IS〈インフィニット・ストラトス〉駆け抜ける者
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第6話
そんなこんなでゼロがガールフレンドと仲を深めたり、我が家族の衝撃の事実が判明したりした夜が明け、朝が来た。
昨夜の一件はともかく、俺が一夏に仕掛けた悪戯は大成功。
部屋に戻ってきた俺より先に眠ろうとしていたが、微妙に違う寝具に違和感を感じ、全く寝付けていなかった。
胸のうちで少し笑ってからネタばらしをすると、何でそんな事をしたのか、と怒られた。
一夏、君が鈍感だからいけないのだ。世の乙女に代わり、俺が手を下したに過ぎないのだよ。
但し、これを言った所で奴が理解できはしないので、適当に誤魔化しておいた。
これからも細々と、仕掛けていきたいと思う。
そんな決意を誓った俺の今はと言うと…、
「『弟君』、『お姉ちゃん』がアーンしてあげる!」
「『兄さん』、『妹』の私がアーンする」
千冬先生の言う『きょうだい』に捕まっている。
さて、どうしてこうなったんだっけか。
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朝起きてみれば、嫌に笑顔な一夏が着替えを済ませてこっちを見ていた。
「早いな一夏」
「また悪戯されたら堪らんからな」
小さい奴だ。そんなもの笑って流すのが良い男ってものだろう。
「それはともかく、トモ、俺からサプライズでプレゼントがあるんだ」
いらん、捨てろ。
「エエッ!?即刻拒否はどうかと思うんだが!?」
「ならその嫌な笑みをしまえ。企んでることが丸分かりだ」
大方昨日の悪戯の仕返しだろうが、芸が無さすぎる。不器用な一夏に色々求めるのは酷だが、せめてもう少し頭を使ってほしい。
「ぐぐぐっ…、少し軽めにしておこうと思ったが、予定変更だ!」
何を思ったか、部屋のドアノブに手をかける一夏。
「トモ、俺からの悪戯のお礼だ!ありがたく受けとれ!」
勢いよく一夏がドアを開けると、
「おっとうとクーン!」
「兄さん、おはよう」
美少女が二人入ってきた。
「…え?は?」
「久々のきょうだい水入らずだ、邪魔者は退散するぜ!」
状況を飲み込めない俺を残して そそくさと出ていってしまう一夏。
何がなんだか分からないが、一先ず、
「おはよう」
挨拶されたから挨拶を返しておく。
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「弟君、酷いよ。進路のこと一言もお姉ちゃんに言わないなんて!」
「兄さん、兄さんにもプライバシーはあるのは理解している、だけど、私達にも少し位話してくれてもいいと思う」
「ああ、うん、ゴメン。色々やらなきゃいけない事が重なって」
部屋で俺は、きょうだいに詰め寄られ、弁明をさせられていた。
「兄さんはクラスが隣の妹が寂しがってないかな、とか考えなかった?」
「いや、別に…、考えてる暇なんて無かったと言いますか…、」
「確かに。右も左も分かんない世界に放り込まれたんだもんね。大丈夫!ISの事は、お姉ちゃんが手取り足取り教えてあげるから!」
妹(?)に詰問されてしどろもどろな俺を見て頷いて自らの胸を軽く叩く姉(?)。
話していて分かったのは、妹はクール系で、姉が甘やかし系であると言うことだ。
「ね、『姉さん』は学年が違うから、迷惑がかかるし、一夏とかゼロとかと学びあっていけるし!」
「姉さん何て他人行儀な言い方じゃ駄目!『ユリ姉(ユリネエ)』って呼んでってあれほど言ったのに、忘れたの弟君!」
姉の名は『丹下由梨花(タンゲユリカ)。』ことあるごとに俺を構おうとする姉。
「織斑さんやグランツさんは仲良しな『お友達』に任せればいい。兄さんは私が見る。」
妹の名は『丹下真琴(タンゲマコト)』。どこか織斑先生に通じる何かを感じさせる妹。
姉妹は性格体型髪型全て異なるが、
「(兄さん、弟君)!どっちがいい!?」
ブラコン気味なことは共通の様だ。
「…その2択しかないなら、真琴、かなあ?ユリ姉には付き合いもあるだろうし…」
経験や力量込みならば、姉を選ぶべきなのだろうが、やはり学年が違うのは大きい。
逐一俺にかまけていれば、授業に遅れてしまうかも知れないし、友達達もいい顔はしないだろう。
妹はクラスが隣なだけだから、何かとそう言う機会には恵まれている。
姉には悪いが、ここは現実的に効率のいい妹をとらせてもらう!
…本音を言えば、気心知れた一夏やゼロと一緒なのが一番なんだけど。
「そう言うこと。選ばれなかった寂しい姉さんは、さっさと立ち去るべき」
「いや、真琴も立ち去るべきだからな?」
「!?」
!?、じゃなくて、
「まだ起きて着替えも出来てないんだ。ほら、出てった出てった」
姉と妹の背を押し、強引に部屋から出てもらう。
「弟君!着替えなら手伝うよ?」
「兄さん、開けて。着替えが見れない」
何だこの姉妹は。いつから俺の姉と妹は俺の着替えを見ようとする変人と化してしまったのか。
「アー、俺は、着替えを手伝おうとするより、食堂の席を確保してくれる子が好き…、」
言い終わるより速く、姉妹はドタバタと音を立てて走っていった様だ。
「って訳でもないんだがな。ま、最後まで聞かなかったのが悪いってことで」
悠々と着替えを済ませて食堂へ向かう。
それにしても一夏め、中々予想外の仕返しを考えたじゃないか。そうでなくては面白味がない。
一夏への更なる嫌がらせ、もとい、スキンシップを練りながら、食堂へと歩を進めるのであった。
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そして、食堂へ着いたら姉妹に拉致られて姉妹の間の席に座らされ、冒頭の下りになった訳だ。
あえて言おう、美少女にアーンしてもらえるのは男冥利に尽きる、これは認めよう。
しかし、俺はそれを欲してはいない。加えて、義理とは言え家族だ。
嬉しさより恥ずかしさが多い。何せ大衆の前でアーンを双方からだ、公開処刑を受けている気分になる。
「二人ともアーンはいい!自分で食べる!」
「ムゥ、弟君のケチ」
「たまには乗ってくれても良いのに」
不満げな姉と妹の視線を両側から受け、
『チッ、ヘタレが!』
と言う一夏の無言の視線を背中に感じながら、黙って朝食を胃のなかに納めていく。
今に見ていろ一夏。お前が絶句する超弩級の爆弾投下してやるからな。
食べ終わる直前にげっそり窶れたゼロとすこぶる血色の良い少女二人が入ってきて、針のむしろ状態の俺を見て穏やかな視線で、
『俺みたいになるな、辛いぞ』
と言っていたのが凄く切なかった。
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まあ、言われるまでもなく、そんな関係になりようがない俺は、さっさと渋る姉と別れ、教室へ向かっていた。
「兄さん、休み時間に…、」
「来なくていい」
「絶対行く」
来てほしくないのに目に闘志を燃やし、ショートカットの髪を揺らし、自らの教室へ入っていった。
長いストレートのスタイルの良い姉と違い、スレンダーでボーイッシュな妹は、同性から度々告白されたらしい。
と言っても、妹もオルコット級はある。姉が規格外なのだ。
なに食ったらあんなになるんだ?篠ノ之を凌駕しているんだが。
我が義理の姉の肉体の神秘に思考を巡らせながら、自身の席に着く。
一夏が周りの女子や山田先生とISスーツについて議論していると、織斑先生が入ってきた。
「諸君、おはよう」
「お、おはようございます!」
騒がしかった教室があら不思議、織斑先生が来ただけでこんなにも統率が取れた教室に。
教師となった今でも最強と謳われる、織斑千冬は伊達じゃない。
「今日からは本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるが、ISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学校指定の物を使うので忘れないようにな。忘れた者は、代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。それも無い者は…、まあ、下着で構わんだろう」
織斑先生が連絡事項をまとめ、最後にジョークで締めた。
一夏やゼロは微妙な表情だが、そもそも忘れる方が悪いのだ。先に言われているのに、それでも忘れるならば、甘んじて水着なり下着でなりで受けてもらえば良い。
勿論、織斑先生がそんな事をやらせる訳がないが。
因みに一夏の受け売りだが、学校指定のISスーツは、タンクトップとスパッツを合わせたシンプルな物らしい。
そんなISスーツがあるのに、皆が専用のスーツを求めるのは、いずれ出会うかもしれない専用ISの為だとか。
「では山田先生、ホームルームを」
「は、はいっ!」
織斑先生が山田先生にバトンタッチしたが、眼鏡を拭いていたため、少し慌てた様子だ。
「ええとですね…、今日は何と、転校生を紹介します!しかも、『三名』です!」
「え…、」
「「「えええええっ!?」」」
山田先生の発言に大いにクラスがざわめく。そんな学友たちを冷静に見つめ、俺は転校生について考えていた。
転校生…、今の時期には不自然だ。しかも、複数となれば、俺やゼロ、一夏と接触し、あわよくば取り込もうと考えているのだろう。
俺が転校生に対し警戒心を抱く間に、教室の戸が開き、転校生が入ってきた。
「「失礼します」」
「…………」
入ってきた転校生を見て、ざわめきが一瞬で静寂に変わる。
それは、そうだろう。
転校生の一人が「男」で、同じ顔した「女」が居れば、仕方ない事だ。
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