とあるの世界で何をするのか
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第十六話 入学式
入学式の朝は見事なほどに晴れ渡っていて、まさに雲一つ無いという状態だ。まぁ、外れることの無い天気予報で先週から言われていたので、天気に関しては全く心配していなかったのだが、それでもこれだけきれいに晴れると気持ちいいものである。
さて、ドラグスレイブで研究所を消滅させてからというもの、俺の暗部活動はどうやら証拠隠滅のためのものばかりだったようだ。四月に入るまでのほぼ一週間でつぶした研究所は30にもなったのだが、それ以降は指令が途絶えている。土御門さんに聞いてみたところ、これまで処分に困っていた研究所を俺が全て消滅させたので、今現在、消滅させなければならないような研究所は残っていないということである。
四月に入ってからは暗部の仕事が来なくなった代わりに、柵川中学の入学準備などで忙しくなっていた。一応俺を含め、中学から学園都市に入ってきた連中は能力開発直後ということで、入学前能力測定だけは免除されている。それ以外は、まるで入学試験のような学力測定に始まり、普通の身体測定や体力測定、そして健康診断などを学園都市内の小学校から上がってきた人たちと一緒に受けた。
身体測定・体力測定・健康診断についてはともかく、学力測定までもが男女別だったので、男の状態で測定していた俺は佐天さんや初春さんに会うことが出来なかった。
当然、学校側は俺が女性にもなれることを把握しており、後で俺一人だけ残されて女性としての身体測定なども実施された。そして、制服も男性用・女性用ともに支給されたのだが、学校側からは式典などには男性の状態で参加するようにと言われたのである。一応、学校側としては男子生徒扱いということになり、あまり女性化してほしくないようだ。
四月に入ってからもう一つ重要な出来事があった。俺がこの世界に来てからすぐに土御門さんが手配してくれたアパートから、柵川中学の学生寮に引っ越したのである。どうやらというかやはりというか、俺の能力は柵川中学でのトップレベルにあるようで、寮も結構良いところを用意してもらえた。間取り自体は前のアパートとそれほど違わないのだが、それぞれの部屋の広さがかなり広くなっている。
なお、アパートに設置してあったテレビとパソコンは、俺の為に揃えられたものだということで寮に持ってきている。まぁ、パソコンの中にはあまり一般人に見せられないファイルなどがあるので、もしアパート据え付けで持って来れない場合は、中身を完全に復元不可能な状態で消去できるソフトとかを使わなければならないと思っていた。暗部ならそんなソフトを手に入れられる……よね?
引っ越しの荷物は俺の場合ほとんどなかったので、引っ越しの作業もあっけないほど簡単に終わった。しかし、俺の引っ越しが終わってすぐ土御門さんの高校の寮への引っ越しがあり、俺は手伝いで土御門さんの寮へ向かったのだが……まぁ、何というか、『俺の義妹はこんなに可愛いんだぜい』ってタイトルの美少女ゲームやその他諸々……土御門さんはやっぱり土御門さんだった、とだけ言っておこう。しかし、あのゲーム……まさか土御門さんが作った、なんてことはないよなぁ。それ以前に、美少女ゲームっていうか、いわゆるエロゲーというやつを土御門さんはどうやって手に入れたんだろう……。
さて、気を取り直して真新しい制服に着替えると、カバンを持って玄関に向かう。今日は入学式のみで教科書やノートが必要ないので、カバンの中は筆記用具などだけである。
「行ってきまーす」
ちょっとだけ元気良く言って寮を出る。入学式経験はこれで何度目になるだろうか、色々な世界で……特に高校の入学式は10回以上経験しているはずなのだが、それでも未だに緊張してしまう。俺が入学式というものに慣れる日は来たりするのだろうか。
学校に到着すると、すでに掲示板の前には結構な人数が押し寄せていた。一応、時間的余裕を見て俺も早めに寮を出たはずだったんだけど……。
取り敢えず、掲示板のすぐ近くまで行きクラスの確認をする。俺の名前を見つけて、同じクラスに初春さんと佐天さんの名前を探す……というか、俺のすぐ隣に佐天さんの名前があった。俺が“こ”で佐天さんが“さ”なので、ちょうど同じ出席番号になったのだろう。そして、初春さんの名前は一番上にちゃんと入っていた。
クラスの確認が済んだので教室へ向かう。入り口から教室の中を見てみると、すでに何人かの生徒が居たのだが、まだ誰も知り合いと一緒ではないのか、全員が一人で席についていた。
「おはようございます」
挨拶をして教室の中に入ると、一応皆挨拶を返してくれた。皆、一人ずつばらばらの位置に居たので、席順はどうなっているのかと一瞬考えてしまったのだが、黒板に席順が書かれていた。確認してみると俺は窓側の後ろから二番目という好位置で、しかも隣は佐天さんだった。というか、良く見たら出席番号順だ。まぁ、普通はそんなものか。
俺が席についてしばらくすると初春さんと佐天さんが入ってきた。初春さんは郵便局で見かけたことがあるけど、佐天さんを見るのは初めてである。とはいえ、あまり見続けても変に思われるだけだと思うので、また新しく教室に入ってきた生徒のほうへ視線を向ける。視線は向けてないものの初春さんや佐天さんのほうを気にかけていると、初春さんは一番前の自分の席で椅子に座り、佐天さんは初春さんの机の前で向かい合っておしゃべりしているようだった。
しばらく経ってチャイムが鳴ると、皆が慌ただしく席につき始める。当然佐天さんも俺の隣に座ったのだが、挨拶をして仲良くなるみたいなアニメチックな展開にはならなかったのはちょっと残念。
チャイムのあと少しして先生が入ってきたが、やはりアニメの超電磁砲で見た大圄先生だ。
「これから一年間、このクラスの担任を務める大圄だ。よろしくなっ!」
何ともフランクな挨拶である。その後、入学式の段取りなどの簡単な説明があり、俺たちは入学式のために体育館へ向かった。
「新一年生の皆さん、ご入学おめでとうございます。………………」
入場が終わり、校長先生の長い話が始まる。この後も教育委員会やらPTA役員やらの挨拶が続くと思われ、ここからは恐らく、ほとんどの新入生が睡魔との闘いになるのだろう。……なんて考えていたのだが、校長先生の話の長さはともかく、学園都市には教育委員会もPTAもなかったので、挨拶は意外と簡単に終わってしまった。
結局、式自体は1時間程度で終わり、その後教室に戻ってこれからの学校生活の心得についてや、注意事項などを色々と説明された。そして、休憩時間になったところで先生に呼び出される。
「このあとに自己紹介があるんだが、神代君の女性化については自己紹介後に先生のほうから言うつもりだから、自己紹介は普通にしてもらっていいかな?」
「あー、はい、分かりました」
廊下に出たところで先生から言われ、俺はすぐに了承した。確かにこういうことは俺が自己紹介で言ってしまうより、先生から説明してもらうほうが良いだろう。というか、俺から説明するのって面倒だったからちょうど良かったというのもある。
休憩時間が終わり、先生が戻ってくるとすぐに自己紹介タイムになった。出席番号順なので、俺の列の一番前から自己紹介が始まったのだが、何だか自慢げに「レベルは2です」なんて言っているのを聞くと、やっぱり学園都市だなぁと思ってしまう。
「神代騎龍です。この春から学園都市にやってきました。科目とか教科ではありませんが、好きなのはコンピューター系言語で、嫌いなのは人間系言語学です。趣味は音楽で、聴くほうはもちろん、演奏するほうも演奏させるほうもやってます。これからよろしくお願いします」
順番が回ってくると、俺は無難に自己紹介をした。後は皆の自己紹介を聞いていればいいだけなので、俺としてはかなり気が楽になる。
「おい、神代。能力名とレベル」
「あ……えっと、サイコキネシスのレベル4……だっけ?」
『おいっ!』
先生に言われて慌てて付け足したのだが、俺のレベルって4で確定していただろうか。不安になって最後はちょっと疑問系になってしまった。それに対してクラス全員からツッコミを受ける。何というか、皆息が合い過ぎ……。
「えっと、すみません。能力開発後にレベル4ぐらいになると思うって言われただけで、正式に4で決まったかどうかは俺もまだ知らないんです」
正直に言い訳をしてみる。って、言い訳が正直っていうのも何か変な気がするけど……。確かアレイスターがレベル4で登録しておくって言ってたはずだから4になってるとは思うんだけどね。
「ああ、確かに神代はレベル4で登録されているな。けどなぁ神代、自分のレベルを知らないっていうのはどうなんだ?」
先生が名簿らしきものを見ながら言った言葉で教室内が笑いに包まれる。先生が持っているのは、どの程度までかは分からないが恐らく生徒の個人データなのだろう。
「いや、色々とあったもので……。ということで、レベル4です。よろしくお願いします」
これ以上悪目立ちするのは避けたいので、無理やり締め括ってみる。この学校でレベル4というだけでもかなり目立つはずなのに、自己紹介で更に印象付けるような目立ちかたをしてしまった。しかももう一つ、このあと更に拍車をかけて目立つことになるだろうから、気楽に皆の自己紹介を聞いていればいいというわけではなかったのだ。とはいえ、俺の女性化については先生から説明されるだけなので、気楽にとはいかないものの皆の自己紹介を聞くことにする。
男子の自己紹介が終わると、次は女子の自己紹介に移る。女子のトップバッターは初春さんだが、自己紹介のために立ち上がったところで佐天さんから声が掛かった。
「ういはるー、がんばれー」
「な……な……さ……佐天さんっ!」
初春さんは勢い良く振り返って顔を真っ赤にしながら叫んだ。まぁ、これから自己紹介をしようかというところで、あんな風に声をかけられたら誰だって恥ずかしいだろう。結局、初春さんの自己紹介は噛みまくって散々なものだった。
そして自己紹介の順番はすぐに佐天さんまで回り、佐天さんが立ち上がったところで初春さんを見てみると、何かを言いたそうにしているのが分かる。恐らく、佐天さんにされたのと全く同じことをしようとしているのだろう。しかし、初春さんは何も言い出すことが出来なかったようだ。なので、佐天さんはそのまま自分だけ無難に自己紹介を済ませて着席したのである。
「さて、それでは自己紹介も終わったところで、皆に言っておくことがある」
クラス全員の自己紹介が終わったところで、大圄先生が話し始めた。当然、俺が女性になれるということについてである。一応内容は、俺の遺伝子が男性と女性の両方を持つ特殊なもので、能力開発の際にそれを自分で切り替えられるようになったということになっているようだ。
しかし、学園都市だからなのだろうか、それとも先生からの話だったからなのだろうか、これだけ突拍子も無い話を聞かされているにもかかわらず、クラス内では特に混乱など起こらず皆静かに先生の話を聞いていた。そして、それが事実であることを証明するために、俺は明日女性になって登校することになったのである。
翌日、俺は姫羅になって学校に向かった。もちろん真新しいセーラー服に身を包んでの登校である。
登校中や学校に入った辺りでは、周りから俺のことを気にかける様子など感じられなかったのだが、教室付近まで来ると周囲から俺のほうを見ている気配がひしひしと感じられるようになる。そして教室に入ると、教室内に居た全員の意識が俺に集中したのである。
「おはよう」
取り敢えず朝の挨拶だけして自分の席に向かうが、その間もクラス内全員の視線が俺のほうを向いていた。
俺が自分の席についたとき、どこからか「やっぱり神代かぁ」という声が聞こえた。俺が女性になれることを昨日聞いて知ってはいても、実際に見た時には頭の中の処理が追いつかなかったのだろう。
そのあとはクラス中の生徒に囲まれて質問攻めにあう。どうやら、俺がただの女装ではないかと疑っていた者も居るようだ。なので、ほぼクラス全員が登校した頃合いを見計らって、一度男性に戻ってみる。そして「こういうのが女装だよ」と言ってやると、全員がしばらく固まってしまった。一応、双子の兄妹並みに似てはいるものの、それでも騎龍と姫羅では微妙に輪郭などの顔立ちが違っていたり、髪の長さが圧倒的に違っていたりするので、俺が単に女装しているだけというわけではなく、本当に女性になっているということを理解してくれたようである。
結局、チャイムが鳴るまで質問攻めが続き、チャイムが鳴ってからも半数近くの生徒が俺に色々聞いてくる状況が続いていた。
「全員席につけー!」
俺の周りに集まっていた生徒は気付かなかったようだが、すでに先生が教室に来ていて声を上げ、それによって俺の周りに居た生徒も自分の席に戻っていく。
「神代、自己紹介してくれるか?」
出席が取り終わったところで先生から促される。
「はい、神代姫羅です。得意科目や趣味、能力とレベルに関しては昨日自己紹介した神代騎龍と同じなので省略します。よろしくお願いします」
男性から女性になっただけで、それ以外に何も変わってないので、自己紹介といっても名前以外はほぼすることがない。そういうわけで、昨日の騎龍の自己紹介よりも更に簡潔になってしまった。
「よし、それでは今からクラス委員を決めるぞ。一応聞いてみるが、立候補したいってやつは居るか?」
俺の自己紹介が終わったあと、先生の言葉で教室が静まり返る。まぁ、好き好んでクラス委員になりたいなんて人はそうそう居ないだろう。
「はいっ、やります!」
そうそう居ないだろうと思っていた立候補者が居た……しかも初春さんである。俺の勝手なイメージで、初春さんはどちらかというと消極的なほうだと思っていたのだが、実は結構積極的だったりするのだろうか。
「他には居ないか? 居ないなら女子は初春で決まりだな。男子のほうは立候補するやつ居ないのか?」
女子のクラス委員が初春さんに決まり、男子のクラス委員を決めることになった。男子にはやりたいという人が居なかったので、推薦と多数決で俺に決まってしまった。現時点で女性化しているのでうまく切り抜けられないかと思っていたのだが、世の中それほど甘くはないようだ。しかしその代わりに、初春さんが1年を通じてクラス委員をやるのに対して、男子は学期ごとにクラス委員を代えたらどうかと提案したところ、提案が受け入れられて俺のクラス委員期間は1学期のみに決まった。
「これでクラス委員は決定だな。二人には早速で悪いが、今から教科書を取りに行ってもらいたい」
クラス委員が決まったところで、クラス委員に早速仕事が回ってきた。学校側から配布される教科書を取りに行くといういきなりの重労働である。俺はともかく、体力がないと思われる初春さんには厳しいのではないだろうか。そう思っていたら先生が皆のほうを向いて更に続けた。
「多分結構な重さになるはずだから、クラス委員の権限で何人か選んで連れて行って運ぶことにするか。人選は神代と初春に任せるから、指名されたら手伝うように。ちなみに拒否権はないからな」
まぁ、この人数分の教科書なら相当な重さになるはずだし、二人で簡単に運べるようなものではないことぐらい容易に想像できる。その為に何人かを連れて行くように言ったのだろう。
「それじゃー佐天さん!」
初春さんがいきなり佐天さんを指名する。まぁ、知り合いなら指名しやすいというのもあるだろうし、恐らく昨日の自己紹介のときのことも多少はあるのだろう。
「えぇ~っ!!」
「拒否権は無いですから」
嫌そうな顔をする佐天さんに腹黒な初春さんという組み合わせが、何ともほのぼのとする状況だ。そう思うのは俺だけだろうか。
「初春は他に指名しないのか? あと、神代はどうするんだ?」
一人指名したぐらいでは当然足りるわけがないので、他に誰を指名するのかを先生から聞かれたわけだが……。
「能力使っていいならウチ一人でも大丈夫です」
「そうか」
俺が答えると先生は納得したように頷いた。初春さんと佐天さんも一瞬驚いたような表情を見せていたが、俺の能力を思い出したのか納得したような表情になっていた。
「それなら男子のほうは神代一人で大丈夫だな。初春は他に選ばないのか? さすがに二人だと厳しいぞ」
「え? 神代さんが運んでくれるんじゃ……」
先生の言葉に初春さんが驚く。先生は恐らく男子の教科書は男子、女子の教科書は女子が運ぶということで考えているのだろう。俺としては全員分を運べるという意味のつもりだったのだが……。
「今の見た目は女子だが、一応神代は男子のクラス委員だからな。それで初春、他に誰か選ばないのか? 佐天が選んでもいいぞ」
何というか、このクラスは俺が女性化してることについて、あまりにも順応し過ぎてるような気がする。アレイスターや土御門さんが何とかしたと考えようにも、何とかできるような問題ではないはずだし、そもそもこんなところまで介入してくるとも考えにくい。これは学園都市特有のノリだったりするのだろうか。
「それなら、アケミとむーちゃんとマコちん!」
先生に言われて佐天さんがすぐに指をさしながら三人の名前を挙げた。
「る……るいこー」
一気に脱力した三人の内の一人、多分むーちゃん……が恨めしそうに佐天さんの名前を呼んだ。
「あのー、よろしくお願いします」
「しょうがないわね」
「しかたないなぁ」
「拒否権ないんだもんねぇ」
初春さんも三人に頼むことにしたようだ。それにより、三人もしぶしぶながら引き受けることになった。
「そんなに落ち込むな。どうせ取りに行くと言っても、廊下の端にある生徒指導室だからな」
「はーい」
先生の言葉で、選ばれたメンバー全員が返事をする。俺は普通に、初春さんはちょっと張り切っている様子で、そして、その他のメンバーは明らかにやる気のなさそうな返事だった。
「それじゃー、行きますか」
そう言って俺が歩き出すと、後ろに初春さんと佐天さん、そのあとにアケミ・むーちゃん・マコちんの三人組が続く。
廊下を歩いていくと『生徒指導室』と書かれたプレートが掛かっている教室に到着した。扉は開いていてそのまま中に入ると、各クラスのクラス委員とその手伝いの人たちでにぎわっていた。力仕事になることが予想できているからなのか、他のクラスでは女子のクラス委員以外、荷物持ちには男子を連れてきているようだ。
「あなた達、クラスは?」
「あ、1年D組です」
教科書の入ったダンボールを渡している先生に声をかけられたので、初春さんがクラスを答えた。
「あら、そう。Dは女子ばっかりなのね。男子は後から来るの?」
「いえ、ウチは神代姫羅ですって言えば分かりますか?」
この先生は俺もただの女子だと思っているようだ。しかし、学校側には俺のことが伝わっているはずなので、名前だけ出して反応をうかがってみる。
「ああ、そうなのね。それじゃー、D組の分はここにあるからこれを持っていってちょうだい」
やはりちゃんと伝わってはいたようで、先生はすぐに理解してくれた。そして、教科書の入ったダンボールが積まれた場所を指差した。
「分かりました」
教科書の量は思ったよりも多かった。ってか、これだといくら男子を連れてきていても、何往復かしないことには普通に運びきれないだろう。
「こんなにあるの~?」
後ろから佐天さんの声が聞こえる。確かにこの量は男子でも同じことを言いたくなると思う。というか、この教室に入ったときにどこかのクラスの男子が「こんなにあるのかよ!」って言っていたし……。
「やっぱりダンボール1個でもかなりの重さだね」
俺が一番上のダンボールを持ち上げてみると、流石に中身が教科書なだけのことはあってかなりの重量があった。筋力などのパラメーターを普通に1万で設定していたら、持ち上げることすら出来なかったかもしれない。
「うわー、こんなの良く持ち上げたね」
「持ち上がらない……」
俺がダンボールを床に置いたら、皆が順番に持ち上げようとしているのだが、一人で運ぶのはやはり無理そうだった。
「ま、教科書を運ぶって時点で予想は出来てたし、全部ウチが運ぶわ」
「えっ、いいの!?」
俺が提案すると、佐天さん以下三名が嬉しそうな表情で確認してきた。何というか、アニメ版超電磁砲の第一話で佐天さんからゲコ太ストラップを貰うときの御坂さんを思い出す。
「能力使って運ぶんだし、元々全部運ぶつもりで居たからね」
「ありがとー!!」
恐らくこの程度の重量なら俺の能力で充分運べるはずだと思い了承すると、佐天さん以下三名からお礼を言われた。やはり、アニメ版超電磁砲の第一話で佐天さんからゲコ太ストラップを貰ったときの御坂さんを思い出す。
全部のダンボールに能力を使うのは流石に面倒なので、一番下のダンボールだけを持ち上げるように能力を使って、積み上げられたダンボールを一気に運ぶ。一応、初春さんや佐天さん、それからアケミ・むーちゃん・マコちんの三名を加えた五人には、両側でダンボールが崩れないように支える仕事をしてもらった。
「初春さん、ドア開けてー」
「はいはーい」
俺が頼むとすぐに初春さんが教室のドアを開けてくれる。そして、そのままダンボールを教室の中まで運び込んだ。
こうしてクラス委員の初仕事が終わり、原作主要キャラとの邂逅も果たしたわけだが、俺はあまりしゃべれなかったことを後悔するのであった。
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