Muv-Luv Alternative~一人のリンクス~
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戦術機強化への道のり
前書き
此処で皆様には重大なお知らせがあります。
TEの主人公、ユウヤくんはこの世界では居ない事にしました。
ユウヤがいない→XFJ計画の進行が上手くいかない→オルタの本史と時間軸を無理やり合わせる
と言う形にします。
無理やり感が半端ない…。
「XM3が完成したのか?随分と早いな…」
「私を誰だと思ってるの?…と言いたいけど、白銀から提供された情報が大きい、って所ね」
香月の言葉を聞き、白銀の方を見ると恥ずかしそうに苦笑いを浮かべていた。
なる程…元となる概念さえ出来ていれば、それに基づくプログラムを作り上げるのは簡単、だと言う事か。だが元があるとは言え、一日二日で新しい概念のプログラムを作れるものなのか?目の前にいる香月が異常なのか普通なのか。いや、香月が異常なのだろう。
その事は俺にとって非常に嬉しい事ではあるが、同時に脅威になりうる可能性も十分にある。俺は既に提供できる情報は全て香月に提供した。つまり香月が握っている技術力は、この世界の遥か先を行く技術だ。使い方を一歩間違えれば世界が破滅へと向かう程の技術。例えBETAが居なくとも、人間の手だけで世界を滅ぼせる技術を香月は握っている。
当然俺は香月を信じ、自分の持ちうる技術を全て提供したつもりだが…。いや、既に渡してしまった時点でこんな事を考える必要はない。俺が出来るのは信じる事だけだ。
「伊達に二度もループをしてませんから」
自傷気味とも言える白銀の言葉に場の空気は凍る。
これをブラックジョークとも言うのだろうか。俺はPXで白銀の目に浮かぶ涙を見てしまった為に、余計何も言えなくなる。白銀自身も言った後にその意味に気づき頭を下げてきた。
「ったく、あんたのその言葉は冗談抜きで重いんだから勘弁して頂戴」
「すいません」
白銀が香月に頭を下げている姿が俺の視界に移る。どうにもしっくりと来る絵だ。何故か違和感を感じない。まるで飼い犬が飼い主に嫌われないよう…いや、これ以上は言うまい。白銀にとっても香月にとっても失礼な事だ。
「それで、そのXM3とやらは何時組み込まれるんだ?」
「あんたも気が早いわね。まだテストもしてない段階だから本格的な実装はまだまだ先になるわよ?」
む…それは残念だ。
XM3がもたらす恩地を早く肌で感じたかったのだが…仕方のない事か。今は我慢しよう。
「と言ってもXM3の効果を計るテストパイロットが必要なのも事実。当然白銀にはやってもらうとして…あんたもやる?」
「いいのか?…自分で言うのもなんだが、俺は戦術機の操作は酷いものだぞ?」
それは既に昨夜の事で判明している。あの後もひたすらシミュレーターに乗り続けた事により、多少はまともになっている筈だが、それでも白銀には遠く及ばない。当然一日程度の訓練で白銀に及ぶはずもないのだが。
白銀が過ごして来た生活の密度は俺が今現在過ごしている生活の密度とは桁が違うだろう。白銀本人が纏う雰囲気と言い、生半可な生き方をしていては身につかないものだ。それだけ濃密な時間を過ごして来た証拠だ。
「別にいいんじゃない?下手糞な操作がどれだけ上手くなるか見ものだし」
「…」
香月の辛辣な言葉に反論する事が出来ない。中々に悔しいものがある…!
「で、XM3は今日中にシミュレーターの方に入れておくけど、白銀が言ってきた新型機の話、丁度良いのがあったわよ?」
…?白銀は白銀でXM3とは別に話を通していたのか。新型機と言うからには戦術機の事だろう。
「何時の間に」
「ははは。ちょっと撃震とかじゃ皆の成長速度を考えると直ぐ乗れなくなりそうなんで…吹雪辺りでも今のところは十分なんですけどね。将来性を考えるならやっぱり余裕が見れる新型が欲しいな、なんて」
「こいついきなり私の部屋に来たと思ったら何て言ったと思う?18機の新型を用意してくれ、よ?あの時は本気で殺してやろうかと思ったわ」
「ゆ、夕呼先生が何でも言って来いって言ってくれたから頼んだんですよ!」
「それでも18機には無理があるって普通思わないの!?この馬鹿!」
「っう…言い返せない」
この世界での戦術機の価値を具体的に知らない為、18機にもなる新型機の用意がどれ程難しいか分からない。
だが、それなりの地位を持つ香月が殺したい、と言う程の事なのだから、余程無理がある内容だったのだろう。白銀自身もそれを理解しているだろうに、それでも香月に頼む辺り余程あの訓練兵達の成長が早いと見受けられる。
…ん?だが待てよ。あの訓練兵達は四人。白銀あわせて五人の筈じゃ?なら残りの13機はなんだ?
「白銀。お前達の部隊を除いても残り13機。なんの為に用意するんだ?」
「え?当然ヴァルキリー隊の方に回す分ですよ」
「…何故お前がヴァルキリー隊の方に気を回す?」
白銀の言葉に嫌な予感を感じてしまった。聞かなければいい事を聞いてしまったかもしれないが、聞いておいた方が後の為になる…と思い俺は白銀に疑問をぶつけた。
「…今ヴァルキリー隊に所属しているシルバ少佐には言いづらい事ですが、ヴァルキリー隊の半分以上は…死にます」
「ッ!」
ある程度予想していたとは言え、白銀から打ち明けられた事実に胸が締め付けられる思いになる。自分でも何故こんな感情が湧き上がるように出てくるのか分からなかったが。
「前のループでは俺もヴァルキリー隊の皆に助けられました。だからこそ俺もヴァルキリー隊の皆を死なせたくないんです」
「…」
「だからシルバさん。ヴァルキリー隊の皆はシルバさんに任せます」
「…ああ。誰も死なせない」
その時俺の脳裏に浮かんできたのは昨夜の速瀬の姿。
今までに会ったことのない人間だったが、速瀬と話していたあの時間は不思議と心地の良い時間だった。最初は苦手なタイプだ、と思っていたが、それは俺の偏見であり、本質を見抜けていなかっただけだった。
自分勝手だが、その根本には優しさがあり、周りを思っての行動。それが、俺が速瀬に感じた今の印象だ。自分の感情を上手く外に出せない人間。こんな事を速瀬に言ったら再び怒られそうだが、俺はそう感じた。
そんな優しさを持つ速瀬が死ぬ。伊隅達が死ぬ。そんな事…認めないし、死なせない。何故出会って二日しかたってない人間をこうも守ろうとしているのか分からないが、あいつらは死なせない。速瀬たちは俺が守る。…それに白銀から頼まれてしまえば断れる訳もない。
「それを聞いて安心しました。シルバ少佐なら皆を守ってくれると信じてます」
「…気恥ずかしい事を真正面から言うな」
「あはは!すいません」
口を開けて笑う白銀を見て、俺も自然を笑みを浮かべる。
…自然と笑えるようになったのはこの世界に来てからか?この短い間で俺も変わったもんだ…。
「恥ずかしいのはこっちよ。私の目の前で友情を見せ付けないでくれない?」
「「っう…」」
「まぁいいわ。話を戻すけど、新型機を手に入れたといっても、18機全部手に入れられる訳じゃない。只、その元となる話を見つけただけ」
「元?」
「そう元、よ。XFJ計画って言う不知火を強化する計画なんだけど…まぁその計画が良い結果を残せてない訳。当然このままいけばXFJ計画は瓦解って事になるわ。でもあんた達が持ってきたXM3やらAMSやらを用いればXFJ計画に結果を残す事は間違いなく出来る。そしてXFJ計画で出来た機体で更に結果を残し、それを聞きつけた帝国軍やら国連軍の方にXM3とかを新型機と交換条件で売りつける。時間は掛かるけど新型機を18機も手に入れる以上、これ以上の短縮は出来ないわよ」
「…まだXM3がどのようなものか俺は分からないが、確かにXM3を搭載した戦術機で何かしろの結果を残せば売れるだろうな。無償で流すよりも有益だ」
「どうせ白銀はこのXM3を世界に普及させるつもりなんでしょ?だったらもっと有益に使うだけの話よ。何か問題ある?」
「いえ、ありません」
新型機を此方で作り、XM3をだしにする事によって手に入らない数の新型機を外で作らせ、此方に持ってこさせる。中々にえげつない考えだ。確かに無償でXM3やAMSを流す事に比べたら当然有益だ。それに外とのパイプも深く繋げる事が出来る。
しかし、XM3を使い、何かしろの結果を残せない場合、全て無意味になるのだが…此方にはこの先何が起こるかわかっている白銀がいる。この話を聞いている限り、白銀はXFJ計画なるもの知らなかった様子だが、白銀が知っている歴史と其処までの差異は生まないだろう。…時間の概念に関する知識を俺は持ち合わせていないので何とも言えないが。
「そう言う事で…シルバ。あんた帝国に行って餌を撒いて来なさい。この話はそもそもXFJ計画の立案者である帝国側の人間が食いつかないと意味がないのよ」
「…いや、それは分かるが、何故俺なんだ。XM3の概念なんて何も知らないぞ俺は」
「そんなん今日中に全て理解しなさい。白銀にはXM3のコンボ入力とかしてもらわないといけないから時間が足りないのよ」
コンボ入力…?何の事だが俺には分からないが、それを聞いた白銀は何かに気づいたような表情になり、唐突に俺に頭を下げてきた。
「あ…確かにXM3が完成したといっても中身がかっらぽですからね…新型機に使う為にも中身を入れないと…すいませんシルバさん!お願いします!」
「白銀にしか出来ないのなら俺がいくしかないが…」
何故この世界の事を全く知らない俺が帝国、なんて所に行かなければいけない。確かにこれは白銀やヴァルキリー隊の皆のためになることだとは理解しているが、そんな大役を俺に任せるか?普通?この世界に関しては穴だらけの俺だぞ。戦術機の操作に関しても…酷いものだしな。
「帝国の方には私が話を通しておくから、あんたはそれまでにXC3の概念と、その操作性に慣れておく事。場合よっては向こうの衛士と一戦交える可能性があるから覚悟しときなさいよ」
香月の言葉に更に頭が痛くなる。…こいつらは俺をなんだと思っている。これはつまり交渉の場、だと言う事だろ?確かに今までにも幾度か交渉はしてきたが…それでも俺は本職ではない。そう言った場で人の気持ちを読み取るのは慣れているかもしれないが、世界が世界だ。流石に無理があると思うのだが…。
しかし、此処で断れる訳もなく、了承してしまった以上、やるしかない。
これは冗談抜きで帝国に行くまでの間、シミュレーターに籠もりっぱなしになりそうだ…。速瀬に頼れと言われてなんだが、暫く会う事もないだろう。このXM3に関してはまだ機密情報のようなものだ。誰にでも話せるものではない。
この国に関する情報、帝国に関する情報、XFJ計画に関する情報、XM3に関する情報…最低でもこれらの事は熟知しなければいけない。交渉の場では如何に知識を持っているかが重要だからな。そしてそれらの知識をどう切り出すか、その手順を間違えれば相手は食いつかない。
「…了解した。なら俺が今から言うものを用意しておいてくれ」
…先が思いやられる。
――――――――――
一足早く特務室を後にした俺は香月の用意した資料に目を通す。
今回最も重要なポイントであるXFJ計画。
内容としては俺がシミュレーターでも使用した撃震は既に旧世代のものであるため、それに変わる新たな戦術機を用意しなければならない。しかし、今現在性能も良く第三世代として活躍している不知火はその設計上、これ以上自国での発展が難しいと判断。
しかし、外国の手を借りる事に未だ根強い抵抗がある帝国側は外国の手を借りようとしなかった。そこで立ち上がったのが、帝国の人間である巌谷榮二中佐からXFJ計画が提案されたとの事。
…最大の敵はBETAと言っても、敵はそれだけではない、と言う事か。何処の国でも、何処の世界でも人間は互いに手を取り合う事はないものだな。
巌谷榮二中佐…か。今回の交渉相手も恐らくはこの人物だろう。
中々に上手い話を考える人間だ。恐らくこのXFJ計画は不知火の強化を測るだけではなく、帝国側の意識を変える為にもやっているのだろう。此処横浜基地が立てられた場所にしようされたG弾。それに関する資料も読んだが、確かにこれを読めば日本側が米国に反感を覚えるのも納得出来る。
だが何回も言う様に今は人間同士でいがみ合っている場合ではないのではないか?只でさえ圧倒的な物量を誇るBETAに圧されていると言うのに…まぁこれ以上は言っても仕方がない事。人間同士、争うのは当然と言えば当然の事だ。生きている場所が違えば、それだけ思想も違うのだから。
「明日から忙しくなりそうだ…」
香月は今日中に二機だけシミュレーションにXM3を付けておくと言っていた。なら俺は明日の朝からひたすらシミュレーションを行う事になるだろう。もう人目がどうとか言ってられない。あいつ等の事を知ってしまったら、悠長に人目が付かない時間、だなんて言ってられる余裕もなくなってしまった。
「…そろそろ寝るか」
これ以上考え事をすると深い思考に嵌まりそうなので大人しく寝る事にした。時間はまだ早いが…明日からきつい一日になるのだから体を休める事が必要だろう。そう判断した俺は衣服を脱ぎ捨て、ベッドの上に横になり、瞼を閉じた。
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