八条学園怪異譚
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第十九話 口裂け女その五
二人でまずはベッコウ飴を買ってそのうえで次の日の放課後に高等部の正門のところに向かった。丁度いい具合に正門も他の場所も夕焼けで赤く染められしかも人気もない。
その正門のところに来てから聖花が愛実に言った。
「さて、噂通りならね」
「条件が揃ってるわよね」
「ええ、人気のない夕暮れの高等部の正門」
「ベッコウ飴も持ってるし」
「出て来る条件は揃ってるけれど」
「本当に出て来るかしら」
「若し出て来るのなら」
聖花は二人の周りを見回しながら愛実に話した。
「何処から出て来るのかしら」
「妖怪さんっていつもいきなり出て来るけれどね」
これも妖怪の特色だ、物陰や人の視界の死角に隠れていてそこからすっと影の様に出て来るのである。
「瞬間移動じゃなくて」
「そう、物陰に潜んでいるから」
二人もこのことはもうわかっていた、これまでのことで。
「瞬間移動出来る妖怪さんもいるみたいだけれど」
「それって縮地法っていうのよね」
「そうみたいね」
聖花はこの言葉にも乗った。
「北朝鮮の将軍様が代々使えるっていう」
「それは嘘でしょ」
「絶対に嘘だけれどね」
こうした与太話、もっと言うと出来の悪いファンタジー小説の設定を信じる者は左がかった者達にもいはしない。
「そう言ってるから」
「酔っ払いが俺は天才だって言ってるのと一緒よね」
「まあそのレベルよね」
「でしょ?それと」
「大体そんな超能力使えたら普通にあの国もっと凄くなってるわよ」
ああした飢餓国家にはなっていないというのだ。愛実もそれを言う。
「常識で考えてね」
「他にも色々術を使えるって設定だったからね」
「三代目のあの何処かの人造人間そっくりの人もかしら」
「そうじゃないの?初代も二代目もだから」
「ううん、馬鹿みたいな話ね」
「あの国の言うこといちいち真に受けても仕方ないし」
これはまさにその通りだった。
「嘘しか言わないから」
「本当に嘘しか言わないわよね、あの国」
「でしょ?けれど妖怪さん達は違うから」
聖花はあらためて彼等の話をした。
「素直で正直だからね」
「そうよね。いい妖怪さん達はね」
「今度の口裂け女さんもそうかしら」
「まあ噂ではそうみたいだし学園の結界もあるから」
悪い妖怪は出入りも中にいることも出来ない、このことからも言えることだった。
「いい妖怪さんよね」
「絶対にね」
そうした話をしながら二人で待っていた、するとだった。
やがて二人の目の前にすっと例の格好をした女の人が出て来た。そしてお決まりの台詞を言ってきたのだった。
「あたし奇麗?」
「どっちで答えるべきかしら」
「それよね」
ここで二人は迷うことになった、実はそこまでは考えていなかったのだ。
「ここはどうかしら」
「美人って言ったらマスク取って来てあれだから」
これもテンプレである。
「違うって言ったら帰っちゃうのよね」
「じゃあここはね」
「それよね」
「とにかく答えてね」
相手の方からも言ってくる。
「さもないと話が進まないから」
「そうそう、そうよね」
「それだったら」
二人も相手に応えて互いに頷き合いそれからあらためて相手に身体全体を向けてそしてこう言ったのだった。
「奇麗よ」
「そう、かなりね」
「やっと言ったわね。それじゃあね」
相手もやっとと頷いてからそして口にあるそのマスクを外して言った。
「これでも美人か?」
「ああ、本当に口が裂けてるのね」
「耳まで」
見ればそうなっていた、顔立ち自体は整っているが口が異様に大きい、骨格での口の大きさまでの口がそこにあった、その口を二人に見せてきたのだ。
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