ワンピース~ただ側で~
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第4話『魚人海賊襲来』
「~~♪」
鼻歌がもれてしまう。
仕方ない。
だってこんなにも大きな猪を狩ってしまったんだから。
「んー、今日はついてたな」
なんとなく猪がしゃべってるような気がした方に顔をだしたら本当にそこに猪がいた。
いつもなら死角から弓を撃つんだけど今日は時間がなかったから、その場で撃った。いわゆる正面から喧嘩を売るという行為。
ちょっと一撃突き飛ばされて死にそうになったけど、狩れたんだから問題ない。
「あー、この服すりきれちゃったか……俺もベルメールさんにライオンの刺繍してもらおうかな」
あれ、かっこよかったなぁ。
トリップしそうになった思考を慌てて外す。
さっさと家に帰ろう。
「……って、あれ?」
村が見えた。まぁ、それは当たり前だ。
だけど、次に見えたのが問題。
村の離れから煙が上がっている。
あそこはどう見ても俺の家だ。
ということはアレだ。
もしかしたら夕食が出来るのかもしれない。
猪は少しでも軽くするために血とか内臓とかはもう抜いてあるけど、やっぱり一から料理するだけでも大変だ。
「……最悪丸焼きとかでもいいんだけど」
ナミとかノジコが難色を示しそうだから不安だ。
「とにかく早めに帰ろう」
もしかしたらもう二人とも家に帰っていて楽しみに食卓に座っているかもしれない。
それどころかナミとノジコさんの仲直りも終わって、夕食の準備すら終わって、俺の帰りを待っているのかもしれない。
裏道から近道で家に帰る。
いつもの幸せな光景。
ずっと続いてきた幸せな生活。
それがあると思って、帰宅を急ぎ、そして――
「――バカモン、ベルメール! つまらん正義感で命を無駄にするな! 意義のない戦いもある! 金で解決できる問題もある!」
ゲンさんの怒声と――
「ベルメール……さん?」
――血まみれでギザ鼻の妙な姿をした男に踏まれているベルメールさんの姿がそこにあった。
瞬間、血が沸騰した。
「っ!」
猪を捨てて、背中の弓をとり、照準を合わせて、射出。
「お前、なにしてんだ!!」
「ああ?」
面倒そうに呟いたギザ鼻の目に俺の矢がささ――
「チュ!」
口が異常に長い男に射ち落とされた。
「くそっ!」
次の矢を構えながら駆ける。
「ハント、やめるんだ!」
ゲンさんの声がなぜか遠い。
「ベルメールさんを離せ!」
矢を放とうとして、「チュ! アーロンさん。あそこまで歩くのも面倒だろ。俺がやる」
「ふざっ!?」
何かが飛んできた。それが矢を砕いて、俺の胸に突き刺さる。まるで銃弾のような一撃だ。
あまりの威力に背中から倒れてしまう。
いたくなんか……ない。
ベルメールさんから足をどけろ。
ただそれを思う。
「その足をどけろ!」
背筋と腹筋だけで起き上がる。痛みはなぜか感じない。
腰にさしていた木刀でギザ鼻の男に振りかぶる。
「チュ!」
「っあ!」
腹にまた一撃もらった。
「もうやめて、ハント!」
暖かくて柔らかい感覚が俺を包む。この煙草のにおいは「あ……よかった、ベルメールさん、生きてる」
「ばかね、あんたまで血だらけになってどうすんのよ」
「はは、親子だからね」
「あほ」
こつんと、優しいゲンコツだ。
俺を抱いたままベルメールさんが顔をあげる。
「……ゲンさん」
ベルメールさんの震えた声。
ゲンさんがこっちに駆け寄ってゲンさんも俺を抱いてくれる。
ギザ鼻が言う。
「女海兵……大人一匹10万ベリー、子供一匹5万ベリー。家族分払えばお前らは無事だ」
……家族分、大人一人と子供3人で計25万ベリー?
そういえばベルメールさんも少しはへそくりがあるっていってたけど、いくらあるんだろうか。
ナミやノジコの姿が見えない。
ベルメールさんがこんなにに血だらけで、こいつらは一体、何で、誰だ。
いや、予想はつく。
人間とは思えない肌、体。服の隙間から見えるエラ。
要するにアレだ、魚人だ。しかも俺達の村を襲っていることから多分海賊かなにか。
俺が狩りをしてる間に来たのか……この魚人の海賊たちは。
ギザ鼻に聞えないように、ゲンさんが小声で囁いてきた。
「今、全財産いくらある」
「足りないわ……へそくり足して15万と少し」
全然足りない。
どうするんだろう。
どうすればいいんだろう。
「おい、アーロンさん。4人分の食事が用意してあるぜ。4人暮らしのようだ」
そういったのは蛸の魚人だ。
俺はこのまま動かないほうがいいんだろうか。
いや、まぁ傷がいたくてあんまり動けそうにないんだけど。
蛸の言葉に、ゲンさんが立ち上がって、なんでもないように言う。
「さぁ、ベルメール……さっさと大人一人分と子供一人分払ってしまいなさい。今日は夕食に招待されてたんだったな……折角の料理が冷めてしまう」
その言葉に耳を疑った。
思わず抗議を挙げようとした矢先「あの二人にはこの島から出て行ってもらう、そうする他、お前たち親子が助かる術はない」
ゲンさんにそっと言われた。
一瞬、意味がわからなかった。
二人は、ノジコとナミの分が足りない。
いや、うん。わかる。
お金がないことはわかる。
だけど、ナミとノジコはどうするんだ?
島を出るって……まだ10歳くらいの女の子二人でどうやって生きていくというんだろう。なによりベルメールさんと離れるなんて、そんなことあっていいわけがない。
でも、そうしないとベルメールさんが殺されてしまう。
それはいやだ、だめだ。
わかるけど、わからない。
いや、少し違う。
わかりたくないんだ。
「よぉし、確かに15万ベリー受け取った」
――俺には何も出来ない。
「よかった……助けてもらえるのね」
言葉を漏らすベルメールさん。俺をそっと地面に横たえて、立ち上がる。嫌な予感がする、駄目だ。ソレから先は言っちゃいけない。
――確かに俺たちに血のつながりはない。だけど、それ以上の絆があったと、俺は思ってる。
だから、わかる。
だから、思う。
どうしてこうなったんだ。
「子供3人で15万ベリー」
ベルメールさんの言葉に、背を向けて歩いていたギザ鼻の動きが止まった。
――少し貧乏だけど幸せな家族……そう思っていたのに。ずっとそうやって生きていけるって思ってたのに。
「それは私の娘と息子の分……私の分は足りないわ」
やっぱり、そう言うと思ってた。
それがベルメールさんだから。
――どうしてこうなったんだろう。
「ベルメール、お前!」
ゲンさんの声がどこか遠い。
「ゲンさん、ごめんなさい……私、家族がいないなんていえないや」
涙がこぼれた。
涙が止まらない。
なんだ、これ。
なんなんだ、これ。
お母さんが死んで、また母さんも死ぬのかよ。
そんなことがあっていいのか。
――俺には何も出来ない。
ベルメールさんが泣きながら、笑いながら。
「口先だけでも親になりたい……あいつら、私の子でしょ?」
言ってくれた。
「ベルメールさん!」
ナミとノジコが草陰から飛び出して、ベルメールさんに抱きついた。
でも、俺は行かなかった。
体が痛くて動けないとかじゃない。
行きたくなかったからだ、認めたくなかったからだ。
ベルメールさんがナミとノジコの頭を撫でながら、俺にも視線を送ってくれる。
納得がいかない。
ベルメールさんが死んだら、ナミとノジコはどうするんだ。
二人ともベルメールさんのことが好きで好きでたまらないはずなのに。
今死ぬなんて、そんなの勝手だ。
そんなことがあっていいわけがない。
「もっといろいろ……本でも洋服でもいっぱい買ってあげたかった。食事だってハントに気を使わせてばっかりで……ごめんね、母親らしいこと、何もしてあげられなかった」
ふざけんな。
ふざけんなよ!
「そんなことないよ! 何もいらないから死なないで! ずっと一緒にいて!」
「ベルメールさん強いんでしょ! あんな奴等やっつけて!」
「私が世界地図を描いたら見てくれなきゃ駄目だよ!」
「長生きしてくれるって……そういう母さんでいてくれるって……そういったんじゃないのかよ!」
「……ごめんね」
違う、そんな言葉求めてない。
――死んでも守りたいって、そう思ったんじゃないのか? 本当に何も出来ないのか?
「こいつらはお前の子でいいんだな」
「ええ、そうよ!」
「ベルメールさん、死んじゃだめだ!」
「助けて、ベルメールさんを! 誰か!」
ナミの声がこだまする。
「お願い、ハント!」
ナミが俺に助けを求めている。ゲンさんもいるのに、俺に、だ。
少し、嬉しい。
大丈夫。
だから、安心していいんだ。
ナミの言葉に、頷く。
「ああ」
「……え?」
うなづく俺がおかしかったのか、ナミの顔が信じられないものを見るかのような顔になった。
自分から俺の名前を呼んどいてそれはどうなんだ?
――死んでも守る、そうだ……そうだ。
「この子たちには手を出さないのよね?」
「勿論だ、てめぇが大人しく死ねばな」
簡単なことだったんだ。
興奮しすぎて忘れていた。
そうだ、みんな助かる簡単な方法がある。
金だ。
「……金があれば助かるんだったっけ?」
「あぁ?」
ギザ鼻の目が俺に向く。
ベルメールさんが驚いたように目を向けてきた、ナミも、ノジコもだ。
「ハント?」
やだ、ベルメールさんまで。
そんなに見つめられると照れるじゃないか。
「ナミ、ノジコ……大丈夫だ。ベルメールさんは死なないよ」
「え」
「ハント?」
うむ、ナミのぽけっとした顔、びじかわいい。
美人とかわいいをまぜてしまうくらいだ。
ノジコも美人だけど……まぁ、そこは感情補正だ、ごめん。
「ガキ……てめぇが金を持ってるとでもいうのか?」
「家に入って来てもいい?」
「……いいだろう」
「は、ハント!」
心配そうな顔しないで、ベルメールさん。
痛む体に鞭をうって、家の便所に入る。
ついでにトイレを済ませてしまおうって思ったけど……まぁ、流石にこのタイミングでそれはないか。
便器カバーを外して、その中を探る。
しかし、体が痛いな。
ちょっとむかつく。
一発だけでも殴らせてくれないかな。
……あとでやってみようかな、無理か
「お、あったあった」
自分のへそくりのことを忘れてたとか、こんな簡単なことに気付けないなんて……さっきまでぐちゃぐちゃ考えてた自分が恥ずかしい。一応中身を確認。
……うん、ある。
「ただいま」
封筒をギザ鼻に渡して、そのまま抱き合ってる3人のところに向かう。
「だめだよ、ベルメールさん……ナミとノジコを捨てようとしたら。俺らの親なんだから最後まで育てるっていう気持ちでいてくれないと」
思う。
こういう時って、本当に穏やかな気持ちになれるんだなって。
「は、ハント……あんたお金」
「うん、へそくりをためてたんだ……ほら、狩ったやつを他の村で売ったりして、さ」
「そんなことしてたの?」
「ふふん」
ベルメールさんに胸をはる。
「頭を撫でてくれてもいいんだけど?」
「はいはい」
呆れたようにそっと頭を撫でてくれた。
恥ずかしいけどなんかこう温かくて……あぁ、やっぱり、いいなぁ。
「っていうかそんなのあるなら最初から出しなさいよ!」
鼻水をぐずつかせながら驚くノジコに怒られてしまった。まぁ、正論だ。ごめん。
「よかったな、ナミ……お母さん死なないってよ」
「う゛ん゛……う゛ん゛!」
俺も泣きそうになる。
「さて」
そっと、3人から離れてそっと頭を下げる。
「……ごめん、ありがとう」
「「「?」」」
首を傾げた3人だけど、もうそれを気にして入られない。ギザ鼻が俺の背後に立ったから。
「てめぇ、どういうつもりだ?」
大丈夫、もう覚悟は決まった。
振り向いて、睨みつける。
「どうって……ちゃんとあっただろ?」
「……5万ベリーで、ちゃんとだと? 必要なのは大人一匹、子供三匹で計25万ベリーだ」
「だから、ベルメールさんの15万と俺の5万で計20万ベリー……大人一人と子供二人分。ほら、俺以外でちょうどだ」
「ハント!?」
後ろから聞こえるベルメールさんの声はこの際、聞こえないことにしてしまおう。
「……ふん、そういうことか」
ギザ鼻よ、やっとわかったか。
バーカバーカ。
胸に銃を突きつけられる。
一瞬、内心で悪口を言ったことがばれたのかと思ったけど、単純に金がないから殺されるだけのようだ。
「ハント、勝手なことを言わないで! それならそのお金で私が殺されたらいいだけでしょう!」
「ガキより大人のほうが金になる……殺すならこのガキだ!」
「……?」
ノジコとナミは放心状態だ。
うーん、まぁ混乱してるんだろう。今は泣き出さないだけマシだ。
もう、やるべきことはやった。
ギザ鼻が引き金に手を引いて「うおおおあおおおお!」
ゲンさんが銃を乱射。残念ながらというか予想通りというか、魚人には効かない。
「ハントを助けろ! 武器を取れ、戦闘だ!」
村の人たちが俺のために戦ってくれる。
こんなヨソからやってきた俺のために、だ。ほんと、この村の人たちが大好きだ。ありがたいけど、少し申し訳ない。
ギザ鼻はそれに気をとられたのか、突きつけられた銃が胸から離れた。
ベルメールさんまで立ち上がろうとしてるし。結構重傷っぽいからそりゃ駄目だ。もう動いたら駄目だよ。
最後だから、恥ずかしいけど呼んでみよう思う。
「……ベルメール母さん!」
「っ」
ベルメールさんが涙をこぼしながら背をふるわせた。
お辞儀を一つ。
「お世話になりました。大好きだった」
ギザ鼻がまた胸に銃を突きつけてきた。
「ノジコ、結局子供のころの喧嘩……俺の負けでおわったな。最初はアレだったけど気付いたら本当に兄妹でさ、すごく嬉しくて楽しかった」
「バカ……もう終わりみたいな言い方しないでよ!」
何だ、俺のために泣いてくれるのか?
「ナミ……その、なんだ……俺――」
ナミがまだ理解できてない目で俺を見つめてくる。
そんなナミもまた可愛いと思ってしまう。
きっとこいつは将来魔性の女になる気がする。
ナミには色々といわないといけないことがある。
俺はまだガキだけど、ガキなりに思っていたことを言おう。
「――お前のこと好きだったし、きっとこれからもずっと好きだ。兄妹なのに、ごめんな? そんで……一緒に世界をまわれそうにない。それが一番、ごめん」
瞬間、何かの衝撃とともに暗転した。
「このごみ、海に捨てとけ」
そんな声が聞えて気がした。
事件の日からまた少し時間がたった。
水平線の彼方を一望できるような切り立った崖。
寄せては返す波の音が耳に心地よく響く。
そこに、十字架を模してつくられた丸太が立てられていた。丸太の足元には花束が添えられており、誰かの墓だと想像することは難しいことではない。
それを、ジット見つめる一人の少女がいた。オレンジ色の髪のその少女の左肩にはアーロン一味の刺青がある。その肩を抱えるようにして、少女はただ座り込んでいる。
その少女に声をかける二人の人間がいた。
「ナミ」
一人は少女の義姉、そしてもう一人は義母。
「ノジコ……ベルメールさん」
少女達の村はいまや完全に魚人の海賊団に支配されてしまっていた。
既に海軍の船が5隻、いとも容易く沈められてしまったのだ。
そこで、ナミはもう悟っていた。
もう、この島に政府の助けは来ない。来ても沈められるだけ。
だから、ナミは言う。
「自分たちで何とかしなきゃ」
「なんとかって?」
首を傾げるベルメールとノジコに、ナミは笑う。
「一億ベリーでココヤシ村を買うの……そのかわりに一味に入って海図を描けって」
「い、一億!?」
「そんな大金を一人で!?」
「でも、やるしかないでしょ?」
あたふたするベルメールとノジコだが、もうナミの覚悟は決まっているようだ。
静かに微笑を浮かべて首を振る。
「私が誰かに助けを求めたら……また誰かが傷つく、好きな人だって死んじゃう……そんなのもう見たくない」
ナミが目の前の墓を見つめて、目を閉じる。まるでその人のことを思い出すかのように、ぐっとなにかを堪えてまた前を向く。
「大丈夫、ハントが私達を守ってくれた……だから今度は私がみんなを助けるの!」
「ナミ」
「一人戦うって決めた、もう泣かないもん!」
立ち上がり、ベルメールとノジコを振り返る。
その大きな瞳が雫で滲む。だが、少女はそれを堪えて笑う。
「待ってて、ベルメールさん、ノジコ! ……私、戦うから!」
切り立つ崖の上。
寄せては返す波の音が変わらないリズムを刻み続ける。
水平線の向こうに広がる大きな雲が、悠然と流れていく。
まるで少女の背中を見つめるかのように。
雲ひとつない晴れ渡る空。
吹き抜ける潮風が水しぶきを運び、頬を濡らす。
実に心地よい天気。
海も荒れることなく、平和そのもの。
平和すら感じる穏やかな海のど真ん中、一つの海賊船があった。
船自体はさほどの大きさではないものの、ドクロの海賊旗をはためかせ、青の平原を進むそれは正に自由と呼ぶに相応しい。
そんな海賊船の一室、その檻の中に一人の少年がいた。
年の頃はおそらく12程度といったところだろう。ぼさぼさで短めの茶髪と黒い瞳。体には包帯が巻かれており、手には枷がはめられている。
仰向けの体勢のまま、動かない少年はともすれば死んでいるようにすら見えるが、よく見れば腹部が上下に動いていることから寝ているということが見て取れる。
檻の中には他にも数人の人間が同じように枷をはめてられているがその彼らの姿は見事にまとまりがない。
ある者は女性、長い髪とふわりと香る甘い匂い、見るからに高級そうな服に身を包んでいる。
またある者は男性、頬についた大きな傷と厳しい表情、乱雑にそろえられた髪と乱暴に着込まれている服が特徴的だ。
その他に子供であったり、老人であったりと様々な人間がいるが、性別、年齢、服装もバラバラでどういった集団なのかなかなか想像することすら難しい。
「ったく、このガキまだ寝てやがる……もうすぐローグタウンに着くっつうのに」
そんな彼らを一瞥したまま、檻を監視している男が不貞腐れたように呟いた。その隣で同じく檻を監視していた男が肩をすくめて笑う。
「そういうな。怪我をしてるが見た目は悪くない。体だって肉付きもいいし、よく引き締まっている。偶然拾ったにしちゃ結構良い値で買ってもらえそうなわけだし」
「いや、それはそうだがよ。得意なことやらを知っとかねぇと売り込むときによぉ」
「まぁ……それはそうだが」
あくまで文句を言おうとする男にもう片方が肩をすくめて笑う。
「ま、こいつら一人につき最低でも10万にはなるだろ……今の俺らにしてみれば十分だ」
「ちげぇねぇ……しかし、こいつの国が世界政府非加盟国じゃなかったときのことを考えたら――」
「――今更だろうが、そういう体裁を保っときゃあバレないんだよ」
「それもそうか」
声をそろえて笑う彼らの台詞に、いまだ寝ている少年以外は背筋を振るわせた。
自分達の未来がなんとなく想像がついたのだろう。
元々、彼らは好き好んでこの船に乗ったわけではない。それはもちろん枷をはめられていることからもわかるだろうが。
彼らは攫われた。この海賊たちに。
この世にはヒューマンショップと呼ばれる場所がある。様々な場所から集められた人間たちを売りに出し、奴隷として手に入れる。そういう場所だ。
グランドラインのとある場所にあり、並大抵の者ではたどり着けないことから、ヒューマンショップ側からそれぞれの海へと仲買する形で海賊たちから商品となる人を手に入れるという手法がとられることもある。
グランドラインに入れない海賊たちはそれでも十分に金を稼げるし、ヒューマンショップ側も商品を楽に手に入れることができる。
そういうある種のラインが存在するわけだがこの船もそういったヒューマンショップに人を売る海賊船。
下卑た笑みを浮かべている男たちだったが、甲板部から「おーい、島がみえたぞ」という声が響いて立ち上がった。
「下船準備、始めるか」
「おおよ」
それを合図に、ただただ目に悲壮の涙を浮かべる檻の中の人間たちには目もくれず、男たちは動き出す。
檻の中で寝ている少年は未だに動かない。
少年は少年の知らないところでグランドラインへと入ろうとしていた。
後書き
原作より多いベルメールさんの貯金……ハントの狩りのおかげできっと食費が少し浮いたんでしょう。
ヒューマンショップ云々のくだりは作者の勝手な妄想です。
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