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セビーリアの理髪師

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17部分:第二幕その一


第二幕その一

                 第二幕  大騒ぎの結末は
 とりあえず騒ぎは終わった。兵隊達もバルトロが思うところの胡散臭い兵隊も去った。ロジーナは二階に戻りバジリオとフィガロはシェスタに向かった。バルトロは一人家に残りあれこれ考えに耽っていた。
「あまりにもおかしい」
 部屋の中をうろうろとしながら呟く。
「あの兵隊は何者なのだ」
 考えるのはやはり彼のことであった。
「将校が敬礼をするとは」
 そのことがまずおかしかった。将校と兵士の差は言うまでもなく圧倒的なのだ。それでどうして敬礼なぞするのか。そのことをまず思った。
「しかもだ」
 ここでもう一つの謎が出て来た。
「何故だ?ロジーナを知っているようだ」
 そこにも気付いた。
「何故だ?はじめて会ったというのに。何故知っている」
 謎は思えば理に合わないものばかりだ。その謎について考えれば考える程わからなくなってくる。ここでその謎をさらに引っ掻き回す人物がやって来た。
「バルトロ博士、バルトロ博士」
「はい」
 扉をノックする音と声に挨拶をする。
「どなたでしょうか」
「音楽教師ですが」
「音楽教師!?」
 その言葉を聞いて目をしばたかせる。
「ドン=バジリオは?」
「いえ、急病で来られなくて」
 都合のいい嘘が出て来た。だがそれについてはバルトロは何も知らない。知っている筈もないことであった。
「それで私が代理出来ました。宜しいでしょうか」
「ええ、構いません」
 バルトロは何もわからないままそれに応えた。そうして扉を開ける。するとそこからバジリオと殆ど同じ服を着た伯爵が入って来た。だがバルトロは服装と変装のせいで彼が先程散々騒ぎまくり彼に謎を置いていった兵士だとは一見では思いも寄らない。
「はじめまして」
 その音楽教師は恭しく上品に一礼した。
「お元気なようで」
「有り難うございます」
 バルトロも上品に返礼する。それから彼の顔を見た。今顔をじっくりと見てあることに気付いたのであった。
「おや?」
「何か?」
「いえ、何も」
 ふと気付いたがそれはまずは言葉には出さなかった。しかしその間も彼の顔を見続けている。
(おかしい、この顔は何処かで見たか?)
 記憶に引っ掛かるものを感じたのである。
(だとすれば誰だろう。何処の誰か)
(気付いてもわかりはしないだろうな)
 伯爵は伯爵で心の中で呟いていた。
(私のことはな。気付いても別の変装で)
「ご機嫌よう」
「いやいや」
 また挨拶をするがバルトロはいぶかしむものだった。だがそれを出すのは顔だけであり決して声には出さないのであった。顔に出ているが。
「それでですね」
「はい。何か」
「お元気でしょうか」
「ええ、まあ」
(同じことばかり言うな。おかしい音楽教師だ) 
 また心の中で呟く。
(そもそも。何者なのか)
「それでですね」
「はい」
 また伯爵が化けている音楽教師に応える。しつこいので少しうんざりしてきている。
「御身体の方は」
「だから元気です」
 また同じような質問なのでさらにうんざりしてきた。
「ですから。それよりもですな」
「何でしょうか」
 今度はバルトロが問うた。
「貴方の御名前は。何というのでしょうか」
「私の名前ですか」
「ええ、代理といえど」
 伯爵が化けている音楽教師を胡散臭いものを見る目で眺めながら言うのだった。
「知っておきたいので。どなたでしょうか」
「はい、私の名前は」
「貴方の御名前は」
「ドン=アロンソです」
 適当に名乗った。
 
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