【完結】剣製の魔法少女戦記
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第二章 A's編
第三十五話 『対策会議』
前書き
ヴォルケンリッター対策です。
Side シホ・E・シュバインオーグ
それは翌日の早朝の事。
私もある程度痛みは抜けてきたので日常動作は出来るくらい回復してきたこともありなのは達のたっての願いである特訓をすることになった。
今日はフェイトが聖祥小学校に編入してくるので早めに切り上げる事もあり、まず要点だけ絞っておこうと思う。
「でも驚いたわ…。昨日、いきなりすずかやアリサ達が帰った後に私に特訓をしてって言ってきた時は…」
私が話を振る側にはなのは、フェイト、アルフの三人。フィアは私の隣で立っている。
ついでにいうと観客というか見学者としてユーノ、クロノ、エイミィさん、リンディさんまでいるではないか。
「それじゃこれからヴォルケンリッター戦に向けて修行したいと思います。
といっても今現在私はまだ安静にしていた方がいいと言われているので対策関係は私。実技はフィアにやってもらうわ」
「えっ…シホはやらないのかい?」
「アルフ………それは突っ込み待ち…? それとも本音…? 今なら全投影連続層写で買ってあげるわよ?」
私は鋭い視線と言葉をアルフに浴びせると他からも冷たい視線が流れているのを感じる。主になのは、フェイト、フィアから。
義務感からしてはクロノ。リンディさんは笑顔なのにどこか怖い…。
すぐにそれは止んだけど…アルフは全身を覆いに震わせていた。土下座をすぐにしたのがいい証拠だ。
「…さて、おふざけも済んだことだし。それじゃ時間ももったいないから始めるとしましょうか」
「「はい!」」
「おう!」
「それじゃまずは最初になのはのリンカーコアを奪った黒尽くめの奴以外で戦った感想はなにかある?」
「そうだねぇ。やっぱりあの青い狼…ザフィーラっていったっけ?」
まずアルフがザフィーラについて言葉を上げた。
「そうよ、アルフ。…で、どうだった?」
「そうだね。あいつはあたしと同じパワータイプみたいだけど力量がかなり違ったね。それになんていうのかな…場慣れしている」
「それは守護騎士全員にいえる事ね。それに加えると戦闘経験が並じゃない…それに、そうね。これは感想の最後に取っておきましょうか。ね、フィア」
「はい、お姉様」
フィアはアイコンタクトですぐになにか分かったらしい。
さすが私が一番に鍛えた甲斐あるわね。
「あの…シホさん。なにか意味アリですけどどうしたのですか?」
「あ、リンディさん。大丈夫です。感想を聞き終えた最後にそれを伝えますから」
「そうですか…?」
「はい。それじゃ次はなにかある?」
「うーん…ヴィータちゃんとシグナムさんっていう人はカートリッジシステムを使っているんだよね?」
「そうね。それは要するに魔力の一時的増量…ドーピングみたいなものかな? 専門家の意見としてはどうですか、エイミィさん」
「え? うん、大体それであっていると思うよ。でもあのデバイス達はそんなもの使わなくても十分威力はあると思うんだよね」
「納得ですね。戦っていないけどヴィータって奴はデバイスがハンマーだけあって一点突破型。
それにシグナムのデバイスは形状が剣。だから私達の中でなのはは絶対的に相性が悪いと思うわ。
フェイトのバルデッシュが真っ二つに切り裂かれた事から察するに、砲撃が主体のなのはは距離を取らないと相手にならないと思う。
私がなのはの修行の一環で護身術も教えているけど今回に関しては任せるとしたら中距離、近距離主体のフェイトか接近戦主体のフィアにシグナムは任せた方がいいわ」
「でも私、ヴィータちゃんとちゃんとお話したいよ!」
「あー、うん。それじゃヴィータに関してはなのはに任せるわ」
「うん!」
「それじゃまずはなのはは防御力を上げる事が第一ね。
ヴィータが一点突破型だというのは性格からも分かったから、ならそれ以上に頑丈にシールドを展開すればなんとか戦いになるかもしれない。
魔力が回復次第、魔力の制御をより正確に組み上げる事を心がける事」
「わかったよ、シホちゃん!」
「でも無茶な修行はなしよ。これだけは最初の方針から一切変えないから」
なのはの元気な声を聞いて、とりあえずなのはの方針は決まったとして、シグナムとザフィーラ対策か…。
「次にザフィーラの対策としては…フィア、アルフの事を任していい? 私はなのはと並行してフェイトにシグナム対策を仕込みたいから」
「わかりました。縮地と浸透勁の基本、中国拳法を教えるんですね」
「ええ。きっとアルフは感覚的…後、動物的本能で覚えるのは早いと思うから。
フェイトの使い魔だからこれを使えるようになれば敏捷性はさらに上がると思うから相手を翻弄する際、かなり役立つと思うから」
「へー…ついにあたしもシホ達のような動きが出来るようになるのか」
「それはアルフ次第。フィア、手加減はしなくていいからね?」
「はいです! これから楽しみですね…」
「フィアット…あんた、なにか怖いよ…?」
フィアの少し暗い笑みにアルフは怯えているようだ。
「さて…フェイト。それじゃ最後にシグナム対策だけど私が直々に鍛えるけど構わないわよね?」
「うん…! あのシホとの戦いでシグナムの凄さは十分理解できたから。それに今の私じゃきっとシグナムが本気を出せばただじゃ済まされないと思うし…」
「そうね。まずは目を慣らすしか方法はないわね。
シグナムが次になにを出してくるか予想して最小限の動きで捌いて、且つフェイトの取り柄であるスピード戦でペースをシグナムに握らせない事を第一に考えなさい。なのはもそれは同様よ」
「「はい!」」
…さて、基本方針は決まったわね。
これから忙しくなるなと脳内で思っているとクロノが、
「シホ…本当は魔導師の戦い方を知っているんじゃないのか? 方針が的確すぎるぞ」
「知らないわよ。でも基本戦い方なんてどこでも一緒でしょ。私達とあなた達の違いは殺傷か非殺傷…機械便りと神秘便りの違いくらいじゃないの?」
「む…確かにそう言われるとそうかもしれないな」
「でしょう」
「シホさん…あなた、もしかしたら教導官の才能があるのかもしれないわ…」
「…そんなものはないと思うんですけど。ただ私は経験談をなのは達に教え込んでいるだけですし」
それに私はそんな柄じゃないですし…、と一応言っておいた。
でもリンディさんはエイミィさんとともに何か話し合いを始めているのは何故だろう。
聞いたら怖い返事が返ってきそうだから今は気にしないでおこう。
―――後に、聞かなかった事を後悔する事になるのだけど、そこは致し方ない。
「ふぅ…それじゃこれで各修行方針は決まったとして。残り時間も少ない事だし最後にやっておきたい事が二つあるわ」
その言葉に全員興味津々に耳を傾けてくる。
そう注目されると恥ずかしさがあるけどここはグッと耐えて、
「なのは、フェイト、アルフ…今から三人で連携を組んでもいいから私を倒しにきなさい。私は魔術を一切使用しないから」
「ちょっと待ちなよ! それはさすがにシホでもきついんじゃないかい!?」
「そ、そうだよ。シホちゃん、まだ体は完全に治っていないんだよ!」
「無理な事はしないとか言っていて一番シホが無理しているよ!?」
三人はそう声を上げる。
ユーノも同じようで見学の席で頷いている。
でも、リンディさん、クロノ、フィアはどういう事か分かったのか黙り込んでいる。さすがだ。
それで私もそれを分からせる為に、
「…三人とも。それじゃ一つ聞くけど万全じゃない時に容赦なく攻めてくる敵がいたらどう対処するの…?
戦いなんて攻められる側にとって万全なんて時はとても稀なのよ? それでも万全だった私達は今回敗北した。
そう…戦いなんていつでも準備不足。相手がなにをしてくるか分かっているなら対処できるけど大抵初見の相手がほとんど。
だから“万全状態だから大丈夫”なんていう慢心は絶対にしてはいけないの。
慢心はなによりも大きな不安要素…もとの世界では己の力は絶対と過信し慢心して戦いを挑んだ魔術師が一瞬で手負いの敵に消し炭にされた光景を何度も目にしたわ」
その話をした途端、全員の顔から冷や汗がたれて顔も青くしている。
「そしてついさっき、三人は私がまだまともに戦闘できない体だという事で油断し慢心が芽生えてしまった。どう…ここまでいえばわかるでしょう?
戦いはいつでも真剣勝負。たかが模擬戦、されど模擬戦、侮るなかれ。油断は慢心を生み、感覚を鈍らせる。
遊び感覚や死という恐怖がないという感覚でやっていたらそれこそ自滅しかねない…。それを、みんなに覚えておいて欲しいわ」
それで実戦経験があるだろうリンディさんとクロノが拍手を送ってくれた。けど恥ずかしいからスルーしておく。
「さて…それじゃきなさい。本気でも構わないから」
三人は覚悟を決めたのか一回顔を合わせてそれぞれ散開して私にかかってきた。
まず身体能力だけでなら一番のアルフが力任せに足蹴りをしてくるが私は少し右にずれてその突き出した足を腕でガシッと挟みこむ。
そして即座にアルフのスピードを逆利用して反対の手で掌底を胸に叩き込む。
「ガッ!?」
アルフは軽いうめき声を上げて自身のスピードをそっくりそのまま返された反動で盛大に吹っ飛ばされ地面に叩きつけられる。
「アルフさん!?」
「余所見は禁物よ、なのは…」
「!?」
なのはが余所見をした隙をついて私は瞬動術でなのはの背後に迫り首を軽く叩き気絶させる。
「これで二人…そして」
背後に気配を感じ、私はすぐにそこから退避すると棒を振り下ろしているフェイトの姿があった。
「やぁっ!」
「ふ、…!」
目の前に迫った棒に寸勁をぶつけ、腕が痺れて棒を落とした瞬間を狙い震脚をして力をためて肘からの打ち込みを放つ。
それによってフェイトはお腹を押さえながら地面にうずくまる。
念の為、これ以上の抵抗が出来ないよう地面に沈めておく。
そして最後、まだやる気の残っているアルフが突撃してくるが、これからアルフが学ぶだろう事を踏まえて縮地を使い一瞬で眼前まで迫り拳を顔面僅か数センチの所で止める。
これによってアルフは動きが固まってしまい勝負はそのまま終了した。
…しばらくして三人とも復帰してきたけど、
「シホって、まだ全快していないよね…」
「シホちゃん…本当に魔力使っていないよね?」
「絶対嘘だ! 魔力付与なしであたしを打ち負かすなんて…!」
…なかなかにアルフは失礼である。
「これで分かったでしょう。相手が万全じゃなくても負ける可能性なんていつでも存在する。表面上だけで判断したら即アウトよ。
…さて、これで私からの心構えはだいたい教えたわ。最後に一つ、やりたい事があるから三人とも…いや、この際ユーノとクロノとフィアも一緒に私の前に距離を置いて立ってくれない?」
「え、僕も…? いいけど…」
「一体なにをするんだ…?」
「嫌な予感がします。気をしっかりと保たなきゃ…」
全員が並んだ事で、
「さて、それじゃリンディさん。さっき言わなかった事をしますね」
「なにをするんですか…?」
「それはお楽しみです。…それじゃなのはにフェイト、一つ聞くけどあの戦いの時になのははヴィータに、フェイトはシグナムにあずかり知らない感情を覚えて体を硬直させてしまったわよね?」
「う、うん…なぜか急にヴィータちゃんが怖いっていう雰囲気が漏れてきて…」
「私も、シグナムの視線だけで冷たい何かが体を通り抜けた感じだった…」
「そう…それじゃ今からする事で注意する事は、気をしっかり持ちなさい。でなければすぐに意識を持ってかれるわよ?」
◆◇―――――――――◇◆
Side フェイト・テスタロッサ
「そう…それじゃ今からする事で注意する事は、気をしっかり持ちなさい。でなければすぐに意識を持ってかれるわよ?」
シホがそう呟いた途端、シホの目が鋭くなりあの時と…いや、あれ以上のなにかが…ッ!?
瞬間、私の周囲がまるで急に温度が下がったかのように寒くなり、体がガタガタと震えだす。そして金縛りにあったかのように体が動かない。
な、なにこの感情…!? シホがシホじゃないみたい…。まるで■■■■に遭遇したみたいな…!
(怖い…!!)
その感情が頭の中を埋め尽くしてしまうのではないかと恐怖したその時、
「シホさん…ッ! もういいです! これ以上は耐性がないなのはさん達は…ッ!!」
リンディ提督の悲痛にも聞こえる声によってフッ…とその雰囲気は消え去る。
途端、私は地面にへたり込んでしまっていた。
全身から嫌な汗が流れて気持悪い…。
気づけば…なのはも、ユーノも、フィアットも、クロノでさえも…全員私と同じような感じだった。
アルフは動物形態で茂みの中で盛大に毛を逆立たせて震えている。
エイミィもリンディ提督の後ろで普段見せない表情で体を震わせている。
「今のがなのは達が恐怖したものの正体…殺気よ。まぁ今のは殺意がない分、軽い部類に入るものだけどね」
今のが、シグナム達の放ってきたものの正体…殺気。
でもシホが言う様に殺意が籠められていないものだとしたら、本当の殺気というのはどんなものなのか…。
様々な事件を担当したクロノでさえこの有様だ。
シホの形ばかりの殺気は相当なものだったのだろう。
なのはが震える声で、
「し、シホちゃん…」
「なのは、今の感覚をしっかりと覚えておきなさい。必ずって訳ではないけど相手はこんなものを平気でぶつけてくるでしょう。
それによって気をしっかり持っていないとすぐにその負の感情に呑み込まれて緊張の糸が切れてしまう。
最悪、戦意喪失して戦えなくなってしまうわ。だからこれからの修行ではこれも取り入れてやっていくけど、皆…覚悟はある?」
シホはまるで私達を試すかのような言い方をしてきた。
でも、確かにこれに慣れないと戦いにすらならないかもしれない。それを様々と痛感した。
そして、私達の答えはすでに決まっている。
「やるよ、シホちゃん! どうしてあんな事をするのかヴィータちゃんに聞かないといけないの! その為に必要なら…」
「あたしもだ。一々こんな怖い感情を抱いていちゃ埒があかないからね」
「だからシホ…。私達を鍛えて、こんなものに負けないくらい強くして…! 今度こそ守りたいものは守りたいから…!!」
私達の思いをシホに伝えるとシホは笑顔を浮かべ、
「うん。みんながその気ならもう止めないわ。最初はこれでダメだったら諦めていたところだったのよ?」
それでシホは肩をすくめていた。
やっぱりシホは私達の為にやってくれたんだ。
これでもう引き返しはできない…けど、覚悟は決まったよ。
後書き
Forceで殺意をティアナがぶつけられるシーンがあったので今のうちから慣れておいたほうがいいかと思いまして。
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