戦国異伝
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第百十三話 評定その二
このことに彼等は感激して言うのだった。
「いや、幸いでございます」
「これで大きな屋敷を建てられます」
「女房にいいものを食わせてやれます」
「馬も揃えられまするな」
「ははは、山の神は大事にせよ」
女房のことだ。山の神は女とされるので信長もこう表現したのだ。
「この石高で美味いものなりいい服なりを買ってやれ」
「はい、さすれば」
「そうさせてもらいます」
「是非そうせよ。その為の石高じゃ」
信長も笑顔で言う。だがここで。
彼は慶次と可児を見て少し苦笑いでこう言ったのだった。
「御主達はそれでよいのか」
「はい、一万石でも充分過ぎる程です」
「わしもです」
二人もこう信長に答える。
「むしろ一万石もあれば」
「過ぎたるものでございます」
「五万は出すぞ」
信長は二人に告げた。
「御主達の戦場での働きを見ればな」
「いえ、それがし達は政をしませんので」
「そこまでは結構です」
「だからです」
「一万石で充分でございます」
「ふむ、左様か」
こう言われては信長も納得するしかない。それでだった。
仕方ないといった感じの顔になってこう二人に告げた。
「では御主達は一万石じゃ」
「これ以上はいりませぬ」
「満足しております」
「では褒美にしよう」
だからといて功に報いぬ訳にはいかない、信長は手柄を立てた者に褒美を与えないといったことは嫌いだ、それでだった。
彼はここでこう言ったのだった。
「茶器や刀でよいな」
「はい、お願い致します」
慶次が笑顔で信長のその言葉に応える。
「それがし無類の茶器好きですし」
「ではは面白い茶器を用意しよう」
「楽しみにしております」
「才蔵には。そうじゃな」
彼の好みからこれを出した。
「竹の庭がある屋敷も用意しようか」
「有り難いですな。しかしそれですと夏は蚊が多くなりますな」
「蚊帳も多くやるぞ」
「そして出来れば蜻蛉も多く」
「ははは、それは池にヤゴを多く飼え」
ヤゴから蜻蛉になる、それで言うことだった。
「蝙蝠も傍に置くか」
「ですな。そこはそうします」
「では屋敷でよいな」
「有り難き幸せ」
可児も笑顔で応える。彼等についてもこれでよしとなった。
信長は主だった家臣達を皆万石取りとした。その中には羽柴もいた。
彼もまた目をしばたかせ驚きを身振りに入れてこう周りに言った。
「何と、わしが万石取りとな」
「はい、それがしもです」
秀長も兄に述べる。
「万石取りになりました」
「御主は三万石じゃな」
「兄上は十万石ではありませぬか」
「ううむ、足軽で入って瞬く間に十万石とな」
秀吉は自分の右手で己の頬を抓ってこんなことも言った。
「夢ではないな」
「夢と思われていますか」
「うむ、夢ではない」
自分で言う。
「まことのことじゃ」
「そうです、夢ではありませぬ」
「まさかのう」
「ですが兄上、これで」
「うむ、母上にうんと贅沢をさせてやれる」
それができるというのだ。
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