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セビーリアの理髪師

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13部分:第一幕その十三


第一幕その十三

「ようやく現われたな、僕の天使よ」
「あら、兵隊さん」
 まずは伯爵の変装に気付かなかった。
「どうしてこの家に」
(あのですね)
 伯爵は小声で囁きながらロジーナに近付いてきた。
「はい」
「私ですよ」
 また小声で言ってきた。
「おわかりになられませんか?」
「って若しかして」
「はい、私です」
 にこやかに笑って言うのだった。
「リンドーロです」
「えっ、じゃあ」
「そうです。参上しました」
 相変わらずにこやかに笑っている。
「貴女の御前に」
「ロジーナ」
 バルトロは伯爵が化けた兵士がロジーナに馴れ馴れしく話し掛けていると判断して口を尖らせた顔を向けさせたのであった。
「一体何を騒いでいるのだ」
「私は別に」
「いや、騒いでいる」
 彼は強引にそう決める。
「早くここから立ち去るのだ」
「では私も」
 伯爵もそれを受けて退散しようとする。ロジーナの側へだ。バルトロはそれを見てまた言うのだった。
「何処へ行くつもりだ」
「兵営に」
「それは何処にある?」
「ここです」
 しれっとして述べる。
「先程申し上げた通りに」
「馬鹿を言ってくれる」
 バルトロはそれを聞いてまた口を尖らせた。
「だから君はここにはだな」
「ですからこれを」
 また宿泊証を見せる。
「御覧になられれば」
「そんなものは関係ないのだ」
 バルトロは面と向かって反論してきた。
「そんなものはな」
「それはまたどうして」
「わしにはそれをはねつける力がある」
 ユーモラスなまでに胸を張って言うのだった。
「宿泊免除の証がな」
「そんなものがあったのですか」
「それがあるのだ」
 そのまま胸を張っての言葉であった。
「わしの机の中でな」
「ほう、それは面白い」
 伯爵はそれを聞いても余裕綽々といった態度であった。腕を組んで笑っている。
「では見せてもらいましょうか」
「いいのだな?」
「勿論」
 その態度のまま言葉を返す。
「さあ、どうぞどうぞ」
「わかった。では後悔するなよ」
 きっと伯爵が化けた兵士を見据えての言葉であった。
「絶対にな」
「やれやれ。ロジーナ」
 伯爵は自分の部屋に帰って行くバルトロを横目にロジーナに囁いてきた。
「はい」
「まあ安心してくれ」
「どうしてですか?」
「そんなものはどうにでもなるんだ」
 また笑って言う。
「どうとでもね」
「そうなのですか」
「そうさ。まあ見ていてくれ」
 そう言葉を返す。
「これから僕がどうするのかをね」
「ええ」
「よし、これだ」
 バルトロがここで自分の部屋から全速力で戻って来た。あまりにも家の中で速く走ったのであちこちから埃が沸き起こっている。
 
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