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ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~

作者:字伏
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フェアリィ・ダンス編~妖精郷の剣聖~
  第四十七話 反撃の支配者

一合、二合、三合・・・ステラの支援魔法を得ての近接戦闘。それに支援魔法抜きで対抗するソレイユ。近接での魔法の撃ちあい。何合もの剣戟が奏でる音が周囲に響き渡り、いくつもの魔法が相殺し合う爆発音もまた周囲に響き渡っている。それを遠巻きに見ている種族の領主たちは戦いを観戦しながら話し込んでいた。

「支援魔法抜きであの強さ・・・彼は本当に人間ですか、ルシフェル?」

「何気にひどい言い草だな、ドロシー・・・」

「いや、それが正常だと思うぞ?」

「≪火葬の軍神≫や≪天翔の風神≫、≪大地の剣神≫もあれくらい出来てただろ」

「≪神代(かみよ)三剣(さんけん)≫ですか、懐かしいですね・・・って、そうじゃありません!ではあなたは彼が“王”に並ぶ実力者だとでも?」

ドロシーの言う≪神代(かみよ)三剣(さんけん)≫とは、≪種族九王≫の中でも対人に特化していたサラマンダー、シルフ、ノームの王を総称した呼び方である。

「少なくとも、あれを見てそう思わない奴はいないだろうな」

ドロシーの質問に答えたのはルシフェルではなく、シェイドだった。

「王の力を間近で見てきたからわかる・・・あの二人の実力がな。特にソレイユは≪神代三剣≫にならぶ実力を持っていると思って間違いないだろ」

シェイドの言葉に何か口を開きかけたドロシーだったが、途中でその言葉を飲み込み口を閉じることとなった。

「まぁ、なんにせよ・・・今の俺らにできることは静かにこの勝負を見守るだけだな」

締めくくるようにルシフェルが言うと他の二種族の領主たちはそれから口を開くことを無く、ソレイユとステラの勝負を見守るのだった。



ところ変わって、ソレイユとステラが戦っている場所から南西に一㎞ほど離れた場所にある一本の巨木の枝に二人のプレイヤーがいた。一人はふさふさの尻尾とネコ耳を生やしたケットシーの女性、一人は体全体を覆い隠す黒いフード付きのマントを羽織った種族の検討が難しい男性だった。
女性は裸眼で、男性は双眼鏡を使ってソレイユとステラの戦いを遠巻きに見ていた。

「さすが剣の世界で頂点に立つ、と称されたプレイヤーだけあるね、彼」

「ああ、予想以上だな」

「それにあのウンディーネの娘もなかなかだね・・・あんな風に支援魔法を使う人はなかなかいないよ」

面白そうに言うケットシーの女性に男性は呆れたように溜息を吐くと話題転換を図った。

「はぁ・・・それにしても、支援魔法を掛け合せることで相乗効果を得る、か。なかなか、発想が豊かだな」

男性がいった支援魔法の掛け合わせとは、先ほどソレイユが感じた効果のありすぎる支援魔法の正体だった。ある特定の支援魔法を重ねて発動させていくことでより強い効果を得られると言うものである。

「ウンディーネの王がそれの第一人者だけど・・・なかなかできる人がいないんだよねー」

「掛け合わせする魔法の選択が難しいからな。一つでも間違えば、バフは得られずデバフになってしまうからな」

「何せグリモワールなんてものがあるこのご時世・・・それがさらに難易度を上げているんだよねー」

グリモワールで得られる魔法の中には当然支援魔法も含まれている。強化魔法(エンチャント・スペル)もある意味でその一種であると考えられるし、複合魔法(マルチ・スペル)や最上級魔法(ハイエンド・スペル)だって例外ではない。それを含めると、果てしない数の組み合わせが存在し、そう易々と魔法の掛け合わせなどできない。

「今ある手札で最大限のパフォーマンスを行う・・・言うのは簡単だけど、実行するとなると果てしなく難しいんだよね」

「ああ、そうだな・・・だが、今は見極めさせてもらうとしよう。剣の頂に立つと称された者の力を。剣聖と呼ばれし剣士の力を」

「だねー。都合よく闘ってくれてよかったよ、ホントに」

それから二人は会話することなくソレイユとステラの戦いを見据えるのであった。



「なるほど、な・・・支援魔法の掛け合わせか」

「っ!?もう気づいたん!!」

「疑問に思ってたんだよ。それだけの効果があるなら何で最初からそれをやらないのかってな。答えは簡単、やらないのではなく、出来ないんだ」

「・・・正解や。口で詠唱しなければならないこの世界の魔法の特性上、それは仕方のない事なんよ」

「だろうな。強化魔法(エンチャント・スペル)があるならばまだしも、それなしで即座に二つの魔法を唱えるのは難易度が高いからな。“わたし”達みたいな剣士にとっては特に、な」

なんて会話をしているが、二人は今剣戟の最中である。流して、弾いて、返して、返されて、申し合わせているとしか思えないような見事な高速剣戟が行われていた。ソレイユが後手に回る時もあれば、ステラが後手に回る時もある。
『絶対に返す剣』―――それは、かつてSAOにおいて最終ボスである≪冥王≫オシリスに言った言葉である。カウンターこそがソレイユの戦型と言って間違いではない。そう、間違いではないのだ。しかし、基本を徹底して鍛錬するということは、それなりにほかの闘い方ができるということ。つまりは、ソレイユは臨機応変な万能型にもなりえるということである。基本を徹底的に鍛錬した副産物と言っても過言ではない。故にソレイユはカウンターを狙うだけではなく、自分から攻めに転じることもできるのである。

「ふぅ」

「・・・くっ!?」

剣戟の途中で軽く息を吐くと、間合いを詰めていく。ステラとの勝負では初めてとなるソレイユからの攻撃は奇襲という形で行われた。いきなり今までにない力で弾かれた刀にステラは苦悶の声を上げる。その隙にソレイユはステラの懐に入っていく。そうはさせじと翅を使い、ソレイユと距離を置こうとするステラ。追尾魔法を使いソレイユを牽制するが、単発魔法をもってそれを無力化していく。

「しつこい男は嫌われるで!!」

「それは困る。だから、とっとと捕まってくれ」

「いやや!」

そんな会話(?)をしながらもステラは支援魔法の詠唱し、その効果を得ると、改めてソレイユに切り結んでいく。再び高速で放たれる剣戟をソレイユはものともせず流し、去なしていく。

「厄介なものだな・・・支援魔法ってのも」

「余裕で防いでおいて、どの口がそれを言うんや!」

「ごもっとも」

なんて馬鹿なやり取りを行っているが、本気となったソレイユはこれよりひどい斬撃の嵐を知っている。しかも、それはSAOやALOのようなVRMMOの中ではなく現実での話だ。ステラには失礼な話になるが、自分の恩師に比べたら“この程度”はどうってことない。しかし、ステラが標準をかなり逸脱した剣士なのは間違いない。SAOの中でもソレイユとこれほど打ちあえる人物は数えるほどしかいない。シリウス、ベガ、オシリス、そして、ルナ。そんな四人と比べて、ステラの剣技はどこかルナに通じるものがあった。

「(道場剣技・・・剣道、か)」

月影桜火/ソレイユが学ぶ真剣で戦う実践的な剣術と稽古を続けることによって心身を鍛錬し人間形成を目指す「武道」である剣道は似て非になるものである。桜火の陰陽月影流二刀剣術やベガの天衝鳴神流居合術のような実践剣術は相手の命を奪うことを前提に置いた技や技術が存在する。対して剣道は防具を着用し、真剣ではなく竹でできた竹刀と言うものを用いる。怪我こそはすれ、命を失うことはまずない。このことから、実践剣術家は剣道を軽視しがちな傾向がある。

ギィン

一際高い甲高い音を立て、ソレイユとステラは鍔迫り合いになった。

「たいしたものだな」

「何がや?」

ソレイユの呟きにステラが反応する。

「結構な修練が積まれている剣技だな、と思ってね。現実の剣道界でも結構有名人だったりする?」

「・・・自分で言うのもなんやけど、結構有名人やで、(ウチ)

剣道界と聞いたステラが眉をひそめるが、それは一瞬のこと。ニヤッと笑いながら言った。だが、鍔迫り合い中だということを忘れてはいけない。

「けどな、(ウチ)より強い人は結構いると思うんよ。少なくとも、(ウチ)が今までに一勝もしたことない子が一番身近に居るしな」

その言葉からは特に目立った感情は含まれていなかった。ただ、ありのままの事実を口にしているようだった。

「言いたいことはわかるが、何とも思わないのか?」

「そんなことあらへん・・・勝てないことを悔しく思う。自分より強いことに嫉妬もした、羨望も抱いた」

「・・・・・・」

ギィン、と再び大きな音を立てて鍔迫り合いが終わる。静かに距離を取る二人。

「けどな・・・それ以上に尊敬できるんや。あの子の努力を知っているから・・・だから(ウチ)は≪無冠≫のままでええ。あの子の、≪無敗の剣姫≫の隣に立てるのは後にも先にも(ウチ)だけや」

そういいながら、ステラは愛刀を正眼に構える。

「ホントは、あの子用に編み出した技なんやけどな・・・君は強すぎるから、使わざるおえへんわ」

「・・・なら、こちらも本気で行かなければ、失礼と言うものだな」

だが、ソレイユは構えない。構えないことがソレイユの構えであるからである。実践剣術家は剣道家を軽視しがちとは先ほど言ったが、全員が全員そういう訳ではない。現に月影桜火/ソレイユは“本気”でステラの相手をしている。剣術であろうが、剣道であろうがソレイユにとっては関係ない。相手が本気で来るならば、自分も本気で挑む。若干武人気質のあるソレイユの回答がそれであった。
先ほどまでとは打って変わって辺りは静寂とが支配する。三種族の領主たちも遠巻きに見ていた二人もソレイユとステラから目を離さない。

「「・・・・・・」」

睨み合う両者。喉が焼け付くような緊張を周りに与える。ゴクリと唾を飲み込むドロシー。それが合図となった。

「―――っ!!」

仕掛けたのは―――ステラだった。今まで以上の速度で、ソレイユの懐に潜り込むと正眼に構えていた刀を横薙に振るう。所謂、胴薙ぎと呼ばれるそれ。高い修練を積んだものが放てる鮮やかな一閃。だが、世の中には返し技と言うものが存在する。

「――――」

忘れてはいけない。ソレイユの戦型はあくまでカウンターである、ということを。臨機応変に戦えようとも、万能型に見えようともそれはあくまで布石でしかないということを。

「まだや!」

渾身の胴薙ぎを返されてもステラは驚くことはなかった。それどころか、返されることを前提においていたように思える。

「―――なっ!」

“あの”ソレイユが驚きで声を上げた。それほどまでにステラが行ったことが信じられなかった。ソレイユはステラの攻撃を返した。だが、ステラはその先をいった。ソレイユのカウンターにカウンターを当てたのだ。姉の焔をもってありえない、と言わせたことのある『カウンター返し』。まさか、自分が喰わされることになるとは思ってもみなかった。

「(見事、としか言いようがないな)」

心の内でそう呟くソレイユ。だが―――HPをゼロにしリメインライトと化したのは、ステラだった。リメインライトと化す直前ステラの表情は何が起こったのかわからないといった表情だった。それは、死合を見ていた五人もそうだった。ソレイユがステラのことを斬った。それは間違いない。だが、何時刀を振った?何時斬った?いや、それ以前に―――何が起こった?そんなことが、ステラを含めた六人の心を支配していた。

「悪いな・・・全てが布石なんだよ、カウンターのためのな。どんな状況だろうと、どんな力だろうと、どんな技だろうと『絶対に返す』たとえそれが、“わたし”の放ったカウンターを返したカウンターですら例外じゃない。それが“わたし”の本気のカウンター。それが、“わたし”の剣・・・」

それは、そう、『全て』が布石でしかないのだ。刀を鞘に納めながらソレイユは言う。その技の名を。

「これが、“わたし”のたどり着いたカウンターの極地―――名を【反撃の支配者(ロード・カウンター)】だ」

後の先を究めし剣。究極の返し技。それが、≪剣聖≫と呼ばれし鬼神の“剣”。

そして―――この日、この時、この瞬間が“本当の意味”で数多の妖精が住まうこの世界に、剣の頂に立つと称された≪最強≫の剣士が舞い降りた瞬間だった。
 
 

 
後書き
あー、やっと出せたよ、これ・・・

ルナ「これって、反撃の支配者(ロード・カウンター)のこと?」

うん。鳩麦先生とのコラボでリョウに止めを刺したのもこれだしね・・・

ルナ「・・・そういえば、ステラってプレイヤーって、もしかして・・・」

おや、想像つきましたか?まぁ、まだリアルでは出てきていませんが、それは後の楽しみということにしておきましょう。

ルナ「あと、怪しい二人組も出てきたよね・・・」

まぁ、勘のいい方ならわかるでしょう。では、今回はこの辺で失礼いたしやすっ!

ルナ「感想などお待ちしております!」 
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