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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第104話:私たち、結婚します!(2)

ひととおり挨拶も終えて、ひと段落したところで、
母さんがなのはに話しかける。

「ところで、なのはさんはどんなお仕事をしているの?」

こういう場合には定番といえる話題だ。
訊かれたなのはも微笑を浮かべて答える。

「仕事ですか? 管理局で魔導師をやってるんですよ」

「あら、なのはさんも管理局の魔導師なのね。
 そんなふうには見えないけどねえ」

母さんの言葉に、俺は思わず苦笑を洩らしてしまう。
確かになのはの外見はかわいい。
だが、高町なのはといえば、管理局の中でもトップクラスの魔導師で
管理局員なら知らぬものはないほど有名な人物であり、
軍事組織である管理局の中でも訓練がズバ抜けて厳しい教導隊で、
厳しい教導官として知られているのだ。
そんななのはを管理局員に見えないと評した母さんの言葉は、
俺にとって思いもよらないことだ。
そんなわけで、母さんの言葉に苦笑してしまったのだが、
なのはは俺の様子を目ざとく見ていたようで、気がつくと
なのはが不満げに俺の方へ目を向けていた。

「ゲオルグくん、何が面白いのかな?」

微笑を浮かべたなのはが押し殺した声で言う。
正直言って、こういうのが一番怖い。

「いやね、管理局の人間だったら母さんみたいな感想は絶対に出ないだろう
 と思ってさ」

できる限り柔らかい口調で言うのだが、なのはの表情は微笑を張り付けたままで
変化していない。

「なのはちゃんはどこの部隊にいるの?」

今度は膝の上にヴィヴィオを乗せた姉ちゃんがなのはに尋ねる。
姉ちゃんの膝の上でヴィヴィオは姉ちゃんに頭をゆっくりとなでられて、
気持ち良さそうにしている。

「前は教導隊にいたんですけど、今はゲオルグくんと同じ機動6課ですよ」

「えっ、そうなの? じゃあ、なのはちゃんも私の命の恩人ってことじゃない」

目を丸くして言う姉ちゃんに向かって、なのはは手を振る。

「いえ、わたしはお義姉さんの救出にはほとんど関わってないんですよ」

「ううん。6課の人たちが動いてくれたからこそ、私がこうして居られる
 って聞いてるからね。なのはちゃんにもお礼を言わせてよ」

真剣な表情で言う姉ちゃんに続いて、母さんも大きく頷く。

「私もエリーゼと同じ考えなの。私からもお礼を言わせて」

母さんの言葉を受けて、なのはは頬をわずかに赤く染めていた。

「はい・・・」

小さくそう言うと照れているのか、なのははうつむいていた。

「ところでゲオルグ、ひとつ訊きたいんだが」

父さんが俺に話しかけてくる。
俺が無言で頷くと、父さんは言葉をつなげる。

「なのはさんのご両親への挨拶はもう済ませたのか?」

「まだだよ。でも、今度の年末になのはの実家にお邪魔するつもりだ」

「あちらを先にした方がよかったんじゃないか?」

「その方がいいのは判ってるんだけどさ、なのはの実家ってのが
 簡単には行けないところでね・・・」
 
「簡単には行けない? どういうことだ?」

父さんは訝しむように俺を見る。

「それは、わたしがご説明しますね」

父さんに向かって事情を話そうとした時、なのはが割って入ってきた。

「わたしは、地球っていう星の出身なんです。
 地球は管理外世界でミッドとの間に公共の移動手段がないので、
 簡単には行けないんです」

「なるほど・・・」

なのはの説明に納得したようで、父さんは腕組みして頷いていた。

「年末に行くっていうことは、年末年始は帰ってこないのね?」

母さんが俺に尋ねてくる。

「そうだね。年が明けたらすぐに帰ってくるけど、そのあとは当直が続くし」

俺がそう言うと、なのはが意外そうな目で俺を見る。

「えっ、そうなの?」

「あれ?言ってなかったか? 地球から帰ったら通常勤務が始まるまで、
 俺はアースラに泊まり込みだぞ」
 
「・・・聞いてないし、なんで3日も泊まり込みなの?」

「なのはの分の当直も引き受けたからだよ」

「えっ? わたしの分の当直って・・・?」

「最初は、年末年始の勤務体制に、なのはも組み込まれてたんだけど、
 なのはにはヴィヴィオの面倒を見てほしかったからな。
 はやてに頼んでそうしてもらった」

「そうだったんだ・・・、ごめんね」

なのはは、肩を落としてシュンとしていた。
俺はなのはの頭に手を乗せて、ゆっくりと動かす。

「気にすんなって。当直って言っても出動機会があるわけでもないし、
 家に居るのとそんなに変わらないだろ」
 
「ありがとね、ゲオルグくん」

なのはがにっこりと笑って、感謝の言葉を言う。
その時、脇の方から姉ちゃんの声が聞こえてきた。

「ねえ、ヴィヴィオ。あの2人っていつもあんな感じ?」

「うん。パパとママはいつも仲良しだよ。ときどきケンカするけど」

「ふうん・・・」

姉ちゃんは小さくそう言うと、ニヤニヤしながら俺を見る。

「ラブラブね、ゲオルグ」

「悪いかよ」

「別にそんなことは言ってないでしょ」

俺は姉ちゃんの言葉に小さく舌打ちすると、隣のなのはに目をやる。
なのはは、顔を赤くしてうつむいていた。

「あら、もうこんな時間。そろそろお昼を作らないといけないわね」

時計に目をやった母さんが、ソファから立ち上がる。

「あっ、わたしもお手伝いします」

なのはが母さんに向かってそう言いながら立ち上がる。

「いいのよ、なのはさん。どうぞ、くつろいでいてね」

「いえ。お料理は好きですし、お義母さんに教えて頂きたいこともあるので、
 ぜひお手伝いさせてください」

「あら、そう。じゃあ、手伝ってもらおうかしらね」

母さんはそう言うと、なのはを連れてキッチンへと向かった。
2人の姿が見えなくなると、姉ちゃんが話しかけてきた。

「ねえねえ、なのはちゃんって料理得意なの?」

「得意かどうかはわからないけど、苦手ではないんじゃないかな。
 ウチの食事は基本的になのはが作ってるけど、普通にうまいよ」
 
「ふーん。かわいくて、優秀な魔導師で、料理が得意・・・か。
 話してる限りは性格もいいみたいだし、あんな子を捕まえるなんて
 あんた、どんな手を使ったのよ」

姉ちゃんは俺の顔を睨みつけるように見る。

「別に特別なことはしてないよ。好きだって言われて、俺も好きだったから
 付き合いだして、ずっと一緒に居たかったから結婚することにした。
 それだけだよ」

俺の言葉に納得したのか納得してないのかはよくわからなかったが
姉ちゃんは俺の顔をじっと見て、最後にスンと鼻を鳴らすと、
膝の上のヴィヴィオと話し始めた。





そのあと、姉ちゃんはヴィヴィオと戯れ、俺は父さんと雑談をして
母さんとなのはが昼食を作る間の時間を過ごしていた。
しばらくして、キッチンの方から美味そうな匂いが漂ってきた。
ほどなく、キッチンから母さんが顔を出す。

「お昼ができたから、みんな食堂にどうぞ」

食堂に入ると、食卓の上に所狭しと置かれた料理の数々が目に入る。
中央には蓋をされたままの大きな鍋が置かれ、その周りにも色とりどりの
料理が鎮座していた。
豪華な料理に目を丸くして立ち尽くしていると、キッチンの方から
皿を抱えたなのはが姿を見せた。

「あ、ゲオルグくん。お義母さんってお料理上手だね。
 わたしも料理は好きだし得意なつもりだったんだけど、
 お義母さんにはかなわないよ」

「・・・俺もこんな豪華なのは見たことないよ」

「そうなの?」

なのはは皿をテーブルの上に並べながら、俺の方にちらちらと目を向けて
話しかけてくる。

「じゃあ、わたしってラッキーかもね」

「いや、なのはが来るからこれだけ豪勢になったんだから、
 ラッキーって言うなら俺や姉ちゃんだな」

「そうだね。今日のお昼はなのはちゃんをおもてなしするために
 お母さんも頑張ったんだし、なのはちゃんは大きな顔をしてればいいのよ」

背後から突然聞こえてきた声に振り向くと、微笑を浮かべた姉ちゃんが
そこに居た。
姉ちゃんの膝の上にちょこんと座っていたヴィヴィオは、そこから飛び降りると
食卓の椅子によじ登り、テーブルの上に置かれた料理の数々を見て、
その目を輝かせる。

「すごーい!ねえ、これって全部ママが作ったの?」

「ううん。ママはお手伝いしただけだよ。ほとんどおばあちゃんが作ったの」

「そうなの?」

意外そうに首を傾げるヴィヴィオに向かってなのはが頷く。
その時、キッチンから母さんが入ってきた。

「さあさあ、みんな座って頂戴。食べましょ」

母さんの言葉をきっかけにして、全員が食卓についた。

「さ、めしあがれ」

母さんの声に期せずして5人がそろって”頂きます”と言い、
みんなが思い思いの料理に手を伸ばした。





「ふう、食ったなぁ・・・」

「ゲオルグくん、よく食べてたもんね」

昼食を終えて、リビングのソファに腰を下ろし、少し膨らんだ腹を
さすりながら言うと、なのはが呆れたように笑う。

「でも、わかるよ。お義母さんの料理美味しかったもん」

そう言ったなのはが一瞬真剣な表情を浮かべて小声で何かを言った。

「何か言ったか?」

そう尋ねると、なのははすぐに笑顔になって首を振った。

「どうだったかしら?食事は」

母さんがティーセットの乗ったトレーを持ってリビングに入ってくると、
またもや姉ちゃんの膝の上に座っているヴィヴィオは声を上げた。

「すっごく美味しかったよ!おばあちゃん」

満面の笑みで言うヴィヴィオに向かって、母さんはにっこりと笑う。

「ありがとうね、ヴィヴィオちゃん」

母さんがヴィヴィオの金色の髪をなでると、ヴィヴィオは気持ち良さそうに
目を細めた。

「本当においしかったです。いろいろ勉強になりましたし、
 ありがとうございました」

なのはが深く頭を下げて、母さんに感謝の言葉を述べる。

「お口にあったのならよかったわ。こんなものでよければいつでも
 食べに来てね」
 
「はい。でも、今度は私の料理をお義母さんに食べて頂きたいです」

「あら、それは楽しみね」

楽しそうな、主婦同士の会話を見て、姉ちゃんが
おもしろくなさそうな顔をしていた。

「なんか不機嫌そうだけど、どうしたんだよ」

俺が声をかけると、姉ちゃんは俺の顔を睨みつける。

「・・・あんた、判ってて言ってるでしょ」

「まあね」

俺が頷くと姉ちゃんはますます不機嫌になる。

「さてと、それじゃあ後片付けをしようかしらね」

母さんがそう言って立ち上がり食堂に向かうと、なのはが慌てて
後を追いかけて行った。
俺は2人が食堂に消えたのを確認して、姉ちゃんの肩をたたく。

「姉ちゃん、ちょっと話がある」

首だけで俺の方を振り返った姉ちゃんは、俺の表情を見てわずかに目を見開く。
俺が真面目な話をしようとしていると察したのか、姉ちゃんは膝の上の
ヴィヴィオに話しかけた。

「ヴィヴィオ、ちょっとパパと話があるから、おじいちゃんに遊んでもらって」

姉ちゃんにそう言われたヴィヴィオは、最初はぐずっていたものの、
見かねた父さんがヴィヴィオを庭に誘うと、ヴィヴィオは軽い足取りで
父さんと庭に出て行った。
2人の背中を見送ると俺は姉ちゃんの方に向き直る。

「じゃあ、応接間にでも行こうか」

俺がそう言うと姉ちゃんは神妙な顔で頷き、自分で車いすを動かして
リビングの奥にある応接間へと向かった。





姉ちゃんに続いて応接間に入り、後ろ手に扉を閉めると俺は意識を切り替え、
応接間の豪奢なソファに腰を下ろす。

「で?話って?」

姉ちゃんが早く話を始めるように促してくる。
俺は大きく一度深呼吸すると、姉ちゃんの顔を真っ直ぐに見た。

「この前、地上本部で姉ちゃんの復帰希望について伝えてきたよ」

俺がそう言うと、姉ちゃんはパッと顔をほころばせる。

「ホントに!? で、なんだって?」

「当面は予備役扱いだってさ。で、日常生活が可能になって、現役復帰の
 届けを出したら現役の局員に復帰できるらしいよ」

「そうなんだ。意外と簡単じゃない」

姉ちゃんは拍子抜けしたように表情を緩める。

「でも、現役復帰後にまずは1カ月の戦闘訓練と、3か月の士官養成教育
 プログラムを受けて、部隊配属っていう手順になるみたいだ」

「士官養成・・・って?私陸曹なんだけど」

「あれ?言ってなかったっけ?姉ちゃん、殉職扱いで2階級特進してるんだよ」

「は!? 2階級って・・・3尉?」

「そうだよ。で、姉ちゃんは士官教育を受けてないから、現役復帰するなら
 士官教育を受けろってこと」

「ちょ、ちょっと。なんで生きてるのに2階級特進は取り消しにならないのよ」

姉ちゃんは狼狽した表情を見せ始める。

「そりゃ、降格する理由がないからだろ」

たとえ間違いでの特進とはいえ、正当な理由もなく降格はできない。
それが管理局のルールというものだ。

「それなら、私は生きてたんだから特進の理由が消滅してるじゃない」

「姉ちゃんの昇進は正式な決定だし、取り消すには時間が経ち過ぎだよ」

「うぅ・・・」

姉ちゃんは両の目を泳がせて反論の余地を探しているようだったが、
やはり見つからないのか、しばらくして深いため息をつく。

「わかったわよ。まあ、普通に考えれば悪い話じゃないし、
 きちんと教育を受けられるなら、大丈夫でしょ」

「じゃあ、やっぱり復帰するんだな?」

俺が尋ねると姉ちゃんは即座に頷く。

「正直言って、俺は賛成できないんだけどな」

「なんでよ?」

「理由は前に言ったろ?」

「前って・・・、お父さんとお母さんの気持ちを考えろってやつ?」

姉ちゃんはそう言うと、スッと目を細める。

「あんたの言うことは判るけど、復帰するかどうかは私の意思で決める。
 身体もつかまり歩きができるくらいには回復してきてるし、
 近いうちにお父さんとお母さんには話すつもり」
 
強い口調で言った姉ちゃんの顔を見ると、その目には力がこもっていた。
その目を見た俺は、姉ちゃんの意志の強さを感じ、姉ちゃんに復帰を
断念させることをあきらめた。

「わかったよ。手続きで俺の力が必要なら言ってくれよ」

「うん。ありがとね、ゲオルグ」

そう言って笑う姉ちゃんの笑顔は優しげだった。





夕方になって、実家を辞去した俺達3人は車で自宅への帰路についた。
運転する俺の隣にはなのはが座り、後部座席ではヴィヴィオが眠っている。

「ヴィヴィオ、寝ちゃってるね」

「ん?そうだな。まあ、ずいぶんはしゃいでたみたいだしね。
 それはそうと、ウチの人たちがヴィヴィオをすんなり受け入れてくれて
 よかったよ」
 
「そだね。私のことも暖かく迎えてくれたし、お義父さんもお義母さんも
 お義姉さんも気が合いそうでよかった」
 
そう言ってなのはは嬉しそうに微笑んだ。
俺は黙って頷くと自宅に向かって車を走らせる。
しばらくだまって運転していると、なのはが何か言いたげな目線を向けてくる。

「なんだよ、なのは」

「あのね、お義姉さんときちんと話せたのかなって」

「姉ちゃんと話って、姉ちゃんの復帰の話か?」

「うん。だって、昨日はずいぶん気にしてたでしょ?」

「まあ、姉ちゃんが居なくなった直後の両親の様子を見てるしな。
 俺自身だって何度も危ない目にはあってるし、姉ちゃんには
 二度とそう言う目にあってほしくないんだよ」

「そっかあ、そうだよね」

なのははうんうんと納得するように頷いている。

「何を他人事みたいに考えてんだよ。俺はできることならなのはにも
 管理局の魔導師を辞めてほしいんだぞ」

「えっ、そうなの?」

なのはは目を丸く見開いて意外そうな声を上げる。

「そりゃそうだろ。安全とは言いづらい仕事だし、自分の嫁さんに
 ついてもらいたい職業じゃないよ。最近の情勢を考えれば余計にな」

「うぅ・・・」

俺の言葉になのはは苦い表情でうつむく。
反論したいのにそのための言葉が見つからない、そんな風に見えた。

JS事件に伴ってゲイズ中将が収監されて以降、各地でテロが増加する
傾向にある。その最大の要因として管理局上層部が考えているのが
ゲイズ中将の不在による地上本部の組織力の低下だ。
つい数日前には、本局での会議から戻ったばかりのはやてと
その話題について話したばかりだった。

はやてによれば、6課がモラトリアム状態で居られるのは隊舎再建の
完了までで、それ以降は各地のテロ鎮圧に駆り出されるだろう
とのことだった。

「それでも、私は魔導師を辞めないよ。いくらゲオルグくんが言っても
 それだけは譲れないの」

なのはの目からは先ほどまでの弱々しい色が抜け落ち、意志に満ちた
力強い眼に戻っていた。
赤信号で車を止めると、目線は前に向けたままなのはに話しかける。

「判ってるよ。俺がいくら言ってもなのはが魔導師を辞めないってことは。
 だから、俺もなのはを説得するのは諦めてる。でもな」

そこで一旦言葉を切る。
なのはが目を瞬かせて俺を見ていた。

「だからと言ってお前が危険な目に会うのを受け入れてるわけじゃない。
 頼むから無理・無茶・無謀はやめてくれよ」

「・・・うん。ありがと、ゲオルグくん」

なのはは小さくそう言うと、俺の方に身を乗り出し、自分の唇を
俺の方に軽く触れさせた。
一瞬の接触のあと、なのははすぐに自分の席に身をうずめた。

 
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