万華鏡
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第十八話 プールその六
「注目される水着を着てね」
「それでよね」
「海に出ればいいから。けれど海はね」
琴乃はこれまでの純粋な笑顔からいささか苦笑いになった、そしてそのうえで今度はこう言ったのだった。
「日差しが強くて」
「あっ、それで日焼けして」
「痛くなるから」
日に焼けてそうなるというのだ、海での悩みの一つだ。
「中にはもう全身ガードをしてる人もいるし」
「上着着て帽子被ってサングラスにってね」
「そこまではしないけれど」
若いからそこまではしなくていい、だがこれが所謂アラサーになるとそうはならないのだ。
「クリームは塗るから」
「ガードしないと後が大変よね」
「里香ちゃんはそれ大丈夫?」
日焼けはどうかというのだ。
「日焼けで痛くならない?」
「私はそこまではね」
ならないというのだ。
「そんなに日焼けしない方だから」
「あっ、そうなの」
「うん、それでなの」
「何かそれ羨ましいわね」
琴乃はその笑みに今度は羨望を入れた。
「日焼けしにくいって」
「ううん、そう言われたら」
「私夏は日焼け止めクリームが欠かせないの」
琴乃にとって日焼けは天敵だった、日焼けの痛さはかなり辛い。
「だからね」
「大変なのね」
「冬は冷え性で夏はそれよ」
今は純粋な苦笑いだった。
「辛いわよ、本当に」
「傍で聞いててもそう思うわ」
「でしょ?だから夏はクリームで」
それにだった。
「冬はカイロが必須なのよ」
「そういえば琴乃ちゃん四月でも厚着してなかった?」
「まだ寒かったから」
制服の下にもう一枚着ていたのだ。
「それでだったのよ」
「成程、そうだったのね」
「そうなの。ただ花粉症はないのよ」
春に日本を覆い国民を苦しめるこの難病とは無縁だというのだ。
「だから春は厚着だけなの」
「あっ、実は私」
里香は花粉症と聞いて困った顔を見せた。
「花粉症なの」
「マスクとかしてなかったけれど」
「花粉症のお茶、甜茶を飲んでるからね」
だから大丈夫だというのだ。
「何とかやっていけてるの」
「そうだったの」
「とにかく花粉は駄目なの」
「里香ちゃんはそうなのね」
「それに私も寒いの駄目だから」
里香もそれは駄目だというのだ。
「神戸って冬寒いじゃない」
「六甲から風が来るからね」
これが六甲おろしだ。冬の神戸を冷やしてくれる風である。
「だからね」
「そうなのよね。大阪の寒さは我慢できても」
「神戸は違うわよね」
「寒いわよね、やっぱり」
「ええ、だからね」
里香は冬のことを今から思って困った顔になっている。
「冬は余計に駄目なの」
「関西って寒い場所案外多くない?」
「神戸だけじゃなくて?」
「そう、奈良も京都もだし」
琴乃はこの二つの府県の話もした。
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