アドリアーナ=ルクヴルール
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第四幕その七
第四幕その七
「陛下も宮廷の方々も皆来ておられるわ。けれど私はあの人だけが見てくれればそれでいいの」
「待ってくれ、頼むから落ち着いてくれ!」
だが彼の言葉は届いていない。再び彼女に近寄りその肩を揺さぶる。しかし反応は無い。
「一体どうしたらいいんだ・・・・・・」
そこへ鈴に呼び出された使用人がやって来た。彼はそれを認めるとすぐに言った。
「ご主人が大変だ。すぐにお医者様を呼んでくれ」
彼女はそれに頷きすぐに走り去った。アドリアーナはそれに気付かず虚ろな声で言った。
「あの女が!」
「僕の声が聞こえていないのか!?」
彼は絶望的な気持ちになった。だが諦めなかった。
「あの女は私からあの人を奪った・・・・・・。私の愛しいマウリツィオを」
「君は今そのマウリツィオの側にいるじゃないか!」
彼はそう言って彼女を抱き締めた。
「こうして君を今抱き締めている、これでもわからないというのか!?」
「いえ、違うわ!」
アドリアーナは彼の腕の中から離れて言った。
「いや、違わない!」
彼は彼女を再び抱き締めた。しかし無駄だった。
「違うわ!」
「そんな・・・・・・。僕がわからないというのか・・・・・・。一体どうしたというんだ・・・・・・」
彼女は辺りを見回す。そして気付いた。
「ここにいたのね、私の愛しい人」
「気付いてくれたのか・・・・・・!?」
「マウリツィオ!」
「アドリアーナ!」
二人は抱き合った。そして彼女は倒れた。
「アドリアーナ・・・・・・」
彼は名を呼んだ。しかし返って来る言葉は無い。
「アドリアーナ!」
同じであった。彼はそれに顔色を失った。生死を賭けた戦場でもなかったことだ。
「誰か、誰か来てくれ!早く!」
彼は叫んだ。
ミショネがやって来た。彼の叫び声を聞いて部屋に入って来た。
「どうしたんですか!?」
気を失っているアドリアーナを見た。それを見た彼も顔色を失った。
「おお、神よ!」
「来て下さい!」
「は、はい!」
彼はアドリアーナの側へ駆け寄った。
「一体どうしたんですか!?」
「急に何か錯乱しだして。・・・・・・そして気を失ったんだ」
「気を・・・・・・。一体何故・・・・・・」
「それがわからないんだ。顔が青くなってそれから苦しみだして」
「顔が・・・・・・」
ミショネは考えを巡らせた。その時アドリアーナの息が戻った。
「息が戻りましたよ」
ミショネはそれを見て喜んだ。
「ああ、そうみたいだね」
マウリツィオはそれを見て喜んだ。
「良かった・・・・・・。一体どうなるかと思いましたよ」
ミショネはホッと胸を撫で下ろした。
「しかしこれは一体どうしたんですか?」
「それが僕も・・・・・・」
マウリツィオは首を傾げて言った。
「いや、さっき花がそうとか言ってたな。すみれの花らしいけれど」
「すみれの!?」
ミショネはそれを聞いて顔を再び蒼白にさせた。
「うん、何か心当たりがあるのかい?僕が贈ったとか言っていたけれど」
「はい。・・・・・・そうか、わかりましたよ」
ミショネは小箱を取った。そしてそこにある手紙を見せた。
「この文字に心当たりはありませんか!?」
「これは女の人の字だね」
マウリツィオはその字を見ながら言った。
「これは・・・・・・確か・・・・・・」
彼は丹念にその字を見る。そして思い出した。
「ブィヨン公爵夫人の字だ!」
「まさか・・・・・・!」
ミショネはその言葉にハッとした。
「そうだ、全てはわかったぞ!彼女はすみれの花に毒を仕込ませていたんだ!」
「何と・・・・・・。何と怖ろしい事を・・・・・・」
ミショネは愕然とした。彼女の残忍さと憎悪の凄まじさに身震いした。
花が消えた暖炉を見る。憎しみを染み込ませた恐ろしい花はもうそこにはなかった。
「とすると彼女は・・・・・・」
アドリアーナを見る。マウリツィオの腕の中で目を覚まそうとしている。
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