ソードアートオンライン VIRUS
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懐かしき物
前書き
Aska先生がゲツガの絵を描いてくださった。ありがとうございます!
優は現在どこまで行ったかとか近況報告を話すためにエギルの店に来ていた。
「で、あっちの世界ではどの種族にしたんだ?ゲツガ?」
「こっちでは、その名前を呼ぶなって言ってんだろ、エギル。現実では如月優だ」
「お前が本名言ってないからそう言うしかないんだろ。それなら、俺の名前も出すなよ。アンドリュー・ギルバート・ミルズって言う俺にもちゃんとした名前があるんだ」
「ふーん。アンドリュー・ギルバート・ミルズねえ……長いからもうエギルでいいな」
「おい、言った意味ねえじゃねえか」
「まあ気にすんなって。それよりも、お前は現実で調べられたことを聞かせろよ」
「はー……とりあえず、こっちからは色々調べてみたが特に怪しいものはなかった。お前のほうはどうなんだ、あっちでは?」
「今のトコは収穫なし。でも、世界樹までの道案内してくれる同行者とは会った。それとキリトとも会えたくらいかな」
そう言うと優はコーヒーを飲む。エギルが来たら出してくれたもので、金も取らないといったので貰った。
「で、キリトはどうせ影妖精のスプリガンか闇妖精のインプにしたんだろ?あいつ黒ばっかだったしな。それ以外はないだろ」
「正解、なかなか鋭いな。キリトはスプリガンを選んでたぜ」
エギルはやっぱりと言った。
「で、お前は何妖精を選んだんだ?白色の妖精いなかったし」
そう聞かれると優は黙る。エギルはそんな優に更に問いただす。
「何を選んだんだ?笑わないから言ってみろよ」
「絶対に笑うなよ?」
エギルはこくりと頷く。しばらくして優は口を開く。
「ケットシーだ」
「……ぷっ」
エギルは優のケットシーの姿を想像したのか急に吹き出してバーのカウンターを叩きながら笑った。
「おま、お前がケットシーとか、面白すぎだろ!!」
「笑ってんじゃねえよ!俺はな自分の合うタイプを選んだんだよ!それに弓を使うためにもちょうどいいやつだったんだよ!」
エギルに怒鳴る。そして恥ずかしさを紛らわすためコーヒーを一気に飲み干す。エギルはようやく笑うのをやめてから、話しだした。
「まあ、どれを選んだって人の自由だからな。それよりも、お前らスタートは別々だったんだろ?何で、一緒にいるんだ?」
「さあ、でも、バグか奴らの仕業かもしれない」
そう優が言うと、エギルの表情が真剣なものになる。
「奴らって言うと、ウィルスか?」
「ああ。ていうより、お前も知ってたんだな。まあ、可能性だがな。キリトにも同じことが起きたからウィルスかどうかよく分からないんだよな」
「そうか……」
優は席を立ち上がる。
「まあ、とりあえず今はそんな感じだ。用があったらメールか電話をしてきてくれ」
そう言って優はダイシーカフェからでて家に戻った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「優、今日も入れるだろ?」
直葉が学校に行っていないため二人で昼飯を食べていると和人が聞いてくる。
「ああ。三時前に入るつもりだけど。今回は自分の部屋から入る。もう、あっちであったしどこにいたって変わんないだろ?」
「ああ、いいけど。あんま遅れるなよ」
「それはの台詞だ」
そう言って、昼食を食べ終えると食器を片付けて晩飯の下ごしらえをする。今日の晩飯は肉じゃがにすることにして、材料を煮て完成させると、ふたをして置いておく。そして、書置きをかいて自分の部屋に戻る。ちょうど時間が二時五十分だったので素早く準備をしてラフな格好に着替える。そして、ナーヴギアを被り、ベットに寝転がると再びあの言葉を呟く。
「リンクスタート」
そして優はゲツガとして再び仮想世界に向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
目を開けると昨日いた酒場の椅子に座っていた。その後すぐにキリトも出てくる。キリトが数回瞬きしてこちらを確認する。そして、その後スイングドアを開け入ってきた人物がリーファと確認出来たのでゲツガは話しかけた。
「やあ、早いね」
「ううん、さっき来たとこ。ちょっと買い物してたから」
「あ、そうか。俺達も色々と準備しなきゃな」
「道具は一通り買っておいたから大丈夫だよー。あー、でも……」
リーファが言葉を止めた。理由は自分達の後ろに注がれていたのでキリトとゲツガは自分の初期装備の剣を見てため息をついた。
「君達の、その装備はどうにかしておいたほうがいいね」
「ああ、こんな初期装備じゃ頼りないしな」
「確かに……俺もぜひどうにかしたい。この剣じゃ頼りない」
「じゃあ、装備整えに行こうか。お金持ってる?なければ貸しておくけど」
とりあえずお金があるかウィンドウを開いて調べる。上のほうにユルドと呼ばれる単位があるので見てみると、相当な額が入っていた。それを見て顔を引きつらせた。キリトも同じように引きつらせている。キリトは確認のためにリーファに聞いた。
「このユルドっていう単位がそう?」
「そうだよー。……二人とも、ない?」
「いや、俺はある、結構ある。ゲツガは?」
「ああ、スッゲーある……」
「なら早速武器屋に行こうか」
「う、うん」
キリトは慌てながら立ち上がる。そして何か思いついたように胸ポケットを覗き込んだ。
「おい、行くぞ、ユイ」
そう言うと、胸ポケットから眠そうな顔をしたユイがちょこんとでてきて大きなあくびをする。そして、ゲツガ達はリーファの後についていき、リーファ行きつけの店に連れてってもらった。
「どれがいいんだ?」
店主らしきプレイヤーの男にそう聞かれる。とりあえず、この世界では弓で行こうと思っていたゲツガはいくらでもいいから強いロングボウを頼む、と言った。すると出された弓を見て驚く。SAOで使っていた剣を二つ重ねた弓、プリティヴィーとディアウスによく似ていた。
「こんなのどうだい?黒白王弓?威力も高くていいぞ。ただし、弓のスキルレベルとか関係なく使えるけど、扱いが難しくてほとんど使う奴がいない、というより使用者が諦めて使わないっていうじゃじゃ馬だ。金はそこまで取らんがこれでいいか?」
そう言ってゲツガは弓を手に持つと懐かしい感覚を覚える。こいつは、この世界に別の存在となってきていたんだな……、そう思い、弓の弦を引き、素引きを行う。感覚もあの世界のこいつのままのようですぐに馴染んだ。
「こいつをくれ。俺にはこいつがちょうどいい」
そう言ってお金を払いすぐに装備する。ついでにSAO時代に着ていた物とは少し違うが似たようなロングコートを見つけて買う。キリトは迷った末に馬鹿でかい片手剣を買っていた。しかし、ゲツガにとってはあのぐらいでも軽いと思うほどだ。
「じゃあ、装備も整ったことだしこれからしばらくヨロシク!二人とも!」
そう言ってリーファは手を出してくる。ゲツガも手を出してリーファの手を握る。その時リーファはハッとし顔を赤らめたが気にせずに言う。
「こちらこそ、ヨロシク!リーファ!」
そう言って手を離し、キリトとも握手させる。キリトの胸ポットから出てきたユイは手の上に乗って言った。
「頑張りましょう!目指せ世界樹!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
買い物が終了した後、リーファの後についていって数分、目の前に大きな翡翠色に輝く優美な塔が現れる。確か、この塔はシルフ領のシンボルの風の塔だ。昨日はこの塔にぶつかった隣にいるスプリガンを見て笑いそうになる。リーファもそのことを思い出したようでクスリと笑った。それに気づいてないキリトは貼りついた辺りの壁を眺めて嫌そうな表情をしていた。
「キリト君、出発する前に少しブレーキングの練習しとく?」
「……いいよ。今後は安全運転を心がけるようにするから」
キリトは憮然とした表情で答える。その後、キリトはなぜここに来たのかリーファに尋ねる。
「それはそうと、なんで塔に?用事でもあるのか?」
「ああ、長距離を飛ぶときは塔の天辺から出発するのよ。高度が稼げるから」
「なるほど、確かにそうだな」
ゲツガはそう言うと、リーファが後ろに回ってゲツガとキリトの背中を押して歩き始める。
「さ、行こ!夜までに森を抜けておきたいね」
「俺達はまったくこの世界の地理に詳しくないからなあ。案内よろしく、リーファ」
「任せないさい!」
リーファは胸をトンと一度叩いてから塔の中に入る前にリーファは塔を見上げ何か迷った表情をしていた。
「どうしたんだ?リーファ?何か迷ってんのか?」
ゲツガはそう言うとリーファは気づかれたように驚いてから、微笑んだ。
「うん、ちょっとね。私、領主とは結構付き合いが長いから挨拶をしておこうかなと思ってたんだけど……今日はいないからもういいの」
「そうか。ちょっと悪いことしたな。ここの領主には今度、謝っとくか」
「自分で決めたんだから、メールで伝えとくからいいよ。それじゃ、行こうか」
「おう」
キリトが返事をして、塔の中に足を踏み入れる。塔の中は大きな円形のロビーになっており、周囲には色々なショップが立ち並んでいた。その中心にはエレベータがが二基設置してあり、プレイヤーを飲み込んだり吐き出したりしていた。ゲツガは腕をリーファに引かれながら歩いていく。その時に、不意に傍らから数人のプレイヤーが行く手を阻む。
「危ないじゃない!」
リーファはその男に文句を言う。その男の顔を見るとめんどくさそうな顔をしてから何時もの表情に戻して口を開いた。
「こんにちは、シグルド」
シグルドと呼ばれる男はそれに答えず唸り声を出しながら言った。
「パーティーから抜ける気なのか、リーファ」
リーファはこくりと頷く。
「うん……まあね。貯金もだいぶできたし、しばらくはのんびりしようと思って」
「勝ってだな。残りのメンバーが迷惑すると思わないのか」
「ちょ……勝って……!?」
さすがにリーファがそういうのも納得する。この男はリーファを自分のパーティーに縛り付けておくつもりらしい。
「お前は俺のパーティーの一員として既に名が通っている。そのお前が理由もなく抜けて他のパーティーに入ったりすれば、こちらの顔に泥を塗られることになる」
この男の言葉に唖然とするリーファ。さすがにこういう男はムカつく。ゲツガはリーファとシグルドの間に立つ。
「おい、おっさん」
「お、おっさん!?」
急に出てきたゲツガにそう言われ、驚くシグルドに言った。
「仲間はアイテムなんかじゃないんだぜ」
「え……?」
「なんだと……?」
シグルドは唸り声を上げ、睨んでくる。このような視線などあの世界のモンスターの目に比べたら可愛いもんだ。
「他のプレイヤーをお前の武器や鎧みたいに、装備欄にロックできないって言ったんだよ」
「きッ……貴様ッ……!」
ゲツガのストレートな言葉にシグルドは瞬時に顔を赤くして肩から下がっているマントをばさりと巻き上げ、剣の柄に手かけた。
「調子に乗るなよ、ケットシー!!領主同士が仲がよくて攻撃されないとたかを括って調子に乗りやがって!リーファ、お前もこんな奴の相手なんかしてるんじゃない!どうせ、領地を追放されたレネゲイドだろ!」
そう言ったシグルドの台詞に反応してリーファが食いかかろうとするが大丈夫と言って止めて話を続ける。
「俺はレネゲイドじゃないぜ。俺はちょっとした用事でここに来ただけだし、それとさっきのは喧嘩を売ってると取っていいんだよな?買うぞ?」
そして殺気を混ぜた視線でシグルドを見ると、シグルドは悲鳴を上げなかったが足が急に震えだし、手に持っていた剣の柄をカチカチと言わせていた。
「あ、ああ。買ってもらおうじゃないか!所詮、雑魚ごときが俺に勝てるわけないんだよ!」
そう言って剣を抜こうと手を引いたがそれよりも早くゲツガはシグルドの剣の柄に蹴りを叩き込む。
「動きに無駄が多いぞ。お前こそ領内でなら自分はキルされないとたかを括ってんじゃないのか?キルされなくても衝撃で意識を奪うくらいできるぞ?」
再び殺気を混ぜた視線を送り、足を下ろすとリーファの方に歩いていく。
「ゴメンな、ちょっとリーファの立場を悪くしちまって。ここにいるのはそろそろやばいから上に行こうぜ」
そして、リーファとキリトを押してエレベータに向かう。その時、剣を振りかぶったシグルドが突っ込んできていた。
「クソ野郎!!ぶっ殺す!!」
振り下ろされる剣を避ける。床に叩きつけられた剣により大きな音が発生する。しかし、その後も大きな音がロビーに響く。その音は剣が折れた音だ。だが、折った方法が異常といってもいい。刃の部分から足で踏み潰したのだ。その光景に唖然とするリーファにシグルドとこの状況を見たシルフたち。
「不意打ちするなら叫ばないほうがいいぜ。それと足音を立てすぎ。おっさん、もっと鍛えたほうがいいぞ」
ゲツガはそう言って素早くエレベータに乗り込み、塔の天辺に向かった。
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