは分かってるから大丈夫だよ。」
「転移魔法の瞬間もさっき見ちゃったしね。」
つまり、最初から全て知っていたということだ。
そう聞いたアリスは、途端に恥ずかしくなったように身を縮ませる。
必死に隠そうとしていたことが恥ずかしく思えたからだ。
「……アリス。」
アリスへと目を向ける誠也の瞳には、わずかな恨みがこもっていた。
おそらく自分が無駄に窒息させかけられたことだろう。
元々相手が知っていたのだから隠す必要性は皆無だったと言える。
「だ、だからごめんってば。」
アリスの声にはわずかに弱々しさがある。
おそらく誠也を窒息させかけたことと、必死に隠そうとしたことの恥ずかしさ故にだろう。
「でも誠也だって悪いのよ。あんなことを言おうとするんだから。」
結果的には何もなかったとはいえ、本来なら誠也のようにあっさりと自分たちの正体に勘付かれるような発言は控えるのが当たり前である。
だから本来ならばアリスが責められる筋合いはない。
窒息させかけたこと以外は。
「でもなんで魔法について知っているんですか?地球には魔法文化はないと伺っていたんですが。」
誠也はアリスへの恨みの視線を引っ込めてエリとりんかの二人に問いかける。
地球に魔法文化は存在しない。
この事実は、管理局としても把握していたし、祖母から曽祖母の故郷としても聞かされていたし、地球にいる兄のような友人からも聞かされていた。
つまり管理局に全く関わりのない人物が魔法の存在を知るはずがないのである。
その問いにりんかは微笑みを浮かべて答える。
「ふふっ。高町ってことは誠也君は高町なのはさんの親戚だよね。アリスちゃんはフェイト・T・ハラオウンさんと。」
「まさかひいお婆様方と関係があるんですか!?」
誠也は驚きの声を上げる。
高町なのはは約百年前の人である。そして目の前の人は、言っていたことが正しいのなら十五歳のはずだ。どう考えても直接関係があるように思えない。
「ううん、直接は関係ないよ。ただ、高町なのはさんやフェイトさんの事を良く知っているなら――」
「月村とバニングスっていう名前に聞き覚えがないかしら?」
二人はアリスと誠也に問いかける。
ちなみに二人がクイズのような形式で問いかけているのは、待ち人が来るまでの時間を潰そうとしているからだが、誠也とアリスはそんなことには気づかず、頭の中の記憶を探る。
「月村すずかさんと、」
「アリサ・バニングスさんですか?」
記憶を探っていき、引っかかった答えをそれぞれ口にする誠也とアリス。
その答えにりんかとエリは満足そうな表情を浮かべる。
「そう!大正解!」
「あたしたちはそれぞれ月村すずかとアリサ・バニングスのひ孫にあたるのよ。」
その答えを聞いて、誠也とアリスは納得する。
以前家族に曽祖母についての話を聞いたときに、親友や家族には自らの秘密であった魔法について一切隠すことなく全て明かしたと聞いていた。
そして月村すずか、アリサ・バニングスの両名は高町なのは、フェイト・T・ハラオウンの親友だったことは誠也もアリスも知っていた。
「なるほど、だから――」
「お――い!!!」
魔法についてご存じだったんですね。そう言おうとしたアリスの言葉は途中で男の声が聞こえてきたことによって中断された。
後書き
月村家とバニングス家の登場。
こうなれば残る和也の名字は一体……?
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