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シャンヴリルの黒猫

作者:jonah
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Chapter.1 邂逅
  9話「帰り道」

 
前書き
公開するのが半端なく恥ずかしい一話。
ちくしょう、もうだめだ!

いつか絶対加筆修正して互いの心中の告白をシリアス調にしてみせる。
作者はシリアスしか書けない人種なんだよ。きっと。 

 
 その後2人は無言で森林から戻ってきたわけだが、ふと思い出したようなユーゼリアの言葉で先ほどとはまた違った微妙な空気が場を流れていた。

 つまり、

「そういえば、これを山分けしたらさよならなのよね」

 である。

 アシュレイは内心で、

(ええええなんでそんな名残惜しそうに言われてるの俺!? これは何か、「お前餓死しかけてるのを救ってやったのにこれっぽっちの金で足りるかボケェおいこらこの聞こえなさそうで聞こえる絶妙の音量で言った真意に気付けよゴルァ」を遠回しに言ってるのか!? そうなのか!!?
 しかし携帯食料ってそんな高価な物なのか? いやだが1000年前では考えられないほど日持ちも良くなったと聞くしひょっとしたら俺はとんでもないことをしてしまったのかギリギリセーフなのかもしくはやっぱりギリギリアウトか。
 しまった何て返せばいいのか見当もつかない! だって遣い魔にそんな資質いらねーし!! 俺悪くねーし!!!)

 と混乱、恐怖、疑問、焦燥のすえ回り回って開き直っていたし、ユーゼリアはユーゼリアで

(どどどどどどうしよう言っちゃった言っちゃった思わず思ってたこと言っちゃったけど小さい声だったし聞こえてないわよねそうだよね。ほらうんアッシュ無表情のままだしああでもこの場に流れる重い空気は何。私どうすればいいのああああやっぱりいいわけ考えておこうそうしよう。
 ええと、『しばらく独り旅だったからアッシュといると楽しくて』ってこれ本音じゃないいいい!!)

 とまあ混乱のスパイラルに陥っていた。

 ただ、2人とも過去に培われたポーカーフェイススキルを発動しているため、彼らはいたって普通の無表情である。無表情が普通かは知らないが。
 しかし、2人の焦りや混乱のオーラが、何故か辺りを殺伐とした雰囲気に変えていた。

 アシュレイは過去魔人やその他の遣い魔との対話でポーカーフェイスはなくてはならない物だった。

 ユーゼリアの方は、まあ過去にそういう仮面(・・)が必要だったとだけ、言っておこう。

 そんなわけで、実に第三者から声をかけにくい空気のままポルスに戻った2人は、この空気をなんとかせねばならぬと、とりあえず一時分かれてアシュレイが1人で達成報告をすることにした。
 というのは、このまま2人一緒にいても、気まずい空気が晴れるわけがなく、むしろより一層凝り固まると互いに察したからである。




 アシュレイがカウンターで手続きをしている間、ユーゼリアはギルドの外で壁にもたれながら空を見上げ、その整った眉を悩ましげに寄せていた。

(アシュレイ=ナヴュラ……)

 ユーゼリアは、これまでのかれこれ4年に渡る独り旅に、正直少々疲れていた。友人などほとんどいなく、そんな中偶然出会ったのは、記憶喪失で常識に欠ける、だがなぜか放っておけない気持ちにさせる、自分より4つ年上の食の恩に関してちょっと強引な青年。

 会話が楽しいと感じたのは、一体いつぶりだろう。

 それ程多くを語ったわけでもなく、まだ名前を知って半日しか経っていないのに、ユーゼリアにとってアシュレイとのこの僅かな邂逅は、それまでの日々を灰色と称せるほどに色鮮やかなものとなった。

 だが。

(だからこそ……巻き込んでは、いけない)

 ふと、太陽が雲に陰る。

「……ッ!」

 次の瞬間、ユーゼリアの周りを5人の男達が音もなく取り囲んでいた。
 直後、ユーゼリアの顔から色が消える。

「しまった……!!」



*******



「え、も、もうですか!?」

 あまりに早い帰還に吃驚している先の茶髪の受付嬢がわたわたとするのを目の端に、アシュレイは先程からのユーゼリアについて考えていた。

(あれは、食の恨みとかそんな事に対したものじゃなかったな。随分と思い詰めたように見えたが……)

 帰り道に発した“もうお別れ”。

 アシュレイとの別れを心底惜しむような響きだった。

 が、アシュレイ自身自分で言うのもなんだが、身元不明な男にひょいひょいと情を移しては、特にユーゼリアのような美しい少女が旅をするのは危ないだろう。それも、ただの記憶喪失者ならまだしも、アシュレイはよりによって魔人の遣い魔なのだ。いくら“元”が付くとはいえ、魔に属するものであった――今も、そうであることに、変わりはない。

 アシュレイは、純粋な“ヒト”ではないのだから。

 こちらも久方ぶりにあった人間で、まだまだ知りたいことも沢山あるし、ユーゼリアという人物が気に入ったのもあるから離れがたいが、彼女を気に入ったのなら迷惑になるようなことは余計、すべきではない。

 遣い魔など、共にいて百害あって一利なし。そんなことは、自分が一番わかっている。

 そこまで考えて、自分も案外情が移っている事に気付く。ひとり、苦笑した。

 遣い魔だった頃は見下し軽蔑こそすれ、自ら話しかけようなどとは微塵も思わなかったのにもかかわらず、ついさっき、微妙な空気になったとき、アシュレイはそれに慌てた。ユーゼリアとの会話を少なからず楽しんでいた事の証拠だ。

 茶髪の受付嬢から渡された報酬金をバッグに入れると、後ろを振り向いてはたと脚を止めた。

(……5人か。良く気配を消しているが、魔力はダダ漏れだな)

 不穏な気配がした。

 このギルドは町外れにある。時刻は夕方にさしかかろうかというところ。酒場も兼任しているギルドだから、本格的に混み始めるのは夜、もう少し後だろう。今もそこそこ広いギルドの中には3人組と4人組の7人しかいない。

 そして何より怪しいのが、扉の外、ユーゼリアと思われる魔力の気配が慌てたように戸口付近から裏手に移動していったことだ。

 それを5人が一斉に追いかけるのが怪しさに拍車を駆ける。

 彼女を狙っているのか。人攫いか? その程度ならユーゼリアは1人で撃退できそうだが。余程の手練れかあるいは――“殺し”を生業とする者達か。
 召喚魔道士である彼女は、基本遠距離攻撃型。接近戦に持ち込まれたら、しかもその相手が接近戦のプロならば、彼女に太刀打ちできるはずもない。今日見た限り、そんなに筋肉も無かったし、体力も見た目相応だ。

 ユーゼリアの事だから、他人に迷惑がかかるとかいう理由で裏手に行ったのだろうが、人に見られないことはつまり、誰からも助けが入らないことだろうに。

 まさか目の前で襲われる知り合いを放置するほど非情ではないので勿論助けに行く。


 外に出て数瞬。



 戸口には僅かな砂ぼこりと落ちた溜息が残った。 
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