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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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After days
summer
  Blue ocean




蒼い空、白い雲、宝石のように輝く真っ青な海。

飛行機は予定通りの時間に到着し、その後の道中も特に何もなく目的地に到着した。


「海だーーーーー!!」


という歓声は付き物なのだろうが、耳元で叫ばないでくれ里香……。

ギラギラと照りつける太陽は最近、引きこもりがちな俺にとっては少々きつかった。
が、里香を皮切りにテンションを上げていく面々を眺めていると、やがてそれも気にならなくなった。


「さてと……」


空港から出ていた臨時バスが停車し、乗客が降り始める。勿論、全員が政府か何かと繋がりのある(つまり、ほとんどVIP)人達だ。
その中で俺達はかなり異質な存在だった。

バスから降車し、浜へ歩き出す。わいわい騒ぐ和人達に適当に応じながら歩いていくと、不意に全員が静まった。


「……ちょっと待ってな」


浜の入り口の付近に停車している物々しい金属塊。装甲車や特殊車両、そして移動本部であろう通信機器を積んだ大型車。
そこに詰めている自衛官達も心なしか気を張り詰めて待機している。


(……あちゃあ、ダメだなこりゃ)


見れば周りにも入りにくそうにおろおろ立ち往生している組がいくつかある。気を張り詰め過ぎているため、それにすら気がついていない。

螢はやれやれ、と首を振ると誰も居ないその無人の空間に足を踏み入れ、堂々と歩いていく。
近づくにつれ、その詰所にいる自衛官達が若いことに気がついた。

なるほど、この大規模な作戦に裏方とはいえ、参加していることに緊張を感じているようだ。


「すみません、許可証の確認をして下さい」


普段の彼の声色より子供っぽい声、言い換えればやや無邪気な声で話しかける。


「は、はい。こちらへ……照会しますので……」


若い自衛官が許可証を持って大型車両に掛けていく間、蓮兄達に目配せして全員を呼び寄せると、丁度その自衛官が戻ってきた。


「えと、こちらが滞在中の身分を証明するものです。無くすと再発行は出来ないので、注意して下さい」

「ありがとうございます」


螢が人数分の証明書を受け取り、全員に配り終えるか否かのその時、何の拍子にか彼らの集団の後方に目線を移した自衛官の口から驚きの声が上がった。


「さ、沙良さん!!」


妹の名前を早口で口走る自衛官の目線を辿ると、こちらもやや驚いた表情の沙良。


早秋(そうし)君。久しぶりね」

「お、お久しぶりです!!」


ビシッ、と音がしそうなほど居ずまいを正した自衛官――早秋は感激のあまり言葉もない、といった様子だ。
実に分かり易く、好感の持てる態度に「性格は合格」と、心内で呟く。
沙良が同僚達の中でちょっとしたアイドル的存在なのは噂に聞いている。


「沙良、俺達はもう行く。仕事頑張れよ」


沙良が頷くのを確認すると、一行はぞろぞろと、浜に降りていった。








___________________________________








大きめの海の家で更衣室を借り、蓮兄、和人、海斗、狼李、レオン、エギルと共に着替え始める。


「……蓮兄、何で不機嫌そうなんだ?」

「ん……何でもねぇ……」


完全に何でもある態度だったが、予想は付いたので、敢えて詮索はしない。というか、それより深刻な問題が浮上していたからもあるが。


「……まあ、聞きたいことは色々あるだろうが、見ての通りだ。出来れば気を使ってくれないと嬉しい」

「……あ、ああ」


一様に螢の上半身に視線を注ぐ一同。筋骨隆々とまでは行かずともレオンに匹敵する程度に引き締まった肉体。その左腕の金属リングは小さいながらも少し目立っていた。
接合部をガチッ、と切り離し海用(人工皮膚の防海水防腐を強化したもの)に換える。

その他の準備を終え、更衣室から出ていくとき、重い空気を打破するように海斗が口を開く。


「何時からなんだ、それ」

「8歳ぐらいかな。義肢を付けたのは10歳」

「よく知らないんだが……指とかそんなに器用に動くものなのか?」


エギルが俺の腕をしげしげと眺めながら訊いてくる。


「カーボンナノチューブの疑似神経系が付いてて、指の動きは勿論、触覚まで本物のとさほど変わらない。右利きだし、日常生活に支障はないな」

「へえ……」


次々とされる質問に答えながら螢は先程まで抱えていた不安の種が消えていくのを感じた。









_________________________________







ガチッ、といって外れた腕を「ん……」と言って突き出すと、女性陣はあからさまに顔を引きつらせて引き下がる。

10分後、浜に集合した俺達は準備体操をしていた。
もう隠しているのも馬鹿らしいので、まず口頭での説明から実際に腕を切り離して実際に見せたのだが、彼女達の反応はやはり少しグサッ、と来るものがあった。

それはともかくとして、海を目の前にしてはしゃぐことをしない若者は大方居ないだろう。

海斗、狼李、レオン、蓮はもはやうずうずとしている。

一方、女性陣は依然として上着だけは着たままだ(仮に上着を脱いでいたら男性陣が準備体操どころでないのは目に見えている)。


「よし。いいぞ」


保護者役のエギルがそう言うと4人は瞬く間に飛び出して行った。当のエギルもサーフボード(自前)を片手に海へ歩いていく。


「……お前らも行ったらどうだ?」


木陰に敷いたビニールシートに和人(要するにインドア組)と座り込みながら女性陣に声を掛ける。


「あんたねぇ……女の子には色々準備があるのよ!」


里香が「そんなことも分からないの?」とでも言うように呆れた声を発する。


「準備……?ああ、日焼け止めか」

「そうよ」


最近の日焼け止めは効果が高い上に色々な作用が加わって紫外線などに高い効果があるそうだ。しかも海に入っても落ちにくいという優れもの。


「じゃ、早く塗って行けば?」


再度そう言うが、俺は直後に失策に気がつく、日焼け止めは素肌に塗るもの、つまり―――


「……あ、おっけ。解った。解ったから拳を振り上げるのはやめろ!?」

悲鳴を上げながら逃げ出す螢。それを追いかける里香。

やれやれ、と首を振りながら別の場所に移動を始める凛、夏希、珪子、直葉。




そして、残された2人は―――









___________________________________







Side和人



「……………」

「……………」


和人も明日奈も先程から無言だ。理由は2人の頬が暑さ以外の原因でほんのり赤く染まっていることから推察出来よう。

螢が居たときは「別にどうせ見せるんだったら恥ずかしがらなくていいんじゃないか?」と思っていたが、その螢が消え、いざ女の子と2人きり、ましてやそれが想い人である明日奈であると話は全く変わってくる。


「えっと、その……俺もちょっとどこか行ってようか?」

「え……、だ、大丈夫!!和人君なら、平気……」


その言葉にドキッ、としながらも同時に少し嬉しくなる。ネットゲーム意外取り柄の無い(本人はそう思っている)自分を好いてくれる特別な存在が居ることを心から嬉しく思った。


「で、でも、あんまりじっと見られるのは恥ずかしいかな……」

「お、おう」


視線を水で戯れるむさ苦しい男4人に固定する。何故か虚しい気持ちになったが、何故かは分からなかった。

いつぞや、借りた部屋のバスルームを貸した時の事を思いだしつつ(何故か途中で記憶が無いが)、目線を必死にコントロールする。


「キ、キリト君」

「な、何だ?」


キャラネームになってるぞ。と突っ込む余裕はなかった。


「えっとね……手が、背中は届かないの……」

「……う、うん」


頭が半分機能していない状況で気のない返事を返す。


「だ、だから……背中に、日焼け止めを塗って欲しいな、って……」


刹那、SAO元最強ソロプレイヤーはビキッ、と思考が硬直する音を確かに聞いた。
掠れた声で返事をし、明日奈に視線を向ける。

女子高校生の平均より一回りほど豊満であろう胸部は淡い水色の水着。くびれた腰の下、下半身はベージュのミニパンツ。いわゆるセパレート型水着の亜種、と言った所だろうか。


「じゃあ、いくぞ……」

「お、お願いします……」


手に垂らしたひんやり冷たい日焼け止めを自分の体温で温め、明日奈のその白磁のようにしろい肌に丁寧に塗っていく。

いつしか、2人にはお互いの存在以外は意識しなくなって行った……。








___________________________________







Side螢


その一部始終を物陰から1人はムッスリと、もう1人は満足げに眺めていた。
多少予定外のハプニングはあったものの、()()は大方上手く行った。


「お疲れさん」

「あ~。もう、あんなに触っちゃって!ムキ~!!」


ちなみに作戦シナリオは螢。役者は明日奈以外の女性陣、及び男性陣だ。

つまり、2人だけにさせるために螢が計らった作戦なのだが、代償として頭部の外的原因の頭痛(たんこぶ)をこしらえたのは少し予定外だった。


「……塗ってやろうか?」

「警察に突き出されたい?」

「冗談……」


据わった目で睨まれ、手をブンブン振って弁明する。


「はぁ……」


里香が2人から目を逸らし、立ち上がる。


「行くわよ」

「何処に」

「海に決まってんでしょ」

「パーカーのままでか?」

「替えぐらい有るわよ」


にべもない。付いてきなさいという無言の命令に螢は大人しく従う事にした。











___________________________________










その夜。

浜でバーベキューをすることになり、泊まるホテルの備品を借りて再び夜の海へやって来た。

昼とはまた雰囲気が違う静かな波の音を聴きながら買い込んだ肉や野菜を頬張る。


「蓮兄、食ってばかりじゃなくて焼いてくれ……」

「俺食べ専。お前焼き専。これすなわち必然」

「…………」


熱した金属箸を無言で眉間に突き刺し、蓮が悲鳴をあげている間に肉を焼き、食べる。


「上手いな」


食材はあらかじめホテルに頼んでおいたものだが、向こうなりに気配りしたと見えて保存状態は良い。新鮮な味がする野菜と共に食べる肉は実に美味しかった。

昼の一件で更に睦まじさが増した2人は一見いつも通りだが、さっきから一定距離を離れない。
少々やり過ぎた感はあったが、久々に心暖まる風景だったので、個人的には良しとする。
まぁ、バカップル度合いでは他の2組も負けていない訳だが。

お腹も膨れ、俺はエギルに断りを入れた後に1人で夜の海岸線を歩き出した。







仲間の声が遠ざかり、やがて消える頃、彼の雰囲気もガラリと変わっていた。


「ご苦労だった、藍原」

「いえ、仕事ですから」


後発組の情報戦部隊を率いてきた藍原が木の陰から出てくる。


「首尾は」

「今のところ上々。といった所でしょうか。隊長が兼ねてから懸念していた事態、今回は比較的高確率で起こり得るでしょうね」

「やはり、やつらは置いてくるべきだったか……」

「息抜きも必要ですよ。貴方はまだ学生でもおかしくない年齢ですから」


公的な話をしている時に藍原がこういった事を言ってくるのは珍しいことだった。
一歩間違えば不敬罪だが、そんな失態をするタマではないし、彼もそんな器の小さな人間ではなかった。


「準備は万全。運用部隊はいつでも出撃可能、と笠原主任から連絡を受けていますし、余程のことが無い限り心配は要りませんよ」

「笠原が何で運用部隊に着いてきているのかは横に置いておくとして……杞憂で終わればそれでいいんだよ」

「ごもっともです」


漆黒の空には満天の星空。光害の少ないこの地の星空は彼に何を告げるのか―――



事は三日目に動き出した。 
 

 
後書き
さて、今回は甘味料多めでお送りしました。
あまり甘い話は得意じゃないんですよ……。ここら辺が限界です。
得意な方がいらっしゃったら、ぜひともご教授下さい。

さて、毎度おなじみ『お知らせ』と書いて『方針転換』とよむコーナーです。

『過去編』はGGO後かマザロザ後にやることにしました。

プロフィールを更新しました。
理由?シノンとユウキを早く書きたいから!

とまあ、そんな身勝手な理由により変更をさせて頂きます。

次に、『Fall』の予告。
某メガネ役人にレイとキリトがパシられます。
長さは決まってません。ただ、ちょっと初めての試みなので、時間を食うかもしれません。
始まったらアドバイスなどを頂けると嬉しいです。 
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