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リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
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第二十三話~本音~

 
前書き

お話その1です
ではどうぞ

 

 



???


 そこにあるのは見渡す限りの骸。そしてその骸を縫うように存在する剣や槍などの無骨な凶器。それだけでそこにあるのが戦場と判断できる。
 しかしそこには唯一ないものがある。それは“統一性”。
 倒れている骸には男だけでなく女もいた。大人だけでなく子供も老人もいた。屈強な者だけでなく明らかにひ弱そうな者もいた。
 そこにいるのは全てが死人。だからその統一性のなさに気づく者は一人だけ。この光景を目にしている高町なのはという意識だけであった。

なのは「何、ここ……」

 彼女は絶句する。
 そこは彼女の知る“戦場”ではない。
彼女の知る戦場では無骨な武器は使わない。
彼女の知る戦場ではこれほどの死は生まれない。
彼女がわかるのはここで自分の知らない戦いが起こったことだけ。
それを理解すると彼女は駆け出す。自分を強く保つために。まだ生きている命があるのを確かめようとするために。ただ生きているのが自分だけである認識するのを拒むように。ただ彼女は安心を求めていた。
それほどにここには濃密な死が存在していた。

なのは「ハァ、ハァ、ハァ!」

 どのくらい走り、どのくらい走ったのかもわからなくなった時視界に何か動くものが見つかる。何かに縋るようにそちらに視線を向け近づいていく。
 そしてそこにいたのは多くの骸に囲まれながら、2つの骸を抱え俯く少年であった。

なのは「………ラ…イ、くん?」

 その少年を見て自然になのははそう口にしていた。
 骸をかかえる少年はなのはの知るライをそのまま幼くしたような見た目である。そしてその少年が抱える骸の片方は妙齢の女性。そしてもう片方がその少年よりも幼い女の子であった。
 少年はまだ大きいとも言えない体でその2つの骸を抱えている。その重さを確かめるように。溢れてしまった命を噛み締めようとしようとするために。
 なのははそれをただ見ている。彼女にはそれしかできなかった。理由は彼女にもわからない。ただ頭のどこかで理解していた。「これに自分はかかわれない」と。
 なのはそこでその少年が俯いていた顔を上げるのが見える。
 その少年は泣いていた。嗚咽を上げながら、嘆きながら、悔やむように。

少年「……母上……サクヤ………」

 少年の呟きが聞こえた時、なのはの意識は急速に引き上げられた。



機動六課・医務室


 目の前に広がるのは夕日の光でオレンジに染まる天井。
それはこの機動六課では見ることがないと思っていた天井。そんなことをぼんやりと考えながらなのはは体を起こす。起こしてみるとその体は今朝よりも重く感じる。
 自分が考えたとおりそこは機動六課の医務室であることを確認したなのはは辺りを見回す。そして視線を向けた先にあったのは隣のベッド。そこに眠るのは自分の教え子であり部下であるティアナであった。

なのは「……」

 彼女を見て思い出すのは訓練でのこと。ティアナの無茶と自分の暴走、そしてライの介入。あの時の自分を思い出し自己嫌悪に陥りそうになり少し目頭が熱くなった。

なのは(……駄目、それは駄目…それだけは駄目なの!)

 自分に言い聞かせるように目を瞑り、首を横に振る。そして少し落ち着いた頃にその部屋の扉が開かれた。

フェイト「……なのは?」

 そこにはなのはが起きているのかを確認するために名前を呼ぶフェイトがいた。

なのは「フェイトちゃん……」

フェイト「良かった。目が覚めたんだね。」

なのは「うん。」

 ベッドの隣に脱がされていた制服の上着に袖を通しながら、自分が気絶したあとどうなったのか聞こうとしたが隣にティアナが寝ているのを思い出し場所を変えることにした。



機動六課・隊舎屋上


 2人が向かったのは隊舎の屋上。普段から人気の少ない場所であったため今回も人がいないことを予想しこの場所を選んでいた。

なのは「……あの後、どうなったの?」

フェイト「ライがなのはを気絶させた後、訓練は中止になったよ。」

なのは「…………迷惑かけちゃったね。皆にも、ライ君にも…」

 落ち込むなのはを見て何か声をかけようとしたが先になのはが口を開いた。

なのは「フェイトちゃん、ライ君はどこにいるか知ってる?」

フェイト「え?あ、確か中庭にいたと思うよ。」

なのは「少しお話してくるね。」

 その場から立ち去ろうとするなのはの背を見送るフェイトはその表情を不安で曇らせた。それはなのはとライが話すことにではない。それは自分にとっての大切な親友の気持ちを知ることが今は怖かったからだ。

なのは『大切なものを失いそうになったこともない人に私の気持ちなんてわからない!!』

 模擬戦の最後に彼女が叫んだ彼女の言葉。それを聞いて思い出すのは幼い頃、彼女が堕とされて生死の境を彷徨ったあの事件。自分にはできることがなかった。だから自分にできることとして彼女の弱音ぐらいは聞いてあげたかった。
 だが彼女は泣くこともなく、弱音を吐くこともなく回復した。これまでフェイトはなのはの強さに憧れた。心配もするが心のどこかでは「なのはだから大丈夫」と思い込むようになっていた。それほどフェイトの中でのなのはは大きな存在になっていたのだ。
 しかし彼女の叫びはフェイトのその考えを否定するものであった。
 フェイトはあの事件からなのはが溜め込んでいたものを知るのが怖かった。もちろんなのはの為に何かをしたいとは思っている。だがそれが自分では解決できないことだった場合、またなにもできない自分を再確認することになってしまう。
 フェイトにとってはなのはの力になれないことが一番の恐怖であった。



機動六課・中庭


 中庭でフリードと昼寝をしてからライはよくここを訪れるようになっていた。いつもなら今の時間、日が沈む前の夕日を見て心を落ち着かせるのだろうが今の彼の表情は沈んでいた。
 模擬戦での介入。それを行ったことに後悔はない。だがそれをしたことでなのはを精神的に追い詰め傷つけたと考えてしまうと自分の介入が正しかったかどうかは分からなかった。
 なのはとティアナが砲撃を向け合った時にライの脳裏に浮かんだのは神根島の祭壇でのルルーシュとスザクの事。本当は分かり合えるはずの2人が憎しみ合う姿。もし自分が介入せずにいたことで親友達の様になのはとティアナの2人が憎しみ合うようにはなってほしくはなかった。そのためだけにライは介入したのだ。
 これから2人がどうなるかをぼんやりと想像しながらライは夕日を眺める。
そこにライにとって今最も気になる人物の1人であるなのはがライのそばに立っていた。

なのは「……」

ライ「……」

 お互いに何かを言いたいが何をいうべきか、どう言葉にするべきかわからない、そんな表情を2人は浮かべる。

ライ「……ケガは…」

なのは「え?」

ライ「ケガはない?」

なのは「あ、うん。大丈夫だよ。」

ライ「……過去に何があったか聞いてもいいかな?」

なのは「!……どうして?」

ライ「あの時、『失いそうになった』って言っていたから。」

なのは「……」

 なのはは座っているライの隣に腰を下ろして静かに語り始めた。
 それは彼女にとっての苦い記憶。自分が無茶を重ね堕ちた事。そして怪我を負ったのが原因でリンカーコアを損傷し魔法が使えなくなる可能性があったこと。

なのは「――だからこれは私が失敗したお話。身勝手だけど自分が受けた苦しみをあの子達に味わって欲しくなかったから。でも少し焦っちゃったかな?私もティアナも。」

 全てを話し終え苦笑を浮かべながらなのははそう口にした。その表情を見てライは感じたことを口にした。

ライ「笑いたくなければ……泣きたければ泣いてもいいよ。」

なのは「…なんで……どうしてそんなこと言うの?」

 ライの言葉でなのはは表情を消して問いかける。なのはの中で溜まっていたものが溢れ出し決壊した。そこからはもう止まらなかった。

なのは「私が泣いたらみんなに迷惑がかかっちゃうんだよ?どうしてみんなに迷惑をかけなきゃならないの?私は笑ってなきゃダメなんだよ!」

ライ「……」

なのは「私はみんなの――えっ?」

 激情に任せて叫ぼうとしたがそれはできなかった。なぜならライが優しくなのはを包むように抱きしめたのだから。

ライ「みんなに本当のことを言うのは確かに怖い。それは僕も同じだった。」

ライの真実を知る者は元の世界でも極僅かな人間だけである。それはそうしなければならない理由があったためだ。
だからこそなのはの気持ちの一部をライは理解できた。

ライ「言葉だけでは気持ちは伝わらないかもしれないけど、僕には言葉にするしかないから言うよ。」

 ライはなのはを落ち着かせるように頭を撫でながら言葉を紡ぐ。

ライ「僕は仲間が苦しむところは見たくない。確かになのはが我慢すれば他のみんなは笑顔かもしれない。でもそれだとなのはが笑顔になれない。だから図々しいかもしれないけど僕の前では泣いてほしい。」

なのは「で…も……」

ライ「今までよく頑張ったね。」

 その言葉とライから伝わる温もりが嬉しかった。なのはは顔をライの胸に埋めて泣き始める。今まで何が怖かったのか、そして何を我慢してきたのかを吐露しながら。何かに怯える子供のように。実際、彼女は子供の頃の体験により、1人で溜め込み他人に弱みを見せないようになっていた。
だから知らなかったのだ。泣き方を。弱みを見せるということが見せた相手を信頼することができるからこその行為であることを。
ライは泣いているなのはの背中を撫でていた。時折なのはの言葉に相槌を打ちながら全てを受け止めるように。
なのはが泣き止んだとき既に陽は沈み、辺りは真っ暗になっていた。

ライ「落ち着いた?」

なのは「……うん。」

 なのはは顔をライから離し、今は少し俯き気味になっている。泣き止んだ当初はライに抱きついていたことと自分の涙で濡れたライの服を見るのが気恥ずかしくて真っ赤になっていたがそれも落ち着いていた。

なのは「……ありがとう…」

ライ「ん?」

なのは「そう言いたくて……」

 なのはの言葉にライは笑顔で答えた。

 
 

 
後書き

今回執筆していて二、三回書き直ししました。なぜか話の流れに身を任せながら執筆しているとBADエンドな内容になっていましたから。(-.-;)

ちなみに今回執筆していて何回かなのはの兄を殴りたくなっていました。

次回は小規模ですが戦闘回です。

ご意見・ご感想をお待ちしておりますm(_ _)m
 
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