久遠の神話
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第三十八話 神父その四
「礼拝堂にもこうして出入りできるわ」
「わかりました。そうした事情ですね」
「そういうことよ。それでね」
「出会いといいましたが」
「ええ」
大石に応えながらだ。そのうえでだった。
スフィンクスは上城にも顔を向けた。そしてこうも言うのだった。
「久し振りね」
「そうですね。これで貴女と会ったのは二度目ですね」
「そうなるわね。それでだけれど」
「今出会いと言いましたけれど」
「そうよ。貴方達は出会ったのよ」
スフィンクスは上城と大石を交互に見ながら話す。
「剣士同士がね」
「剣士同士ということは」
「つまりは」
上城と大石は同時にだった。お互いを見た。
そのうえでだ。今度は彼等が話すのだった。
「神父さんもまたですか」
「上城君も」
「剣士なんですね」
「そうなのですね」
「そうよ。貴方達は出会ったのよ」
運命的にだ。そうなったというのだ。
「この場所でね」
「ですが僕は」
ここでだ。上城は言った。スフィンクスに対して。
「戦うことはです」
「しないというのかしら」
「戦います。ですが」
しかしだというのだ。ここでだ。
「それは戦いを止める為の戦いです」
「では剣士に対しても」
「戦う人を止める為に」
それが為に戦うというのだ。つまりまさに矛を止める、武の言葉のそれだというのだ。
「そうします」
「その考えに至ったのね」
「色々考えました」
最初にスフィンクスと会ってからだ。本当に彼は迷った。
だが加藤という男を会ってその時に決意した。その決意を語ったのである。
「それで決めました」
「わかったわ。では今も」
「神父様が。若し」
戦いを選ぶなら。それならばだというのだ。
その大石を見てだ。こうスフィンクスに言ったのである。
「戦われるのなら別ですけれど」
「戦われないのならですね」
「戦いません」
そうするというのだった。
「絶対にです」
「わかったわ。貴方の考えは」
スフィンクスは上城の言葉をここまで聞いた。そのうえで頷いた。
そうしてだ。怪物は今度は大石に顔を向けてだ。それで問うたのである。
「貴方はどういう考えなのかしら」
「戦いにあたってですね」
「ええ。剣士同士の戦いについてね」
戦うのかどうか。それを問うたのだ。
怪物は大石の顔をじっと見ている。そのうえでの問いだった。
大石も怪物の顔を見ていた。そうしてだった。
ゆっくりと口を開いてだ。そしてこう言ったのである。
「私は神父です」
「神父だからだというのね」
「神にお仕えしている者です」
「では戦うのね」
あえてシニカルにだ。スフィンクスは大石にこう言ってみせた。
「そうするのね」
「戦いですか」
「キリスト教は多くの血生臭い戦いを導いてきたわね」
歴史から語る言葉だった。
「十字軍にしてもね」
「そのことを仰いますか」
「ええ。その他にもあるわね」
「はい」
カトリック、しかもそれを主導してきた教会の者だ。だからこその言葉だった。
「三十年戦争も然り。中南米への侵攻もです」
「一体どれだけの血が流れたのか」
しかも極めて惨たらしくだ。
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