戦国異伝
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第百十四話 幕臣への俸禄その七
「いや、まことに」
「ですな。織田家は雰囲気もよいです」
「殿は人を見る目は確かでして」
このことも定評が出てきている。信長の人を見る目に間違いはないというのだ。
「一度用いた者は決して切り捨てませぬ」
「その様ですな」
「そして力や功にも必ず報いて下さるので」
「尚且つ家臣を大事にされますな」
「はい」
一見すると無作法で無造作だが実は違う。信長は家臣達に対して何かと気配りも見せる男なのである。
そしてそれは家臣達に対してだけではない。
「足軽達も同じでして」
「大事にされていますな」
「民も誰もを」
「心もよい方ですな」
「ですから我等はお仕えしています」
その信長にだというのだ。
「そうしております」
「ですな。ではそれがしも」
「明智殿もですか」
「幕臣であります」
このことは今は明智を明智たらしめているものだ。だが、だった。
「これからも織田家でいたいですな」
「ですか」
「はい、これからもです」
こう羽柴に述べる。
「織田家にいたいです」
「では今は十万石ですか」
「領地のことですか」
「より増やしていかれますか」
「それが母上や女房を楽にするのなら」
それならばだというのだ。
「進んでそうしましょう」
「ですな。それがしもです」
「羽柴殿もお母上や奥方の為に」
「これからも働きますぞ」
羽柴は確かな笑みで明智に述べる。
「それこそ馬車馬の様に」
「馬の様にですか」
「左様です」
まさにそれ程だというのだ。
「そのつもりでござる」
「そういえば羽柴殿はよく色々と気付かれますな」
明智は織田家の中でこのことも観ている。
「それも働きですな」
「そうなりますか」
「はい、気付いて動くこともまた」
実際にそうだというのだ。
「そうですので」
「では今後もですな」
「それがしもそうしたいと思います」
明智もまた色々と気付いて働きたいというのだ。
「是非共」
「織田家をお気に召されてですな」
「その通りです。実に色々な方がおられますし」
織田家は個性的な者が揃っていることでも知られている。それはさながら梁山泊の如きである。
明智もまたその中にだというのだ。
「よい家だと思います」
「しかもあれで居心地がよいですから」
「人は居心地のいい場所に集まります」
これは当然のことだ。誰も居心地の悪い場所には赴かないし留まらない、織田家が居心地がいいからこそだというのだ。
明智はこのことを実感しながらまた羽柴に述べた。
「では今もですか」
「今もでございますか」
「共に茶を飲みましょうぞ」
こう羽柴に微笑んで言う。彼が飲み終えたところで早速もう一杯の用意をしている。
そして羽柴が飲み終え荒いながらも何とか体裁だけは覚えている感じの作法で茶を置いたところでまた淹れるのだった。
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