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セビーリアの理髪師

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10部分:第一幕その十


第一幕その十

「わしのやり方でいきたい。ここはあの若造を退ける方法を考えよう」
「まあお金になるのでしたら」
 バジリオは少し本音を出した。
「何でも」
「さあ、わしの部屋に」
 バジリオを誘う。
「入ってコーヒーでも飲みながら話をしよう」
「わかりました。それでは」
 二人はバルトロの部屋に入る。それと入れ替わりに家の扉からフィガロが入った。そうしてバルトロの部屋の扉を見ながら顔を顰めさせた。
「いい話を聞いた。おかげであちらの魂胆はわかった」
 まずはそれは安心した。
「しかしそう来るなら。見ていろよ」
「何を見ていろっていうの?」 
 そこにロジーナが来た。上から降りてきたのだ。
「フィガロさん、今度は」
「ああロジーナさんいいところに」
 フィガロはロジーナに顔を向けて笑顔を見せてきた。
「いいところに?」
「そうですよ。このままだとですね」
「ええ」
「私はウェディングケーキを食べることになります」
 つまり結婚式を見ることになるというのだ。
「バルトロ博士の」
「というと私とあの人の」
「そうです。それも今日か明日中に。無理にでも理由をつけて」
 おじ様と言っても血縁関係ではない。後見人だからそれが可能なのだ。
「今あの部屋で」
「あの部屋で」
 フィガロが指差したバルトロの部屋の扉を見る。扉は不気味な沈黙を守っている。
「今ドン=バジリオと相談中なんですよ」
「危ないわね」
「もうすぐリンドーロ君も戻ってきます」
 ここで伯爵の偽名を出す。
「ですから」
「わかったわ」
 ロジーナもその言葉に頷く。
「それじゃあ。もう少しね」
「はい。ですがね」
 フィガロはふとした感じで困った顔を見せてきた。これも計算している。
「何か?」
「リンドーロ君には困ったところが一つあります」
「どうかしたの?何処か悪いとか」
「心の病です」
「それは大変」
「恋の病でして」
 そういうことであった。言いながらロジーナを見やる。
「おわかりですね」
「ええ。よくね」
 ロジーナも全てを理解して笑顔で頷く。
「ある方を想って」
「それは誰かしら」
 わかったうえで尋ねる。それが心地よいからだ。相手の気持ちを再確認することが。
「よかったら教えてもらえるかしら」
「目の前に」
「目の前って?」
「ですから私の目の前に」 
 フィガロは笑って述べる。
「そこにおられます」
「それでその方の容姿は」
「とてもお奇麗です」
 また笑って述べてきた。
「可愛らしくて利発そうな娘で」
「ふん。それで?」
「髪は黒く頬は薔薇色で」
「さらにいいわね」
 自分のことなので当然悪い気はしない。
「さらにですね」
「ええ」
「訴えるみたいな眼差しで誰もを虜にする麗しの手」
「その人の名前は?」
 これまたわかっていて問うた。
「よかったら教えて」
「それはですね」
「ええ、それは」
 さらに突っ込む。
「ロ・・・・・・」
「ロ!?」
「ロジーナ様です」
「私のことなのね」
 それを確かめてにこにこと笑う。
「嫌だわ。想われているなんて」
「ですが本当のことです」
 ロジーナをさらに喜ばせる為の言葉だった。
「リンドーロ君は貴方にぞっこんです」
「けれどあの方は今何処に」
「ですから間も無くここに」
 またそれを言う。
「ですから御安心を」
「わかったわ。けれど待ち遠しいわ」
 うきうきとした顔と声での言葉だった。
 
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