八条学園怪異譚
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第十九話 口裂け女その四
「別にいいからね」
「そうね。それならね」
「ベッコウ飴買ってから行こう」
「ポマードは持って行かないってことで」
ポマードは絶対にだった。相手の嫌うものを持って行って会える筈もなかった。
「それで行こう」
「そうね。それじゃあね」
「それにしても花子さんの次は口裂け女さんね」
「都市伝説の系列の妖怪さん達が続くわね」
「他にもいるかしら、そういう妖怪さんって」
「いるんじゃないの?というか小泉八雲のその狢だって」
そののっぺらぼうもだというのだ。
「普通に都市伝説だから」
「あれっ、そうなの」
「そうよ。江戸時代のね」
「そうなるのね」
「あの怪談って元々は小泉八雲が集めた日本のそうしたお話なのよ」
つまり今で言うと都市伝説集という考えも可能だというのだ。
「あれもね」
「そうなのね」
「魯迅とかポーはまた違うけれど」
「魯迅ってあの中国の」
ポーは愛実も知っていた、アメリカの作家エドガー=アラン=ポーである。モルグ街の殺人や黒猫で有名である。
その魯迅について愛実は聖花に尋ねたのである。
「文豪じゃなかったの?二十世紀の中国の」
「それはそうだけれど怖いわよ」
「その書いた作品が?」
「そうなのよ。怖いのよ」
「魯迅って怪奇作家だったの」
「本人はそのつもりじゃなかったかも知れないけれど読んでみると怖いのよ」
「そうなのね」
愛実も聖花のその話を聞いて真剣に考える顔になった。
「教科書じゃ現代中国がどうとかいうことだけれど」
「私もそう思って読んでみたけれど」
「怪奇小説だったのね」
「凄く怖いから」
「そんなになの」
「若し読むのならそーう考えて読んでね」
怪奇小説と認識してだというのだ。
「ポーとか夢野久作並に怖いから」
「夢野久作って」
日本の文学史に残る異端文学の巨匠だ。こうした作家も存在しているところに日本文j学の深さがあると言える。
「また言うわね」
「ドグラマグラ読んだの?」
「あれはお姉ちゃんが持ってるけれど」
「読んだことはないのね」
「そうなの、ないの」
こう言うのだった。
「あの作品は」
「あれはかなり独特だからね」
「死後の恋はこの前読んだわ」
愛実も愛実でそうした文学系の本を読んでいる様である。
「いい感じじゃないわね」
「怖いでしょ」
「女の子向きの作品じゃないわね」
作品の中身にはあえて触れなかった。
「正直そう思ったわ」
「あれはね。というか夢野自体がそうだけれどね」
「それで魯迅もなの」
「その夢野とか江戸川乱歩とかポーに近い感じなのよ」
もっと言うとまた違うが作品の色としてはそちらになるというのだ。
「そうした怖さね」
「ううん、あまり読みたくない感じかも」
「少なくとも純粋な文芸じゃないからそのことは覚えておいてね」
読むにあたってはというのだ。
「まあとにかく小泉八雲もそうした都市伝説集みたいなものと思えばね」
「とっつきやすいわね」
「そうでしょ。のっぺらぼうも今で言う口裂け女みたいなものだと思えばね」
「特に都市伝説がどうとかじゃないわね」
「そうも考えられるわよね
二人でこうした話もした。妖怪と付き合っているうちにそうしたことがわかってきていた、そしてそうした話をしてだった。
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