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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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世界集結

8月14日。合同演習前日。現在はオーストラリアのキャンベラで各国の首脳同士が会談しているそうです。
 そうですって言うのは私が既にオーストラリアにいないからで……

「すごい……」

 目の前に広がるのはいまだ見たことも無い数の多国籍艦隊。
 主なものだけ上げてもアメリカの世界初IS搭載空母『ジョージ・ワシントンⅡ』。
 イギリスの最新鋭、クイーン・エリザベス級航空母艦『クイーン・エリザベス』。
 日本のひゅうが型護衛艦3番艦『なると』。
 中国の瀋陽級駆逐艦『風』。
 ロシアのアドミラル・クズネツォフ級航空母艦『アドミラル・クズネツォフ』。
 そして今私の乗っているオーストラリア所属の赤道連合所属軽空母『ハーバーブリッジ』。

 さらにそれらを護衛、または追随する形で十数隻の艦船が周囲に展開されているため、少なくとも100隻は近い数の艦船がこのソロモン諸島沖に集まっています。

 さらに特筆するのはそれに並ぶほどのISの反応。ステルスモードになっているものを抜いてセンサーに映っているものだけでも20機。私みたいに隠してる人もいるだろうから多分この倍近くはISがあるはず。
 そう考えるとここに居る人たちが全て纏まれば世界を支配することが出来たりするわけですが……

ゴオオオオオオオオオオオオ!

「わ!」

 至近距離を3機の『デザート・ウルフ』の哨戒部隊が通過していき、その風で捲くりあがりそうになるスカートを慌てて押さえつけます。
 空を見上げると既にその3機は空高く雲を引いて上がっていくところでした。クロエも今は自分の部隊に戻ってあんな風に哨戒任務に当たっているはず。うーん、私だけ何もすることが無いって言うのは……

「って言ってもなあ……」

 私の後ろにいる軍人さんを見る。国の中でもケジメは必要だって言うことで護衛という名の監視が私にはつけられています。オブサーバーとして参加したとしてもその立ち位置はあまり変わらない。福音事件に参戦していたからこその異例参加であって本来なら未だに本国で謹慎中の身なのですから。
 潮風に髪が靡く。天気は快晴、波は穏やか。こんな日じゃなければ絶好の行楽日和なんだけどなあ……

『甲板要員に告ぐ! ISコンバットランディング(戦闘着艦)! 緊急要員以外退避せよ!』

 艦内放送が終わるとほぼ同時に一機のISが空母に着艦します。コンバットランディングは戦闘中を想定した着艦方法でかなりの速度を保ったまま空母に着艦すると言う荒業です。通常の戦闘機なら車輪や甲板が破損する可能性があるのでほとんど行われません。ですがISならばPICもあるのでそこまで甲板を気にせずに済みますし、何より素早い補給が求められるため練習しておかないとイザと言う時のための備えになりません。まあこんなことをしてる時点で既にスポーツではなく兵器として使っているってことなんですけど……
 着艦してきたのは『デザート・ウルフ』。両肩と背中にドーム状のレーダー装置を装備した強行偵察用パッケージ『レイヴン』を身に着けています。強行偵察用の名に恥じぬ膨大な情報処理を行うために顔をフルフェイスに近いバイザーで覆っているため顔が見えないので誰が着艦したかは分かりません。

「ええいくっそ! なんで私がこんなもんを!」

 ってこの声……
 ISのパイロットが荒々しくバイザーを顔からどけると、予想通りクロエでした。
 クロエ、偵察とか哨戒とか言う細かい任務苦手ですもんね。一年前とかは基本的に近海に出没する海賊の迎撃とか追撃とか多かった気がします。

「換装早くしてくれ! 動きにくくてしょうがない!」

 やっぱり……クロエの得意とするのは近距離の高速戦闘ですからね。
 クロエの周りには既に次のパッケージが用意されていて作業の人たちが急いでケーブルを接続しています。
 んー? あれも見たこと無いパッケージ? 最近多いなあ。『レイヴン』も今日初めてみたんですよね。
 福音事件以来秘密裏に作っていたパッケージを全部公開するようで、クロエはそれに付き合わされている状態です。今までの飛行も他の国へのパフォーマンスでしょうし、苦労しますね。

「カスト少尉、こちらへ」

「あ、はい」

 それを見ていると後ろにいた軍人さんに中に入るように促されて、私は近くの扉から中へと入ります。

「やあ、謹慎者。護衛付き?」

「あ、ホアさん」

 中に入って掛けられた声に顔を向けると、1人の女性が立っていました。長い黒髪を花飾りの綺麗な髪留めでしばっている少し肌の色の黒い女性、元ベトナム人民軍代表候補で今回の件で赤道連合の代表候補になったグエン・ティ・ホア少尉。
 今回の演習に参加するために所属する部隊から引き抜かれてきた精鋭です。それに加えて使用しているISはかなり特殊なものでそれも関係しているものと思われます。

「ああ、お疲れさま。こっちで引き継ぐから護衛はいいですよ」

「は? いえしかし…」

「代表候補でISを持っているので大丈夫ですよ。ご心配なく」

「了解しました」

 ホアさんが私の後ろの人たちを下がらせてくれました。そのままホアさんは踵を返すと私の前に立って無言で先導していきます。
 ちなみにこのホアさんは会ったのは昨日が初めてです。ベトナムに関しては近いとは言え赤道連合に関与する前は会う機会なんてありませんでしたし、候補生のデータベースで見た顔だけしか知りませんでしたね。

「とりあえずはブリーフィングルームに集合とのことです。先ほどクロエさんも戻ってきていたので後から合流してくるでしょう」

 そう言っている内にホアさんに連れられて艦橋近くのブリーフィングルームに入ります。
 中は既に薄暗くイスが円状に並んでいて、中央には立体映像の投影機が置かれていて今から行われるキャンベラでの首相同士の会談の様子が映し出されるようになっています。
 空いている席を見つけてホアさんに続いて座りました。
 ちょっと横をみるだけでも赤道連合の国家代表や代表候補生のデータベースで見たことのある顔の人ばかり、私を含めて9人。後クロエが来るはずですから合計で10人。
 そして会談の行われているキャンベラには赤道連合、アメリカ、EU、アジア圏、ロシアから国家代表が警備に当たっているはずです。
 その人数が10人近く、近場の船で待機しているのが20人前後、情報ではそれに専用機ではないISが30近くの合計約60機。

「隣、失礼」

「は、はい。どうぞ……っえ!?」

 私の隣に座ってきたのはセミロングの鮮やかな緑色の髪をし、琥珀色の瞳をした豪州空軍の軍服を身に纏った女性……

「静かにな」

「あ、はい。すいません」

 豪州国家代表、オリヴィア・ウィルソン。
 豪州最初の国家代表で、第1回、第2回モンド・グロッソ両方に出場し、第1回総合成績5位、第2回総合成績4位という成績を残した名実ともに赤道連合最強のIS操縦者です。現在は3機ある『デザート・ホーク』の内1機を専用機として受領していて、赤道連合に参加している各国の間で指導していると聞きましたがどうやら今回召集されたようですね。
 そ、それにしても緊張します……ウィンザー様もそうでしたが、一人の代表候補生としてはウィルソン代表も雲の上の存在ということに変わりはありません。そう考えるとこの会議と演習がどれだけ重要なのかよく理解できます。あ、何か緊張で変な汗出てきた気が……

「始まるぞ。ちゃんと聞いてなよ」

 ウィルソン代表の言葉にはっとなって正面の立体映像へと意識を戻します。それにしてもこの薄暗い中で人のことまで気が回るって言うのはすごいですね。

『皆さん、ご多忙の中よく集まってくれました』

 開会の挨拶は予想通りアメリカから来た大統領が行い、それに続いて各国の首脳や大統領、代表と言った人たちが挨拶していきます。

『こんにちは皆様。イギリスを代表してきたヴィクトリア・ウィンザーです。今回は調停役として見届けさせていただきますのでどうぞよろしくお願いいたします』

 最後にウィンザー様が簡潔な挨拶をして会談が始まりました。
 会談が始まっても内容的にはあまり進展の無いように見えます。
 現状の確認とか貿易とか新しい国際条約についてとかそういう以前からも問題になっていたものばかりで福音事件の件には一切触れていません。どの国もいい機会を伺っているのでしょうが、政治って面倒というのを改めて思ってしまいますね。

「ふふ、面白いねえ。狸や狐の化かしあいだ。さてさて、誰が仕掛けるかな?」

 右隣にいるウィルソン代表がそのやりとりをみて面白そうに口元を吊り上げています。
 結局3時間は場が動かずに1時間の小休止を挟むことになりました。その間、私たちも休憩です。席は立たずにそれぞれが近くの候補生や国家代表と会話を始めていますが……私の隣は世界有数のIS操縦者、おいそれと声を掛けられたものではありません。

「緊張してるの?」

「え? はい、まあ」

「まあそうよね。何て言ったって世界の方針が決まりかねない会議だものね」

 左隣のホアさんが気を使って声を掛けてくれましたけど私の緊張とは別の意味で緊張しているようです。いえ、私もそっちは非常に気になってはいるんぼですけど、この3時間、ウィルソン代表の隣って言うのは想像以上に精神を削られます。
 ちらりと横に座っているウィルソン代表を見ると、脚を軽く組んで豊満な胸の下で腕組みをしています。それがまた様になっているというか……すごい綺麗です。
 その時、私の視線に気付いたのかウィルソン代表がこちらを向きました。

「どうした? 何か用か?」

「い、いえ! そういうわけではないのですが……」

「言いたいことがあるならはっきりな」

「あうあう。わ、分かりましたから止めてください……」

 ウィルソン代表はそれだけ言うと私の頭をグシグシと乱暴に撫でてきました。
 休憩時間をほとんど休めないまま一時間が経過し、そのまま会談が第2局面に突入します。
 しばらくは先ほどまでと同じ様に他愛ない話が進み、一時間。今も終わらないテロ事件に関する話になった瞬間に場が動き出しました。

『さて、問題はいかにテロの脅威にISを当てるかですなあ。この間はどこぞで軍用ISなどという条約違反の物が暴走なんぞを起こしたとか。全く困ったものです』

『ああ、その件なら話は聞いておりますよ。いやはや、民衆に示しがつきません。ただでさえISは扱いが難しいというのに軍用とは……いったいどこの常識知らずが……』

『常識知らずと言えば何でも織斑一夏以外にISが使える男が出たとかいうでたらめを言った国もいましたなあ。各国の信頼を揺るがす信じがたい所業です。許せませんな』

 明らかに福音事件のことから始まるこの会話はそこから一気に爆発していく。米国相手に他の国が牽制、攻撃を行い、米国は米国でそんな事実は無いとして他の国のIS情報の秘匿性、軍事化について言及。正直言ってしまうとIS専用空母なんて他の国ありませんし、米国ほどISを兵器として扱っている国も無いとは思いますけどね。
 一応『ジョージ・ワシントンⅡ』の名目は古い艦を改修しただけっていう事になってますけど、他の国でIS用にする改修工事って分かってない国は多分ありません。実際見たことないから何とも言えませんけど

 そしてそのまま白熱してくかと思われた場が、ウィンザー様の言葉で一気に静寂が訪れた。

亡国機業(ファントムタスク)……というテロリスト集団を皆様ご存知ですか?』

 亡国機業? 聞いたこともありませんが……左隣にいるホアさんを見ると、ホアさんも首を横に振ります。そして右隣のウィルソン代表はというと……ヒュウ、と少し驚いたように軽い口笛を吹いていました。
 国家代表クラスともなるとやっぱり何か知ってるんでしょうね。
 でもそれを聞く前にウィンザー様の話が続く。

『その組織は第2次世界大戦時に生まれたとされ、当時から今まで様々な紛争、戦争に関与して来ました。組織の規模、構成、目的さえも不明。ただはっきりしていることが一つ。彼らの目的は近年のISにある、ということです』

 ISが目的のテロリスト集団? そんなの今まで聞いたことも……

『大統領? 7月7日、日本近くの太平洋で米軍のアラクネが単独で確認されたと言う情報を得ていますがそれは米軍が動かしたものでしょうか?』

『いや、我が軍はそんな時期に単独での飛行を許してはいない』

『認めるのは屈辱でしょうが、去年の2月に米国の研究所で事故が起き、その際ISが一機凍結処理されていますよね? 米国第2世代正式採用型IS『アラクネ』。本当は襲撃、そしてISは強奪されたものではありませんか?』

『む……』

 去年の2月13日。米国のとあるIS研究所が爆発炎上した事件でしょう。人的被害は皆無でしたが、米国の発表によるとそれはISによるものだそうで、そのISは凍結処理されたとの発表でした。それが襲撃によるものだった、ということはそういう可能性もあるということになります。

『そう考えると非常に辻褄が合うのです大統領。彼らの目的は不明でもターゲットはIS。ならばその単独での『アラクネ』は亡国機業のテストだったのではないか、と。そう考えない限りあの何もない(・・・・)時期に米軍が太平洋に軍を出すなんて考えられないのです』

『………………』

 う、上手い。過去の強奪事件を認める代わりに福音事件そのものを無かったことにしようと、そういう取引のようです。確かにこれは外部にも放送されていないこの場に集まってる人しか知りえない情報ですが、それでもこんな公の場で言うことですか。
 これをアメリカが認めさえすればフランスの男性を女性と偽った件、豪州のパッケージ秘匿、米国の福音の暴走を全て片付けることができる。しかしアメリカが認めない限りそれは通じないのでは……
 そこで一旦映像が途切れました。ってえ?

「な、なんで……」

「アメリカが認めやすくしたってことだろ。あのままじゃ絶対アメリカ側は認めないからな」

「あ……」

 私の呟きにウィルソン代表が答えてくれました。
 結局、1時間以上映像は真っ暗で何も映さず、そのまま艦隊司令部から解散命令が出ました。

 その後、明日から始まる演習の名目が発表されました。

『亡国機業によるIS強奪事件の対処』

 これにより参加していた国家代表、代表候補、軍人全てにISを強奪するテロリストがいるというのが知れ渡った。
 
 

 
後書き
今回登場したオリキャラ

オーストラリア
『オリヴィア・ウィルソン』

ベトナム
『グエン・ティ・ホア』【鶯宿梅様】


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